大橋トリオ『ohashiTrio HALL TOUR 2018』ツアーファイナルの大阪公演をSPICE独占レポート
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
大橋トリオ『ohashiTrio HALL TOUR 2018』2018.6.16(sat)大阪NHKホール
ギターのTHE CHARM PARKを筆頭に、揃いの衣装に身を包んだ6人のバンドメンバーが手を振って登場し、オープニング曲「VENUS」の演奏が始まる。そこへ大橋が登場。初めて彼を知る人も、主義や主張も好みも違う人も、誰でも受け入れてしまえる懐の深い音楽をポップに鳴らした大橋トリオの最新作『STEREO』。その『STEREO』を携えた全国ツアー『ohashiTrio HALL TOUR 2018』のファイナルは大阪NHKホールにて行われた。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
ステージ後方にはスピーカーの形をした照明が幾つも積み上げられ、曲に合わせて眩しい光を放つ。頭上遥か高くには「STEREO」のロゴが瞬く。ちょっとレトロで、でも新しい。続く「タイミング」を歌っている時には、2階席の奥のほうを見上げるように帽子をかぶったまま顔を上げる。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
最後のヴァースでギターを放して手拍子をした時、ステージ袖のスタッフも一緒になって手を叩いているのが見える。それだけで、夜はさらに楽しくなる。期待や喜びでいっぱいに膨らんだ何とも言えないファイナル感が、始まったばかりの会場を温かく包んでいる。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
グランドピアノの前に座り、「ファイナルです」と言いながら、自信満々に両手の親指を立てる仕草。この仕草は、以降この夜何度も見られた。「最後まで一緒に音を楽しもうではありませんか」という言葉とともに始まった「はだかの王様」は、大橋のピアノにメンバーが一人ずつ乗り合わせていくように楽器が加わり、音の彩りが増してゆく。聴いているこちらも、長い長い旅路を音楽という名前のグレイハウンドに揺られているような心地。頭を振り、椅子から立ち上がるようなアクションでピアノを弾く姿に、場内のテンションも上がる。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
しっとりとした重みのある「birth」の余韻が消えない中、大橋とTHE CHARM PARKを残し「マイク1本コーナー」へ。2人は年齢の差があるものの、これまで聴いてきた音楽が似ているのだという。エリック・クラプトンの「Tears in Heaven」のさわりを爪弾き、「(『Unplugged 』は)ロック少年がアコースティックを聴ける入り口だった」と。それ以前はX JAPANばかり聴いていたという大橋は続けて「WEEKEND」の一節まで。そのロック少年だった大橋が“ギター、デュオといえばこの人たち”と挙げたのがサイモン&ガーファンクルで、今夜は「The Boxer」のコーラスをみんなに歌ってほしいと、なんとも贅沢な提案を客席にもちかける。もちろん、大歓迎。手拍子に乗せた男女、高音と低音にわかれての見事なコーラスはステージにも届いたようで、顔をほころばせながら客席に親指を立てて見せてくれた。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
それ以降も、『FAKEBOOK Ⅱ』でも取り上げたアリシア・キーズの「If I Aint’ Got You」やビートルズの「Black Bird」と続く。あまりに心地よく、できればずっと聴いていたいと思う気持ちが届いたかのように、「いくらでもやってられるんですけどね」と笑う。自身の「CLAMCHOWDER」に続いては、1本のマイクを取り囲むようにバンドメンバー全員が登場し「PARODY」を。増える音数に合わせるように照明も鮮やかにさんざめく。さらに「6月なのに」と紹介してアース・ウインド&ファイアーの「September」をにぎやかに。もう一晩中でも踊っていられそう。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
たっぷり楽しませてくれたアコースティックコーナーを締めた「My Shooting Star」は、曲の途中からフルバンドバージョンへと変化していき、上空にはミラーボール、天井には無数の星をちりばめたようなライトが。
「STEREO」という曲、さらにはアルバム『STEREO』にある既視感って何だろうと、続く「STEREO」を聴きながら思う。初めて耳にした時、真新しい曲なのに、ずっと前から知っていたようにしっくりとなじむ心地よさや懐かしさがあって、曲がすうっと迎え入れてくれたような気がした。それはたとえば、開演前の場内に聞こえていたニール・ヤングの「Only love can break your heart」や、マイク1本コーナーで歌ったサイモン&ガーファンクルやちらりと奏でたエリック・クラプトンの楽曲にある匂いともほど近くて、時代を超えてしまうだけの曲の輝きを持っているのに、主張をし過ぎない。そのさりげなさが心地よくて、いつもそばに置いておきたくなる。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
<僕らは旅を続ける>、<ただ風の流れるままに>と歌う「鳥のように」のどこまでも飛んでいけそうな自由さ。“泣きたい気持ちはこの手にしまって 誰かの為じゃない 僕らは行く”と歌う「モンスター」は、果てしない空のように大きな大きな翼を広げて、ここにいる人たちをひとり残らず包み込んでくれているよう。そばにいるよ、とかのダイレクトな言い回しじゃない言葉やいくつも重なって鳴り続ける音、晴れても降っても、たぶんどんな気分の時でもするりと耳に滑り込んでくる歌声。その一つ一つが胸をいっぱいに満たしてゆく。今夜最初のほうに歌った「タイミング」の一節を思い出す。ライブも一度だけ、見逃しちゃダメだな、と。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
「Emberk」で本編を終えアンコールに応えて登場すると、腕に覚えのあるメンバーひとりひとりの得意技を織り交ぜたメンバー紹介の後に「GOLD FUNK」、そして「面白きかな人生」と続き、最後は弾き語りで「スノーマン」。一音一音にそっと声を乗せるようなこの曲で、最高のアルバムを携えた饗宴が締めくくられた。
大橋トリオ 撮影=大久保啓二
音楽の楽しみ方も自分の人生の歩き方も、どれも全部自由で、自分の心の向くままに選ぶことができる。その自由さを謳歌しているつもりだけど、果たして自分は楽しめているだろうか。2時間半を超えるこの夜のステージはどの一部分だけを取り上げても楽しくて、知っていると思っていた歌が新しい表情を見せてくれた瞬間がいくつもあった。そして、どこまでも軽やかに飛んでいけるような、何をしたっていいんだと思えるような広々とした自由さを感じさせてくれた。
今ツアーのセットリストで構成された配信限定アルバム『ohashi Trio HALL TOUR 2018 SET LIST』が、ツアーの終わりとともに配信開始となった。ライブは一度きりのものだけれど、あの日に感じた歌の大きさや、いつまでも終わらないでほしいと思った瞬間を、このアルバムを鳴らしながらすでに何度もかみしめている。
レポ―ト・文=梶原有紀子 撮影=大久保啓二