松坂桃李が人間の狂気を全身から滲ませる 舞台『マクガワン・トリロジー』稽古場取材
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撮影:ヒダキトモコ
2018年6月29日(金)より、愛知、兵庫、東京にて松坂桃李主演の舞台『マクガワン・トリロジー』が上演されている。
本作は、IRA=アイルランド共和軍の内務保安部長であり、その冷酷さから組織の殺人マシーンとして出世してきたヴィクター・マクガワンを中心とした3年の歳月を「Torilogy(三部作)」というタイトルにもある通り、3つのパートで描いた物語だ。
本作の演出を務めるのは小川絵梨子。松坂とは『ヒストリーボーイズ』以来のタッグとなる。6月23日(土)都内の稽古場にて、本作の稽古の模様が公開された。
撮影:ヒダキトモコ
撮影:ヒダキトモコ
1984年、北アイルランド・ベルファストのバーにて、ヴィクター(松坂)はIRAメンバーであるアハーン(小柳心)が敵に情報を漏らした疑いをもち、探りを入れる。尋問は、司令官のペンダー(谷田歩)、バーテンダー(浜中文一)を巻き込んで、エスカレートしていき……。
1985年、メイヨー州の湖畔。ヴィクターは車のトランクから一人の女(趣里)を連れ出してくる。女は彼の幼馴染であった。彼女が一体何をしたというのか、彼は彼女を手に掛けるため、二人の故郷であるこの湖を処刑場に選んだのだった……。
1986年、ゴールウェイ州の老人施設で、ヴィクターは母親(高橋惠子)と対面する。痴呆の母は、ヴィクターを夫やほかの兄弟と間違え、乱暴者のヴィクターは大嫌いだったと話す。母の言葉に苛立ちを募らせるヴィクターだが、やがて母は彼にある事実を告げる……。
この日公開されたのは、3パートのうち、ベルファストのバーの場面。階段の上にドアがあることからこの店が地下という「密室」に存在することがわかる。ドアには頑丈そうな鍵が最低でも3つはついており、この店で起こることが容易に外に漏れないことを示しているようだ。
小川が「そろそろ始めますか」と声をかけると、ヴィクターに対してアハーンが床に転がりながら「助けてくれ……」と命乞いを始める。そんなアハーンを蹴り飛ばし、痛めつけるヴィクター。ヴィクターは尋問という体を取ってはいるが、暴力をふるう事をどこか楽しんでいるようにも見えた。バーテンダーに店内の音楽をもっと大きな音量にするよう威圧的に指示を出すと、その音楽に乗り、気持ちよく踊りながらさらに残酷な行為を続けていくヴィクター。彼の中の「狂気」が彼を突き動かしているかのようだった。
撮影:ヒダキトモコ
撮影:ヒダキトモコ
撮影:ヒダキトモコ
ここで一度小川は芝居を止め、ヴィクターがアハーンをいたぶる際、どのように踊るとよいかを振付のアドバイザー、本間憲一と話し合う。音楽の曲調やヴィクターの心情などから「こんな踊り方はヴィクターが嫌いだと思う」「ならば、こんな踊りをしてみては?」と二人の間で様々な案が飛びかう。そしてヴィクターの演技の動きに合わせ、本間が「ここではこんなステップを、縄跳びみたいに両脚を揃えて前に後ろに床を擦るように動かして……」などと松坂の目の前で踊って見せる。「じゃあ、一緒にやってみようか」と言われた松坂は、その動きを真似ようとする……が、さすがにプロの動きはすぐさま真似できるものではなく、ついていくのが必死といったところ。何度も踊っているうちに松坂の顔からは汗が滝のように流れ出し、稽古着のTシャツもじっとりと濡れていた。
途中で「ボックスステップを入れてみては?」という話から試してみると、松坂のステップに合わせて、ステージの脇で踊りだす共演者の姿も。背後から軽やかなステップが聞こえたので振り向くと、この場面には登場しない趣里と、さらには高橋惠子も「ディスコみたい!」と楽しそうにステップを踏みながら笑っていた。徐々に笑いが止まらなくなっていく稽古場で、松坂は着ていたTシャツをまくり上げ、止まらない顔の汗をぬぐっていた。芝居自体はさらに残虐な展開となっていくだけに、ここでの笑いはカンパニー全体にとってひとときのオアシスとなっているのかもしれない。
撮影:ヒダキトモコ
撮影:ヒダキトモコ
撮影:ヒダキトモコ
しばしの休憩の後、このパートで気になる場面を抜き出して少しずつ稽古は進む。からかっているかと思いきや次の瞬間、恫喝するような口ぶりに変わりバーテンダーをおびえさせるヴィクター、上司のペンダー(谷田)にアハーンが業務上の言い訳をする場面では、嫌味も交えつつヴィクターが執拗に口を挟み、仕舞いにはペンダーにも語気を強めていくヴィクター。この一連のやり取りの末、ヴィクターの狂気が何を引き起こすのか。そしてこのパートではどのような結末を迎えるのか。非常に気になるところで稽古場取材は終了。この日観ることが叶わなかった残りのパートの行方が気になりつつ稽古場を後にした。
撮影:ヒダキトモコ
撮影:ヒダキトモコ
まもなく、カンパニーは稽古場を離れ、小屋入りを迎える。暴力性と悲哀に満ちたヴィクターの3年間と、暴力が彼自身をも壊していく過程を辿る“悲劇”が、「松坂桃李」という役者を介してどのように描かれるのか。また、舞台美術を担当する二村周作がどのような心震わせるセットを劇場に準備しているのか、すべては公演を待つばかりだ。
取材・文=こむらさき
公演情報
翻訳:浦辺千鶴
演出:小川絵梨子
出演:松坂桃李・浜中文一 趣里・小柳心 谷田歩/高橋惠子
日程:2018年6月29日(金)~7月1日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
料金(全席指定・税込):S席8,000円 A席7,000円 B席5,000円他
※未就学児入場不可
主催:公益財団法人豊橋文化振興財団
日程:2018年7月4日(水)~7月8日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
料金(全席指定・税込):8,800円
※未就学児入場不可
主催:兵庫県/兵庫県立芸術文化センター
日程:2018年7月13日(金)~7月29日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
料金(全席指定・税込):S席8,800円 A席7,800円
※未就学児入場不可
主催:シーエイティプロデュース
提携:公益財団法人せたがや文化財団/世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区
企画・製作:シーエイティプロデュース
公式ホームページ:http://www.mcgowantrilogy.com