『スリル・ミー』初参加 成河と共に福士誠治が伝説の二人ミュージカルに挑む
-
ポスト -
シェア - 送る
福士誠治
2011年の日本初演以来、2012年、2013年、2014年と公演を重ねてきた二人ミュージカル『スリル・ミー』。そもそもは1920年代にアメリカで実際に起きた衝撃の事件をもとにしたこの作品が、4年ぶり6度目の上演を果たす今回、初演時からの松下洸平と柿澤勇人と共に登場するのは、初めてこの作品に取り組む成河と福士誠治。これまでのペアとはまた一味も二味も違うニュアンスで、新たな“私”と“彼”の関係性を表現してくれそうだ。飄々とした受け答えの中にもアツい意気込みが見え隠れする“彼”役の福士に作品のこと、これが初共演となる成河のことなどを聞いた。
ーー『スリル・ミー』という作品については、どんな印象をお持ちでしたか。
僕、実はこの作品を、ナマの舞台で観たことがありませんでした。脚本を読んでの感想としては、芸術作品だな、と。そして観る人によって、印象が変わる作品なのかなとも思いました。いい意味で賛否両論は出そうですよね、作品自体が子供を殺すとか犯罪に関するものでもあるので、それだけで受け付けない人もいて当たり前ですから。でもそれ以外の部分で、たとえば音楽性を楽しむ方もいるでしょうし。さまざまな要素が詰まった作品だと思いますね。
ーー今回のオファーを引き受けようと思ったのは、どういう理由からですか。
一番、魅力的だと思ったポイントは、出演者二人、ピアノ一台という構成です。シンプルで、ムダなものをすべて省いている感じがして、ちょっとドキッとしました。逆に怖さもあります。『スリル・ミー』という作品の内容的に、人間の心の深い部分をえぐらなければいけないところもあるので。あと、歌いながらお芝居をするのが少し久しぶりでもあるので、挑戦できるな、と思ったことも大きかった。そういう場所に、自分の身を投じてみたくなりました。
ーー福士さんは今回、“彼”役なわけですが。役柄を聞いた時はどう思われました?
もちろん僕が「“彼”をやりたいです!」と言い出したわけではなく(笑)。脚本を読んでも、自分ならやっぱり“彼”のほうだろう、とも思いませんでした。どちらも人間性がとても出ている役で、特にどちらの扉を開けたいとか、どちらの色を出したいとかは思わなかった。なんだかあの二人って、実は表裏一体という感じもありますよね。もしかしたらキャスティングをする方によっては、顔だちや雰囲気で“私”にするか“彼”にするかを決めているのかもしれないですけど。でもこの二人は、まるっきり役を取り替えても面白いのではないかという気もします。前半は強気な“彼”と受け身の“私”ですが、でもこれが逆の雰囲気を持っていても面白そうじゃないですか。
ーー“彼”の場合は特に、役にアプローチすることが難しいキャラクターのようにも思いますが。
そうですね。でも、誰もがこういう感情ってどこかに持っているはずだとも思う。みんな、ふたを閉めて隠しているのかもしれないけど。狂気的な部分もあれば、単にスリルを味わいたいだけの人間もいるでしょう。スリルというか刺激だったり、性癖だったり、人には言えない心の一部分だったり。もっと言うと脳がなぜこういうことに関してしか反応できないのか、とか。それが100人中1人だったら病気って言われるかもしれないけれど、50人いたら病気とは言われないはず。だけど今、この社会が作った世界の中では異端児になってしまう。こいつは病気なのか、実は動物的には正常なのか。人を殺しちゃいけないと教え込まれて教育されてきたはずなのに、それをすることによって“超人”になるなんて言っていて、そんなところに行きついてしまった人間性とは? みたいな。それが何かということについては、まだ答えは見つからないですけど。だって人間は本来、放火して人のものを燃やして喜べるようにはできてないはずなのに。
ーーそれが快感になるということ自体が特殊だと。
でも世の中にはいると思います、そういう人が。人の痛みなんか、感じない。“彼”は基本的に自己中心的な性格だと思う。極端に言うと“私”は自己中心的というわけではないかもしれないけど、でも二人ともサイコパスであることは間違いなくて。結局は自分の想いを追求してしまうのが“私”なので。
ーーやはり、この二人には。
似た部分があると思う。だけどよく考えれば「恋人ができました、この人とずっといたい」という想いも、ある意味では自己中心的発言じゃないですか。お互いの同意があるなら成立するけど、これが片方だけではストーカーにもなりえる。その点でも、ちょっとエッジの効いた二人ですよね(笑)。そこに他の人間、子供が、そして親父が、弟がいたから、対象物が対人間になってしまった。これが無人島で二人だけだとしたら彼らは幸せだったかもしれなくて。他人に迷惑をかけなければ、別に問題ないですから。だけど、そこは社会の中で、他にも生きている人がいる。法にしても、誰かが作った法律に合わせて行動しようとするから反発心も生まれるだろうし。だから無人島で、自分たちで作った法律のもとでなら、もしかしたら彼らの望む通りの“超人”になれたのかもしれない。
ーー平和に暮らして行けたのかも。
だから、時代が作った作品とも言えそうだというか。二人だけの愛の話だったり、怖さやスリルの話だったりもするけれど、実はその時代の社会的なことだったり、犯罪がなんでこんなに多く起こるのかということに反発した作品でもあって。だけどそういう風に育ってしまったのだと思うと、切ないといえば切ないんですよね。まあ、本人たちがどのくらい切なく思っているのかはわからないですが。だからこそいろいろなところで枝分かれする、発展して考えていける作品だとも思います。
ーー取り組みがいがありそうですね。
イヤですねえ~(笑)。
ーーえ、イヤなんですか?(笑)
だって僕、その時期、暗くなっちゃいそうですよ。
ーー役柄に影響されるほうですか?
まあ、多少はすると思います。でもやっぱり今回の役は特にそういうことを考えなければいけない作品だとも思うので。結構、昔に作られた作品ではあっても、今演じるという意味ではアプローチとしては現代のことに対しても考えなくてはならないですしね。ただ、この作品が昔、外国で作られたものを日本で上演しますというだけでは決して面白くならない。今も、猟奇的ないやな事件が続いているじゃないですか。もちろんダメなことだし、絶対に肯定できない行為なのだけど、でもなぜそうなったかも追求しなければいけない。そういうことが最近多いなと思う。国としても人としても、そういう風になりつつあるというか。
ーー社会の空気がそういう流れになっていることは、すごく感じますね。
ええ。だからよけいに、なぜそういう流れになりつつあるのかを、考えなければいけないと思うんですよね。
『スリル・ミー』
ーーそして、相手役の“私”は成河さんですが。成河さんとはこれが初共演になるんですね。
そう、共演したことはないです。今回、出演が決まってから一度飲みました。僕は、成河くんと共演できることが本当にうれしくて、ぜひ稽古中にもちょっと背中を押してもらったり、いろいろ教えてもらえたらいいなと思っています。
ーー今回、もう一組のペアが松下洸平さん、柿澤勇人さんで。彼らはこの作品の日本初演からずっとやってきた二人なのですが。
もちろん、お客さんにはどっちのペアも観ていただきたいです。この作品に対してはどういう稽古をしているのか、『スリル・ミー』の先輩方から勉強させてもらいたいです。まあ、比べて観てしまうのは当然だと思うのですが、僕自身はあまり気にしていません。人間が変われば、絶対に違うものになると思いますしね。とりあえず、僕としては最後まで無事に歌い切れたらいいなと思っているくらいです。だってこの作品の曲、すごく難しいじゃないですか。喉に関してもずっと1時間半、出し続けなければいけない作品ですし。
ーー二人しかいないから当然セリフも、歌も多いですし。
そうですよ。“私”のほうが量は多そうですけど、その点は成河くんにまかせます(笑)。なにしろ舞台上には二人しかいないので、基本的に僕がかける言葉はすべて“私”にいくし、“私”の言っている言葉にしても歌にしてもほとんどが掛け合いのようになると思うので、そこはいい意味で楽しめたらな、と。笑わせるような場面はほぼないでしょうが、でも稽古中はみんなで笑いながら作れるくらいになれたらいいなとは思いますね。
ーー稽古の間だけでも笑顔で。
いや、たぶん笑えないんでしょうけど、作品も作品なので。でも、笑っていたいかな。そういう時間があることで、二人が過ごした19年間、その関係性が滲み出るかもしれないですし。
ーー栗山演出も、初挑戦なんですね。
初めてです。アウェイです(笑)。成河くんは「栗山さんと俺らで盛り上がっていこう」みたいなことは言ってくれましたけど。アツいものをぶつければちゃんと返してくださる方だと思うので、自分自身を投げ出さないようにしつつぶつかっていきたい。どう見えているのかがわからなくなった時には、もちろん栗山さんに相談し、成河くんにも相談して。少人数なので、そうやってセッションする時間が多くなっていくといいかなと思います。
ーー確実に、いい経験になりそうですね。
はい。でも、もしかしたら打ち砕かれて引退するかもしれない(笑)。成河くんと比べて「俺はこの商売に向いてない!」って、引導を渡されたりしてね。
ーーいえいえ、この作品が新たなターニングポイントになるかもしれないですよ(笑)。
本当にそうなればいいです。まあ、この作品をやることにした時点で、自分の中で何かが変わった気がしています、正直なところ。今まであまり経験のないタイプの作品でもありますし。シンプルイズベストでピアノ一台と、この二人だけで演じることでお客さんを魅了したり、突き放したり、いろいろなことができる作品でもあるので。楽しみだけど、やはり怖くもありますね。そしてこの作品、僕が受けた印象では“緊張感”もテーマだと思う。この張りつめた糸みたい感覚は、わざわざ怖がりに行くお化け屋敷とか、わざわざ高いところから落ちるジェットコースターにもちょっと近いものがあるかもしれません。
ーーそれがスリルにつながって、そのスリルがもっと欲しくなる。
そうですね、どっちも“危険”なんですよね。ドキドキする感情って、危険回避の時に現れるドキドキでもある。ジェットコースターやバンジージャンプやスカイダイビングもそうなのでしょうが。少し死に近づくようなことに対して怖いもの見たさのような感情が生まれて、そこに魅かれるのかもしれない。まったく、気は抜けなさそうですね。遊べるシーンとか、ないんだろうな……。
ーー笑いを取るようなところは、なさそうですよね(笑)。
笑いも取ってみたいですけど、でも絶対ストップされるでしょうね(笑)。
ーーお客さまたちの集中力もすごそうですし。
単に“観る”というより“覗き見る”舞台にも思えますからね。覗き見られている気分でいることも大事で、お客さんにも「自分たちに歌ってくれてる」と思わせるものではなく、お客さんのほうから僕らを覗きに行くような感覚で観るお芝居だという気がします。
ーーまた今回はそういう、密室的な雰囲気がより味わえる劇場になりますね。
そうですよね。困ったもんだ、どうしよう(笑)。
ーープレッシャーを感じています?(笑)
これ、プレッシャーなのかな……? でもちょっとこの作品は、覚悟が必要な気がしています。そういう思いがないと立てない舞台かなとも思うので。
ーーでは、その覚悟を決めて、立つと。
基本的に舞台は覚悟を決めないと立てないものなので。毎回そういう思いで臨んではいます。ともかく、無事に千穐楽が迎えられるようにがんばります!
取材・文=田中里津子
公演情報
公演時期:
東京・ 2018年12月14日~2019年1月14日
劇場:東京芸術劇場 シアターウエスト
劇場:サンケイホールブリーゼ
劇場:芸術創造センター
出演
私役: 成河 × 彼役: 福士誠治 / 私役: 松下洸平 × 彼役: 柿澤勇人
ホリプロ
(平日 10 am -6pm / 土曜日 10 am -1pm / 日祝休み )
公式サイト http://hpot.jp/stage/thrillme2018
#ホリプロステージ #スリルミー