北野武さんが13、4年前から温めてくれていた企画なんです。
2015.10.25
インタビュー
舞台
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映画「座頭市」で監督、タップダンサーとして世の中に話題を巻き起こした北野武とHIDEBOH。名コンビが再会したのは、なんと演劇だった。北野武企画・原案による、無人島でたった二人、第二次世界大戦の終戦を迎えることになる黒人兵と日本兵のタップで結ばれた友情物語『海に響く軍靴』。その思いをHIDEBOHに聞いた。
◇ まずミーハー心で言えば、北野武さんがどうかかわられているのか気になります。
そうでしょう! わかりました。ことの発端は映画「座頭市」を撮る2、3年前、ですから今から13、4年前の話です。武さんがタップダンスを再開されて、僕がレッスンをさせていただいていたんですが、ある日、タップで映画を撮りたいんだよなあ、こんな話でラストはこんなシーンでという話をされたんですよね。もちろんタイトルもないんですけど、黒人兵と日本兵の友情物語だと。思えば、武さんは(戦争終結から29年目にフィリピン・ルバング島から帰還を果たした)小野田寛郎さんと対談もされているし、映画にもよく兵隊は登場する。雑誌の企画で僕がかっこいい男のイメージを伺った時も、名もなく亡くなった兵士とおっしゃっていた。武さんの中に兵隊さんへの思いがあるのは知っていたんです。そして、折に触れてその話をされるんです、早くあの映画を撮らなきゃなあって。ただ一方では、もう少し年を取ってからがいいんだとも。で、2012年の『タップ・ジゴロ』再演を観にいらしてくださって、あの話、舞台でもありかもしれないなあと。そこから動き出したわけです。
◇ そんなに昔から温められていた企画なんですね。
『座頭市』がそんなに昔だったのかとまず驚いてしまうんですけど…ですから非常に感慨深いです。昔かじっていたタップとは大分違うというところから、黒人がルーツだということも知って、武さんの中にいろいろアイデアが浮かんだんでしょう。昔、深見千三郎師匠の「浅草の芸人がタップくらいできないとみっともねえだろう」という言葉をもっとも守っているのが武さんですから。
すべてが武さんのテイストで出来ている
◇ 武さんはどの程度お芝居にはかかわられているんですか?
何度もミーティングもさせていただいているんですよ。ここでこうなってさ、こうなるからさと話されるのを一語一句聞き漏らさないようにひたすら書き留めるという会議を何度もしました。だから細かいギャグまで、武さんのテイストじゃないシーンはないですね。でも説明が難しくて、ストレートプレイでもなければミュージカルでもない。といっても歌う場面もある、でもタップのショーを見せるというほどタップがあるわけでもない。二人のヒューマンドラマというのがいちばんしっくりくるのかなぁ。
◇ たまたま無人島で出会い、友情を育み、別々の人生を歩むというシンプルな物語だけに、背後に抱えているもの、凝縮した時間というものを見せないといけない難しさがありそうです。
しかもそれぞれが背負っているものは国なんですよね。きっと「どうなんだろうね、今回の政府のやり方はさ」なんてのんびりしたことを言っていられない状況なんでしょうけど、なかなか想像できませんね。戦争という背景があるから、二人はいがみ合うわけです。戦争さえなければ同じ人間であって、同じものを愛して、いろんなことが一緒なんだということがわかっていくストーリー。これを実現するためには、やはり知識、経験、人の気持ちになること、人間としての深みなどすべてが必要なんだと思います。タップができればいいってもんじゃないんだよって言われている気がします。また、歴史を知るという意味では戦後の日本が、どうしてエノケンみたいな方が人気だったのか、劇中でも歌う「ダイナ」「マイ・ブルー・ヘブン」がどうして流行ったのかもう一度考えたいですね。
物語の裏側にいろんな方々の思いを背負って演じるリアルさがある
◇ Tamangoさんはどんなパフォーマーさんですか?
個人ダンサーとしては、ものすごく素晴らしい人ですね。この作品とリアルに重なるような友達なんですよ。26、27歳でどっぷりマンハッタンに行ってた時に、ずたぼろ言われて(苦笑)。けんかと紙一重の関係でした。「何をモノマネしているんだ、日本人のアイデンティティ、誇りってなんだ」ってものすごく挑発的に言うんです。僕もなんだこのやろうと思っていましたけど、よくよく考えれば世界で通用するにはという話をずっとしてくれていたんです。「アイデンティティについても、タップについてもオウンスタイルを意志として持たないと、マンハッタンに来る意味がない」ときついことを言いつつも、彼は僕をいろんなイベントに参加させたんですよ。僕は僕で義理と恩義を感じていて、いつか、日本とアメリカ、大きな作品をやる時に彼を呼びたいなと。彼もその意味がわかってくれていて、喜んでくれています。
タップダンサーのことをフーファーっていうんですけど、ビル・ボージャングル・ロビンソンからつながるオリジナルフーファーズ、ジミー・スライド、チャック・グリーンなど映画「タップ」にも出ている、当時すでにおじいさんたちでしたけど、僕らは彼らと直接触れ合えた最後の世代なんです。その貴重な経験を受け継いでいかなければいけない。一方で、小野田さんみたいな方、そして僕の中には亡くなった親父や中川三郎先生の系譜から続く今のタップの流れがあって、そこにいなければ武さんとも出会ってないわけで、そういう人たちみんなが物語の裏側にいるんですよ。そういうニュアンスを(作・演出の)髙平哲郎さんが全部わかって演出してくれている。だからすべてリアルな気持ちでやっているところがありますよね。
HIDEBOH
映画『座頭市』のタップシーンの振付師。タップダンサーの両親の元で6歳でタップンダンスを始め、現在は日本のタップダンス界の第一人者として国内はもとより、海外でも数々の実績を持つ。音楽性の高いリズムタップを現代音楽的に盛り込んだパフォーミング性を高めたオリジナルスタイル「Funk-a-Step」を考案。その普及と定着に力を注いでいる。現在LiBLAZEリーダーとしても活動。ダンサー・アクター・シンガー・コレオグラファーとして多方面に活躍している。博品館劇場では『タップ・ジゴロ』『Shoes On!』などに出演。
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