teto「始発」ツアーファイナルは、心を震わせ時代を撃ち抜くライブだった

ニュース
音楽
2018.7.27
teto  撮影=佐藤祐紀

teto 撮影=佐藤祐紀

画像を全て表示(6件)

tetoワンマンツアー「始発」  2018.7.22  渋谷WWW X

「ただ、ただ普通に生きてるだけなのに。ただ、ただ普通に真面目に生きてるだけなのに。いつも終電を逃してしまう、すべての大バカ野郎に」
小池貞利のそんな一言からライブは始まった。そして、1曲目の「拝啓」で山崎陸、佐藤健一郎、福田裕介によるコーラスを聴いた時点で、もうダメだった……。全身にビリビリと電気が走って、僕はいきなり心を掴まれた。気づけば、開始早々に小池は背中から客席へダイブして、宙には誰かが投げたペットボトルが舞っている。なんだよ、これ。めちゃくちゃカッコイイ。

7月22日、teto の『始発』と名付けられた全国ワンマンツアーが渋谷WWW Xでファイナル(終発)を迎えた。終着駅で待つ観客600人に向かって、彼らはいきなりスピードを上げて全速力で突っ込んできた。1曲目を歌い終えて、間髪入れずに小池が話す。「痛えことばっかだよ、痛えことばっかだ」そこから「Pain Pain Pain」へ。ステージの上で暴れまわる小池に呼応するかのように、観客もアホみたいに、前線めがけて揉みくちゃになりながら突っ込んでいく。そして、ジェットコースターの急降下がずっと続いているような勢いで、「高層ビルと人工衛星」を披露。小池が息を荒げながら「今日、日曜日の渋谷で、新しい風を僕たちに浴びさせてください。俺らは俺らの新しい風を吹かせます。皆さんは皆さんの新しい風を吹かせてください」と言って、4曲目は「新しい風」。<新しい時代をそっと新しい風で煽っていく ここからかここからかここからかここから生きていく>と締めくくられる歌詞の通り、僕は開始15分で時代を撃ち抜く彼らの異端なステージングにやられてしまった。

teto 撮影=佐藤祐紀

teto 撮影=佐藤祐紀

中盤戦に入り、小池が「アダルトビデオに出ていた同級生の●●さんの奥底まで届け、っていう曲をやります」と話して「トリーバーチの靴」を歌った。この曲に登場するのは、彼氏の背中の体温とコンクリートに触れた温度の差も分からないような愛に疲れた孤独な女だ。彼女が欲しいのは人の温もりではなくて、トリーバーチの靴という愛情が壊れてしまった人間の歌。小池の歌詞はサウンドから想像できる初期衝動のそれではなくて、時に人間の哀愁や悲痛さを感じさせる。続いて、小池が<蝶々結びで締めた思い出を>までを歌ってマイクをフロアへ向け、観客が<そっと遠くについて開いたら 果汁100パーセントの鮮度で蘇った>と合唱して「暖かい都会から」を演奏。ステージから飛び込む小池、ヘッドバンキングをしながら演奏する山崎、一瞬も手を休めることなくベースをかき鳴らす佐藤、取り憑かれたように一心不乱にドラムを叩く福田、熱狂する観客。ダイブ、モッシュ、サーフ、もはや何でもありの会場はカオスと化している。そのまま「this is」を歌うと、3番で<チェッチェッチェ つまずいてしまう チェッチェッチェ そういう日もある>とフジファブリックの「バームクーヘン」の一節を挟んでからサビを熱唱した。

teto 撮影=佐藤祐紀

teto 撮影=佐藤祐紀

気づけばライブは後半戦に突入。
「……あの、田舎の景色ってなんであんなに愛おしいんだろう、と思って。別に都会から見るのが美しい景色だとか、汚い景色とかじゃないんだけど。田舎も綺麗とか汚いとかじゃなくて、愛おしいというのが適切で。無性に愛くるしいというか。ふとした瞬間に眺めたくなるというか。そんな故郷の歌を歌います」
と、「teen age」に。夕焼け色のスポットライトが4人を照らす。演奏中、僕の脳裏に浮かんだのは、いつかの地元の風景だった。夕日に染まった放課後の校舎、ほこりっぽい下駄箱、お小遣いを握りしめて向かった駄菓子屋、死んでしまった友達。とうに過ぎ去った、あの情景をtetoの音楽によって思い出していた。

「どうせ、一番届いてほしい人には届かないんだろうけど。夏が終わる前にこの曲を歌います」そう言って、「9月になること」へ。<過ぎ去った夏が作り出した あの透き通ったあなたを思い出した>彼らが醸す、このセンチメンタルな気持ちはなんなのだろう。前半の激しいアプローチとは違って、後半は観客をうっとりと聴き入らせた。

teto 撮影=佐藤祐紀

teto 撮影=佐藤祐紀

ライブがいよいよ佳境に入ったところで、小池が自身の過去を振り返る。「『忘れた』という曲をこれから歌います。中学生1年生で万引きをしたときに母親を泣かせてしまって、俺はひどいことをやったんだなと。あの時の心の痛みを未だに忘れられません」そして、話は家族について。

「母親は女手一つで俺を育ててくれて。父親の顔は正直思い出せなくて。お姉さんは“私はあなたの父親代わりだよ”と、仲がいいとは決して言えないような姉だったんですけど、そういうことをたまに言ってくれたり。おじいちゃんは呑んべえでたまに湯呑みを投げつけてくるんですけど、普段はとても優しかったり。おばあちゃんは学校でいじめられてる俺に気を遣ってか、気づいてなかったのかもしれないけど……多分気づいてたな。俺に200円をくれて“これでジュース飲んで学校頑張れ”と言ってくれたり。あぁ、あったけえな家族は、と思いながら『忘れた』という曲を作って。ツアーを通して、いろんな人に会って。こんな曲じゃなかったのに、不思議と今日、来てくれているお客さんのための曲のようになってきちゃいました。もし、5年後、10年後、20年後、この曲を今のような形で歌えたら。皆さんが“毎日だりいな”と思っている時、たまに口ずさんでもらえるような曲になったら良いなと思います。ムカつくことばっかりなので、ムカつくことはムカつくと言いながら、でも愛せるものはもっと増やしながら。出来るだけムカつくものより愛せるものが増えたらいいな」

teto 撮影=佐藤祐紀

teto 撮影=佐藤祐紀

そう話して歌われた「忘れた」は、小池の歩んできた人生がそのまま綴られていた。<副業であかぎれた母の手と それを馬鹿にしたクラスメイトと 顔立ちすら思い出すことのできない過去の父と 考えただけでもう何故かえずいてしまっていた>、幼少期の小池は、本当にいろんなことと戦ってきたのだ。誰にも言えなかった悲痛の叫び。<あなたと見た半径1メートルの世界だけはもう譲れはできないなって そう思えるから今日も生きれたんだ>――きっと音楽と出会わなければ、teto のメンバーと出会わなければ、小池はずっと心に溜まっていた感情を吐き出すことができなかったと思う。そして、彼らが歌っていなければ、僕らはこんなに心を震わせることができなかった。あっという間に16曲目を歌い終えると、小池を残してメンバーは袖へ消えていった。

そして、本編ラストを締めくくるのに選んだ曲は「光るまち」。「初めてのワンマンツアーで『始発』というタイトルです。この曲を最後にやって、ようやくtetoの始発が出るなぁ、という感じです。これからどこへ行くのかわかんないですよ。まぁ自分たちのやりたいようにやります」アコースティックギターを弾きながら観客と一緒に熱唱をして、小池はステージから降りた。

teto 撮影=佐藤祐紀

teto 撮影=佐藤祐紀

息つく暇もなく、すぐにアンコールが起きた。再びステージに現れた4人。ここで9月26日に1stフルアルバム『手』のリリース、9月30日から全国ツアー『結んで開いて』を開催することが発表された。アンコール一発目に歌ったのは、アルバム表題曲の「手」。歌詞には「忘れた」のMCで小池が話していた優しいおじいちゃん、父親代わりになると言った姉が登場して、そんな大事な人たちの手にふれた時の心境が綴られていた。2曲目は「36.4」。ステージのスポットライトがあまりに眩しくて、しっかりと前を直視できない。ただ、目の前で4つの影が立っている。その向こうで全身全霊、歌っている小池、山崎、佐藤、福田の声が聴こえた。こうして、圧巻のステージを見せてくれたtetoに温かい歓声と拍手が送られた。

……と、ここでライブは終わるはずだった。しかし、再びアンコールが起きる。時計を見ると、終演時間はとっくに過ぎていた。これはもうやらないんじゃ?と思っていたら、メンバーが登場。小池が「今、時間を見たら19時45分で、うちのおばあちゃんは今ぐらいに晩ごはん食べてるんですよ。ちょっと早すぎたんで、もう1曲だけ」そんな、よくわからない理由を告げて、披露したのは「朝焼け」。
「ここ渋谷が日本の未来の朝焼けじゃ! お前らが日本の未来の朝焼けじゃ! ボケカス!」
たった2分のロック。僕らは最後、その限られた時間を惜しむように全力で踊り狂った。

終演後、ライブハウスを出てスマホでtetoを聴きながら、渋谷センター街を歩いた。至るところで耳なじみのいい流行りの曲が流れるこの街じゃ、tetoの音楽は浮いていた。
 

取材・文=真貝聡  撮影=佐藤祐紀

セットリスト

tetoワンマンツアー「始発」  2018.7.22  渋谷WWW X
1. 拝啓
2. Pain Pain Pain
3. 高層ビルと人工衛星
4. 新しい風
5. My I My
6. 散々愛燦燦
7. トリーバーチの靴
8. 暖かい都会から
9. this is
10. ルサンチマン
11. teen age
12. マーブルケイブの中へ
13. 9月になること
14. 溶けた銃口
15. あのトワイライト
16. 忘れた
17. 光るまち
[ENCORE]
18. 手
19. 36.4
[ENCORE 2]
20. 朝焼け

ツアー情報

teto ツアー2018「結んで開いて」
09/30(日) 千葉LOOK
OPEN 17:30 / START 18:00
※ワンマン
10/03(水) 北浦和KYARA
OPEN 18:30 / START 19:00
※GUEST有
10/04(木) 横浜BAYSIS
OPEN 18:30 / START 19:00
※GUEST有
10/10(水) 岡山IMAGE
OPEN 18:30 / START 19:00
※GUEST有
10/11(木) 小倉WOW!
OPEN 18:30 / START 19:00
※GUEST有
10/13(土) 熊本Django
OPEN 17:30 / START 18:00
※GUEST有
10/14(日) 長崎Studio Do!
OPEN 17:30 / START 18:00
※GUEST有
10/16(火) 京都磔磔
OPEN 18:00 / START 18:30
※GUEST有
10/20(土) 福島out line
OPEN 17:30 / START 18:00
※GUEST有
10/21(日) 盛岡Club Change
OPEN 17:30 / START 18:00
※GUEST有
10/25(木) 松本ALECX
OPEN 18:30 / START 19:00
※GUEST有
10/27(土) 新潟CLUB RIVERST
OPEN 17:30 / START 18:00
※GUEST有
10/28(日) 金沢van van V4
OPEN 17:30 / START 18:00
※GUEST有
11/08(木) 群馬SUNBURST
OPEN 18:30 / START 19:00
※ワンマン
11/10(土) 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 17:00 / START 18:00
※ワンマン
11/11(日) 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 17:00 / START 18:00
※ワンマン
11/15(木) 仙台enn 2nd
OPEN 18:30 / START 19:00
※ワンマン
11/17(土) 札幌BESSIE HALL
OPEN 17:30 / START 18:00
※ワンマン
11/29(木) 高松TOONICE
OPEN 18:30 START 19:00
※ワンマン
12/01(土) 福岡CB
OPEN 17:30 START 18:00
※ワンマン
12/02(日) 広島4.14
OPEN 17:30 / START 18:00
※ワンマン
12/07(金) 恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
※ワンマン
  
▼前売り:¥2,800(D代別)
  
▼一般発売
・09/30(日)千葉公演~10/04(木)横浜公演 08/25(土)
・10/10(水)岡山公演~10/28(日)金沢公演 09/08(土)
・11/08(木)群馬公演~12/07(金)東京公演 09/29(土)
シェア / 保存先を選択