May'n×唯月ふうかがWキャストで二役を交互に演じるミュージカル『生きる』 役や歌に寄せる思いとは

インタビュー
舞台
2018.8.21
(左から)唯月ふうか、May'n

(左から)唯月ふうか、May'n

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世界の巨匠、黒澤明監督の傑作映画『生きる』がミュージカルになる。胃がんで余命いくばくもないとある男が、病を得たことをきっかけに自らの人生を振り返り、人々のために公園を作ろうと奔走する物語で、市村正親鹿賀丈史がダブルキャストで主人公・渡辺勘治役を演じる。勘治と心の交流をもつ若い女・小田切とよ役と、勘治の息子の妻である渡辺一枝役は、May'n唯月ふうかのダブルキャストだ。二人が作品と役に寄せる思いを語った。

ーー今回の出演のお話をどう思われましたか。

唯月:映画が非常に有名で、そんな作品の舞台化の初演メンバーになれてすごくうれしかったです。二役演じるのも初めての経験なので、自分の中で挑戦だなと。出演すると決まってから映画を観たんですが、何となく、重いのかなと思っていたところ、くすっと笑えるシーンもあったりして、重いばかりの作品じゃないんだなと。舞台を観に来て下さった皆様にも、私が感じたそんな思いが届けられたらいいなと思いますね。

May'n:私はミュージカル出演が初めてなんです。いつか出られたらいいなという思いがあったので、お話をいただいたときはうれしくもあり、びっくりでもあり。そして『生きる』という名作映画の舞台化で、そうそうたる方々が出演されるということで、うれしい気持ちと緊張感とでいっぱいです。映画はすごくおもしろいなと思いました。重いメッセージ性のあるドラマが進んでいきますが、ポップなところもあるし、ミュージカルっぽくくるくるシーンが変わっていったりして、くすっと笑えるところもあって。最終的には、昔の作品ですが、現代の私たちにも響く、もっとちゃんと生きよう、おもいっきり楽しんで生きようというパワーを感じました。今回、生の舞台で上演するからこそ、そのメッセージをより強く伝えられたらいいなと思いますね。

May'n

May'n

ーー歌手として歌うのと、ミュージカルで歌うのと、違いはいかがですか。

May'n:違いはすごくあるだろうなと思いますね。しゃべるように歌わなくてはいけないというのが課題だなと思っていて。私は普段から、歌っているときと、MCをしているときとでスイッチが違う、声も違うとファンの方にもよく言われるんです。自分でもよくわからないスイッチなんですけど、しゃべっているときは気合が入っていないのに、歌うと気合が入ったりというか(笑)。そうやって10年以上やってきたんですが、それだとミュージカルでは成立しないなと。セリフを言っているまま、同じ人として歌わないとだめなんですよね。その自然さが課題です。

ーーそのあたり、ミュージカルの先輩として何かアドバイスは?

唯月:私も歌っているときは発声などいろいろ気にしてしまって、話しているときと声が変わってしまったりするので、そういう意味では私自身も課題だなと思います。しゃべるように歌うということは気をつけていても表現としてなかなか難しくて、自分自身も苦労した時期があり、今も少し苦労しているので。物語を伝えるように歌うといいかもしれないと歌の先生にアドバイスをいただいて、そのようにやっている状態ですね。

ーー今回、二役を交互に演じられますが、お互いの印象はいかがですか。

May'n:ふうかちゃんのことは何年も前から知っていたんですが、年々キャリアを積んでいろいろな舞台に立たれて、まさにミュージカルでは先輩なので、同じ役を演じるというのは一つプレッシャーでもありますし、タイプが違うからこそ、ふうかちゃんへのアドバイスが必ずしも自分には効いてくるものではないんだなというのがまた課題というか。そのあたりもダブルキャストならではの難しさだなと、ワークショップをやっていても思いましたね。自分だったらどうするか、自分が思う小田切とよ像、渡辺一枝像はどんな感じなのか、もちろん共有する部分もあるとは思うんですが、自分で作っていかなくてはいけないんだなと。

唯月May'nさんとは何年も前にお仕事でお会いして、コンサートに行かせていただいたり、DVDを観たりしていたんですが、舞台上でオーラを放ったり、世界観を作ったりというのが本当にすごくて引き込まれるし、見終わった後に本当にすごいなと思える方なんです。その方とご一緒すると聞いたときに、世界観や空気を作れる方なんだと思って、うらやましくて。自分としては、自分なりの小田切とよ像、渡辺一枝像を作っていきたいと思っていますが、自分としての芯もしっかりもちつつ、いろいろなことを吸収していきたいです。

唯月ふうか

唯月ふうか

ーーそれぞれの小田切とよ像、渡辺一枝像をお聞かせ願えますか。

唯月:小田切とよはすごく明るくて、周りを照らす太陽のようなイメージですね。周りにいろいろな影響というか、笑顔もそうですし、明るい空気を届けることのできる女の子だなという感じがするので、この作品において、重いというだけではないさまざまな感情が芽生えるという意味でも、すごく大切な存在だなと。私はどちらかといえばとよの方が、明るい性格とか似ているのかなと思ったりします。一方で、渡辺一枝はすごく芯があって強くて頑固な女性なのかなと。市原隼人さん演じるだんなさんの光男さんとのシーンでも、けっこう強気なイメージがあって、ワークショップでも、セリフのあちこちにそう感じさせる箇所があるなと思って。二人の女性の違いを演じ分けられたらいいなと思っています。

May'n:二役というのも未知のチャレンジで、一つの役だけでも初めての経験なのに、演じ分けなくてはいけないというのが、いったいどういうことになるのかなと。それぞれ性格の異なる女性ですよね。私は年齢的にも性格的にも渡辺一枝の方が自分は近いなと思っていて。ステージに立っているときは違うんですが、普段、プライベートの私は割と、現実的に考えて行動したいタイプなので、さばさばしたタイプの女性の方がつかみやすいなと。とよの方は、本当に無邪気で元気いっぱいでという感じです。最初は、どういう風にしたら演じられるんだろう、近づけるんだろうという不安がありました。でも、プロデューサーの方が、以前から私のライブを見てくださっていて、ライブのときに発するパワーに無邪気さや天真爛漫さを感じて、それでこの役をオファーしましたと言ってくださったんです。ライブではファンの方が私の中のとよの部分をたくさん引き出してくれていたんだなと思ったので、同じ生である舞台で、普段コンサートで発している、楽しい! とか生きてる! みたいな前向きなパワーをどれだけ出していけるかが今は課題であり、楽しみなことでもあります。

May'n

May'n

ーーMay'nさんが小田切とよを演じる回は市村正親さんが勘治を、唯月さんがとよを演じる回は鹿賀丈史さんが勘治を演じられますが、そのお二人の印象についてはいかがですか。

May'n:私にとってお二人は憧れの先輩です。何本も舞台を拝見しているので、まさかミュージカル初挑戦で市村さんの相手役をさせていただけるなんて、びっくりしています。市村さんも鹿賀さんも、稽古場にいらした瞬間、場が締まるというか、座長だなとすごく思いますね。私が観た舞台では市村さんはポップな役を演じていらっしゃることが多かったので、ワークショップで、今回のように生きる希望がないという役どころを演じていらっしゃるのを拝見して、本当に役の幅が広い方だなと、改めて肌で感じました。

唯月:市村さんとは何度かご一緒させていただいていて、親子の役が多かったんですけれども、普段から本当に気さくで優しくて、周りのいろいろなことを気にしてくださる方なんです。本当にパパ、お父さんみたいな存在なんですが、お芝居に入ったとたんに空気ががらっと変わったりするので、またご一緒できるのがとてもうれしいです。鹿賀さんは『デスノート THE MUSICAL』でご一緒したのですが、あまり一緒にお芝居をする場面がなかったんです。今回とよとして一緒にお芝居をするシーンが多いのですが、『生きる』という作品の中で、とよと渡辺さんのシーンが明るかったり希望があったりするシーンなのかなと思うので、そこをしっかりメリハリをつけて表現できたらと思っています。

ーーワークショップはどのような経験でしたか。

May'n:リーディングから始まり、最終的にはパッケージとして会社の方々はじめ関係者にお見せするというスタイルでした。本稽古の前に少しのお稽古だけでお見せするということで、舞台初体験の私はあわあわしていましたが、お稽古前に皆さんの演技を見ることができ、自分で台本を読んでいるだけではわからなかった全体像がわかって、心強かったです。

唯月:私もお稽古前のワークショップは初の経験でしたが、自分が演じる役について演出の宮本亜門さんがわかりやすく説明してくださり、お稽古に入る前の不安がちょっととれて、リラックスできて臨めるんじゃないかなと思いました。出演者にベテランの方が多くて、お稽古前なのに皆さんもう完成、という感じで、余裕でやっていらっしゃるようで、私もそういう心の余裕が持てたらいいなと思いましたし、この作品から多くのことを吸収したいなと、とても気合が入りました。

唯月ふうか

唯月ふうか

ーー演出の宮本さんの印象はいかがですか。

唯月:亜門さんには『スウィーニー・トッド』でも演出を受けたのですが、もっと! もっと! という感じで、とても熱く語って熱く演出して気持ちをかきたててくださる方なので、ついて行こう、自分ももっとがんばろうと、自然と思えるんです。ワークショップのとき私は一枝役の方を演じていて、だんなさんを尻に敷くような強さのある女性なので、自分にはない引き出しを増やしていきたいなと思っていたのですが、もっとだらしなくて男勝りで、酒焼けの女性みたいな感じでもいいんだよとおっしゃっていただいて。そうやって自然と殻を破ってくださるので、恥ずかしい思いも消えるというか。

May'n:私は宮本さんの演出は初めてなので、テレビで見ていた方だ、とまずは思いました(笑)。これまで観てきた亜門さんの舞台はカラフルな印象というか、ダンサーを使ってさすがミュージカルという感じの演出のものが多かったので、『生きる』の演出をされるんだと、最初は少し意外でした。お稽古場では、すべてが新鮮で、一つひとつのアドバイスを真摯に受け止めてがんばらなくてはと思っています。課題の連続という感じで。私が生まれる以前の昭和の話ですが、直接今っぽい言葉を話したりはしていなくても、どうしても立ち居振る舞いに平成生まれらしさが出てしまうようで、そのあたりの指摘もすごくいただいて。話しているテンポ感にしても違うようで、映画を見ていても日本語をきちんと伝えている印象があるので、その努力もしていきたいです。

ーー唯月さんは6月の舞台『夢の裂け目』でも、戦後という昭和の時代の話を経験されていました。

唯月:確かに私も、話しているときの語尾ですとか、歩き方、立ち姿、身振り手振り、すべてにおいて、自分では気をつけているつもりでも、平成生まれ、今の若者感が出てしまうところがあるみたいで。本当に気をつけて一つひとつ丁寧にやっていかなくてはいけないなと思いました。言葉を伝えるということももちろん気をつけないと。昭和の話ですと、今の私たちより考え方がしっかりしていて大人という印象があるんですね。生きる、死ぬといった現実をきちんと受け止めている、そんな部分を出していきたいというのは、『夢の裂け目』に引き続いて今回の目標でもあります。

ーージェイソン・ハウランドさんが手がけた楽曲についてはいかがですか。

May'n:非常に幅広いジャンルの楽曲があって、自分がお客さんだったらすごく楽しんでしまうなと思いますね。とよのナンバーは、彼女のワクワク感やコロコロと表情が変わる無邪気さが表現されていて、それだけテンポも速くて難しいんですが、しっかり歌っていきたいなと思います。

(左から)唯月ふうか、May'n

(左から)唯月ふうか、May'n

唯月:サビに行くにつれて非常に盛り上がっていく、壮大な曲が多いなと思います。聞いていて覚えやすいメロディも多いのですが、その分、そこに言葉や心情を乗せて表現していくのが難しそうだなと思うので、役としてしっかり伝えられるように歌っていきたいなと。とよも一枝もそれぞれナンバーがあるので、声帯が二つあるの? と思っていただけるくらい歌い分けていきたいですね。とよの曲はテンポも速く、早口で歌う感じなので、歌詞を流してしまわずきちんと歌いたいですし、一枝の方は市原さんと一緒に歌わせていただくので、ぴたっとはまるように、夫婦の愛を表現できるように歌っていきたいです。

May'n:二つとも全然タイプが違う曲なんですよね。とよの方は、生きるのが楽しい、生きたい! という感じ。一枝もすごく活力があって、生きていく上でこうしたいという彼女のパワーを、歌っていてとても感じるんです。

唯月:『生きる』のミュージカルということで何だか暗い曲調をイメージしていたのですが、明るい曲調が多くて、聞いていて心地いいですね。ジェイソンさんがみんなと話し合いながらその場で作ってくださった曲もあって、一緒に作っている感覚が楽しかったし、貴重な機会だなと思いました。

May'n:ドラマティックできれいな曲が多いんです。それと、作っていく際に日本語の響きということもすごく大切にされていて、外国語の歌詞であっても流れるようにということをジェイソンさんは意識されているんだなと感じました。

ーー『生きる』といえば、大正時代の大ヒット曲「ゴンドラの唄」を主人公が口ずさむシーンが非常に有名です。

May'n:あの曲が流れるシーンでは一気に引き込まれますね。ストーリーがぐっと締まるという印象があります。

唯月:ジェイソンさんがさまざまに編曲されたものが劇中いろいろなところで流れるんです。ここでこう来るんだ! と思ったり、同じ曲でも悲しく聞こえたり、新鮮な感じなので、劇中流れる「ゴンドラの唄」も聞き逃さないでいただきたいです。

ーーまさに“生きる”ことがテーマの作品ですが、お二人にとって、生きている! と感じる瞬間とは?

May'n:私は絶対にライブですね。コンサートをしているとき、生きるパワーが湧いてきますし、毎日いろいろなことがあるけどここがあるからがんばれるなと思って。あれこれ悩んだりすることも多かったんですが、今のMay'n好きだよ、なんてお手紙をファンの方からいただいたりして、毎日が楽しくなっていったし、信頼できる仲間も増えていったという感じで。私はライブをするとき、今日はいろいろあっても明日はがんばろうという、明日への活力をメッセージとして伝えたいなと思っているんですね。舞台初体験で、常にそう強く思っているメッセージを全体としても伝えられる作品に出られるということを、運命的だと思いますし、幸せに感じますね。

May'n

May'n

唯月:私は舞台上に立っているときですね。大好きな歌、踊り、お芝居をすることができて、生き生きとすることができる。そして、見てくださっているお客様から、元気が出ましたというお手紙をいただいたりすると、お客様のほんの少しの力でもいいからなれていたらいいなという思いがあるので、余計にうれしくて。こういう世界に入れてよかった、ミュージカルっていいなと本当に思います。

ーー意気込みをお願いします。

May'n:初めてミュージカルに出演できるということで、毎日幸せでいっぱいです。映画でもあるミュージカルっぽいシーンはさらに盛り上がってお届けする感じですし、戦争が終わってこれからがんばっていこうという元気な街がすごくポップに描かれる作品だと思います。私自身、毎日みんなもっと楽しく生きようね、明日はもっと楽しい日になるようがんばろうねというメッセージを届けたいという気持ちで歌を歌ってきたので、そんな思いを今回のミュージカルの舞台でも届けられるよう、がんばっていきたいと思っています。

唯月:この作品を通じて、生きる力を皆さんに届けられたらいいなと思っています。観た方に、もっとがんばって、明るく楽しく生きてみようと思っていただけるよう、パワーを出して臨みたいです。アンサンブルさんが大勢出るシーンはわあっと盛り上がってショー! という感じになりますし、とよと渡辺さんのシーンは明るく、すごくメリハリの効いた作品として楽しんでいただけると思います。市村さんバージョンと鹿賀さんバージョンそれぞれ、計二回観に来ていただけたらうれしいです。

(左から)唯月ふうか、May'n

(左から)唯月ふうか、May'n

取材・文=藤本真由(舞台評論家)撮影=岩間辰徳

公演情報

黒澤明 没後20年記念作品 ミュージカル『生きる』
■日程:2018年 10月8日(月・祝)~28日(日)
■会場:TBS赤坂ACTシアター
■作曲&編曲:ジェイソン・ハウランド
■脚本&歌詞:高橋知伽江
■演出:宮本亜門
■出演:
【市村正親出演回】
渡辺勘治:市村正親
渡辺光男:市原隼人
小説家:小西遼生
小田切とよ:May'n
渡辺一枝:唯月ふうか
助役:山西惇
 
【鹿賀丈史出演回】
渡辺勘治:鹿賀丈史
渡辺光男:市原隼人
小説家:新納慎也
小田切とよ:唯月ふうか
渡辺一枝:May'n
助役:山西惇
 
■公式ホームページ:http://www.ikiru-musical.com/ 
 
【あらすじ】
役所の市民課に30年勤める課長の渡辺勘治(市村・鹿賀/Wキャスト)は、まもなく定年を迎えようとする矢先に、当時は不治の病とされていた胃がんになり、余命わずかと知る。時間が残されていないことを知った渡辺は、これまでの人生を考えて苦悩し、一時はやけ気味で夜の街を歩き、知り合った小説家(新納・小西/Wキャスト)と遊びまわるが、心はむなしいばかり。そんな折に偶然街で出会った同僚女性(May'n、唯月/Wキャスト)から刺激を受け、自分の本来の仕事を見つめなおし、「生きる」ことの真の意味を考え、新しい人生を始める―。
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