安心してください。オペラなのに予習不要? 行ったその日に楽しめます『フィガロの結婚』

舞台写真 提供:東京芸術劇場 2015年10月22日東京芸術劇場公演より photo:Hikaru.☆

舞台写真 提供:東京芸術劇場 2015年10月22日東京芸術劇場公演より photo:Hikaru.☆

野田秀樹×井上道義『フィガロの結婚』待望の秋季ツアー開幕!

今年5月26日を皮切りに始まり、夏のオペラ界と演劇界に旋風を巻き起こした野田秀樹演出×井上道義指揮『フィガロの結婚~庭師は見た!~』待望の秋季ツアーが10月26日東京芸術劇場にて幕を開けた。

野田秀樹が『フィガロの結婚』を演出する!それだけで食指を延ばしたくなる話、指揮も井上道義だって!?これはいかねばなるまい!

そんな思いで伺った今回の舞台。追加公演、満員の観客。幕のないコンサートホールの舞台に立つ金色の柱。長い竿がクロスしている。いったいこれから何が始まるのか?よく観ると幕開け前から舞台で掃除している人がいる。ナイロン100℃の廣川三憲が演じる庭師・アントニ男である。

演劇っぽさ満点の舞台にわくわくしながら幕開きを待つ。現れる井上道義。アントニ男が舞台設定と時代設定について語る。時は黒船来航時代、場所は長崎。話はなんのことはない男と女のお話だと流暢に語った廣川の言葉に続いて、井上道義の指揮で軽快な序曲が始まる。

オペラなのに予習が要らないわかりやすさ!

舞台写真 提供:東京芸術劇場 2015年10月22日東京芸術劇場公演より photo:Hikaru.☆

舞台写真 提供:東京芸術劇場 2015年10月22日東京芸術劇場公演より photo:Hikaru.☆

柱の上からにょきっと現れるいかつい服を身に付けた伯爵、美しい伯爵夫人、奇抜な衣裳の小姓・ケルビーノ。

声楽・演技アンサンブルが有形無形の形を作り、我々観客を「フィガロの結婚」の世界に導いていく。

「フィガロの結婚」は登場人物も多く、筋立てを理解するだけでも一苦労な作品である。しかし、今回貴族階級は異国人として従来のイタリア語を話す。市民階級は日本人として、日本語を話し、日本的な立ち振舞いをする。

ぐっと心は市民階級である主人公フィガ郎やスザ女寄りになる。逆にイタリア語を話す伯爵たちは観客にとって異質な存在として認識される。それだけで話のわかりやすさがぐんとあがる。

貴族と市民、お互いの常識が食い違うことで起きる悲喜劇こそ、この物語の本質であることに気づかされるのだ。

オペラを観る前には予習をしよう!なんていうくらい、オペラを観るためには事前知識が必要になる。しかし、そのハードルを野田秀樹は意図も簡単に(ホントは簡単じゃないだろうけど)クリアしてしまったのだ。おそらく、フィガロの結婚を初めて見た人にも物語は十分理解できたであろう。

日本語でオペラを上演されることはままあれども、日本語を話す必然性について音楽も歌手もアンサンブルも一丸となって取り組んだプロジェクトとしては、恐らく類を見ないオペラプロダクションであったと思う。野田秀樹ならでは言葉遊びも字幕や曲間の台詞には健在で、野田秀樹ならではの発想がそれを可能にしたのであろう。また歌手たちもよくそれに応えていた。

アンサンブルの妙! 生き生きと描かれた庶民の姿

舞台写真 提供:東京芸術劇場 2015年10月22日東京芸術劇場公演より photo:Hikaru.☆

舞台写真 提供:東京芸術劇場 2015年10月22日東京芸術劇場公演より photo:Hikaru.☆

主人公・フィガ郎を演じる大山大輔はよく通る日本語と歌舞伎の動きなども取り入れたコミカルな演技が冴えた。その花嫁・スザ女を演じる小林沙羅は素晴らしい歌唱とともに可愛らしさの中に日本のおっかさん的な強さをあわせ持った女性を見事に演じきっていた。

対して、異国人として登場する伯爵のナターレ・デ・カロリスは日本の風習など知ったことかと傍若無人にふるまい、伯爵夫人のテオドラ・ゲオルギューは端整な歌唱と美しい立ち姿で異国情緒を感じさせた。また、小姓ケルビーノのマルテン・エンゲルチェズはすらりとした長身からは想像できないカウンターテノールの豊かな高音とコケティッシュな演技で不思議な存在感を示した。

そして、なにより魅力的であったのは脇を固める歌手、声楽アンサンブル、演技アンサンブルだ。妻屋、森山、牧川、三浦、コロンというオペラ界で活躍する面々がこれでもかという演技で野田秀樹の世界を表現していたのには感嘆した。異国人に翻弄されながらも強かに生きる長崎庶民の姿が生き生きと描かれていたと思う。

また、声楽・演技アンサンブルが有形無形のものを表現し、素舞台に近い舞台に様々なものを産み出していく姿は、最後まで我々観客の心をつかんで飽きさせなかった。

野田版『フィガロの結婚』は新しくオペラを観る人にとってのわかりやすさという一番大きな要素を、とても高い技術で表現した舞台だった。これが日本のオペラの新しいスタンダードになっていく可能性を大いに感じられ、胸を熱くした帰り道であった。

(文:平岡基 観劇日:2015年10月22日 夜公演)
 

公演情報

全国共同制作プロジェクト 東京芸術劇場シアターオペラvol.9
モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~ 新演出
(全4幕・字幕付 原語&一部日本語上演)


東京芸術劇場コンサートホール 2015年10月22日、24日、25日(上演終了)。
この後は山形、名取、宮崎、熊本にて上演される。

10月29日(木)山形テルサ
主催:山形市
企画・運営:山形テルサ指定管理者 一般財団法人山形市都市振興公社

11月1日(日)名取市文化会館 大ホール
主催:公益財団法人名取市文化振興財団

11月8日(日)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)
主催:公益財団法人宮崎県立芸術劇場

11月14日(土)熊本県立劇場 演劇ホール
主催:公益財団法人熊本県立劇場

■指揮・総監督:井上道義
演出野田秀樹
出演
アルマヴィーヴァ伯爵:ナターレ・デ・カロリス
伯爵夫人:テオドラ・ゲオルギュー
スザ女(スザンナ):小林沙羅
フィガ郎(フィガロ):大山大輔
ケルビーノ:マルテン・エンゲルチェズ
マルチェ里奈(マルチェリーナ):森山京子
バルト郎(ドン・バルトロ):森雅史(春期)、妻屋秀和(秋期)
走り男(バジリオ):牧川修一
狂っちゃ男(クルツィオ):三浦大喜
バルバ里奈(バルバリーナ):コロン・えりか
庭師アントニ男(アントニオ):廣川三憲

合唱金沢フィガロ・クワイヤー(金沢)、新国立劇場合唱団(西宮・高松・川崎・東京)、山形オペラ協会合唱団(山形)、宮崎県立芸術劇場コーラスアンサンブル(宮崎)、熊本フィガロ・クワイヤー(熊本)
声楽アンサンブル佐藤泰子、宮田早苗、西本会里、増田 弓、新後閑 大介、平本英一、千葉裕一、東 玄彦
演劇アンサンブル河内大和(春期)川原田樹、菊沢将憲、近藤彩香、佐々木富貴子、佐藤悠玄(秋期)、長尾純子、永田恵実、野口卓磨
管弦楽オーケストラ・アンサンブル金沢(金沢、大阪)、兵庫芸術文化センター管弦楽団(西宮、高松)、東京交響楽団(川崎)、読売日本交響楽団(東京)、山形交響楽団(山形、名取)、九州交響楽団(宮崎、熊本)
チェンバロ、コレペティトゥール服部容子

■公式サイト:https://www.geigeki.jp/performance/concert054/​

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