加藤和樹が徹底した悪役に初挑戦! 暗闇がスリルを生む極上のサスペンス劇『暗くなるまで待って』
加藤和樹
ミュージカルにストレート・プレイにと、さまざまな方向性の作品で目覚ましい活躍を見せている加藤和樹。今年だけでもミュージカル『マタ・ハリ』、『1789―バスティーユの恋人たち―』、ミュージカル『タイタニック』、project K『僕らの未来』と続けざまに大作、話題作に出演し、いずれの舞台でもその個性をキラリと輝かせている。
そんな彼が2019年の年明け早々、フレデリック・ノット作『暗くなるまで待って』に凰稀かなめとW主演で挑むことになった。オードリー・ヘプバーン主演で1967年には映画化もされている今作は、麻薬を仕込まれた人形をめぐり盲目の女性スージーとその人形を取り返しにやって来たロートたち悪党3人組とのスリリングなやりとりを描いた緊迫のサスペンス劇だ。どうせ見えないだろうからと、たかをくくって騙そうとするワルと、鋭い勘で彼らの不審な動きに気づくヒロイン。特に真っ暗闇の中で進行していくクライマックスは、誰もが手に汗必至のドキドキものだ。ここまで徹底した“悪役”を演じるのはこれが初めてだと意気込む加藤に、作品への想いを語ってもらった。
ーー舞台『暗くなるまで待って』を深作健太さん演出で、という今回のお話を聞いた時はどう思われましたか。
一言でいうと、すごくうれしかったです。僕は2007年に上演された時の舞台を観ていて、当時ものすごく衝撃を受けたんです。その時は、ロートという役を浦井健治さんがやっていて「この人すごい!」とか、「なんだ、この芝居は!」と思っていました。特に、暗闇のクライマックスシーンのインパクトは今でも鮮明に思い出せるくらいです。それ以来、心の中でずっとあの作品をやりたいと思っていました。その後、同じくワンシチュエーションのサスペンス劇である『罠』という作品を僕は合計3回、演じさせていただきましたが、その現場でもよく『暗くなるまで~』の話題が出ていて。そして今回、満を持してこの作品をやらせていただけることになり、しかも自分が身も心も委ねられる深作健太さんの演出で、ですからね。楽しみで仕方がありません。
加藤和樹
ーー深作さんとは、まさにその『罠』でご一緒されていたんですね。
健太さんが初めて舞台演出をした作品が『罠』だったんです。その時僕自身は『罠』を演じるのは二度目だったんですけれど。健太さんは、とにかく役者にすごく寄り添ってくれる演出家さんで、役づくりにしても一緒に同じペースで考えながら歩んでくださる方。だからなんでも包み隠さず言えるし、気になったこともどんどん相談できるんですよ。
ーー作品自体の面白さは、たとえばどういうところに感じられていますか。
この作品の場合、ものすごく決めごとが多くなってくると思うんです。そこでひとつボタンを掛け違っただけで、いろんな仕掛けや話の展開がズレて、とんでもなく大変なことになってしまう。そこが一番面白いところであり、すごく難しい点になるのではないかなと思います。役者にとってはいい緊張感というものも、きっとあるとは思いますけどね。そんな中、ヒロインのスージーは目が見えない役柄なので、それを演じる(凰稀)かなめさんはとても大変だろうなと思います。僕らは僕らで、かなめさんとは違う緊張感がありそうですけれども。
ーー暗闇になってからの演技も、なかなか大変そうですし。
そうですね。実際、2007年版の舞台の時の話を聞くと、やはり暗闇のシーンは役者もスタッフも含めて、非常にスリリングだったそうですから。どれだけガチなんだよ、と思いましたけど(笑)。でも、だからこそ生まれるお芝居の爆発力みたいなものがあるんですよね。お客様たちは真っ暗闇の舞台上で一体何が行われているのかがわからない状況で芝居が進行しますし、役者も展開はわかっていても実際のところ見えてはいないので。あそこが僕も一番、釘付けになったところなんです。人って、暗闇の中でも一生懸命見ようとするんですよ、だけどなかなか見えなくて。あのシーンは本当に、魔法を見ているような感覚でした。
ーー『罠』もそうでしたが、こういうサスペンス劇ならではの醍醐味とは。
会話、ですね。やはり今回の作品も、会話劇なのですごく情報量が多いわけですよ。その中でこのセリフはたてなきゃとか、逆にたてすぎるとわざとらしくなってしまうなとかを考えて。お客様には視覚的なものではなくて言葉、セリフで情報を与えていかなければなりませんから、そこに難しさがあると同時に、やりがいも感じます。
加藤和樹
ーー今回、加藤さんが演じられるロートは筋金入りの悪党ですね。そういう役を演じることに関してはいかがですか。
ここまで極悪な役を演じるのは、僕としては初めてなんです。ちょっと悪っぽいとか、悪いヤツだけど心のどこかには優しい部分があるという役を演じることはありましたけど、これだけの悪役だとどこから彼を作っていけばいいのか、理解していけばいいのかが正直、まだ今の段階では悩んでいて。人間としてつけいる隙が見つかれば、そこから入り込んでいけるんですけどね。彼の場合はどこから手をつければいいのか、まだ迷っているところです。演じる役者が、その役の一番の理解者でなければいけないといつも思うんですが、果たして自分は理解できるだろうか? と。見た目でロートになれていたとしても、心の中身まで彼として舞台に立てるのか? と考えてしまうんですよね。だけどもし入り込めたら、きっとものすごい楽しい役だろうなとは思うんです、振り切って演じられるから。でもその域に到達できるまで今回はたぶんかなり時間がかかるのではと、今の段階では思っています。
ーー具体的には、どんな準備をして役づくりをしていこうと思われていますか?
たとえば、彼がどういう日常を送っているかということから考えようかと。一部分だけを切り取って凄い悪人なんですって言ったとしても、断片的なところしか見えませんからね。彼の場合、ふだんはすごくフラットな状態でいそうな気がするんですよ。そういう日常の中から、ヒントが見えてくるのではないかなと考えています。悪ぶっている人って、世の中にいっぱいいるじゃないですか。でも彼の場合はそういう悪ぶっている人とも、根本的に違うんじゃないかと。とはいえ僕としては、生まれながらの悪人なんて絶対いないと思っているので。きっと何かしらのきっかけがあってこうなってしまったはずで、そこを紐解いていくことがロートを理解する一番の近道なのかもしれません。
ーーいろいろと彼の半生に起きた出来事を想像しながら。
そうですね。『罠』の時もそうでしたが、健太さんと今回もたくさん話し合いながら芝居を作っていこうと思っています。
ーー今回のカンパニーについては、加藤さんから見てどんなメンツが揃ったと?
メンバーとしては大体知っていますけど、がっつり舞台で絡んだことがあるのは、(高橋)光臣さんだけかな。(凰稀)かなめさんとは、共演はしていますがほとんど絡んでいなかったので。
加藤和樹
ーー凰稀さんはどんな印象の方でしょうか?
すっごいカッコイイし、男前、です(笑)。僕は『1789―バスティーユの恋人たち―』という作品でしか共演はしていませんが、でも彼女の持っている強さというものはスージーに通じる部分があるように思うんです、絶対にひかない、強いところとか。ですから今回の役はとてもピッタリだと思います。そうなると、あの強さに負けないように僕らはしなければいけませんね!(笑)。そのへんは実際に稽古場でお芝居をやってみて、「せーの!」でお互いの手を出した時に、見えてくるのかもしれません。前回共演した時には見せたことのない手を、出すことになりそうです。果たしてどういうカードをお互いに切っていくかというのは、自分としても楽しみです。
ーー『1789―バスティーユの恋人たち―』の時に、この『暗くなるまで~』の話はなさったんですか?
ちょっとだけ、しました。だけど「今度一緒だね、よろしくねー」くらいでしたね。
ーーでは、手持ちのカードは。
まだ全然見せていません、ただ切っている、シャッフルしている段階です。でももちろん「初めまして」ではないわけなので、ある意味初対面の時よりは遠慮がいらない面はあると思うんですね。ただお互いのお芝居に関してはまだ知らないところが多いので、今回のお芝居でどれだけ遠慮を取り払えるか。自分としては何でも受け止めるよというスタンスでいるつもりですが、その代わりこっちが出すカードも全部受け止めてねとお願いしたい。というか、お願いしなくてもたぶん自然とそうなっていく気がしますけど。ともかく今回のお芝居は、中でもスージーとロートの二人は特に、とにかくお互いの呼吸がものすごく大事になってきますから、ここは身を預けてほしいですし自分も預けたいと思っています。
ーーでは最後に加藤さんからお客様へ、お誘いのメッセージをいただけますか。
サスペンスの舞台作品は他にもたくさんありますが、舞台上で本当に真っ暗闇になって一体何が起こるかわからなくなるような舞台は他にはないと思います。この機会に観なければ損です!(笑) ホント、何が起こるんだろう? となると思います。僕自身がその感覚と衝撃を知っているので、そこは保証します!
ーー実際に、お客さんとして観られているだけに(笑)。
ええ。そしてみなさんもきっと「また観たい!」と思われるはずです。あの緊張感の中でのセリフの応酬は、とにかく舞台上に目が釘付けになるので。と、こういう風に思っていただけるように僕らも精一杯がんばりますから(笑)、ぜひとも期待してほしいですね。
加藤和樹
取材・文=田中里津子 撮影=荒川潤
公演情報
【会場】 サンシャイン劇場