ミュージカル界でも偉大すぎるエルトン・ジョンがやってくる。
あまりにも偉大なエルトン・ジョン作曲の三大ミュージカル
音楽界からミュージカル界に参入したパイオニア
恥ずかしながら、エルトン・ジョンが来日することをSPICEの記事で初めて知った。恥ずかしついでに白状すると、エルトン・ジョンが音楽界においてそこまで偉大(でしかもオモシロイ)人だったのか、というのも初めて知った。
いや、もちろんダイアナ妃の追悼ソングを書くくらいだから相当偉大な人なのだろうと何となく分かってはいたが、ミュージカルファン的にはやはり『ライオンキング』(1997年11月~ロングラン中/以下全てブロードウェイでの上演時期)、『アイーダ』(2000年3月~2004年9月)、『ビリー・エリオット(リトル・ダンサー)』(2008年11月~2012年1月)といった大がつくヒット作の作曲者としての印象が強い人である。海外ミュージカル好きにもいくつかタイプがあって、音楽や映画も含めた西洋のカルチャー全般をこよなく愛している人も多いと思うが、筆者は何しろミュージカル限定。「ミュージカル界にやってきた音楽界の大物」という認識はあっても、後半部分にはさほど興味もなかったのだ。
筆者のなかで同じくこうした認識のミュージシャンに、『スパイダーマン』(2011年6月~2014年1月)のU2(のボノとエッジ)、『キンキーブーツ』(2013年4月~ロングラン中)のシンディ・ローパー、『ザ・ラスト・シップ』(2014年10月~2015年1月)のスティングがいる。ミュージカル界ではここ15年ほど、有名ミュージシャンの既存の曲を繋ぎ合わせて作る、ちょっとした揶揄も込めて「ジュークボックスミュージカル」と呼ばれるジャンルの流行が続いているが、この4組の作品はそうではない。
つまり、単純に「作詞・作曲者としてクレジットされている」という点で見れば、アバやビリー・ジョエル、ザ・フォー・シーズンズにキャロル・キングと、ミュージカルに携わった音楽界の大物は無数にいるのだが、「その作品のために書き下ろした」となると数えるほどなのだ。そのパイオニア的存在であるという意味で、エルトン・ジョンは音楽界での功績をさほど知らないミュージカルファンにとってもやはり、ずっと偉大な人であったと言える。
さて彼のミュージカル音楽の魅力だが、これはもう「きちんとドラマがある」の一言に尽きる。ミュージカルの楽曲において重要なのは、必ずしも1曲1曲がキャッチ―なことではなく、場面ごと、登場人物ごとの様々な状況と心情を、音で書き分けて観客に伝えることにある。これにはおそらく、音楽界でヒット曲を量産するのとはまた別の能力が必要で、両方を持ち合わせた作曲家はそう多くないと思うのだが、エルトン・ジョンは間違いなくその一人だ。
冒頭に挙げた3大ヒット作のうち、筆者のいちばんのお気に入りはこの『ビリー・エリオット』。ストライキ中の炭鉱の町の不穏な空気、裏切り者になってでも息子の夢を応援しようとする父の決意、自らの死を予感して息子への想いを手紙に綴る母の愛、そしてその全てを背負ってダンサーという夢を追う主人公ビリー……原作映画『リトル・ダンサー』に描き込まれているあらゆる状況と心情が、綿密な音楽によって表現された、文句なしの傑作ミュージカルである。わけても、クライマックスでビリー少年が踊る悦びを静かに熱く歌う《Electricity》は、思い出しただけで涙が滲む名曲だ。
あの琴線に触れる《Electriciy》の旋律を書いたのが、まさかあんなメガネコレクターだったとは。偉大な人というのは、往々にして奥が深いものである。