音無美紀子×上原理生インタビュー~日本人の強さとあたたかさを描く『にっぽん男女騒乱記』

インタビュー
舞台
2018.9.5
音無美紀子、上原理生

音無美紀子、上原理生

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2018年9月5日(水)から東京・東京芸術劇場シアターウエストにて『にっぽん男女騒乱記』(作・演出:東憲司)が上演される(同月12日まで)。終戦後の日本を舞台に、米兵専門の連れ込み宿の女将、女将と腐れ縁の紙芝居屋、そして戦地から戻ってきた復員兵らが繰り広げる人間の心を描く物語。本作に出演する音無美紀子、そしてこれがストレートプレイ初出演となる上原理生に本作の見どころ、お互いの印象などを聞いた。

――この舞台への出演の話が来た時の話をお聞かせください。

音無 劇団桟敷童子の東憲司さんが以前トム・プロジェクトで作・演出された芝居に、うちの夫、村井(國夫)が出演させていただきました。それで私もいつか出演させていただきたいな、とずっと思っていたんです。そして2年ほど前に、ようやく芝居をやらせていただけることが決まり、そこから今日までやっとこさ(笑)辿りつきました。

――音無さんにとっては念願の出演だったんですね! 一方、上原さんはいかがでしたか?

上原 「一度はちゃんとストレートプレイをやりたい」と思っていたんです。そういう想いがある時に桟敷童子の芝居を見せていただいたんですが、ものすごく骨太で、今の日本にはあまり見かけなくなった、人間の根底にある「人情」の存在、昭和の頃に人が持っていた温かみを感じたんです。

音無 乱暴なんだけど、あったかいんだよね。

上原 そうなんです。そういう世界が僕は好きなので、今回、そんな東さんの作品をやらせてもらえるんだな、と。そういう時がようやく訪れたと、たいへん嬉しく感じました。

音無 山本周五郎とか、日本人の「情」を表した作品はいっぱいありますが、東さんの作品にはそういうしっとりしたものではなく、バサバサ、ドヤドヤしたものの中にちらっと見えるあったかみが素敵なんですよ。台詞は乱暴なんだけど、そのなかに愛情が隠れているんです。

――オファーを受けたとき、すでに作品の全貌は見えていたんですか?

音無 台本はまだでしたので、シノプシス(あらすじ)をいただいた状態でした。そこから台本が一場ずつ出来上がってきては本読みをし、「この先いったいどうなるんだろう」と、まるで紙芝居のようなドキドキ感を抱いていましたね。

上原 「次の場面、どうなる?」ってね。

音無 台本が出来上がる途中、「次の場面で(高橋)長英さんの役が死んじゃうらしい」という噂が流れたりね。結局は無事だったんですが(笑)。

上原 その噂に皆で「ええっ!」って驚きましたよね(笑)。

音無 ともあれ、私たちも少しずつできあがっていく過程を楽しんでいたんですよ。この作品には一人ピュアな人間がいて、あとはどっちかというとガサツな人たちばかりです。そのピュアな部分を担うのが理生くんの役ね。

上原 ピュア(笑)。決してふしだらな役ではないです(笑)。

音無 理生くんが演じる陽太はすごく正論を言い続ける人。復員兵でカルチャーショックのような意識を抱いている陽太に、「正論だけでは生きていけない」と、私たち大人たちが接していくんです。

上原 浦島太郎みたいなもんですからね、陽太にとって戦後の日本という場所は。

――そもそも上原さんは、日本を舞台にした作品にほとんど出演されていない印象ですが。

上原 ほとんど外国人でしたからね、これまでは。だから、昨日まではフランス人だったけど、今日から俺は日本人なんだ、と自分に言い聞かせるため、稽古初日に下駄を履いてきました(笑)。でも稽古が進むにつれ、東さんが僕に「全然日本人に見えるね! 派手なのかな、と思っていたら、どこか土臭さがあるというか……」って。

音無 「田舎くさい」って言われたんじゃなかったっけ(笑)?

上原 そう(笑)。 それを聴いて「よかったー! ああよかった、日本人をやれるんだ」と思いました。何だろう、もともと芋臭いんじゃないかな、自分(笑)。

――一方、音無さんが演じる千鶴はどのような人物なんですか?

音無 米兵相手の連れ込み宿の女将です。こういう役をやったことが一度もなくて。どちらかというとピュア路線で来ましたので(笑)。

上原 確かに音無さんって、いいところの奥様とか、高級料亭の女将といった、上品な役のイメージがありますね。千鶴はその逆でしたたかで強いですし。

音無 だから、今ものすごく新鮮に演じています。この座組みでないと経験できないことだと思っています。千鶴は威勢のいい姉御。社会主義運動のリーダーだったような女性ですからね。旗を振りながら役場で声をあげていた一人かもしれません。本当は福岡の名家の娘で、頭も良くいい女学校にも行っている。でも日本はこれではいけないと感じ、戦争もあって時代の流れに乗っていく、生きることに貪欲な、強い女性ですね。

――そういうこれまでご自身が演じたことのない人物を演じるとき、どのように役に向かっていくものでしょうか?

音無 台本や台詞がすでに千鶴を表す言葉になっていますし、東さんが実際にやってみせるとものすごく上手いので「なるほど」と思いながら勉強しています(笑)。やはりご自身で台本を書く方は「千鶴はこういう女」とイメージしながら書かれていると思うので、そのイメージと私の演技のギャップを時にはおもしろがってくださったり、時には「もっとこんな感じで」と修正したり……日々、闘いながら演じていますね。

上原 僕が演じる陽太は、一本気で純真で、間違っているものは間違っている、というキャラクター。だから何も知らなかった頃の自分を思い出しながらやっています。学生生活の頃「これは間違ってる!」と世の中の不条理に怒っていた時を思い出しながら演じています(笑)。

――上原さんにそんな時代があったんですね! さて、稽古をして感じたお互いの印象はいかがですか?

上原 綺麗な方だなあって。

音無 大好き、その言葉(笑)。

上原 遊郭の女将さん役なんだけど、気品や色香が出てらっしゃるから、何とも言えない風情が出ているんです。昔の人は、きちんとした振舞い方を教えられていたこともあって、演じている音無さんの佇まいが美しいんです。

音無 理生くんのことは、それこそミュージカルで革命の先頭を走っている姿を観ていました。だから今回のような舞台に挑戦されるのってすごく勇気がいることだったんじゃないかなって思うんです。ミュージカルとストレートプレイって全然違うのでこんな難しい役をできるんだろうか、と最初思っていたんです。ところが彼はものすごく勘が良く、長英さん曰く「吸収する力がものすごい。どんどん吸い取っていく」んです。音楽をやってきた人だからこその芝居の間やテンポといったリズム感が良い方。アイコンタクトをしなくてもすっと息が合うんです。ただ、歌で感情を表現するのと違って、自分の台詞の中でも強弱、テンポを付けていかないとならないので、そこは東さんが一つずつ丁寧に教えてくださっています。いいストレートプレイ初体験になっていると思いますね。

上原 本当にありがたい事です。

――先日初めて通しで稽古をされたそうですが、手応えはいかがでしたか?

音無 私はまだ客観的に自分たちの芝居を観ていないのでよくわかりませんが……台本はものすごくおもしろいですよ! これに照明やセットや音響が入って膨らんでいって……。

上原 楽しみですよね、一つ一つが。実際僕、通し稽古をしてみて分かったんですが、出ずっぱりだな、って気が付きました!

音無 出演する5人全員にかなりのエネルギーがないと成立しない芝居ですね。全く力が抜けないんですよ、東さんからは「もっと力を抜いてやりましょう」って言われるんですが、力ってどうやって抜けばいいんだろうって! 2時間の芝居に5時間分くらいの出力でやっている状態です。

上原 「究極」の境地ですよね。痩せそうです、というか実際、痩せました。まあ復員兵役だし痩せないと、とは思っていたんですが(笑)。そういえば稽古の時、僕の隣に座っている真山章志さんから「理生くん、時々頭から煙吹いてたよね」って言われてしまいました(笑)。

音無 理生くんはものすごい量の汗をかいているんですよ(笑)。私が抱きかかえる場面があるんですが、身体がくっつく部分がびっしょりになるんです!

上原 だってもう第一場からフルスロットルなんですよ。それを何回も何回もやるからもうびしゃびしゃになっちゃって。その最後の最後に千鶴さんに抱きかかえられるという……。

音無 抱きたくないのよー(笑)! 最近は少しコントロールできて汗もしっとりくらいになったけどね。

上原 本当にすみません(笑)。

――革命以上に滝汗をかく上原さんに期待しています! 最後になりますが、この作品を通じてご自身としてはどんな手応えをつかんでみたいと思いますか?

音無 まだ今は当然、何もつかめていないんです。幕が開き、観客の方がどう感じてくれるか、それを自分が受け止められた時に何かが分かると思います。でも東さんの台本の中には本当に美しい宝石のような台詞がたくさん散りばめられているんです。「生きるってしんどいんだよ」とか。そういう輝く言葉をお客様に届けていきたいですね。

上原 僕はミュージカルで何度も歌ってきて、歌の中で心情を吐露してきましたが、今回の芝居で学んだことが、今後の舞台でどう反映されて自分の目に映るのかが楽しみなんです。確証はないですけど、今回の経験で絶対今までとは違う何かが見えてくると思います。

取材・文・撮影=こむらさき

公演情報

トム・プロジェクト プロデュース『にっぽん男女騒乱記』
 
■日程:2018年9月5日(水)~12日(水)
■会場:東京芸術劇場シアターウエスト

■作・演出:東憲司
■出演:音無美紀子、真山章志、小林美江、上原理生、高橋長英

【あらすじ】
戦争で負かされた国から毟りとっちゃるんやッ
昭和二十七年―
あの敗戦から七年後...朝鮮特需で湧く日本。
米軍キャンプから飛び立つ飛行機の轟音が子守歌…。
町の外れに米兵専門連れ込み宿「さんふらわ」が花開く。
女主人・千鶴は太陽の花の如き天真爛漫豪快無比。
腐れ縁の紙芝居屋(エログロ専門)・源之助は日陰草…。
…二人が夫婦だったことは誰も知らない
…筈だった!?

 
■公式サイト:https://www.tomproject.com/peformance/nippon.html
■問い合わせ:トム・プロジェクト 03-5371-1153

<神奈川県藤沢市公演>
■日程:2018年9月15日(土)14:00
■会場:湘南台文化センター市民シアター
■問い合わせ:0466-28-1135

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