まるでヨーロッパの片田舎のオペラハウスを覗いたよう! 噂の「みつなかオペラ」、今年は『トスカ』で勝負!
指揮者 牧村邦彦(右)と演出家 井原広樹 (C)H.isojima
今年はプッチーニの歌劇『トスカ』の当たり年と言えるのではないだろうか。
大きなところでは、新国立劇場とびわ湖ホールのプロダクションに、名古屋城の前で繰り広げられたジャパン・オペラ・フェスティバル。そしてメトロポリタンオペラのライブビューイングも話題となった。調べてみると、プッチーニの生誕160年という事が判明したが、それはあまり関係ないだろう。偶然とは言え、日本では人気のオペラだけにこういう事もあるのか。
このオペラを以前から、3年に渡るプッチーニシリーズの最終回にあたる今年上演すると宣言していたのが「みつなかオペラ」だ。兵庫県川西市にある客席数480席の みつなかホール で、クオリティが高く玄人受けするオペラを作り続けている指揮者 牧村邦彦、演出家 井原広樹に話を聞いた。
第26回「みつなかオペラ」、プッチーニの歌劇『妖精ヴィッリ』より
―― 昨年の「みつなかオペラ」 、プッチーニの『妖精ヴィッリ』『外套』が、第15回 (2017年度) 三菱UFJ信託音楽賞 奨励賞に選ばれたそうですね。
牧村邦彦 ありがたいことです。やはり苦労して作ったものがこういう形で評価されるのは嬉しいですね。
第15回三菱UFJ信託音楽賞 奨励賞を受賞 写真提供:みつなかほーる
―― 20年以上の歴史を有する「みつなかオペラ」ですが、これまで1度も再演はやられていないとお聞きしています。という事は『トスカ』も初めてという事でしょうか? 人気の演目だけに少し意外な気がします。
牧村 絶対に再演はしないと意気込んでいる訳ではないのですが(笑)、オペラはとにかくたくさんあります。ここずっと3年ごとにテーマを決めてやって来ました。オペレッタ、イタリア喜劇、名作もの、ドニゼッティ、ベッリーニと来て、2年前からプッチーニシリーズをやっていますが、最後はやはり最高傑作『トスカ』だと決めていました。
井原広樹 『トスカ』はイタリアオペラの最高峰ですし人気オペラですが、実は演奏機会はそれほど多くはないと思います。関西では2年前にやった「伊丹市民オペラ」以来だと思いますし、その前はと言うと、随分遡るのではないでしょうか。主役3人に比べると他の役があまり目立たない事や、合唱の見せ場も少々地味な割に、バンダやオルガンが必要な大編成の曲で、声楽グループが取り上げにくい曲だと思います。それだけに、油の乗り切った歌手を揃えることが出来る今、やっておくことに意味が有ると思っています。
第26回「みつなかオペラ」、プッチーニの歌劇『外套』より
ーー なるほど、歴史ある「みつなかオペラ」はそういった責任のようなものも意識されているのですね。
井原 そんな大層な事ではありませんが(笑)、オペラを知り尽くしておられる牧村マエストロが諸先輩から受け継いで来られたモノを次の世代に残していこうというお考えが強いようですので、お客さまの為にも若い歌い手や裏方の為にも上演実績を残していくことが大切だと思っています。
牧村 おかげさまで「みつなかオペラ」はオペラファンの皆さまの間でも、歌い手の間でもブランドとして定着してきたように思います。スタート当初、“おらが町のオペラハウス”に成る事が狙いでしたが、関係者の努力もあり、「ヨーロッパの片田舎のオペラハウスっぽくて素晴らしい!」と玄人筋のオペラファンの皆さまからも好評を頂いています。
オペラ指揮者として定評のある牧村邦彦
ーー まさに客席数480席の劇場の心意気!ですね。
井原 ヨーロッパでいう“ザ・オペラ”はこんな感じではないでしょうか。劇場のサイズも予算規模も、スコアをリダクションして作曲家の指定する楽器編成を小規模に書き換えているところも…。
『トスカ』は何と言っても“プリマ・オペラ”です。今回、並河寿美、木澤佐江子という違ったタイプの歌手で『トスカ』をお聴き出来るところも魅力だと思いますし、カヴァラドッシ役の藤田卓也、松本薫平、スカルピア役の迎肇聡、片桐直樹との組み合わせも楽しんで頂けると思います。この辺りのキャスティングは牧村マエストロの緻密な計算のなせる業。自信を持ってお勧めできます!
韓国大邱での活動も話題の演出家 井原広樹
牧村 おかげさまでも好調で、残り僅かなようです。ぜひともお越しください。
ーー ありがとうございました。
トスカ役の並河寿美とカヴァラドッシ役の松本薫平 (C)H.isojima
最高の『トスカ』をお見せしたい! 熱い稽古は連日繰り広げられる (C)H.isojima
さて、今回「トスカ」を演じるのは、過去3度「トスカ」を演じ、すっかり手の内に入った感のある並河寿美と、今回初めて「トスカ」に選ばれ、全力でぶつかりたい!と力を込める木澤佐江子の二人。彼女らにとって『トスカ』はどんな作品なのか。今回「トスカ」を演じる上での抱負と合わせて聞いた。
木澤佐江子 私にとって「トスカ」は学生時代から憧れの役でしたが、自分とはかけ離れた存在だと思っていました。あまりにも自分の声とキャラクターが「トスカ」とは真逆だと思っていたからです。光栄なことに今回この大役をお任せいただき、身の引き締まる思いです。稽古が進むにつれ「トスカ」のエネルギーの強さに戸惑いました。声のコントロールはもちろん必要ですが、駆け引きは通用しない役だなと実感しています。「トスカ」の光と影、愛と苦悩を、駆け引き無しの体当たりで歌い演じたいと思います。
初のトスカ役に、身が引き締まる思いと語る木澤佐江子 (C)H.isojima
並河寿美 『トスカ』は私にとってタイトルロールデビューの大変重要な作品です。大学2年生の時に学校の試聴室で初めてCDで全曲を聴いた時、音楽、ドラマ、歌い手の表現、すべてに心動かされました。そしていつかこの作品を歌ってみたい!と憧れの作品となりました。今もその当時と変わらず『トスカ』に憧れています。多分これからも憧れ続けると思います。「トスカ」を初めて歌ったのは27歳でした。今思うととても恐ろしいです。若さ故の怖いもの知らずと言うのでしょうか?それでも荒削りながらもやり切ってしまいました。そして今、私自身では「トスカ」を歌うのに最も相応しい歳になったと思っています。そしてみつなかホールのような規模の劇場で歌う「トスカ」は、緻密な歌い方、演じ方で表現する事がとても有効な空間だと思います。お客様に幸せな愛情に満ちた表情、苦悶の表情、決意の表情など、様々な表情の「トスカ」を見ていただけるよう頑張ります。
様々な表情のトスカを見て頂きたいと語る並河寿美 写真提供:みつなかホール
取材・文=磯島浩彰
公演情報
プッチーニ:歌劇『トスカ』全3幕 原語上演 字幕付
チケットは好評発売中。7日は完売目前!
2018年10月6日(土)16時開演(15時半開場)
2018年10月7日(日)14時開演(13時半開場)
■会場:みつなかホール
■演出:井原 広樹
■合唱指揮:岩城 拓也
■管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■合唱:みつなかオペラ合唱団
■児童合唱:夙川エンジェルコール
■出演:
<10/6(土)16:00開演>
トスカ:木澤佐江子
カヴァラドッシ:藤田卓也
スカルピア:迎肇聡
アンジェロッティ:林隆史
堂守・看守:西村明浩
スポレッタ:近藤勇斗
シャルローネ:東 平聞
羊飼い:蓬莱 翔
トスカ:並河寿美
カヴァラドッシ:松本薫平
スカルピア:片桐直樹
アンジェロッティ:山本忠寿
堂守・看守:服部英生
スポレッタ:チョン キヒョン
シャルローネ:畑 奨
羊飼い:蓬莱 翔
※7日の残席はわずか。お急ぎください!
■予約・問合せ:みつなかホール 072-740-1117
■公式ホームページ:http://www.mitsunaka-bunka.jp/