特別展『国宝 東寺−空海と仏像曼荼羅』報道発表会より見どころをレポート 国宝31件含む100件以上の密教美術が集結!
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仏像曼荼羅イメージ 東寺蔵
794年の平安遷都に伴い、平安京の表玄関となる羅城門を挟み、国家安泰を祈る官寺(かんじ)として東西に建てられたのが東寺と西寺である。
東寺五重塔
弘法大師・空海が823年に嵯峨天皇から東寺を委ねられて以来、真言密教の根本道場として千年以上の歴史を紡いできた東寺。長きに渡り守り継がれてきた寺宝をはじめ、空海がもたらした密教の造形物など、密教美術の最高峰が一堂に会する展覧会『国宝 東寺−空海と仏像曼荼羅』が、来春(2019年3月26日〜6月2日)、東京国立博物館 平成館で開催される。
国宝 帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵
本展は、密教美術の宝庫とされる東寺が所蔵する数多くの曼荼羅や、中国で密教を学んだ空海が日本に持ち帰ったとされる密教法具など、国宝31件を含む100件以上の貴重な文化財を紹介。なかでも、密教の教えを視覚化した立体曼荼羅を構成する諸尊から、史上最多の15体が出品されることは、展覧会の大きな見どころとなっている。
国宝 降三世明王立像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵
真言宗総本山東寺・執事長の砂原秀輝氏は、東寺の歴史を以下のように語った。
「平安京において、寺院の建立を許されたのは東寺と西寺のみ。しかしながら、この1200年の間に、京のみやこは度重なる戦乱や火災によって焦土と化し、現在の京都には平安京の面影がほとんど残っていない。羅城門も西寺も、時の流れの中で消え去ってしまった。その中で唯一、創建当時の姿をとどめているのが東寺。東寺は繁栄と衰退を繰り返しながらも、今なお同じ場所、同じ伽藍配置のまま、人々の命を受け止め続けている」
彫刻・絵画・書跡そして工芸など、美術品としても高い質を極める東寺の至宝が集う展覧会の見どころを、東京国立博物館・学芸企画部 特別展室長の丸山士郎氏の解説を交えつつお伝えしよう。
秘密に覆われた密教世界を体感、“後七日御修法”の堂内再現
本展は4つの章からなり、第1章「空海と後七日御修法」では、空海が唐から持ち帰った貴重な仏教宝具などを紹介する。
国宝 密教法具 中国 唐時代・9世紀 東寺蔵
804年、31歳の空海は仏教を学ぶため、遣唐使として中国に渡った。そこで恵果(けいか)という師に出会い、2年の歳月をかけて密教を習得する。本章では、密教を学び終えた空海が、恵果から授けられたと言われている密教法具を公開。併せて、空海が同時代の宗教者である最澄に宛てた手紙《風信帖》や、真言宗の7人の祖師をあらわした《真言七祖像》など、世界的にも貴重な国宝を展示する。
国宝 風信帖(第一通)空海筆 平安時代・9世紀 東寺蔵 [展示期間:3月26日(火)~5月19日(日)]
さらに、京都では年中行事として数えられている「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」と呼ばれる儀式の様子を再現した展示空間にも注目したい。丸山氏は、後七日御修法の内容について、「真言宗の中でも最も重要で秘密度の高い儀式のひとつであり、天皇の衣を祈祷して玉体(天皇のからだ)の健康を祈るもの」と説明する。本来非公開の儀式だが、本展では実際の儀式で使われていた《五大尊像》や《十二天像》など、平安時代の仏画や仏具と共に、堂内の再現を試みる。
エキゾチックで極彩色の巨大マンダラと、平安京の歴史を物語る貴重な史料
第2章「密教美術の至宝」では、東寺に伝わる密教特有の造形物が集う。空海が中国から日本に持ち帰ったものを国に報告する書『御請来目録』において、空海自身が「密教は奥深くて、文章では表し尽くすことができない。そこで、絵を描いて理解できない者たちへ示す」と記している。その教えのもと数多くの密教美術が生まれた。なかでも代表的な造形物が、仏の世界を視覚化した曼荼羅(まんだら)である。インドで生まれた曼荼羅は、極彩色でエキゾチックな表現が特徴的だ。
国宝 両界曼荼羅図(西院曼荼羅[伝真言院曼荼羅])のうち胎蔵界 平安時代・9世紀 東寺蔵 [展示期間:4月23日(火)~5月6日(月・休)]
本章では、彩色をした曼荼羅としては最も古い作品となる《両界曼荼羅(西院曼荼羅[伝真言院曼荼羅])》や、空海が中国から日本に持ち帰った巨大な曼荼羅の模本となる《両界曼荼羅図(甲本)》が紹介される。後者の曼荼羅について、丸山氏は以下のように解説した。
「《両界曼荼羅図(甲本)》は、元々は空海が師である恵果から授かったものであり、日本に帰国してからも様々な修法(儀式)で使われたので、空海の時代から傷みが激しく、模写を作りました。本展に出品される鎌倉時代の《両界曼荼羅図(甲本)》は、その模写をさらに模写した第2の転写本と考えられています」
江戸時代の元禄時代に模写された《両界曼荼羅(元禄本)》は、4メートルを超える大きな曼荼羅で、保存状態も良好なことから、現在の後七日御修法でも使われているそうだ。
国宝 両界曼荼羅図(西院曼荼羅[伝真言院曼荼羅])のうち金剛界 平安時代・9世紀 東寺蔵 [展示期間:4月23日(火)~5月6日(月・休)]
続く第3章「東寺の信仰と歴史」では、823年に空海が東寺を任される以前の遺品などを公開。東寺の歴史を知る上で重要な史料となる、南北朝時代に編纂された国宝《東宝記》には、東寺講堂に安置される諸尊の配置図があらわされている。
本章は「長い歴史の中で、天皇や庶民に至るまでの東寺の信仰を知る史料や、平安京の歴史を物語る史料」が見どころになると話す丸山氏。特に、羅城門に安置されていたと言われる、平安京の守護神《兜跋(とばつ)毘沙門天立像》や、西寺にあったと伝わる《地蔵菩薩立像》などの貴重な文化財は必見だ。また、空海が中国から持ち帰った品のひとつである舎利(お釈迦様の骨)を祀る舎利会で用いられる仮面も展示されるとのこと。
国宝 兜跋毘沙門天立像 唐時代・8世紀 東寺蔵
史上最多! 15体の仏像があらわす立体曼荼羅が、東京国立博物館に出現
第4章「曼荼羅の世界」では、曼荼羅の中でも、壇の上に敷くタイプの《両界曼荼羅図(敷曼荼羅)》を紹介する。敷曼荼羅は、密教の仏様と縁を結ぶ儀式の際に用いられるもの。さらに、一文字で仏を象徴的にあらわす種字(しゅじ)で描かれた種字曼荼羅など、一風変わった曼荼羅も見ることができる。
東寺講堂の立体曼荼羅は、空海が密教の教えを視覚化するために構想したもので、平安時代前期における密教彫刻の最高傑作とも言える仏像群だ。21体の仏像から構成される立体曼荼羅のうち、史上最多の15体が出品される仏像曼荼羅は、本展の目玉となる。なかでも、空海の時代に作られた国宝11体は、そのほとんどが360度どの角度からでも見られるように展示されるとのこと。
諸尊の造形について、丸山氏は「奈良時代の技術的な伝統を引き継ぎながら、密教という新しいインド的な身体表現も加わって、それまでの仏教にはない表現が見られる」と語る。5つの目と3つの顔を持つ《金剛夜叉明王立像》は、密教らしい複数の顔と腕を持つ異形の姿が特徴的だ。
さらに、整った顔立ちの《帝釈天騎象像》や、躍動感のある《持国天立像》など、見応えのある仏像群は、じっくり堪能したい。
国宝 帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵
国宝 持国天立像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵
国宝 増長天立像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵
『国宝 東寺−空海と仏像曼荼羅』は、2019年3月26日より開幕。本展覧会では、造形集団・海洋堂が手がける「帝釈天騎象像」フィギュアと展覧会
海洋堂製「帝釈天騎象像」 (C) KAIYODO