シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム第三十六沼(だいさんじゅうろくしょう) 『ジープ沼!2』〜ニーノ・クラビッツ現る〜
「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第三十六沼(だい36しょう)『ジープ沼!2』〜ニーノ・クラビッツ現る〜
そのジープは車転がしの新野(ニイノ)という奴から買った。
私はそいつをニーノ・クラビッツと勝手に呼んでいる。
最初にそのジープに一目惚れしてして買いに行った。
カンガルーバーや8インチリフトアップの車高の高さ、そしてタイヤの太さ。
何より去年死んだ、長年連れ添ったウチのネコにそのクルマの顏がそっくりだったから即決だった。
しかし試乗してみると、思ったよりもワイルドだ。
どこがワイルドかといえば、金属的な異音、そしてレカロシートからくる震動がすごかった。
ニーノ・クラビッツに言わせれば
「ジープラングラーはだいたいこんなもんです」
らしい。
なのでそのまま買って乗って帰ってきた。
The Car is in a Trouble!
名義変更をするため、ニーノ・クラビッツから「万全の書類」と言われた車検証等を持って陸運局へ。
「すみませんが、書類不備です。コレとこれを取ってきてください」
と門前払い。
ニーノ・クラビッツに即電話すると
「す、すみません。すぐに用意いたします」
との事。
数日後、前輪ブレーキから異音がする。
すぐ近くの知り合いの車屋さんに見せたら
「齋藤さん、コレやばいっすよ。ブレーキパットが風前の灯火。キャリパーも交換しなきゃ」
っつう事でいきなり4万円の出費。
1カ月ほど経過した頃、マフラーから
「ガラガラガラガラ」
という異音。
潜ってみると錆が入ったマフラーが脱落寸前。
即ニーノ・クラビッツに電話すると。
「ああ、でも現状で買っていただいているので」
という。
ニーノ・クラビッツ・・・。
諦めた私は即近所の車屋さんへ。
マフラー交換で13万円の出費。
マジで痛い・・・。
しかしこのジープラングラー、ポンコツだけど非常に可愛い。
溺愛していると、その影響が友達に感染。
その友達は僕のJeepよりグレードの高いラングラーを500万円で購入。
もちろん5人乗り。
良いな~。
その友達のルビコンラングラーで南房総のダムに釣りに行った帰りの事だ。
捨てる神あれば拾う神あり
あるサービスエリアで一服していると、物凄いかっこいいジープラングラーが駐車場に入ってきた。
友達と目を合わせ、速攻でそのジープを見に行くと、まっ黒に日焼けした好青年が降りてきた。
そして気さくに話をしてくれた。
「今度、一緒にクロカン行きましょう!」
という約束をし、連絡先を交換して別れた。
一週間もしない間に私はその彼のガレージに居た。
名前はスーさん。
ジープとサーフィンをこよなく愛するナイスガイ。
私のJeepをみるなり
「コレ、かなり重傷ですよ。ほら、この足回り見てください。
ショックアブソーバーのブッシュが全部焼け落ちてる」
よくみると、ランチョの赤いブッシュの部分が本当に焼け落ちている!
あの金属異音もこれの生だったのだ。
車屋さんに相談したときに
「そうすね~、、、コレ全部交換すると30万くらいスね~」
と死刑宣告されていたので、スーさんに聞いてみた。
「そんなかからないっスよ!パーツだけあればオレ直しますよ」
と。
神だよスーさん。
Jeepは正に大きなラジコンのような仕様になっており、
様々な部分がむき出しになっていて、カスタマイズや修理などが、知識と経験さえあれば自分でできる。
これはアナログシンセサイザーと感覚が近い。
また、アメリカにはJeepの専門雑誌がたくさんあって、
その中にはカスタマイズや部品専門店の広告もたくさんある。
皆んな自分で必要なものを取り寄せて、ガレージで車いじりをするスタイルが定着している。
何とも羨ましい。
私もアメリカのパーツをスーさんに頼んで購入することにした。
パーツを輸入してもらい待つ事1ヶ月。
スーさんのガレージに行くとそこにはもうひとりの神「アキラ」くんが登場。
彼もジープラングラー乗りだ。
目の前で神2人が行う作業を呆然と眺めるだけの私。
あっという間に5本のランチョショックアブソーバーを交換!
予算は部品代だけという神対応。
「僕ら、好きでやってるだけですから」
という言葉に涙が出た。
早速試乗。
激変!!!!!!!!!!!!!!!
異音無し、ジャダー無し。
(それまでは80キロ以上出すとハンドルがガタガタブレ始め、死の危機を感じた)
めっちゃ静かになったわたしのジープに同乗したスーさんとアキラくんがこう言った。
「まだまだ、もっともっと良くなりますよ!もっといじりましょう!」
神だ!!
神が現れたのだ!!!!
焼き肉くらい御馳走しなければバチが当たる。
そしてニーノ・クラビッツには藁人形を!
車も楽器もフィジカルに
車というと今は消費的な感じで、車検に合わせて買い替えを!みたいな流れになっている。
そして、車のAI化がどんどん進み、完全自動運転の域までもう一歩、というところまで来ている。
電子楽器も全く同じような流れになっているが、
最近はまたレコードやカセットテープなどのアナログに回帰する、
というフィジカルな方向へ向かっている。
運転していて、無音で何のフィードバックも感じないクルマなんてつまんない。
少しぐらい痛みをともなうほどの緊張感と疲労感が欲しいのだ。
わたしはこのJeepに死ぬまで乗ろうと決めた。
追伸:ニーノ・クラビッツのマヌケな仕事を一つ紹介しよう。
このトゥーフック。
完全に方向逆さまに装着されている。
逆立ちしてとりつけたのではないか?と疑った。
今からでも遅くない、
Jeep沼の住人にならないか?