SUPER BEAVERが掲げた“現場至上主義”の旗の下、実力者たちが躍動した『Bowline 2018』東京公演

レポート
音楽
2018.11.29
SUPER BEAVER

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TOWER RECORDS presents Bowline 2018  curated by SUPER BEAVER &TOWER RECORDS
2018.11.17  新木場STUDIO COAST

タワーレコード企画のイベント『Bowline』。このシリーズでは、毎回1組のアーティストがキュレーターとなり、他アーティストたちを招聘している。今回開催された『Bowline 2018』では、SUPER BEAVERがキュレーターとなり、“現場至上主義”というテーマが掲げられた。ここで改めて説明しておくと、“キュレーション”とは、あらゆる情報を独自の価値判断で整理、それらを繋ぎ合わせて新たな形を付与したうえで他者に共有する行為のこと。それを踏まえて、今回の出演者を確認してみてほしい。大阪・なんばHatch公演は、 BRAHMAN、NakamuraEmi、bacho。東京・新木場STUDIO COAST公演はAzamieastern youth錯乱前戦spike shoes。ここにあるのは“現場至上主義”というたった一本の軸のみで、打算や内輪ノリなど存在しないことがお分かりいただけることだろう。

澁谷逆太郎

澁谷逆太郎

東京公演では、SUPER BEAVER渋谷龍太(Vo)の弾き語りソロ名義=澁谷逆太郎がオープニングアクトを務めた。アコースティックギターを持った澁谷と星 英二郎(Key/OverTheDogs)の2人編成。バンドと比べ音数が少なく、必然的にボーカルが際立つ編成。彼の歌が如何に懐深いものなのかをここで改めて思い知る。現時点では澁谷逆太郎名義での正式なリリースはないため、オーディエンスも一語一句逃さぬよう、真剣に聞き入っている様子。この時点からフロアは既に満杯だったが、本人曰く、このオープニングアクトは全部のバンドを観てもらうための作戦らしい。今日この日を「俺たちSUPER BEAVERの意思をぶつけられる日」とし、「カッコいいと思うバンドだけを集めました」と改めて伝えたのだった。

澁谷逆太郎

澁谷逆太郎

本編のトップバッターは錯乱前戦。『未確認フェスティバル2018』のファイナリストに選ばれた、まだ若いバンドだ。SEからして爆音。「オーイェー、ロッケンロール!」と山本(Vo)が叫んでから始まった「ロンドンブーツ」も爆音。シンプルなビート。茶目っ気のあるリズム。ジャッキジャキのギター。分かりやすい言葉とメロディ。それらを思いっきりぶっ放すバンドサウンドは、初めてスタジオに集まってジャーンと鳴らした時みたいな、ピュアなきらめきに満ちている。夢中で楽器を鳴らすメンバーの動きはみんなバラバラ。ステージ上からは不意にシャウトが飛んでくる。

2曲目の「恋をしようよ」は、横並びになっている前列4名が「自分の好きな歌を歌おう」と声を合わせる様子が青春の1ぺージみたいで眩しい。これは胸が熱くなるでしょう。最初は様子見状態だったオーディエンスもやがて引き込まれていき、後半に差し掛かった頃には、拳が上がり、手拍子が自然発生していた。

続いては、埼玉県越谷発の5人組バンド・Azami。サウンドチェックの段階から本番さながらの演奏をし、早速フロアと心を通わせる。ハードコアを軸とした彼らのサウンドは、地を揺さぶるような迫力がある。むせ返るような轟音のなか、ほぼ叫んでいるような勢いで歌う三浦詩音(Vo)は、「現場でしかできねえこと、感じられないこと、感じてこうぜ!」など、歌の合間にも言葉をありったけ詰め込み、オーディエンスに訴えかける。

開放的なサウンドに導かれるようにしてフロアからの声を引っ張り出す場面と、重心の低いサウンドでモッシュやダイブを巻き起こす場面。「放つ言葉」と「ヘイトスピーチ」を連続で届けたあたりではそのコントラストが特に鮮明だったが、“光と闇”的な側面を行き来しながら、熱狂を生み出していくようなイメージだ。「全員で一花咲かせよう!」とはライブ冒頭での三浦の言葉である。ラストの「Lilac」、刻みつけるように鳴らすクライマックスが圧巻だった。

ここまでの2組のラインナップの経緯について説明すると、まず、錯乱前戦は、渋谷がYouTubeで見つけ、その2日後にライブに行くほど衝撃を受けた存在だったとのこと。Azamiは、とあるバンドの打ち上げの席で出会い、その翌日にライブを観に行ったとのこと。そして次の2組は、彼が青春時代の頃から観客としてライブを観ていた、いわゆるルーツにあたるバンドである。いずれも、実際にライブハウスへ赴き、実際に渋谷が良いと判断したバンドだということだ。

仙台発のハードコアバンド・spike shoesの登場。新進気鋭のAzamiに対し、こちらは結成25周年のベテランである。ここで初めてライブを観るという人も少なくなかったかもしれないが、このバンドのハードボイルドっぷりを目の前にしたら、そういうことも関係がなくなる気がする。

レゲエ・ハードコア・ダブをごった煮にした、目まぐるしく様相を変えるサウンドで一気に掻き乱す展開だ。ヨネダのボーカルは、デスボイスの時もあれば、頭のてっぺんから出したようなハイトーンボイスの時もある。疾走感溢れるギターリフには気分が高まらざるをえないだろう。「ジャンルに壁はないってよく言うけど、まあちょっとあるよね(笑)。でも自分の半分ぐらいの年齢の人たち、普段やれてない人たちと同じ板の上でやれるっていうのは刺激になるし、バンドって最高だなと思いました!」とヨネダ。「AWAKE」のドラマティックな響きが胸に焼き付くようだった。

サウンドチェック終了後、「これで下がるの、すごく間抜けで嫌なんだよね」(吉野寿/Gt・Vo)と言いつつも一旦捌け、再登場後ライブをスタートさせたeastern youth。1曲目は「ソンゲントジユウ」だ。ステージに立つ3人の佇まいはどこか飄々としていて、自分たちの持ち場をこなすためにやってきた職人のよう。しかしサウンドは瑞々しく、凶暴にすら感じられるほど鋭いものだ。

吉野は現在齢50。決して若手のバンドではないにもかかわらず、ここに蒼さのようなものを感じるのはどうしてか。コードが移り変わる、ただそれだけのことで、どうしようもなく泣きたくなるのはどうしてか。全6曲、MCなしでぶっ通し。フロアには呆然と立ち尽くす人も多かった。この日の来場者で最も多かったのは、SUPER BEAVERファン――比較的年齢層の若い人たちだったと思われるが、圧倒的な轟音を前に彼らは何を思ったのだろう。

そうしてトリのSUPER BEAVERの出番に。始まりは渋谷のアカペラ。この日彼らが1曲目に選んだのは「それでも世界が目を覚ますのなら」だった。「ここから始めるしかない! いつだってそうだった!」など、歌の合間にも言葉を詰め込む渋谷。「証明」の開放的なサウンドに導かれるようにして湧き上がるシンガロング。すると、今度はMCで「能動的に好きなものを見つけて、胸張って好きって言えるのがカッコいいんじゃないかと思います。ここに来たあなたのことを俺たちは100%信頼しています」と伝えていった。マイクを持ったまま胸を強く叩くものだから、ボフッみたいな音がそのまま乗っかってしまっている。顔と顔を突き合わせて、会話をするということ。一体感を作って満足したいわけではない、あなただけの声を上げてほしいのだ。

まさに“現場至上主義”であるこのバンドが、改めて原点を確かめることで得られたものは大きかっただろうし、出演者の熱演に感化された部分もあったことだろう。空気をビリビリと震わせるバンドサウンドは抜群で、セットリストが進むほど、勢いを失うどころか輝度を増していく。特に、「人生に無駄なことはないって言うけど実際はある。それを如何に返していけるかどうか。友達も仲間もいなくて未来が判然としなかった俺たちを救ってくれた曲を歌います」というMCのあとの、「シアワセ」にはグッときた。

最近の華々しい活躍を見ていたらうっかり忘れてしまいそうになるが、SUPER BEAVERは孤独の闇から這い上がってきたバンドである。この日の演奏は、彼ら自身がそれを片時も忘れていないのだということを物語っていたように思う。
濃密な一日は「美しい日」で締め括られたのだった。


取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=青木カズロー

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