トム・プロジェクト公演『南阿佐ヶ谷の母』大鶴美仁音インタビュー

インタビュー
2015.11.6
大鶴美仁音 撮影/安川啓太

大鶴美仁音 撮影/安川啓太

良質のプロデュース作品を上演し続けているトム・プロジェクトの最新作、『南阿佐ヶ谷の母』が11月3日から新宿の紀伊國屋ホールで上演中だ。(10日まで。その後、新潟から九州・北海道まで各地で公演)

物語は阿佐ヶ谷駅の南口で占い師を始めて6年の渡部スエ子と、それを取り巻く人々の話で、作・演出は「せつない喜劇」を書かせたら右に出るものがいない水谷龍二。占い師を演じるのは、数々の舞台で多くの観客を魅了し続けるベテラン女優・木の実ナナ。共演に圧倒的な存在感を発揮する宇梶剛士をはじめ真山章志、李丹、大鶴美仁音、カゴシマジローといった個性豊かな俳優陣が並ぶ。 

【あらすじ】
占い師・渡部スエ子はまだまだ本物とは程遠い。もちろんまだ「南阿佐ヶ谷の母」とは呼ばれていない。自由気ままを信条に生きている。いや、ただ身勝手なだけともいわれる彼女は、ふらっと旅に出て一か月帰ってこないこともざらである。今回はインドに行ったきり音信不通になっていた。
スエ子と腐れ縁のちゃんこ料理屋の店主・松浦栄五郎は彼女のことを案じていた。どうやら恋心を抱いているみたいだ。チャイナバーの妖艶な女に迫られても、気持ちは一切ぶれない男である。
そんなある日、いるはずもないスエ子の息子だと名乗る男が現れて……。
 
この作品で物語の舞台となるちゃんこ料理屋にくる若い女性客、島村日菜子に扮しているのが大鶴美仁音。ベテランの俳優たちの中で奮闘する彼女に作品や役柄に取り組む思い、そして父である唐十郎のことなど話してもらった。
 
撮影/安川啓太

撮影/安川啓太



ちゃんこ料理屋に集まる人々
 
──水谷龍二さんの作品は初めてだそうですが。台本を読んでいかがでした?
 
題名を見たときは「どんな芝居なのだろう?」と想像がつきませんでしたし、ちゃんこ料理店の設定なのですが、実はちゃんこ屋さんには1回も行ったことがなくて、そこも未知の世界でした(笑)。でも内容はすごくユーモアがあって、心温まる話で、親子愛とか恋愛とか、日本と外国との関係とか、社会的なテーマもさりげなく書き込んであって、すごく厚みのある本だと思いました。
 
──大鶴さんの役は島村日菜子という若い女性で、父親の島村敏勝を同じ事務所のカゴシマジローさんが演じるのですね。

初めての共演で嬉しいです。今回は皆さん初めての方ばかりなのですが、とても楽しく稽古させていただいています。
 
──タイトルロールの占い師は木の実ナナさんが演じますが、初共演の印象はいかがですか?
 
テレビなどでいつも拝見していたので、最初はちょっと緊張しましたが、気さくで、それに気遣いのある優しい方です。
 
──そして、ちゃんこ屋の店主が宇梶剛士さんで、そこに色々な人が集まるわけですね。
 
集まる人たちはみんな問題を抱えていて、宇梶さんの松浦栄五郎さんはそんな人たちを見守っている、元相撲取りの優しい大将です。日菜子は父との間に確執があってうまくいってなくて、ちゃんこ屋さんに雇ってもらうことになります。ほかに常連のお客さんとして出てくるのが、真山章志さんが演じる大阪からの単身赴任の丸山さん、そして李丹さんが演じる中国人の秀麗さんです。秀麗さんは本当にいいキャラクターで、色々ほかの人の話に突っ込みを入れるんです(笑)。
 
──大鶴さんはこれまでの出演作は、わりと幻想的なものが多かったと思いますが、これは現代の日常会話の芝居ですね?
 
そうなんです。そこが難しいです。やはり感情の表現とか台詞のコントロールに苦労しています。
 
──等身大に近い女性像というのは?
 
あまりやっていません。これまでは自分より年下の役が多かったんです。純粋無垢な少年とか少女とか。でもそういう飛距離のある役は自由に作りやすいし、色々なことができるのですが、日菜子は普通の女の子で、そういう役を面白く見せるのはどうしたらいいのか、迷ったり悩んだりしているところです。日菜子は少し変わったところもあるのですが、日常レベルでちょっと変わった子というところが、よけい難しくて。技術力がとても必要な役だと思います。
 
撮影/安川啓太

撮影/安川啓太


父親に反発する心理が難しくて
 
──日菜子のキャラクターで、近いところと遠いところはどんなところですか?
 
遠いところは、私は父とは仲が良かったので、反発するという経験はほとんどなかったので、日菜子はなぜこんなに突っかかるのかなと(笑)。愛情があるからこそそうなるというのは、頭ではわかるのですが、その心理を自分のモチベーションとして作るのが難しくて、格闘中です(笑)。共感できるところは行動的な部分で、私は色々考えたりもするのですが、こうしている場合ではないと思うと外に向かうというか、最終的には行動します。ただ、日菜子は行動的なだけでなく、自己主張もすごく強いし意地っ張りで、そういうところも私と違うところで、やっていて面白いなと思います。
 
──稽古場で先輩たちの芝居を見て、学ぶところも多いと思いますが?
 
いっぱいあります。私は舞台を観に行くと、つい面白い動きをしている役者さんのほうに目が行って、同じ様な事をやってみたいなと思うのですが、この稽古場でナナさんや宇梶さんが、色々動きながら面白くされているのを見て、いざ私も同じように動こうと思うと全然できないんです。まだまだだなと思います。いつもどこか恥ずかしいような気持ちで、「もっと大きく動いて」と言われても、思い切り動けないんです。
 
──もう何度も舞台に出ていますね。でも恥ずかしい?
 
元々がすごい恥ずかしがり屋でしたから、その自分を克服する為にお芝居を始めて、だんだん乗り越えてはきたのですが、まだまだ闘ってます(笑)。たぶん日菜子はむき出しで演じないといけないところもあるので、よけいそうなのだと思います。でもこれを乗り越えれば、日菜子がちゃんと生きて動き出すと思いますので、頑張ります。
 
深夜のテレビで観た『ジャガーの眼』の衝撃
 
──美仁音さんは、なんと13歳で映画に出ているんですね。
 
中学1年でした。父に「出て」と言われていつの間にか出ていたので、演技したという自覚もなくて(笑)、自分からはっきり芝居がしたいと思ったのは17歳のときです。
 
──その4年の間は?
 
バレエをやったり絵が好きだったので絵を描いたり、何作か舞台にも出たりしていましたが、大学は美大に行こうと思っていて。でも高校2年生の春に、たまたまテレビの深夜放送で状況劇場の『ジャガーの眼』(1985年)を観てすごい衝撃を受けたんです。次の日にすぐ父にそのことを話して、私もこの作品に出たいと。そして紅テント公演『ジャガーの眼』に出ました。
 
──それまで唐さんの舞台は?
 
3歳から観ていましたし大好きでしたが、女優になりたいと思えるほどではありませんでした。
 
──テレビで見た『ジャガーの眼』は何が違っていたのですか?
 
私は唐組になってからの父の作品しか知らなくて、唐組の舞台も大好きなのですが、状況劇場の『ジャガーの眼』は、あの時代ならではの凄さというか、六平直政さんや金守珍さんなどすごい役者さんたちが揃っていて、迫力も違うし、非現実に飛ばす力の凄さを感じました。
 
──その衝撃で、唐さんゆずりの演劇人の血が目覚めたわけですね。
 
自分が180度違ってしまった感じでした。演じることの面白さもそこからわかるようになりました。
 
──女優という立場になって、改めて向き合う唐戯曲はどう見えましたか?
 
まず台詞がとてもピュアで綺麗すぎるくらいだなと。そして芝居そのものは混沌としていてカオスで、でも沼地から蓮の花がびゅーっと出ているような美しさがあって、その非現実性がすごく素敵だと思いました。テント公演ならではの面白さもありますし、演劇でしか出来ないことをやっている世界だなと思います。
 
撮影/安川啓太

撮影/安川啓太



小さい頃から芸術的な環境に恵まれて
 
──その後、唐組だけでなく色々な劇団や公演にも出ていますね。唐組でずっと続けるという選択肢もあったと思いますが?
 
それもあったと思いますが、でもそれでは演劇の面白さの一部分しか知ることができないのではないかと。もっと色々な戯曲や演出家の方や、様々なジャンルの演劇を知りたかったんです。それでまず基礎を学ぼうと大学の演劇科に入りました。
 
──演劇科なら出会いも沢山あったでしょうね。
 
同級生たちは私の知らない芝居も沢山観ていますから、話をする中で興味が広がりました。やはり演劇の世界は広いな、色々なものに出てみたいなと思いました。
 
──唐さんは女優になることについては?
 
とくに反対はされませんでした。「あなたの好きなようにしなさい。僕は見守っている」と。でも「たいへんだよ」という目をしていました(笑)。
 
──演劇界で大きな存在の唐十郎さんを父に持って、良いことと悪いこととあるでしょうね?
 
ほんとうに両方あります。やはり「唐十郎の娘だからどんなことをやってくれるかな」という目で見られますし、「何か面白いことやってくれるのだろうな」というプレッシャーは大きいです。でも、それならそれで、それを越えてやろうと思いますし、期待に応えてみせようと思います。それをバネにするしかないので。良いことは、小さい頃から父の演劇をはじめ面白い世界を沢山見せてもらったので、芸術に対しての視野は広くなりました。
 
──唐さんの世界は芸術全般に通じていますからね。
 
家にはそういうものが溢れているので、環境には本当に感謝しています。
 
──では最後にこの作品のアピールをぜひ。
 
今の日本の社会問題や親子関係なども描かれていて、笑いの中にもしみじみと感じていただけることが多い作品だと思います。また、若い世代の方々には、私の役の日菜子を通じて共感を持っていただけるのではないかと思います。私自身は、まずは自分に打ち勝って(笑)、素敵な先輩方に負けずにがんばります。
 
撮影/安川啓太

撮影/安川啓太



おおつるみにおん○東京都出身。04年に13歳で映画『ガラスの使徒』に初出演。05年、唐組『秘密の花園』で初舞台。以来、新宿梁山泊公演では『風の又三郎』(06年)『少女仮面』(13年)『ジャガーの眼』(14年)、紅テント公演では『ジャガーの眼』(08年)『黒手帳に頬紅を』(09年)『ひやりん児』(11年)に出演。そのほかにも劇団俳小『少女仮面』(12年)、トム・プロジェクトプロデュース『案山子』(14年)、青蛾館30周年記念『星の王子さま』(14年)、シアタープロジェクト静岡2013/2014シーズン『美しきものの伝説』(14年)、カクシンハン第七回公演『カクシンハン版オセロー Black Or White』(15年)、劇団印象-indian elephant- リーディング『グローバル・ベイビー・ファクトリー』(15年)などに出演。
 
【取材・文/榊原和子 撮影/安川啓太】
 
 
公演情報
トム・プロジェクト プロデュース『南阿佐ヶ谷の母』
■作・演出:水谷龍二 
出演:木の実ナナ、宇梶剛士、真山章志、李丹、大鶴美仁音、カゴシマジロー 
■期間:11/3~10
■会場:紀伊國屋ホール
お問い合わせ:トム・プロジェクト:03-5371-1153
http://www.tomproject.com/peformance/asagaya.html


〈地方公演〉
●11/14◎新潟県上越市 上越文化会館 (TEL 025-522-8800)
●11/15◎新潟県新潟市 新潟市北区文化会館(TEL 025-388-6900)
●11/19◎岐阜県大垣市 大垣市スイトピアセンター
●11/21◎兵庫県西宮市 兵庫県立芸術文化センター (TEL 0798-68-0255)
●11/22◎神奈川県秦野市 秦野市文化会館(TEL 0463-81-1211)
●11/24◎宮崎県西都市 西都市民会館 (TEL )
●11/25◎宮崎県小林市 小林市文化会館橋(TEL 0984-23-7400)
●11/26◎熊本県荒尾市 荒尾総合文化センター (TEL 0968-66-4111)
●11/28◎宮崎県串間市 串間市文化会館 (TEL 0987-72-6333)
●12/1◎北海道北広島市 北広島芸術文化ホール (TEL 011-372-7667)

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