那須佐代子と鵜山仁が語る風姿花伝プロデュース『女中たち』~中嶋朋子・コトウロレナ・那須が“ごっこ遊び”バトル!

インタビュー
舞台
2018.12.5
プロデューサーの那須佐代子(左)と演出家の鵜山仁

プロデューサーの那須佐代子(左)と演出家の鵜山仁

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 東京・新宿区中落合にある小劇場「シアター風姿花伝」。昨年紹介した、マーティン・マクドナーの『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』(演出:小川絵梨子)からもう1年がたった。「もう」とか思っているのは僕だけか? さて、クオリティの高い翻訳劇を発信している風姿花伝プロデュース、今年の演目はジャン・ジュネの名作『女中たち』だ。姉と妹、二人の女中が興じる“奥様と女中ごっこ”。抑圧された彼女たちの“遊び”は次第にエスカレートし、旦那様の密告、奥様殺害計画へと突き進んでいく……。演出の鵜山仁、劇場支配人でプロデューサーで女優の那須佐代子に聞いた。

 「どうして、この作品を選んだんですか?」。まあ、最初に質問することはだいたいそんなものだ。で、風姿花伝プロデュースの話をするとき、きっと来年も、再来年もずっと同じ話が振り返るように大事に繰り返されるのかもしれない。昨年7月に舞台出演中に亡くなった、ベテラン俳優の中嶋しゅうの逸話あれこれ。シアター風姿花伝という小さくて、アクセスが不便な劇場を愛した中嶋は、2019年までプロデューサーとして作品と演出を決めたまま逝ってしまった。『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』でも、かかわった俳優たちがお手伝いも兼ねて顔を出していた。

 「今年の演目は当初、鵜山さんの演出、しゅうさんは自分も出るということで選んでいたんです。でも去年の夏に亡くなられて、急きょ作品も変えなければいけなくなった。しゅうさんの葬儀で(中嶋)朋子ちゃんとも再会したんですけど、朋子ちゃんも相当ショックを受けていて、そのあとメールのやりとりをしていました。そのなかで『芝居をどんどんやっていかなきゃ、一緒につくらせて』とおっしゃってくれてたんですよ。それでダメもとでスケジュールを聞いたら、たまたま空いていて、お願いしたらぜひということで出演を快諾してくださった。朋子ちゃんと、私が出演するという前提で作品を考えていたんですけど、朋子ちゃんが数年前にケイト・ブランシェットとイザベル・ユペールがシドニーで演じた『女中たち』をたまたま見ていて、すごく面白かったというので鵜山さんとも相談して決めました」と、那須は話す。

2016年の風姿花伝プロデュース『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』

2016年の風姿花伝プロデュース『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』

 『女中たち』は1947年、ルイ・ジューヴェ演出によりパリのアテネ座で初演された。日本では、1963年に文学座アトリエで、水田晴康の訳・演出で初めて上演されてから、ちょこちょこ上演されてきた。個人的には渡辺守章の演出で本木雅弘がクレールを演じたもの、黒テントで立山ひろみが演出したものが思い出される。今度の翻訳は、ある世代にはクイズ番組で人気だった篠沢秀夫のものだと言えば、興味を持ってもらえるかもしれない。

 文学座に所属し、外部でも途切れることなくさまざまな作品を演出している鵜山は『女中たち』について次のように語る。

鵜山 「70年代には読んでいたんだけど、敬して遠ざけるという感じの戯曲でした。奥様と女中たち、権力者と非権力者、支配と被支配の葛藤があって、その葛藤こそが、むしろ人間のエネルギーだという意味では、2500年前のギリシャ悲劇、400年前のシェイクスピアの時代から何も変わっていない。たとえば「戦争と平和」にしても、どっちが正しいか正しくないかではなく、対峙する概念、対立する人間と人間がくんずほぐれつするのがドラマだと、僕はそう思うんですが、そういう意味では『女中たち』はとてもややこしいドラマですよね。現実とフィクション、どっちが本当なのか、奥様と女中どっちがどっちなんだろう、そもそもこの芝居は、一体誰が演じているのか……。そういう虚実のはざまで見え隠れする表情、声こそが生命力の表れなんだということはわかる。舞台ではそれを最大限、目に見えるものにする、耳に聞こえるものにしていけばいいんだけど、手続きがすごく難しい。そしてまあ、そこがすごく興味深い。葛藤につぐ葛藤、変化につぐ変化がしつこく書かれた戯曲なので、難物だけど、この稽古場では3人とも飽きもせずああでもないこうでもないとざっくばらんに言い合える、本音をぶつけあえる強さがある。そこからどんな舞台が立ち上がるか楽しみですね」

 たった3人が繰り広げる物語が人類の生き様に重なっていく、なんとも壮大で哲学的な答え。では実際に演じている那須に投げかけてみる。

那須 「ものすごく単純に言えば、支配している人と支配されている人たちの物語。ジュネの言葉は美しいけれど、せりふも多いし、あっちこっちに飛ぶので覚えるのが大変だし、まだまだ芝居するのに必死。それが役者が必死なのか役が必死なのかわからないところがあるんですね。今どれくらい本音が入っているかとか、今どのくらい芝居がかっているのかとか、さじ加減が無限にある感じがするんです。それに、ごっこあそびをしている裏に流れる気持ちにもすごく種類がたくさんある。また、ごっこ遊びをしている女中の役をやっている女優という部分をわざと鵜山さんが浮き立たせるような演出を加えてくださっているんですよね。つまりそれは私が運営している劇場でごっこ遊びをしているみたいなことが垣間見えるもので、なんか不思議な何重もの構造になっています。それがお客さんに最後どんなカタルシスを届けることができるのか、なかなか見えていないけど楽しくはやっています」

鵜山 「自分が生きてこなかった人生、捨ててしまった人生、今とは違う人生を舞台の上で生きるということについて、僕も若いころは、それと実人生とは全く格が違うだろうと思っていたんだけど、最近は、芝居はやっぱりもう一つの人生のシミュレーションとして大事なもので、それこそが演劇の醍醐味なんだなと思うようになってきた。歳のせいでしょうね(笑)。僕が中学生のころに最初に見た翻訳劇が、悪いことにピランデルロ。しかも芥川比呂志さんの主演作品だった。虚構の時空を生きている主人公、彼は狂気を生きていると思われているんだけど、実は狂気ではなかった…そういう芝居を見たときに、なんで大人はこんな猥雑な「ごっこ」をやるんだろうと思ったんです。それが僕の演劇の原体験でもある。芥川さんは平気でフィクションを生きちゃうような俳優だった。見ていて、現実よりフィクションのほうが現実だという感覚があって面白かった。そもそもフィクションのほうに実があって、われわれが現実だと思っているほうが虚構なんじゃないか。芝居が好きな人って、最初は感激するというより、なんか禍禍しいものを見ちゃったみたいな、罪の意識に惹かれるんじゃないかな。そういう意味で言えば、清水邦夫さんの『楽屋』はそれでもまだ答えがある気がするんですよ。どちらが表でどちらが裏なのか、もちろんひっくり返しようもある。けれど『女中たち』は剥いても剥いても芯が出てこないというか、何が実かがわからない」

 那須とは『リチャード三世』『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』などのシェイクスピア作品で共同作業を行っている鵜山。ハードな芝居に起用するのは、その実力を高く評価しているゆえだが、那須のことをどう思っているのだろう。

鵜山 「那須さんが芝居をやる動機が、なんだか不思議ですよね。芝居でなくても、きっといろんなことができる人だと思うんです。実際舞台の上では、真面目なくせに奇妙にハイ、狂気、熱がある。きっと彼女の中に矛盾したエネルギーがあるんですよね。その矛盾のもとはなんなのか。とんでもないカオスを抱え込んでいるんじゃないかなあ。しかも自前の劇場をもったりなんかする。きっと那須さんが劇場を必要としているんでしょう。そのあたりが、彼女がなぜ芝居をやっているかってことにつながるんでしょうね」

 「自分のことはわかりませんけど」と笑う那須には共演者を分析してもらった。「朋子ちゃんはすごくクレバー。頭がよくて本の読み方が演出家さんみたいで理論的。私も感覚的なところがあるけれど、もっと感覚的なのがロレナ。彼女は若いのに、ぶつかり合う必要があるときはしっかりぶつかり合う」

 気になるのは、そんな中嶋朋子、コトウロレナ、那須佐代子の3人の誰が奥様を演じ、誰が女中の姉妹を演じるのかということなのだが……。例えば奥様を年齢的に定義するのであれば年長の那須かもしれないし、日本・ルーマニア・フランスのクオーターという存在で言えばコトウロレナの若い奥様もあるかもしれない。感覚的な女優二人に対して理知的ということであるなら中嶋朋子もある。いろいろ想像を楽しんでみる。

那須 「別に教えてもいいんですけど、奥様ごっこから始まるお芝居だから言ってしまうと面白くないかなと思って(笑)」ということで、皆さんの楽しみと妄想は当日の劇場まで持ち込むことにしてほしい。

 ただ、序破急は前半戦が安価なシステムのことであって、決して3女優がそれぞれ奥様を演じるという無茶をするわけではないのでご注意を。

那須 「鵜山さんの遊び心たくさんの演出や、朋子ちゃんのたくさんの演技の引き出しを見せてもらうのも、ロレナの細かいことにとらわれないスケールの大きいお芝居も、とても刺激的で楽しくお稽古しています。 そして、この『女中たち』というハードルの高い戯曲を、読み解く力の優れた鵜山さんに演出してもらってよかった と感じています」

取材・文:いまいこういち

公演情報

シアター風姿花伝プロデュースvol.5「女中たち」
 
■日程:12月9日(日)~26日(水)
■会場:シアター風姿花伝

■脚本:ジャン・ジュネ 
■翻訳:篠沢秀夫(白水社)
■演出:鵜山仁
■出演:中嶋朋子 コトウロレナ 那須佐代子

料金(税込):【全席指定】
序(12/9~12)5,000円 / 破(14~20)5,500円 / 急(21~26)5,900円
シニア(65歳以上)4,900円 / 学生2,000円 / 高校生以下1,000円
※枚数制限あり、要証明書、要予約
当日料金は各500円増
■開演時間:9~11・19・21・24日19:00、14・17・26日・日曜14:00、
      12・18・20・25日・土曜14:00 / 19:00、13日休演
■問合せ:シアター風姿花伝 Tel.03-3954-3355(11:00~18:00)、Eメール mail@fuusikaden.com
■公式サイト:http://www.fuusikaden.com/maids/
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