TSUKEMEN、和楽器とのボーダーレスなコラボを堪能させてくれた一夜【ライブレポート】

レポート
音楽
クラシック
2018.12.13

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スリリングさとナイーブさが共存する独自の音楽をヴァイオリンとピアノで表現し続けている三人グループTSUKEMENが、11月28日(水)に、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGでライブを行った。このライブは、本来は8月8日(水)に予定されていたものだったが台風接近により開催が延期となり、改めてこのタイミングでの開催となったものだ。

この夜のテーマは和楽器との競演。ゲストに大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)の両氏を迎え、日本を代表する楽器の使い手と、それと対峙するTSUKEMEN三人の合計五人による、豪華な異種格闘技戦となった。お酒や食事をしながら音楽を楽しめる会場の雰囲気とも相まって、緊張感が張り詰めるものではなく、心に染み入る温かい演奏を楽しませてくれた。

まずはTSUKEMENのみによる「AKATSUKI」からライブはスタート。流麗なメインテーマから入り、今回の競演を暗示するかのような“和”のテイストのあるメロディライン。互いの持ち味を生かしたソロの掛け合いもさすがで、料理とお酒の匂いの中、緩急自在の演奏が会場を満たす。コンサートホールとは違う観客との距離の近さからなのか、リラックスした雰囲気が感じられる。

TSUKEMEN

TSUKEMEN

そして、大多和正樹黒田鈴尊が登場し、五人での「Volcano」。勢いのある導入に、和太鼓が強いリズムを刻み、尺八が絡んでいきソロに続く。アクセントの多い土台を和太鼓が形作り、ヴァイオリン、ヴィオラ、そして尺八のメロディが自由自在に交差する。これまで聴いたことのない演奏に、観客は大喝采を贈った。

TSUKEMEN、大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)

TSUKEMEN、大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)

ステージの五人の笑顔が、このコラボレーションの楽しさを物語る。和太鼓とのコラボは、リズム楽器のいないTSUKEMENの演奏に単にリズムを加えるという単純なものではなく、TSUKEMENの音楽に高揚感や疾走感、そして強烈な音量的なアクセントをもたらし、それが三人の演奏にも影響し、これまでにないダイナミクスを感じるものになっているようだ。

続く「ムーンリバー」では、ピアノと尺八がメインテーマを提示。情感溢れる尺八のメロディをTAIRIKUとKENTAが引き継いで展開していく。フルートともクラリネットともオーボエとも違う尺八の音色。その存在感と甘く柔らかな空気感に聞き惚れてしまう。

大多和正樹黒田鈴尊が一旦退場し、ステージはTSUKEMENの三人になり「Shine!」を披露。ときにはハモり、追いかけあい、カウンターメロディを仕掛けあうTSUKEMENらしい演奏で、会場を一気に三人の世界に引き込む。場所のせいなのか、今日のコラボの空気感なのか、やはりコンサートホールでのいつもの演奏とは違うリラックスした様子がある。楽しそうな三人がとても印象的だ。

TAIRIKU

TAIRIKU

SUGURU

SUGURU

KENTA

KENTA

そして前半最後は「チャルダーシュ」。ジプシーの悲しげなメロディをKENTAとTAIRIKUが織り成していく。と、突然SUGURUが鍵盤ハーモニカを惹きながら客席に乱入! これはここでしか味わえないハプニング。子供のような満面の笑顔で弾きまくるSUGURUの姿にお客さんも大拍手。楽しさが広がった演奏になった。

TSUKEMEN

TSUKEMEN

休憩後は、いつの間にか全員が客席を歩き回ってご挨拶。そしてステージへ。ここで尺八についての講義が始まった。穴は五つしかないが穴の塞ぎ方や吹き方で高音から低音までを調整。楽器自体の長さも何通りかあり、ヴァイオリンとヴィオラのような違いがある。音が顔の近くで鳴っているので音に入り込みやすい。そして、吹くときは表情筋を遣っているのでしかめっ面をしているが、演奏中は機嫌は良いんですよ、とのこと。

一方の和太鼓は、まるでドラムセットのような配置。ドラムで言うタムタムのような太鼓は手作り。一枚ずつ音程が違うため、それが演奏での面白さになるのだという。

後半の最初は“ヨイサッ!”の掛け声からの「KIYARI」から始まった。特性の違う楽器が一つの世界を作り上げていく。和太鼓の太い音と軽やかな音、今までに体験したことのないコラボだ。ここで、黒田鈴尊が客席に下りて行き尺八で「サマータイム」を披露。ジャジーな演奏に息を呑む。人間の“息”の迫力とは、こんなにもすごいものなのか。その表現力の広がりを感じさせてくれる。続く「SAKURA」では、SUGURUのピアノに促された尺八が絶妙にメロディを崩して色付けしていく。尺八のピアニシモとフォルテでの音の違いに幻惑されつつ、SUGURUもジャジーに応戦。尺八とピアノだけで曲が紡がれ姿を変えていく。原曲とは違う風景に客席はうっとりしている。

大多和正樹(和太鼓)

大多和正樹(和太鼓)

黒田鈴尊(尺八)

黒田鈴尊(尺八)

ここで大多和正樹の見せ場が登場。繊細さと強さが同居する和太鼓の魅力があふれんばかりのドラムソロだ。4枚のタムの音階の違いや、フチを叩いたりの繊細さは、常々持っている和太鼓の印象とは違うもの。また時にはアフリカンドラムを思わせるグルーヴも披露し、こちらもピアニシモとフォルテでのまったく違う音世界を存分に楽しませてくれた。そこから曲は「ROCK VIOLA」になだれ込む。トリッキーで強いヴァイオリンの音と太鼓の音圧が心地よい。雄たけびを上げて叩きまくる終盤、観客からも掛け声がかかり大拍手。キメがいっぱいでカッコイイ演奏に、ステージも客席も大満足。

TSUKEMEN、大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)

TSUKEMEN、大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)

本編最後は、KENTAの四小節のコーラスに客席も参加しての「雨ノチ晴レ。」。手拍子、8ビートのリズム、そして「つらいときは自分だけで悩まないで、回りの人に助けてもらっても良いんだよ」という希望に溢れるメッセージを伝えてくれる温かい楽曲だ。観客にも参加してもらって一つのコンサートを作り上げていくというTSUKEMENが最近課題にしている形態。ステージと客席が一体となって本編は終了した。

TSUKEMEN、大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)

TSUKEMEN、大多和正樹(和太鼓)、黒田鈴尊(尺八)

すぐに行われたアンコールは「ドンパン ドンドンパン」の掛け声とともに、観客も手拍子で参加する「虹を見上げて」が開始。太鼓の軽やかなリズムに乗って、全員が楽しそうに“音で遊ぶ”という表現がピッタリの空気を作り出す。音楽の自由さを楽しむ五人。そしてSUGURUの「もう1曲やろう!」という声で始まったのは、お馴染みの「スペイン」。最初のアランフェス協奏曲のテーマは尺八から。和太鼓がリズムを刻む。こんな「スペイン」は聴いたことがない。順に回すアドリブでは、尺八がジャズのテンションのスケールを吹きまくり、TAIRIKUはロックギタリストのようにワンノートを膝を付いて弾きまくる。太鼓は鐘の音やサンバのリズムも披露するなど、全員が自由自在に音楽を楽しんでいる。最後はテーマに戻って、キメの手拍子。大団円となった。

和太鼓と尺八、こんなに素晴らしい楽器をなぜ私たちは見逃してきたのだろう。“和”だろうが“洋”だろうが、素敵な音楽を奏でてくれるなら、そんなボーダーなどは関係ない。そんなベーシックなことを気づかせてくれた。それは、TSUKEMENの三人の許容範囲の広さ、感受性の豊かさがあるからこそ、聴く側にわかりやすく提示できたのだと思う。紡ぎだされた音楽は素晴らしく、堪能できた一夜だった。

取材・文=森本智 撮影=福岡諒祠

ライブ情報

【Special Living Live】 TSUKEMEN Summer Secrets  ※公演終了
 
日程:2018年11月28(水)  
場所:eplus LIVING ROOM CAFE&DINING
 
セットリスト
1.AKATSUKI(TSUKEMEN)
2.Volcano(大多和正樹&黒田鈴尊&TSUKEMEN)
3.ムーンリバー(大多和正樹&黒田鈴尊&TSUKEMEN)
4.Shine!(TSUKEMEN)
5.チャルダーシュ(TSUKEMEN)
休憩
6.KIYARI(大多和正樹&黒田鈴尊&TSUKEMEN)
7.尺八ソロ ~ SAKURA(黒田鈴尊&SUGURU)
8.和太鼓ソロ ~ ROCK VIOLA(大多和正樹&TAIRIKU&KENTA)
9.雨ノチ晴レ。(大多和正樹&黒田鈴尊&TSUKEMEN)
アンコール
10.虹を見上げて(大多和正樹&黒田鈴尊&TSUKEMEN)
11.スペイン(大多和正樹&黒田鈴尊&TSUKEMEN)
Guest: 大多和正樹(和太鼓) 黒田鈴尊(尺八)
 
問合せ:eplus LIVING ROOM CAFE&DINING TEL: 03-6452-5650
 
TSUKEMEN 公式サイト:https://www.tsukemen3.jp/
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