THE ROB CARLTON、新作『SINGER-SONGWRITERS』と「テアトロコント」出演を語る~「古今和歌集の謎に(小さな)一石を投じます」
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THE ROB CARLTONメンバーたち。(左から)村角ダイチ、満腹満、ボブ・マーサム。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)
貴族の邸宅や高級ホテルなど、セレブな空間を舞台にした「限りなくコメディに近い会話劇」を上演している京都の劇団「THE ROB CARLTON(ザ・ロブカールトン/以下ROB)」。今年(2018年)の頭には初の東京公演を実現し、好評をもって迎えられた……という言葉が決してお世辞ではないことを証明するように、渋谷の劇場「ユーロライブ」が主宰するコントライブ「テアトロコント」に、ROBが関西代表として招かれることに! さらにその前後には、約1年ぶりとなる新作『SINGER-SONGWRITERS』を大阪・東京で上演する。平安時代の貴族たちの“歌”をめぐる物語になるという舞台や、テアトロコントの意気込みなどを、ROBメンバーのボブ・マーサムa.k.a.村角太洋、村角ダイチ(ボブの実弟)、満腹満に聞いた。
■ボブの台本から、余計なものがどんどん削ぎ落とされてきた(ダイチ)
──メンバー3人だけのインタビューは、SPICE初登場以来3年ぶりとなりますが、あれからいろいろ状況が変化しましたよね。
ボブ:そうですね。あの頃は「舞台をする」と言ったらROBの公演しかなかったんですけど、おかげさまでみんなが客演に行ったり、僕も外で台本や演出をする機会が増えて。そうなると、やはりROBのホーム感が強くなりました。良くも悪くも「帰ってきた」という安心感が。
──「悪くも」というのは?
ボブ:やっぱり物足りなくなる所は、絶対あるんです。規模であるとか、役者さんの力量であるとか。でもそれはあってしまうことだろうし、お互いがそう思ってるやろうなと。だからそれをちゃんとフィードバックしあえたら、だいぶ良くなると思いますけどね。
ダイチ:僕はROBでは、結構物語の中心で話を回す役が多いんですけど、客演で出させていただいた所では、脇を固めて話を広げるという役を、ちょいちょいやらせてもらってまして。台詞がない時に、どうやって舞台上での時間を埋めればいいのか? というのは、ROBではあまり考えなかったことだし、不思議な体験ではありました。
満腹:ここではやらないことを、外でたくさんやらせてもらえてますよね。たとえば(劇団)壱劇屋さんでは、殺陣の芝居をしましたけど……。
ボブ:それこそ僕らがやらない、最たるものですよね。殺陣って要は、殺し合いでしょ? 殺し合わないねー!(一同笑)
満腹:殺陣はやっぱり、会話劇とは違うなあと。このタイミングでこっちに動いてという、数々の段取りをこなすのが、すごく難しかった。
ボブ:でも一緒ですよ、会話劇だって。このタイミングで台詞入れて、身体動かしてって。
満腹:でも肉体的に付いていかないっていうのが、やっぱり。
ボブ:え? 会話劇は付いていけてると思ってたの?(一同笑)
THE ROB CARLTON 15F『マダム』より。 [撮影]今西徹
ダイチ:墓穴掘ってもうた(笑)。
満腹:うわー、アウェイ感強いわー。
ボブ:ホームだっつーの(笑)。まあ僕で言うたら、役者で呼ばれることもあって、そうなると他の作家さんや演出家さんのやり方を見ることができるんですよ。これはなかなか、普通の作・演出家にはないことだと思うんです。「こういう役を当てる」とか「こういう動きを要求してくる」という意図を考えることになりますし、それによっていろんなことを学んでいきましたね。とはいえ基本的には、自分は自分のやり方だと思ってますけど。
ダイチ:でも外でやっていろいろ気づいたことや、ROBに足らへんことを一回試してみて、それを自分らのフィルターを通してまた表に出す……という作業は、ちょっと増えてきたかなあ。
ボブ:実際、書くことに丁寧になってはいますね。以前なら5行で終わってたような会話に、ちゃんと細かいニュアンスを入れて10行にするとか。でもその分、上演時間がどんどん伸びていってるのが、今ちょっと(笑)。
満腹:悩み所やねえ。
ダイチ:ただ言葉は増えたかもしれないけど、その一方でボブの台本からは、余計なものがどんどん削ぎ落とされてきたと思います。多分今までは「面白そうなことは、取りあえず詰め込んでみよう」という感じやったけど、必要なものとそうじゃないものが、すごく見えてきたんかなあ?「今はこれ、いらないな」と「これを入れたら、もっと良くなる」という、その判断が鮮明になってきてると思います。
ボブ:それで言うと前回の『マダム』は、僕の中では結構「必要」と思うものしか入れてない作品だったんです。客観的には、「どうでもいいわ」っていうシーンでいっぱいに見えるんでしょうけど(笑)。でも今回はそれをゆるめて、もう少し無駄なものを入れてみようかなあと思っています。
──とはいえ、どんな時代のどんな国を舞台にしていようが、必ず話の中に「うまい棒」を絡ませることこそが、無駄の最たるもののように思うのですが。
ボブ:確かに。あれのせいで、いつも3行ぐらい無駄にしますからね(一同笑)。
THE ROB CARLTON 15F『マダム』より。 [撮影]今西徹
■『SINGER-SONGWRITERS』は、ある意味バンドものっちゃバンドもの。(満腹)
──次回作『SINGER-SONGWRITERS』は、和歌をテーマにした作品になるそうですね。
ボブ:昔からやりたかったんですよ、平安時代の芝居を。やっぱり、烏帽子が面白いなあと。これをやるには「衣裳を用意できるのか?」というのがネックだったんですけど、前回から衣裳スタッフさんが加わったので、そこはクリアできるようになったんです。それでどんな話を当てたら面白いかなあ……ということを考えていた時に、今年の春頃にパッと「シンガーソングライター=歌人」っていうのが、お告げのように降ってきた(笑)。
満腹:タイトルが降りてきたんや。
ボブ:それでまず衣裳の方と「一度、その時代の衣裳を見られる所に行きましょう」という話をしてたら、本当にその週末に「曲水の宴」(注:毎年京都で行われている、平安時代の歌会を再現する行事)が開催される時期だったんです。だからいよいよ、これは神のお告げだと(一同笑)。
満腹:ホンマに昔から「平安時代やりたいやりたい」って言ってたからね。だからその話を聞いた時は、とうとうこのタイミングが来たかと思いました。
ダイチ:僕は最初「何を言ってるのかな?」と(笑)。でもシンガーソングライターと歌人をつなげるという所に、ボブらしい「んにゃ」っと曲がった何かがあるなあと思って、これは面白くなるんじゃないかと思いました。
ボブ:で、そこからアイディアを広げて、和歌集を編さんする人たちの姿を、スタジオにこもってアルバム作りをしているミュージシャンに当てはめてみる……というシチュエーションにしました。新メンバーを募集するとか、「和歌性の違い」による揉めごととか。
満腹:「音楽性の違い」みたいな(笑)。
ボブ:「詠み人知らず」は「未発表の音源発見!」というね。そういう共通点がいっぱいあるんで、そこをリンクさせていった結果、どんどん変な芝居になってきています(笑)。
THE ROB CARLTON 16F『SINGER-SONGWRITERS』イメージビジュアル。 [撮影]今西徹
──和歌集というと、万葉集とか百人一首みたいな。
ボブ:メインは「古今和歌集」を編さんする人たちです。4人の選者がいるけど、4人だとどうしても多分の儀(多数決)で2対2に割れるから、もう1人選者を決めようという。それが「バンドあるある」じゃないですけど、20代の若者たちが「ギタリスト募集」みたいなのをやったら、すごいベテランのおっさんが来た……という気まずさに近いことが。
ダイチ:「やりたいと思ってたんだよ。何でもやるよ」って。
ボブ:それを今回、ヨーロッパ企画の中川(晴樹)さんにやってもらいます。中川さんをお呼びしたのは、あのひょうひょうとしてる感じが、公家っぽいなあと思ったので。実際中川さんが入ったことで、ちょっと今までと違う空気感が出てきています。
──それが石田(剛太)さんだったら、『ボヘミアン・ラプソディ』の舞台版になりかねませんでしたよね。(注:同映画でフレディ・マーキュリーを演じているラミ・マレックと、ヨーロッパ企画の石田剛太がうり二つと、一部で評判となっている)
満腹:そうですよねえ。こっちもある意味バンドものっちゃ、バンドものですから。
ダイチ:石田さんが出てしまうと、Queenの話とカン違いする人が出てくるんちゃうかなあ。
ボブ:そもそも石田さんですよね、あれは。フレディ・マーキュリーじゃなくて、石田さんの映画(一同笑)。
ダイチ:でもああいうバンドの裏話って、やっぱり面白いですね。バンドの成り立ちとか葛藤とか、曲やアルバムができていく過程とか。
ボブ:まあはからずも、そういう音楽もの、バンドものが盛り上がってる時に上演できるというのは良かったです。これも一つのアルバム……“歌”をまとめたものができるまでの話ですから。そこで古今和歌集をメインにした理由は、2つの序文をめぐる謎で、物語を膨らませることができそうだったから、というのがあるんです。
──謎というのは?
ボブ:古今和歌集には「真名序」と「仮名序」という、それぞれ漢文と仮名で書かれた2つの序文があるんですよ。これがなぜ2つに分かれているのか? というのは決まった説がなくて、未だに研究されているんです。その歴史のミステリーに、僕が一石を投じてみようと……小石をピュンっと。
ダイチ:すごく小さい波紋を(笑)。
ボブ:波にすらならないようなものを(一同笑)。
THE ROB CARLTON 16F『SINGER-SONGWRITERS』公演チラシ。
■ずっとお客様をくすぐっているような「喜劇」が作れたら。(ボブ)
──今までROBは「限りなくコメディに近い会話劇」というキャッチが付いてましたが、今回から「限りなく“喜劇”に近い会話劇」に変わりましたね。
ボブ:表面上はそんなに変わらないかもしれないですけど、笑いの作り方として「状況の面白さ」ではなく「人の滑稽さ」の方がどんどん出てきたらいいかなあ、と思いまして。先ほどの話でいうと、和歌集を編さんする現場そのものではなく、若い人たちの中にすごいベテランの人が加入を申し込んできて「誰が断る?」みたいになってるおかしみ、とか。そういう「あー、何かそれわかる!」という関係性を笑いにできたらと思います。
──シチュエーションより、もっと人間の性(さが)みたいな所に焦点を当てようと。
ボブ:そうですね。それが僕の中での、コメディと喜劇の違いかなあと。乱暴な言い方をしたら、爆発的な笑いは生まれなくても、ずっとクスクスしている……ずっとお客様をくすぐっているような感じの舞台になればいいなあ、と思うんです。だから今回和歌というのは、登場人物たちを動かす動機でしかないんですよ。それよりは平安貴族特有の、何かいろいろと遠回しで儀式化されている感じを、面白おかしく見せていけたらと思っています。
──その大阪公演と東京公演の間には「テアトロコント」がありますね。
ボブ:東京に初めて進出したばかりなのに、よく声をかけてくださいましたよね。しかも一緒に出るのが、(京都の先輩の)「マレビトの会」(正確には、同劇団内のコントユニット「マレビト・コント」)というのがビックリしました。
──いつもすごく大真面目で実験的な芝居を作ってるから、コントをやるというイメージがないですし。
ボブ:しかも松田(正隆)さんが書いてるらしいし、どういうものなのかと。今年「大田王」に出たんですけど、大王(後藤ひろひと)に昔のパンフを見せてもらった時に「作:松田正隆」っていうコントがあったんですよ。それで「書き下ろしてもらったんですか?」って聞いたら「いや、それは俺が勝手に書いた」と(一同笑)。それがアリな大王も、許してる松田さんもすごいなあと。何か良い時代を感じましたね。
THE ROB CARLTONのマフィア3人組のコント。ボブが中国系、ダイチがラテン系、満腹がアングロサクソン系のマフィアを演じている。 [撮影]山本和幸
──その先輩に負けないよう、ROBとしてはどんなネタを持っていきますか?
ボブ:最近上演したコント2本を合体させて、1本のコントにしようと思っています。どちらのコントも、国籍の違う3人のマフィアが一室に監禁されているという話で、そこで腹の探り合いや、逆に協力し合わなければならないことが起こるという。この設定は僕にはすごくやりやすくて、いくらでも話が作れるんです。ただこれ、東京公演の前にあるんで、ダダ滑りしたら翌月の東京公演が怖くて仕方がない。
満腹:……それ、今言う?(一同笑)
ボブ:また舞台袖で吐きそうになったらいいと思う(笑)。初の東京公演初日は、久々に吐くんちゃうか? ってぐらい緊張してたよね、満腹は。
ダイチ:でも初の東京は、思ったより客席が「まあ、観てやろうか」というよりも「ROB楽しみにしてたから、観るよ」って感じでしたね。それで変な緊張もなく「ありがとうございます。僕らはこういうものです」という風に楽しく見せられたし、刺激にもなりました。
ボブ:大阪で初めて公演をやった時の方が、よっぽど怖かったです(笑)。劇場の大きさが京都の倍になったし、やはり大阪は笑いに厳しいイメージがあったので。それで言うと東京は、大阪でいつもやってる劇場と規模が変わらなかったし、それまで関西のお客様にだいぶ鍛えていただいた蓄積がありましたから、思ったよりも楽しくやれました。これを機会に、またちょっとずつ浸透していけたらと思っています。
──そういえば来年日本で開催されるラグビーW杯で、ROBが何か絡めないか目論んでいると、以前のインタビューでおっしゃられてましたが。
ボブ:非常に悲しいことに、ラグビー絡みの仕事は一切ないです。だったらその時期は、極力仕事をせずにW杯を観戦したかったんですが、それも無理っぽいという悲報が入りまして(一同笑)。
ダイチ:いや、ありがたい話ですよ。
ボブ:まあでも奇跡的に、重要な試合は外れそうなスケジュールなので、そこはラグビーの神様がちゃんと采配してくれたのかなと。来年は今年以上にいろんな所で、ROBの作品を観ていただくことができるんじゃないかと思います。
──で、残りの野望と言えば、「ザ・リッツ・カールトン」と(うまい棒を出してる)「やおきん」とコラボができるかどうかという。
ボブ:そうですよねえ。そろそろ絡んできてくれてもいいと思うんですけど。
満腹:どこからもお声がかからない。
ボブ:ここで言っておきましょうか。リッツ・カールトンさん、ROBはリッツからお名前をいただいております! やおきんさん、うまい棒は最高の食べ物として、常に僕らの芝居に出てきています!……これで来年につなげましょう(一同笑)。
THE ROB CARLTONメンバーたち。(左から)村角ダイチ、ボブ・マーサム、満腹満、。
公演情報
■出演: THE ROB CARLTON(村角ダイチ/満腹満/ボブ・マーサム)、高阪勝之(男肉 du Soleil/kitt)、諸岡航平、中川晴樹(ヨーロッパ企画)
■日程:2018年12月13日(木)~17日(月)
■会場:HEP HALL
《東京公演》
■日程:2019年1月11日(金)~14日(月・祝)
■会場:赤坂RED/THEATER
■公式サイト:http://www.rob-carlton.jp/nextstage.html
公演情報
■日時:2018年12月21日(金)・22日(土) 21日=19:30~、22日=14:00~
■会場:ユーロライブ
■公式サイト:http://eurolive.jp/conte/