崖っぷちプロレスラー 後藤洋央紀を応援する理由~アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術【コラム】

2018.12.25
コラム
スポーツ

ベルトを失った荒武者の現在地

オレの娘がいない……どこだ……。焦った父親が真剣に我が子を探していたら、奥さんはこう言ったという。

「あんた抱っこしてるじゃん」と。

そんな恐るべき天然ボケを日々炸裂させる男の名はプロレスラー後藤洋央紀である。最近、新日本プロレスのスマホ会員サイトで『洋央日記(ひろおにっき)〜武士の一文〜』を読むのが楽しみだ。最新記事では飯伏幸太に敗れたNEVER王座陥落の一戦についても触れている。

今、プロレスファンの間で後藤がちょっと話題だ。夏のG1では3勝6敗と過去最低の成績に終わり、先日はNEVERのベルトも失い、いったい“荒武者”はどこへ行くのか……と。現在39歳、レスラーとして最も脂の乗った時期だが、来年のプロレスの祭典1.4東京ドーム『WRESTLE KINGDOM 13』では、なんと第0試合の総勢15人が出場するNEVER無差別級6人タッグのガントレマッチにエントリーされている。今の新日はレスラー飽和状態で、もうひと団体できそうな人材が集まっているだけに生存競争は激しい。

今の後藤のポジションはもったいない

この連載でも、8月に後藤を取り上げ「ユニット内“CHAOS”でも立ち位置が曖昧で、典型的な30代の伸び悩み」と書いた。今でも時々『同級生 魂のプロレス青春録』(柴田勝頼/後藤洋央紀/辰巳出版)を読む。4年前に発売された本だが、手元にあるのは吉祥寺パルコのお渡し撮影会で買った2人のサイン入りだ。彼らは桑名工業高校レスリング部の同級生で、自分は柴田勝頼のファンだった。

この本に書かれている後藤の半生は、小さい頃から「巻き込まれ体質」で「生まれてから勉強をしたことがない」なんて気ままにすくすくと育ち、大学卒業後にようやく悲願の新日入団を果たすも、練習中の肩の脱臼でクビ寸前に。すでにプロレスデビューしていた柴田の部屋に居候させてもらい再起を目指す……というストーリーは前回のコラムで紹介した気がする。

じゃあなぜ、また後藤を取り上げているかと言うと、本当にもったいないからだ。試合は悪くない。大型の外国人レスラーと真っ向からやり合う体力もある。けど、なかなかトップに上がれない。ポテンシャル的にこんなもんじゃないと誰もが歯痒く感じている。そして、とにかく立ち回り方も不器用すぎる。飯伏とのTwitterを介したぎこちない(それが憎めないところではあるが)SNSプロレスも「それでいいのか後藤よ」と余計なお世話だが思ってしまった。

テーマが見えない後藤のプロレス

例えば、東京ドームのメインに立つ棚橋は現在42歳。先日の後楽園ホールでは、棚橋&ウィル・オスプレイ組vs.ケニー・オメガ&飯伏のタッグが行われたが、正直なところ満身創痍のエースの動きは彼らの身体能力と並んでしまうとかなり見劣りした。だが、そこで棚橋は過剰な技の掛け合いに警鐘を鳴らし「動きすぎないプロレス」をファンに投げかける。激しいだけがプロレスじゃないよと。いわば自らの衰えを逆手に取り、現IWGP王者ケニー・オメガとのイデオロギー闘争に持ち込むのである。

会場人気No.1の内藤哲也にしてもそうだ。海外で絶大な知名度を誇るクリス・ジェリコに対して、あえて会見場で水を口に含みその顔面に吹きかけてみせる。もちろんその場は大荒れだ。しかし巡業参加せずスポット参戦のジェリコとたまにリング上だけで絡んでもお客さんは盛り上がらない。因縁を積み重ね物語を構築していく。イッテンヨンに向けた戦いはすでに始まっているのだ。30代に突入したオカダ・カズチカにしても、新たな立ち位置を模索して、棚橋とタッグを組んだり、元同門のジェイ・ホワイト&外道と激しくやり合っている。

では、後藤は? 来年6月で40歳、1番仕掛けなきゃならない男なのにけっこう無風だ。本人よりもファンが焦ってる。ファイトスタイル的にNOAHとか全日本プロレスでトップを張った方が似合ってるのでは……なんていうのもプロレス好き同士で飲むと定番ネタだ。柴田ファンもみんな相棒・後藤が心配なのである。

2019年に後藤洋央紀を応援する理由

雑誌Numberの「プロレス総選挙2018」において、後藤は1051ポイントで47位だった。32539ポイントを集めた首位の内藤に30倍以上の大差をつけられている。ちなみに3年前の同誌の2015年新日本プロレス総選挙の順位は「8位後藤洋央紀、12位内藤哲也」である。わずか3年で大ドンデン返しを食らってしまったわけだ。第三世代のように年齢的にそろそろというわけでもなく、致命的な大きな怪我をしたわけでもない。普通に戦って(しかもインターコンチネンタル王座やNEVERのベルトにも絡んで)いるのに、荒武者の人気や注目度はガタ落ちしている。

わけが分からない……いったいどうなってやがる……というわけで、個人的に2019年はひたすらこの男を応援しようと思う。だって報われないっすよ。新日本の暗黒期を支えたのは棚橋や中邑や真壁だけじゃない。後藤だって功労者のひとりだ。一時は四天王と称され、出戻りの柴田の激しいプロレスも真正面から受けてみせた。不器用で口下手で時にかませ役。確かに後藤洋央紀は、世界戦略を邁進する新日本プロレスの進化に置いてきぼりを食らっている“ガラパゴスレスラー”かもしれない。でも、ここから泥臭く這い上がっていく様こそ、今の洗練された新日のリングに最も足りないものではないだろうか。

平成が終わろうが、時代遅れの伝統のストロングスタイルはまだ終わっちゃいない。そして多分、ストロングスタイルとは後藤洋央紀なのである。

 

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