『上野耕平のサックス道Vol.3 三浦一馬をゲストに迎えて』ライブレポート~サクソフォン+バンドネオン+ピアノの華麗なる競演
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上野耕平(サクソフォン)、山中惇史(ピアノ)、三浦一馬(バンドネオン) (撮影:山本れお)
いまや世界が認める日本人サクソフォニストの上野耕平。そんな彼がデビュー以来大切にしているのが、自身のファンクラブと同じ名を冠したソロコンサートシリーズである。その第三回目となる『上野耕平のサックス道Vol.3 上野耕平サクソフォンリサイタル 三浦一馬をゲストに迎えて』が去る2018年12月15日(土)、浜離宮朝日ホールにて開催された。
公演のタイトルに記されたとおり、今回は若手実力派バンドネオン奏者の三浦一馬をゲストに迎えた。そしてピアノは上野の盟友・山中惇史。全員まだ20代ながら第一線で活躍する、豪華な三人の揃ったドリームチームが出来上がった。
リハーサル風景の様子
それだけに今回、
上野耕平(リハーサルより)
<第一部>
■デニス・ベダール:「ファンタジー」
プログラムの一曲目は、ベダールの「ファンタジー」。カナダ生まれでオルガニストでもあったベダールが1984年にサクソフォンのために書いた、サクソフォン奏者にとって大切なレパートリーとなっている作品である。もともと軽やかでかわいらしい曲なのだが、上野がソプラノサックスを体の一部のように自在に操ることにより、さらなる華やかさと躍動感が加わった。まるで魔法がかかったかのように伸び伸びと、いっそう軽快に、音がホールを駆けめぐる。クラシックの真髄が感じられる理知的な美しさを保ちつつも、めくるめく表現の自由さがすこぶる楽しい。こうして聴衆の心は一曲目からがっちりと掴まれた。
■ジャン・フランセ:「5つのエキゾチック・ダンス」
二曲目は「5つのエキゾチック・ダンス」。フランセは20世紀フランスの作曲家・ピアニストだ。5つの短い楽章から構成されており、ブラジル風、キューバ風、ドミニカ風と、まさにエキゾチックな舞曲が楽しめる趣向となっている。「ピアノをよく聴いてほしい」と語る上野の意向に沿って、山中の演奏に耳をシフトさせると、リズムを正確に刻んでいるかと思えば、ときにメロディを主張したりもする。もちろん上野のサックスと山中の息はぴったり合っている。ダンサブルな二重奏が心地よくプレイされるひとときにおいて、クラシックのコンサートであることを忘れ、つい体を揺らしてしまう聴衆も少なくなかったのではないか。
山中惇史(リハーサルより)
■エルヴィン・シュルホフ:「ホットソナタ」
三曲目「ホットソナタ」は、チェコの作曲家・ピアニスト・指揮者だったエルヴィン・シュルホフが1930年に書いた。上野によれば「(発表)当時、かっこよかった」のであろう、懐かしさを感じる曲だそう。全四楽章から構成されているが、第三楽章にボルタメント奏法が使われていてサクソフォンの多彩な表現が楽しめる。ボルタメント奏法とは、「ウィーン」と口を使って音程を上下させる特殊奏法。演奏終了後、山中が「ホットソナタはほっとするソナタ」と言って、客席を沸かせていた。
「今回の演奏会はサクソフォンの持つノスタルジックさやエキゾチックな表情が出せるサクソフォンのために書かれた曲をセレクトした」と上野はMCで話していたが、クラシックサクソフォンのオリジナル曲にありがちな難解さを感じる曲はなく、狙い通りクラシックサクソフォンならではの響きの美しさとハーモニーの温かさを感じることができる曲が続く。
<第二部>
■ダリウス・ミヨー:「スカラムーシュ」
休憩を挟んで第二部。最初の曲は、サックス吹きにはおなじみのミヨーの「スカラムーシュ」。全三楽章から構成されているが、とくに最後の楽章は「ブラジルの女」という、これまたラテン風の曲で、吹いているほうも聴いているほうも踊りたくなるような楽しい演奏が繰り広げられた。
■エイトル・ヴィラ=ロボス:「ファンタジア」
第二部の二曲目から、ゲストの三浦一馬が参加。待ちに待ったトリオで、ブラジルを代表する作曲家ヴィラ=ロボスの名曲「ファンタジア」が演奏された。もともとは室内管弦楽のために作られた曲。今回はヴィオラのソロを三浦のバンドネオンが巧みに表現、上野がソプラノサクソフォン、そして山中のピアノという三人のオーケストレーションが見事だった。バンドネオンとサクソフォンは共に1840年代に生まれた楽器。とはいえあまり共通点はなかった。しかし、今回の演奏によって、「バンドネオンとサクソフォンの音色の相性がこんなにも合うものだった」と気付かされた。いい意味での意外性を楽しませてくれた素敵なサプライズだった。
三浦一馬(リハーサルより)
■アストル・ピアソラ(三浦一馬 編曲):「孤独の歳月」
ここで上野はバリトンサクソフォンに持ち替える。ピアソラの叙情的で哀愁漂うメロディーをバンドネオンとバリトンサックスで掛け合いをするように切なく歌い上げる。上野はピアソラの曲を「男の背中」と表現していたが、今の上野、三浦、山中という三人の等身大の「男の背中」が作り上げるピアソラの世界観は、自身と徹底的に向き合って未来につなげようというポジティブな孤独を感じさせてくれた。
■モーリス・ラヴェル(編曲 山中惇史):「ボレロ」
最後は、まさかの「ボレロ」である。二つのメロディーが同じリズムでひたすら繰り返されていき、終盤の大編成のオーケストレーションが聴かせどころとなるあの曲を、たった3つの楽器でどうやって表現するのだろうか。そう思ったのは筆者だけではあるまい。しかし、演奏が始まると忽ちにして目も耳もステージ惹きつけられてしまった。サックスは楽器の持ち替えに、スラップタンギング(舌の動きでアタック音やノイズを発生させる特殊奏法)も加えつつ、メロディパートとリズムパートを交互に演奏していく。ピアノは大屋根を閉めた状態から全開の状態へと変化。そこにバンドネオンも絶妙に重なっていく。こうして、始まりから終わりまでひとつの大きなクレッシェンドを多彩な音色で表現してみせ、圧巻の「ボレロ」を成就させたのだった。
(リハーサルより)
アンコールでは、三人でピアソラの「鮫」がスリリングに演奏された。高い技術力を駆使した演奏とオリジナリティ溢れるプログラムに満足しつつも、まだまだ進化する若い三人の個性が融合し合う場を今後もぜひ味わってみたいと思った。
最近では民放のドキュメンタリー番組で密着されるなど、上野の人気はますます高まる一方だ。クラシックサクソフォンはまだまだ歴史の浅い楽器だが、上野にはそれを世に広め、より多くの人々に愛される音楽にさせる力がある。2019年6月7日には『上野耕平のサックス道! Vol.4』が開催されることも決まった(下記公演情報参照)。次回はどんな演奏を聴かせてくれるのか、大いに楽しみである。
公演終了後はロビーでサイン会
取材・文=田尻有賀里 写真撮影=山本れお
公演データ(公演終了)
■日時:2018年12月15日(土)14:00
■会場:浜離宮朝日ホール
■出演:
上野耕平(サクソフォン)
山中惇史(ピアノ)
三浦一馬(バンドネオン)
公演情報
■会場:浜離宮朝日ホール
■出演:
上野耕平(サクソフォン)
山中惇史(ピアノ)
■予定曲目:
フランク:ヴァイオリン・ソナタ
シューマンの3つのロマンス
ほか
※曲目は変更になる場合があります 。
■一般発売開始:2019年1月26日(土)10:00
■座席選択先行:2018年12月27日(木)12:00~2019年1月25日(金)18:00 http://eplus.jp/ueno/
■問合せ:日本コロムビア 03-6895-9001 10:00-13:00/14:00-17:00(土、日を除く)
※学生は小学生~専門学校/大学院生
※学生券お求めの方は当日入場時に学生証等身分を証明いただけるものを確認させていただく場合がございます。