石丸幹二×実咲凜音対談 再演にして新たな音楽劇『ライムライト』の世界とは
(左から)石丸幹二、実咲凜音
名優にして名監督であるチャールズ・チャップリンが晩年に手掛けた傑作映画の舞台化、音楽劇『ライムライト』が、2019年4月9日(火)から東京・日比谷シアタークリエにて再演される。主人公のカルヴェロ役は前回に引き続き石丸幹二が務め、カルヴェロが出会う女性テリー役に新しく実咲凜音を迎える事となった。この二人で織りなす『ライムライト』は果たしてどのような作品となるのだろうか。
ーー4年ぶりとなる再演ですね。
石丸:早いですね。(実咲を見て)4年前の初演の時はまだ宝塚歌劇団にいらしたんですか?
実咲:まだ現役でした。
ーー実咲さんは初演の『ライムライト』はご覧になれなかったと聴きました。
実咲:そうなんです。なので今回出演が決まって映画版と資料を初めて観たんです。
石丸:観ていかがでしたか?
実咲:美しいなあとまず思いました。曲もすごくきれいだし、描かれている「愛」についても若者の単なる「好きだ」的なものではなく深いものがあり、いいお話だなあって。
(左から)石丸幹二、実咲凜音
ーー実咲さんの中で「チャップリン」という存在にどのようなイメージを持っていますか?
実咲:単に楽しいだけではないお話の深さ、笑いの裏にある物語を感じました。もし生きていらっしゃるのなら会ってみたいと思うくらいです。
ーー石丸さんにとっては4年ぶりのカルヴェロ役です。
石丸:今思うともっと昔のような気がします。4年しか経ってないのかと思うくらいで。ただ、初演時の台本を開いて読んでみたら全然覚えてないんです(笑)。だからある意味ゼロから作り上げる事ができるとも言えますね、新鮮な想いで、新しいキャストのお二人(実咲と矢崎広)と一緒にやっていきたいですね。
ーーこの作品において、特に印象に残っている事は?
石丸:二つあります。一つは映画とは視点が異なっている作品になっていること。チャップリンが書いた「フットライト」という小説があるのですが、そのエピソードを入れ込んで演劇用にしているんです。だから、映画の筋書き通りには話が進まないんです。それが一つの魅力になっている事。もう一つは、チャップリンには未完の映画があり、そのための未発表曲を舞台版で使った事。カルヴェロが最後の方で歌うんですが、カルヴェロの心情が深く投影されているんです。
(左から)実咲凜音、石丸幹二
ーー石丸さんはチャップリンをどのくらい意識して演じているんですか?
石丸:実は前回稽古中、チャップリンのご遺族とお目にかかる機会があり、「父の真似をするのではなく、貴方の中にあるカルヴェロを貴方の身体を通して表現してください」と言われました。この言葉でものすごく楽になりましたね。「ねばならぬ」と思っていた事が「してもいい」に変わったんですから。
とはいえ『ライムライト』は世界的に有名ですので、この作品が持つイメージを損なわないよう、チャップリンの「想い」に寄り添おうと思ったんです。演出の荻田浩一さんとはいろいろな事を試しました。荻田さんは、その場の発想でいろんなアイディアを提示される方。実咲さんは荻田さんの演出は宝塚時代からご存知なんですか?
実咲:実は初めてなんです。私が宝塚にいた時期にご一緒する機会がなくて。だからすごく楽しみにしているんです。
石丸:ユニークで、とても楽しい方ですよ(笑)。今回の『ライムライト』も、きっと新しい発想がさらにたくさん加わって、前回とはまた違うものになるような気がしますね!
ーー実咲さんはテリーという女性をどのように演じたいと思っているんですか?
実咲:まず、バレリーナという点は一つ壁であり挑戦だなと。技術的な点ではまだまだ稽古を重ねていかないと、というところもあります。それ以上に彼女が死にたいと思うくらい、どん底の精神状態から最終的にはカルヴェロをも励ますくらい「生きる活力」を持った女性に変化していく。それはカルヴェロと出会って得たかもしれないし、元々彼女が持っていたのかもしれませんが、それをどう表現するか、が課題ですね。でも今は観客として観てしまったので「切ないなあ」という想いでいっぱいなんです。彼女に対しては。
石丸:カルヴェロとテリーは、お互いどん底の状態で出逢うんです。テリーは死のうとしていたし、カルヴェロも生きる事を諦めている状態。そんな二人が出会った事で「共感」が生まれ、カルヴェロは「彼女を何とかしてあげたい」と思い、後にテリーも「カルヴェロを何とかしてあげたい」と思うようになる。恋愛ではなく「同志愛」のような情愛が芽生えたんじゃないかな。ステージに乗る仕事をしている二人だからこそ、言われて「痛い」と思う事でも理解できるし、受け入れられる安心感があるんじゃないかと思うんです。その後、ネヴィルという若者が現れ、カルヴェロはテリーからの矢印をネヴィルに向けようとする、という不思議な三角関係になっていくんですよね。
(左から)石丸幹二、実咲凜音
ーー石丸さんが演じている『ラブ・ネバー・ダイ』のファントムとクリスティーヌそしてラウルの関係と矢印が真逆の向きになる三角関係ですよね?
石丸:本当だ(笑)。カルヴェロのように後輩に彼女を託して自分は下りる……なんて発想はファントムにはないね!もう何十年生きたらファントムもカルヴェロの気持ちになるかもしれませんが(笑)。
実咲:テリーの事を思って、そうなるように誘う……それってただの恋愛というレベルを超えてますよね。
ーー先ほど実咲さんはバレリーナという設定が挑戦、とおっしゃっていましたが、子どもの頃にバレエを習っていたんですよね?
実咲:はい。元々は内股矯正のために習っていたんですが、そのうち本当にバレリーナになりたいと思ってやっていました。でも大人になっていく過程で「自分はプロにはなれない」と挫折を感じ、でもバレエを何かに活かしたいと思っていた時に宝塚に出会って。今回バレリーナの役を演じる事が出来るというのは、一つ夢が叶ったとも言えますね!
ーー順風満帆ではなく挫折を経て再び上っていった実咲さんとテリーが重なりますね。演じ甲斐もありそうですね。
実咲:そうですね。今から練習しないと。ずっとトウシューズを履いていた人としばらく離れていて改めて履く人とでは随分違いますから。また演じる上ではただのバレリーナではない深さの部分や彼女の生命力をお客様に届けたいですね。
石丸:素敵ですね。実咲さんと新しく入ってきたネヴィル役の矢崎広さんのお二人が稽古場に新しい風を吹かせてくださる事を楽しみにしています。
(左から)石丸幹二、実咲凜音
■石丸幹二さん
スタイリング:Shinichi Mikawa
メイク:中島康平(UNVICIOUS)
取材・文=こむらさき 撮影=ジョニー寺坂
公演情報
■会場:日比谷シアタークリエ
■上演台本:大野裕之
■音楽・編曲:荻野清子
■演出:荻田浩一
■出演:石丸幹二、実咲凜音、矢崎広、吉野圭吾、植本純米、保坂知寿 ほか