フレッシュなキャストに感動~ロイヤルバレエ団渾身の『くるみ割り人形』/英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19
-
ポスト -
シェア - 送る
ピーター・ライト振付『くるみ割り人形』が2019年2月1日(金)から英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19で上映される。英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)のではおなじみの演目を、今回は金平糖の精にマリアネラ・ヌニェス、王子にワディム・ムンタギロフのキャストで上映する。クララ役にはアナ・ローズ・オサリヴァン、ドロッセルマイヤーの甥、ハンス・ピーターにはマルセリーノ・サンベというフレッシュな顔ぶれ。そこにドロッセッルマイヤーといえばこの人!というギャリー・エイヴィスが物語をしっかりと支え、多幸感に満ちた世界が繰り広げられる。
また今回は幕間にはデビュー20周年を迎えたマリアネラ・ヌニェスが踊るショートフィルム『NELA』も上映される。必見要素がたっぷりと詰まった上映だ。
■原作テイストを取り入れた世界屈指の名作
『くるみ割り人形』は、言わずと知れたチャイコフスキーの三大バレエの一つで、1892年にマリインスキー劇場で初演された。以後100年以上を経てなお、クリスマスになると世界中で上演される作品で、それぞれのバレエ団がそれぞれの個性を生かした『くるみ割り人形』を上演しており、「バレエ団の数だけプロダクションがある」とも言われている。
ROHのピーター・ライト振付『くるみ割り人形』は1984年に初演された、バレエ団の中でも屈指の人気を誇る作品だ。そして世界に星の数ほどある「くるみ」のなかでも傑出した名作という声もあるほどに、高い評価を得ている。
© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
その理由のひとつはE.T.A.ホフマンの原作『くるみ割り人形とネズミの王様』の要素を取り入れたドラマティックなストーリーだ。ネズミの王様に魔法をかけられ、くるみ割り人形に変えられたハンス・ピーターは人形師ドロッセルマイヤーの甥。この魔法を解くことができるのは真実の愛のみ。甥にかけられた魔法を何とかして解きたいドロッセルマイヤーは、クリスマスのパーティーで出会った少女クララにくるみ割り人形を託す。クララは見事その期待に応え、ハンス・ピーターは人間の姿に戻るのだ。ネズミの王様を倒したクララとハンス・ピーターは金平糖の女王と王子のいるお菓子の国で幸せな時を過し、しかしすべてはクララが見た夢の世界のできごとであった――。
と、ここまでが『くるみ割り人形』の一般的な物語で、これはこれで幸せな余韻なのだが、ROHの『くるみ割り人形』は夢から覚めたクララが、さらに現実世界で人間に戻ったハンス・ピーターに出会う。まるで夢物語が若い2人の幸せな未来の予言のように感じられる、多幸感溢れる余韻で、さらにこれを世界屈指の演技力・表現力を誇るバレエ団のメンバーが全力で演じ、華麗な美術やセットに、情緒たっぷりの音楽すべてが一体となった世界が繰り広げられるのである。
© 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
■新たなキャストでお目見え。フレッシュなクララ&ハンス・ピーターにも注目
シネマシーズン『くるみ割り人形』の上映は3年連続となるが、今回はキャストを一新しており、まるで新作を見ているような新鮮さがある。
クララ役のオサリヴァンはひたむきでまっすぐな純真さにあふれ、ハンス・ピーター役のサンベは少年らしい初々しさを残す味わいが魅力。2人はROHバレエスクールの同期で、幕間にはバレエスクールの生徒たちが彼らに質問をするコーナーが設けられている。スクールの子供たちの先輩たちを見る目が輝かしく、『くるみ割り人形』のクララとハンス・ピーターが若手の登竜門として、どれだけ憧れの役であるかも窺い知れて微笑ましい。
©ROH 2016. Photographed by Helen Maybanks
金平糖の精のヌニェスと王子のムンタギロフはもはや語る必要もないほどの、絶品の煌めき。踊りの見せ場は2幕の最後のグラン・パ・ド・ドゥだけとはいえ、しかしこのグラン・パ・ド・ドゥが輝かしく絶品で感動的であればあるほどに、クララとハンス・ピーターの未来も幸せに満ちたものになることを予感させるのだ。
©ROH, Bill Cooper, 2013
エイヴィス演じるドロッセルマイヤーにもぜひ注目していただきたい。実質物語の根幹を支えるドロッセルマイヤーは影の主役というべき役割だが、出過ぎず、かといって消えることもない存在感が絶妙で、また仕草や表情の一つひとつに哀れな甥への愛情が零れ落ちるようで、さすがエイヴィスと、ただただ唸る。またエイヴィスをはじめ、ダンサーたちの表情や、物語のポイントを抑えるちょっとした場面に向けるカメラワークも巧妙で、何度も観ている『くるみ割り人形』が、実に新鮮なものに感じられる。
© ROH Ph. Johan Persson 2009
幕間に上映される『NELA』は、モノクロの映像だからこそシンプルに、ヌニェスの魅力を伝える。本編の薔薇の精を踊る金子扶生の、華やかさと愛くるしさが一体となった魅力も必見だ。
文=西原朋未
上映情報
『くるみ割り人形』The Nutcraker
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【指揮】バリー・ワーズワース
【出演】
ドロッセルマイヤー:ギャリー・エイヴィス
クララ:アナ・ローズ・オサリヴァン
ハンス・ピーター(ドロッセルマイヤーの甥)/くるみ割り人形:マルセリーノ・サンベ
金平糖の精:マリアネラ・ヌニェス
王子:ワディム・ムンタギロフ
コロンビーヌ:エリザベス・ハロッド
兵士:ポール・ケイ
ヴィヴァンディエール:ミーガン・グレース・ヒンキス
ねずみの王様:ニコル・エドモンズ
アラビア:メリッサ・ハミルトン、リース・クラーク、テオ・ドゥブロイル、デヴィッド・ドネリー
中国:アクリ瑠嘉、レオ・ディクソン
ロシア:ポール・ケイ、ケヴィン・エマートン
葦笛:イザベラ・ガスパリーニ、エリザベス・ハロッド、アシュリー・ディーン、エマ・マグワイア
薔薇の精:金子扶生
薔薇の精のエスコート:ウィリアム・ブレイスウェル、トリスタン・ダイヤー、ベンジャミン・エラ、ヴァレンティノ・ズケッティ
■劇場・期間
北海道 ディノスシネマズ札幌 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
宮城 フォーラム仙台 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
東京 TOHOシネマズ日比谷 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
東京 TOHOシネマズ日本橋 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
愛知 TOHOシネマズ名古屋ベイシティ 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
京都 イオンシネマ京都桂川 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
福岡 中洲大洋映画劇場 2019/2/1(金)~2019/2/7(木)
※上映時間は、公開日が近づいてきた頃に上映劇場へ直接問い合わせを。
公演情報
■NBS公式サイト:https://www.nbs.or.jp/stages/2019/royalballet/