『Living Room MUSICAL』が1周年、今ここにしかない、スターとの特別な時間
撮影:宮川舞子
渋谷道玄坂にある渋谷プライム5階のエレベータを降りると、突如オシャレな邸宅のリビングのような空間が出現する。eplus Living Room CAFE&DININGである。ライブを堪能しながら食事やお酒を楽しめる空間として、様々な企画を発信しているこのカフェで、劇場を飛び出したミュージカルスターたちが集い、歌い踊る!をテーマに不定期で続けられている好評企画『Living Room MUSICAL』が、スタートから早くも1周年を迎えた。
撮影:宮川舞子
日頃大舞台と客席という非日常の関係性の中でしか接することのできないミュージカルスターが、文字通り手を伸ばせば届く距離で、誰もが知る名曲を大迫力で披露する『Living Room MUSICAL』の臨場感には、所謂「癖になる」魅力が満載で、好評を博しながら企画も回を重ねてきた。そんなステージの1周年を記念した今回は、Special Guestに、劇団四季所属時代に『ジーザス・クライスト・スーパースター』『ウェストサイド物語』『コーラスライン』『エビータ』『CATS』等、数々のミュージカル作品に主演し、退団後もミュージカル界に欠かせぬ存在として活躍している久野綾希子。さらに特別出演として、『RENT』『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』『あなたの初恋探します』等、ミュージカルブームが到来している現代のミュージカルシーンを牽引するスターの1人である村井良大、というビッグスターの参加が実現。公演タイトルは『Living Room MUSICAL』~スターのいるレストランvol.8 ぼくがここに。1周年のスペシャル企画に相応しい、2月25日~27日、3日間4ステージの規模での開催となった。
撮影:宮川舞子
■「ぼくがここに!」「やりたいことをやる!」ステージ
ここのところ『Living Room MUSICAL』は、出演者たちがこのCAFEに勤める店員であり、店内のステージのパフォーマ―でもある、という設定らしい。店の「シガレットガールS」との設定の宝塚OG、彩花まり、星乃あんり、伶美うららがまずステージにそぞろ出て「わたしたち宝塚では『花の95期』と呼ばれて、退団後も『花の95期』として見られるけれど、何も『花の95期』になりたくてなった訳じゃないじゃない? ただ宝塚に入ったら95期だっただけで」と嘆きあうところからスタート。宝塚歌劇団105年の歴史では折々にスターが固まって生まれる「当たり年」があり、そのひとつが現在最も注目を集めている95期で、元トップ娘役の愛希れいか、実咲凜音、妃海風から、現役男役でも柚香光、礼真琴などなど次代を担うエースがひしめく大当たり年なのだ。
撮影:宮川舞子
その95期生の一員である彩花、星乃、伶美が「こんなに美しく生まれたくて生まれたわけじゃない」と嘆いている。そう、今回のテーマは自ら選んだのではなく、それぞれが与えられた運命と、生かされている命を全うしましょう、というもの。今回の「店長」荒木里佳が、パフォーマンスの練習かたがた「仮面舞踏会」を歌い踊る男性店員たち大塚たかし、岡本悠紀、荒田至法に「少年隊の真似ではなく自分らしさを出して!」と檄を飛ばしたり、詩人まど・みちおの「りんご」「ぼくがここに」の朗読が挟まれたりと、このテーマが徹底的にフューチャーされていく。「マネージャー」のやはり宝塚OGで元男役スターの十輝いりす独特の、鷹揚な空気感も面白い。
撮影:宮川舞子
その後、「出入りの生花業者」の山田元、ミュージカル『オン・ユア・フィート!』で見事なラテンダンスを披露した記憶も新しいスペシャルダンサーの須藤大迪&髙橋莉湖、特別出演の村井良大が「特別出演の村井本人だと気づかれず、新人バイトだと思い込まれた男性」で加わり、『Living Room MUSICAL』 のテーマソングともなった「Another Day of Sun」が客席も巻き込み盛大に歌い踊られたあとは、テーマに沿って、かつ歌い手がやりたいことをやる!というミュージカルナンバーが続いていく。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
岡本、荒田、山田、村井で『ロミオ&ジュリエット』の「世界の王」の心躍るメロディーが歌い踊られたあとに残った岡本が「僕は怖い」を熱唱。「死のダンサー」として黒のドレスの伶美が絡み、日本版では男性ダンサー、宝塚版でも男役が演じているこの役柄が、そもそもフランス本国では「死」が女性名詞なことから、女性が演じている原点を感じさせて見応えがあった。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
一転して『Ernest in Love』の、とても仲良しの歌から大げんかの歌に発展するのが面白い「はじめて見た時から」を彩花と星乃がキュートに歌うと、大塚が『ジーザス・クライスト・スーパースター』の「熱心党シモン」を大迫力で披露。『Me and My Girl』 の「街灯に寄りかかって」では山田が花屋、十輝が警官になる楽しいお遊びもあって、テーマ曲は荒木と大塚のパワフルコンビでという、サプライズも。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
「やりたいことをやるのよ!」と荒木が宣言するのに笑いが広がったあとは、「新人バイト」に間違われている村井に、彼のこれまでのキャリアである「仮面ライダー」や「テニスの王子様」「きみはいい人チャーリーブラウン」から畳が好きな人のコント、マイケル・ジャクソン風のダンス、ゴミの分別の仕方、人気TV「戦国鍋TV」から「シズガタケの七本槍」、「千々石ミゲル」の再現、ガソリンスタンドのバイトコントなどなどを次々にセンターで披露させるというムチャぶりがあって、客席から爆笑が湧き起こる。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
この空気を変えて『オン・ユア・フィート!』の、つまりグロリア・エステファンの「Anything For You」を、なんとヴァイオリン担当の向江陽子が熱唱!上手いだけにびっくりする中、スペシャルダンサーの須藤&髙橋の見事なダンスが続き、いよいよ久野綾希子が登場。『Living Room MUSICAL』1周年に祝意を述べたあと、『コーラスライン』の「愛した日々に悔いはない」が歌われる。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
「愛した日々に悔いはない」は、舞台に立つ、しかもアンサンブルを選ぶオーディションそのものをミュージカルとして描いた『コーラスライン』の中で、競い合っていた仲間の1人が怪我の為脱落したあと「もし踊れなくなったらどうするか?」との問いかけに、例えこの日々が報われずに終わったとしても、舞台に立つ為に生きた日々に悔いはない、と、全員が歌い上げる作品の根幹を為すナンバーだ。この作品を劇団四季が初演した当時「全てを捨てて生きた日々に悔いはない」という訳詞に、劇団創設メンバーから「全てを捧げ」ではないかとの異議が上がり、けれども実際に舞台に立つメンバーからは「全てを捨てて」でないとやはりしっくりこない、との議論になったというのは、よく知られたエピソードだ。その「全てを捨てて」世代だった久野が、今、ミュージカルと共に歩んできた人生の「全てを捧げ」てこの歌を歌う様には、何物にも代えがたい深いドラマと説得力がある。前半をソロで歌い上げると後半から全員もコーラスで加わり、まさにこの1曲の為に入場料金を払う価値があったと思わせる、素晴らしい歌唱が繰り広げられた。
撮影:宮川舞子
そして、遂に「ぼくがここに」と村井良大が村井として登場してのラストは『ヘア・スプレー』の「You Can't Stop The Beat 」作品のラストに歌われる大ナンバーを、メンバー全員を引き連れて村井が歌う求心力は格別!これぞスター!!の格を見せつけて、熱気に満ちた中、第1部は終了となった。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
■ビッグなプレゼントが続く大ナンバーの花束
この日の各テーブルには岡山県にある社会福祉施設内の「うらやすガラス幸房」の皆さんによる手作りの一輪挿しと、山田元セレクトの生花がそれぞれに個性豊かに飾られ、写真を撮り合う姿も多く見られる中、あっという間の休憩が過ぎ去っての第2部はミュージカル『RENT』からスタート。村井が特別出演している以上、ない訳はないと思っていた『RENT』だが、なんと村井は主演を務めたマーク役ではなく、ロジャー役で登場というビッグプレゼントが! 岡本マークとの「RENT」、ロジャーのソロで「One Song Glory」の後は、岡本がコリンズに、村井がエンジェルに早替わりしての「I'll Cover You」と続き、これは実にレアな嬉しいサプライズになった。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
そこにゴージャスな美女に変身して十輝が登場。宝塚退団後近々に活動を再開したばかりという十輝には、「まさこ様」の愛称が物語る通りのおおらかでのんびりしたテンポが健在。そのまま男性陣とともに「まさこの部屋」と題して、トークが。村井が『RENT』のロジャーとエンジェルがやってみたかったので、とても嬉しく思っているという心境と共に、イジラれ役だった1部の設定にびっくりした、僕を知っている方ばかりがお客様じゃないのでヒヤヒヤしたけれど、と感想を語ると、楽しかったよねとそれぞれが今ハマっているものなど語っている最中に、タイムテーブル通りになんの脈絡もなく「ありがとうございました」で唐突に締めくくる、「まさこ様節」がさく裂して爆笑が。その反応にも涼しい顔の十輝が「カワイ子ちゃんたちお願い!」と振って、彩花、星乃、伶美が色違いの花柄ワンピース姿で登場。『オン・ユア・フィート!』の「1.2.3」が華やかに繰り広げられて、それぞれの十八番とも言えるナンバーが続く。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
まず山田が『リトル・マーメード』のエリック王子のナンバー「あの声」を。「出入りの生花業者」設定だった1部では「王子様と呼ばれるのに飽きた」的な台詞で笑わせていた山田だが、やはりこの王子様感は彼だけが醸し出せる強み。もっと聴いていたいと思える熱唱だった。
撮影:宮川舞子
続いて荒田と彩花で『モーツァルト!』の「愛していれば分かり合える」。良く伸びるソロは荒田のこの日一番のパフォーマンス。彩花のソロも豊かで、互いが歌い込めば更にデュエットとしての精度も上がる可能性を感じさせた。
撮影:宮川舞子
グッと趣が変わって海外ドラマ『glee/グリー』から「Sway」を岡本がスペシャルダンサーの須藤&髙橋と共に披露。ラテンダンスの自在さに負けない岡本の表現が光り、改めて多彩な人だなと感嘆した。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
更に十輝と大塚、岡本、荒田もダンスで加わり、荒木が英語で『ガイズ&ドールズ』の「Luck be a Lady」を。本来男性が歌う楽曲だが、荒木の歌は実にパッショネイト。ソフト帽をかぶって踊る男性に混じって、全く引けを取らない十輝のダンスも堪能できる大パフォーマンスになった。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
その熱気の中に、密やかに登場した久野が『CATS』の「メモリー」を。日本にロングランという概念を根付かせたキャッツ・シアターの出現、日本のミュージカルの歴史にとって確実に『CATS』以前、『CATS』以後と語ることのできるほど重要な意味を持つ作品のオリジナルキャストである久野が、今の久野だからこそ歌える人生を重ね合わせて歌う「メモリー」には、その背景に日本のミュージカル史、更に帰らぬ人となった浅利慶太氏の姿さえもが蘇る。仔猫シラバブのパートはバイオリンソロで奏でられ、誰が踏み入ることもできない領域に達した久野の世界が広がる絶唱に時を忘れた。
撮影:宮川舞子
撮影:宮川舞子
余韻が長く残る中『RENT』の「フィナーレB」を全員で。最後に村井が一端退場していた久野を迎え入れて、カーテンコールでは、ピアノ&バンドマスター伊藤辰哉、ベースの内田大輔、ドラムの坂入康仁、そして大活躍のヴァイオリンの向江のソロパフォーマンスで盛り上がり、アンコールの熱い拍手の中、『オン・ユア・フィート!』の「Conga」を、出演者が客席を練り歩いて披露され、『Living Room MUSICAL』1周年記念公演は幕となった。
撮影:宮川舞子
今回からステージの一部が死角になる客席にはモニターが設置される等、ますます見易さも追求されている『Living Room MUSICAL』。様々な可能性を秘めた企画として更に発展させて欲しいし、その一方で今回久野がいみじくも感想で述べた「とても熱い客席で、まだこの距離感に慣れません!」という、至近距離でスターのベストパフォーマンスに接することができる、この企画がそもそも根本に持っている醍醐味をシンプルに大事にして欲しいとも感じた。スターがいれば、その十八番のパフォーマンスがあれば、何もいらないと思わせるこの距離感だからこそ得られるスペシャル感はやはり格別。是非そんな時間を更に多くとって提供して欲しいと願う1周年記念公演だった。
撮影:宮川舞子
取材・文=橘涼香
公演記録(公演終了)
■日時:2019年2月25日(月)~2月27日(水)
2019年2月25日(月) 18:30開場 19:30開演(※メディア・関係者の撮影が入ります)
2019年2月26日(火) 13:00開場 14:00開演
2019年2月26日(火) 18:30開場 19:30開演
2019年2月27日(水) 18:30開場 19:30開演
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING(東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F)
■出演:
久野綾希子
荒木里佳/大塚たかし/岡本悠紀/荒田至法/十輝いりす/彩花まり/星乃あんり/伶美うらら
山田元/髙橋莉瑚/須藤大迪
村井良大
■構成・演出:岡本寛子
■振付:AYAKO
■構成・演出:岡本寛子
■主催:イープラス/ムジカモモジカ
■共催:イープラス・ライブ・ワークス
■特設ページ:https://eplus.jp/sf/play/lrm