進化を続けながら絶賛上演中の山崎育三郎主演ミュージカル『プリシラ』観劇レポート

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2019.3.26
ミュージカル『プリシラ』

ミュージカル『プリシラ』

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山崎育三郎主演の、ド派手で華麗な衣装を身にまとったドラァグクイーン達が往年のディスコヒッツで歌い踊る大ヒットミュージカル『プリシラ』が、3月9日より日生劇場で上演されている。

演出の宮本亜門も「初日から進化を続けている」と太鼓判をおす『プリシラ』。連日客席を巻き込んで大盛り上がりな本公演の様子をお届けしよう。

舞台は、まだLGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クイア)という言葉が一般的でなかった時代のオーストラリア。シドニーの3人のドラァグクイーンが、大陸の中心に位置する砂漠の街、アリス・スプリングでのショーに出るために「プリシラ号」と名付けたド派手なバスに乗り込み旅に出発する。その途中で起きる様々な出来事や、人々との触れあい、時には辛い差別にあいながらも、それぞれが成長し、“自分のなかの自分”を見つけるまでをドラマティックかつ最高にキュートに描い大人気ミュージカル。

今回の公演ではアダム役、ミス・アンダースタンディング役、シンシア役、ベンジー役がダブルキャストとなっており、筆者の観た回のキャストはアダムが古屋敬多、ミス・アンダースタンディングが大村俊介(SHUN)、シンシアが池田有希子、そしてベンジーが陣慶昭だった。

初演から引き続きドラァグクイーンの主人公・ティックを演じるのは山崎育三郎。実は結婚していて子供もおり、子供の前では良いパパでいなくてはいけないという思いと、自分の中の自分を模索し、苦悩する。山崎は女子が見ても羨ましいと思ってしまうような美しい脚を惜しげも無く披露し、1人だけで22着もあるという衣装をコロコロと変え、一瞬の隙も感じさせない。他のキャラクターに比べて、落ち着いた性格であり、全体を見守るような役でありながら、悩みも多い難しい役どころ。物語が進むにつれ徐々に自分の中にある答えを見つけて行く課程を繊細に表現する。息子に本当の自分の姿で向き合い、語り合うシーンは自身で縛った紐をゆっくりほどき、心を解放するまでを温かく表現している。ショーでは、山崎の魅力である華々しさを存分に発揮し、客席を魅了する。

誇り高きトランスジェンダーのバーナデットを演じるのは陣内孝則。差別や偏見がより厳しかった頃を生き抜いて来たからこその気品と包容力に溢れていた。所作や表情も実に女性らしくかわいらしい。いつも言い合いをしているアダムが、ある悲しい出来事から傷ついて帰ってきた時、バーナデットは優しく自分のガウンをかけて抱きしめた。あの包み込むような温かさは、初演から2年を経ての再演において、もはや陣内にしか出す事の出来ない独特の空気感ではないだろうか。物語の後半繰り広げられる、30年前にバーナデットのショーを見てファンだったと言う男性・ボブ(石坂勇)との恋愛模様は、まさに“純愛”と言う言葉がぴったりだ。ボブに初々しい反応を見せるバーナデットに終始キュンとしてしまう。

そんなバーナデットと新旧ドラァグクイーン対決をしばしばみせるアダムを演じるのが古屋敬多である。演出の宮本が「彼は驚くほどの才能」と評価する古屋は、魅力的な俳優が揃う「プリシラ」でも、圧倒的な存在感を見せつけている。天真爛漫で、自分の気持ちや欲望に素直なアダムは、子供のようでありながら、繊細な心の持ち主だ。登場シーン「Material Girl」では、リアルな女性が登場したかのような華やかな美しさだった。いつも元気にはしゃいでいるアダムだが、時折ふとした陰を見せるシーンでは揺れる感情を丁寧に演じる。パワフルでしなやかな踊りと伸びやかな歌声で、舞台上に1人のシーンでも客席の集中をさらい、舞台上に余白など見当たらない。また、バーナデットに、自分との違いを見せつけるシーンでは片手で逆立ちし、さらにジャンプするという身体能力の高さを見せ、客席からは歓声が沸いた。古屋の確かな表現力を感じる事の出来る圧巻のパフォーマンスにはぜひ注目して頂きたい。

旅する3人のドラァグクイーンを支える周りのキャラクター達もまた個性豊かで魅力的だ。

DIVAを演じる、ジェニファー、エリアンナ、ダンドイ舞莉花の3人は、ぱっと目をひくゴージャスな衣装に身を包み、キュートなダンスと確かな歌声で物語の世界観に誘う。

もう1人のドラァグクイーンのミス・アンダースタンディングを演じる大村俊介(SHUN)は、20センチのヒールを履きこなしキレッキレのダンスを披露する。幕開きから、巧みな話術で客席を巻き込むと、爆笑をさらい一気にプリシラワールドに引き込んでくれる。

30年前バーナテッドのファンであり、バスが故障してしまい困っている3人を助けるボブを演じる石坂勇は、物腰が柔らかく誠実な男性だ。年齢を重ねたからこそ見つける愛の形を、優しく、そして時に初々しく表現している。

ティックの妻・マリオンを演じる三森千愛は、色々な愛の形があるのだという事を教えてくれる。ティックの良き理解者であり、息子・ベンジーとティックにほどよくフラットに接する彼女は優しさと包容力に溢れている。ティックもまた、ドラァグクイーンでありながら彼女を愛している。3人の中には変わらない家族の温かさがあった。

ボブの妻・シンシアを演じる池田有希子は、ぶっとんだキャラクターのシンシアをかわいくセクシーに表現している。移民であるシンシアが、「私の人生は私のもの」と言う台詞はとても印象的だった。彼女の見せるピンポン芸も必見だ。

3人が旅の途中で立ち寄るバーで働いている、シャーリーを演じる谷口ゆうなは、いじめられ本当の自分を表に出せないでいたところ、3人のドラァグクイーンに出会い音楽と踊りで自分を解放していく。本当の自分を見せたシャーリーの表情は、とても幸せそうな笑顔だった。

ティックの息子・ベンジーを演じる陣慶昭は、透き通るような歌声で、父子の関係性を表現する。フィナーレで仮装して出てくるシーンも大変かわいらしい。

公演も折り返し地点を過ぎ、俳優達の仕上がりも最高潮に達している。隣で観ていた演出の宮本亜門も思わず大きな拍手と歓声を送っていた。山崎も「ライブハウスのよう」と表現するように、観客も皆レインボーフラッグを片手に盛り上がり、客席と舞台が一体化している。

涙あり笑いありド派手なショーありの豪華すぎるミュージカル「プリシラ」は、3月30日(土)まで東京・日生劇場にて上演中。

取材・文:一ノ瀬ふみか
写真提供=東宝

公演情報

ミュージカル『プリシラ』
 
■日時:2019年3月9日(土)~30日(土)
■会場:日生劇場
■演出:宮本亜門
■出演:
山崎育三郎、ユナク/古屋敬多(Lead)(Wキャスト)、陣内孝則
ジェニファー、エリアンナ、ダンドイ舞莉花、大村俊介(SHUN)/オナン・スペルマーメイド(Wキャスト)
石坂勇、三森千愛、キンタロー。/池田有希子(Wキャスト) ほか
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