ASIAN KUNG-FU GENERATIONがいま鳴らすロックの形、アルバム『ホームタウン』ツアーを観た
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa
ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2019 「ホームタウン」
今年のアジカンは全国ツアーで日本を2周まわる。前半の3~4月は12本のライブハウス公演、後半の5~7月には23本のホール公演が控えている。それが昨年12月にリリースした最新アルバム『ホームタウン』を引っ提げたツアーになるわけだが、合計35本におよぶロングツアーのうち、2本目にあたる3月18日の恵比寿リキッドルームでのライブを観ただけでも、今回のツアーで彼らが全国に最高の景色を作ってくれることを確信できたのだった。なぜなら、この日ライブからは、結成23年を数えてなおバンドの尽きない衝動、音楽に賭ける夢、ロックへの可能性を信じ続ける強い想いが伝わってきたからだ。以下のテキストでは、そんなリキッドルーム公演の模様を、ネタバレを抑えてレポートする。
Homecomings 撮影=Tetsuya Yamakawa
まず、フロントアクトとしてアナウンスされていた京都発の4人組バンド・Homecomingsのライブからはじまった。アジカンのアルバム『ホームタウン』に収録されている「UCLA」に、ボーカルの畳野彩加がゲストとして参加していることから、今回のツアーへの抜擢はある意味、必然ともいえるバンドだ。SEにのせて、畳野をはじめ、福富優樹(Gt)、福田穂那美(Ba/Cho)、石田成美(Dr./Cho)がステージに登場。1曲目から透明感のある英語詞のメロディと美しいハーモニーが心地好く響きわたった。オルタナティブでありながら、エバーグリーンなそのサウンドには、たとえばアジカンを好きだからその奥にある90年代パワーポップを聴くというふうに、正しくルーツを掘って音楽を聴き漁ってきたがゆえの奥深さがある。「アジカンは中学のときから聴いていたので、光栄です」。ライブ終盤で、畳野がそんなふうに伝えると、日本語詞を交えた「Blue Hour」を披露。憧れの先輩バンドを前にしても、一切気負いや緊張を感じさせない堂々としたステージで会場を温めた。
Homecomings 撮影=Tetsuya Yamakawa
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa
転換を挟んだあとは、いよいよアジカンの出番だ。後藤正文(Vo/Gt)、喜多建介(Gt/Vo)、山田貴洋(B/Vo)、伊地知潔(Dr)に加えて、サポートキーボードのシモリョーがステージに現れると、その瞬間を待ちわびていたフロアから大きな歓声が湧き上がった。東京でキャパ900人ほどのライブハウスに立つアジカンは本当にレアだ。4人が近い。
ライブは『ホームタウン』の楽曲を中心に進んでいった。『ホームタウン』は“パワーポップ”をテーマにしたアルバムだ。それを象徴するタイトルトラック「ホームタウン」をはじめ、何度も繰り返すウォーウォーのフレーズが物悲しさを帯びながら響きわたった「モータープール」、温かいハンドクラップのなかで大らかに“自由”を叫ぶ「レインボーフラッグ」、開放的なバンドサウンドが“新時代”の幕開けを高らかに告げる「スリープ」。いずれも痛快なアンサンブルを鳴らし、ただ全力でロックバンドであることを謳歌するような4人の佇まいは、ベテランの貫禄と呼ぶよりも(いや、もちろん貫禄もあるけれど)、フレッシュで瑞々しい衝動が漲っていて、何より楽しそうだった。「ロックバンドを諦めない」あるいは「アジカンを諦めない」。後藤が自身のブログで明かしているバンドの現在のモードは『ホームタウン』という作品にも如実に表れているが、それはライブでこそ本領が発揮されるものなのかもしれない。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa
MCでは、「もう何周もバンドがまわってるのに“ホームタウン”っていうアルバムを作っちゃってね。今かよ!みたいな感じもしたけど」と、アジカンの歴史を振り返った後藤。先日亡くなったロックンローラー内田裕也の生き方に触れると、「直接つながりはないけど、ああいう先代たちが開拓した日本語ロックというものの川下に僕らはいて。でもああいう太文字のロックにわりと苦しめられたバンドではあるんだよね。“あんなのロックじゃない”って言われてさ。“ふざけんなよ”って思ってやってたけど。そういう反骨心が今でもあって。別に自分がやってるものはロックじゃなくたっていいと思ってる。魂が揺さぶられれば文学でもダンスでもなんでもいい。この年になって、それがいちばん大事だと思ってる」と、穏やかな口調で伝えていた。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa
伊地知と山田が目を合わせて、とびきりの躍動感を生み出した「ループ&ループ」や、希望と不安がないまぜになったエモーショナルな隠れた名曲「夕暮れの紅」、緩やかなシャッフルビートに日々を生き抜く意思を刻んだ「迷子犬と雨のビート」。ライブでは『ホームタウン』からの曲だけではなく、過去曲も披露されたが、そのすべてが滑らかに今のアジカンと地続きだった。シリアスな気配のなかに潜ませる遊び心。滋味深くて余白のある言葉遣い。色褪せない青春性。そういう変わらないアジカン節を抱きしめながら、いまも4人は変わり続けている。イントロが鳴り出した瞬間に悲鳴のような喝采が湧いた「ソラニン」や「Re:Re:」は圧巻だった。大きく波打ったフロアにはアジカンと一緒に年を重ねてきた人も、若い世代もいた。ロックバンドの生き方に正解も不正解もないけれど、常に進化し続けながら、新旧のファンを巻き込んでいけるアジカンの歩みはひとつの理想形だと思う。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa
ライブ中、後藤が“自由に”という言葉を何度も伝えていたことが印象的だった。演奏する前に「自由に楽しんで」と伝えることが多かったのだ。「どんなに嫌だと思っても、いつかは一緒にバンドをできなくなる日は来るわけで。こうやって一瞬一瞬鳴らせる時間は尊いと思う。だから、みんなのも自由に。心と体の振動をウワーッて解放される場所であればと思います」。アンコールでそんなふうに伝えたあと、未発表の新曲として届けた「解放区」が本当に素晴らしかった。美しいピアノの旋律をフィーチャーしながら、ポエトリーリーディングを挟んで、一気に爆発する高揚感。初めて聴いたにもかかわらず、日常生活のなかで疲弊した心を解き放ってくれるようなその曲は、紛れもなく「魂が揺さぶられる音楽」だった。そして、おそらく閉塞感に喘ぐこの時代にアジカンが捧げるメッセージだ。
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa
下村亮介 撮影=Tetsuya Yamakawa
最後に、後藤がライブ中に残した名言を書いておく。
「俺は死ななきゃいいと思ってる。時々、美味しいお刺身を食べたり、音楽を続けられたら幸せ」
アンコールに応えて登場したときにあっけらかんと話した言葉だったが、素敵な年の重ね方をした大人の言葉だと思った。ベテランの円熟と達観を身に着けながら、新人バンドのような情熱をもって走り続けるASIAN KUNG-FU GENERATIONの『ホームタウン』ツアーは、7月まで続く。
取材・文=秦理絵 撮影=Tetsuya Yamakawa
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=Tetsuya Yamakawa