『ムーミン展』が六本木・森アーツセンターギャラリーで開幕 原画やスケッチなど約500点が集う、過去最大規模の展覧会

2019.4.17
レポート
アート

塗り絵 原画 制作年不詳 ムーミンキャラクターズ社

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フィンランドを代表する芸術家トーベ・ヤンソンが執筆し、挿絵を描いた「ムーミン」シリーズ。本シリーズは、1945年に「小さなトロールと大きな洪水」を発表して以来、全部で9つの小説と4冊の絵本が出版された。ほかにもコミックスやアニメ、グッズなど様々なかたちで、今も多くの人々に親しまれている。

会場エントランス

東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の『ムーミン展 THE ART AND THE STORY』(会期:〜2019年6月16日)は、「ムーミン」シリーズの原画やスケッチなど多彩なアートと共に、作者であるトーベ・ヤンソン自身の魅力に迫るもの。

展示風景

約500点の展示品のなかには、銀行や新聞の広告に登場するムーミン一家のイラストや、ムーミン以前にトーベが手がけた雑誌の挿絵なども含まれている。さらに、250点にもおよぶ展覧会限定グッズや、同フロアにある「Cafe THE SUN」とのコラボメニューも見逃せない。

展覧会限定グッズは約250点!

「Cafe THE SUN」のコラボメニュー

約2,000点もの作品を所蔵するムーミン美術館のタイナ・ムッリィハルエ館長は、トーベの人物像について以下のように紹介した。

「トーベは踊ることや飲むことを好み、自然を愛し、尊重していました。特に海が好きで、海のことをよく知っていました。トーベの作品は、年齢や性別、マイノリティに関係なく、世界中で愛されています。本展では、勇敢で才能豊かな女性であったトーベ・ヤンソンの物語もお伝えしたいと思っております」

国内で開催されるムーミン展としては、過去最大規模となる本展覧会の会場より、見どころをお伝えしよう。

左から:ヴィルピ・ニッカリ氏(ムーミン美術館学芸員)、ムーミン、タイナ・ムッリィハルエ氏(ムーミン美術館館長)

プレス内覧会に登場したムーミン

作者の心境が映し出された小説作品

第1章「ムーミン谷の物語」では、9つすべての小説の挿絵やスケッチが展示される。

挿絵 1957年頃 ムーミンキャラクターズ社

スケッチ 1954年頃 ムーミンキャラクターズ社

細かな線の描写をはじめ、柔らかな水彩で描かれた本の表紙や、試行錯誤を重ねた跡が残る数々のスケッチにも注目したい。

左:フィンランド語版表紙 1958年頃 ムーミンキャラクターズ社 右:英語版表紙 1950年頃 ムーミンキャラクターズ社

表紙 1968年 ムーミン美術館

「小さなトロールと大きな洪水」「ムーミン谷の彗星」など、初期の作品について、ムーミン美術館のヴィルピ・ニッカリ学芸員は以下のように解説する。

「初期の小説には、牧歌的で幸せな生活と、災害が差し迫っている恐怖の両方の要素がある。特に最初の2冊の作品は、トーベが第二次世界大戦を経験していることもあり、戦争の恐怖から逃れたいという思いがベースにあります」

挿絵 1946年頃、1968年頃 ムーミンキャラクターズ社

一方、1948年に出版された3作目の「たのしいムーミン一家」は、戦後に書かれた小説なので、内容も明るく楽しいものになっているという。本作は38ヶ国語に翻訳され、トーベの名が世界に知られるきっかけにもなったそうだ。

「世界でいちばんさいごの竜」スケッチ 1962年 ムーミン美術館

さらにニッカリ氏は、1970年に発表された9作目の「ムーミン谷の11月」について、「本作を書く前にトーベの母親が亡くなったことが影響しているのか、少し悲しい内容になっている」とコメント。

「世界でいちばんさいごの竜」スケッチ 1962年 ムーミン美術館

第4章「絵本になったムーミン」では、「ムーミン谷へのふしぎな旅」の原画とスケッチも紹介されている。シンプルですっきりした線画とは異なる、鮮やかな色彩で描かれた作品を楽しみたい。

右:「ムーミン谷へのふしぎな旅」スケッチ 1976年頃 ムーミンキャラクターズ社

政治風刺画から「黒いムーミン」まで 

第2章「ムーミンの誕生」と第3章「トーベ・ヤンソンの創作の場所」では、作者に焦点をあてることで、画家であり、作家やイラストレーターとしても幅広く活躍していたトーベの創作の軌跡をたどる。

展示風景

父親は彫刻家、母親はグラフィックアーティストだったトーベは、幼い頃から芸術に関心を持ち、当初は画家を目指したが、後に小説やイラストを手がけるようになったそうだ。

B.E.コリアンデル “Månens horn(月の角)” 表紙 1943年(後年改作) ムーミン美術館

本展では、1930年から40年代に制作された、ムーミンのようなキャラクターが描かれた作品も公開されている。誰もが慣れ親しんだ白くてふっくらした体型のムーミンとは異なり、色が黒くて赤い目をしたトロール(妖精の一種)は、どこか不気味な印象を与えている。

右:「ガルム」1946年クリスマス号表紙 1946年 ムーミン美術館

トーベは1930年代以降、政治風刺雑誌の『ガルム』や、クリスマス時期限定の雑誌『ルシフェル』のイラストも多数手がけている。『ガルム』に掲載された作品について、ニッカリ氏は、「当時は戦争中にもかかわらず、政治文化的な風刺画で、とても勇敢な絵を描いている」と説明。

「ルシフェル」所収「人生に疲れた会計主任」挿絵 1949年 ムーミン美術館

さらに1960年代になると、J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』や、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』など、ほかの作者の本の挿絵も担当した。

「ホビットの冒険」スケッチ 1962年 ムーミンキャラクターズ社

本章では、トーベの写真や映像も展示され、多方面から作者の魅力に触れられる内容となっている。

展示風景

貴重なムーミングッズや、浮世絵との比較展示も

1954年にロンドンの夕刊紙『イブニング・ニュース』でムーミンの連載漫画が掲載されたことをきっかけに、ムーミンは世界的に有名な存在となった。これを機に、「ムーミン・ブーム」が到来。1950年代以降は、様々なムーミングッズが大量に作られるようになったそうだ。

フィギュア 1950年代 ヨハン・スメッド・コレクション

第5章「本の世界を飛び出したムーミン」では、50年代にはじめて作られた陶製のフィギュアや、アトリエ・ファウニが製作したムーミン人形など、貴重なコレクションが紹介される。

フィギュア ムーミンパパ(アトリエ・ファウニ) 1950年代 ムーミンキャラクターズ社

ほかにも、銀行や新聞の広告用に描かれた作品のスケッチ、トーベの弟と共作したポスター、ボードゲームのパッケージやリトルミイの着せかえ人形など、小説や絵本では見られないムーミン一家と仲間たちの姿を楽しむことができる。

「フォーレニングス銀行」広告スケッチ 1956年 ムーミンキャラクターズ社

左:スウェーデンの環境保全キャンペーンのポスター(ラルス・ヤンソンとの共作) 1970年代 ムーミンキャラクターズ社

ボードゲーム「ムーミンゲーム」パッケージ(左上)、駒(左下)、ボード(右)の原画 いずれも制作年不詳 ムーミンキャラクターズ社

第6章「舞台になったムーミン」では、1974年にオペラ化されたムーミンのポスターや、ムーミンママのハンドバッグをモチーフにした劇場パンフレットなど、ユニークな作品も見つけられた。

「ムーミン・オペラ」ポスター 1974年 ムーミンキャラクターズ社

「ムーミン・オペラ」パンフレット 1974年 ムーミンキャラクターズ社

第7章「日本とトーベとムーミン」の展示室には、1971年と72年に、トーベがパートナーのトゥーリッキ・ピエティラと来日した際の写真やスケッチを展示。

上:日本滞在中のスケッチ 1971年 ムーミンキャラクターズ社、下:「一筆画譜」(葛飾北斎) 文政6年(1823) 浦上蒼穹堂

さらに、「トーベの線の描き方は、日本の浮世絵から影響を受けたと思われるものがあります」とニッカリ氏。展覧会の終盤には、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵とムーミンの挿絵が並び、時代と国を超えたコラボレーションが実現している。

左:「ムーミンパパ海へいく」挿絵 1965年 ムーミン美術館 右:「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(歌川広重) 安政4年(1857) 西楽堂

左:「ムーミン谷の彗星」挿絵 1968年頃 ムーミンキャラクターズ社 右:「冨嶽三十六系 神奈川沖浪裏」(葛飾北斎) 天保1~4年(1830-33)頃 西楽堂

ムーミン展 THE ART AND THE STORY』は2019年6月16日まで。なお、本展の音声ガイドは、人気声優の櫻井孝宏が担当している。展示とあわせて、ぜひ音声ガイドも楽しんでみてはいかがだろうか。

イベント情報

ムーミン展 THE ART AND THE STORY
【東京会場】
会期:2019年4月9日(火)〜2019年6月16日(日) ※会期中無休
会場:森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)
開館時間:10:00〜20:00(火曜は17:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
入館料:一般1,800円(1,600円)、中学生・高校生1,400円(1,200円)、4歳〜小学生800円(600円)
※()内は15名以上の団体料金
 
【巡回予定】
大分展:2019年6月29日(土)〜9月1日(日) 大分県立美術館
名古屋展:2019年12月7日(土)〜2020年1月19日(日) 松坂屋美術館
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