松井玲奈「舞台が一番帰る場所でありたい」 『神の子どもたちはみな踊る after the quake』
松井玲奈
村上春樹の連作短編小説を原作とした舞台『神の子どもたちはみな踊る after the quake』が2019年7月~8月に上演される。5月に上演される舞台『海辺のカフカ』(蜷川幸雄演出)同様に、村上の小説をフランク・ギャラティが舞台化した脚本を使用し、演出は倉持裕が務める。国際派俳優として人気・実力ともに注目を浴びている古川雄輝、舞台と映像の両方で女優として活躍している松井玲奈、『海辺のカフカ』などの蜷川作品をはじめ様々な舞台でその存在感を発揮しているベテラン俳優の木場勝己、蜷川の下で舞台経験を積み、実力派俳優として多方面で活躍中の川口覚、といったキャスト陣にも期待が集まる。
今作は2000年に刊行された村上の短編集「神の子どもたちはみな踊る」より「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」の2作品を取り上げて、一つの舞台作品にしている。この短編集は、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災をテーマにしており、いずれの作品も、直接の被災者ではないが地震によって何かが変わってしまった人々の姿を描いている。
「蜂蜜パイ」のヒロイン・小夜子と「かえるくん~」の看護師役で出演する松井玲奈は、これが約2年ぶりの舞台出演となる。SKE48のメンバーとして2015年まで活動し、以降は役者業をメインに数々のTVや映画に出演しているが、舞台も2016年に『新・幕末純情伝』で主役の沖田総司を演じた他、2017年には鴻上尚史作・演出『ベターハーフ』、串田和美演出『24番地の桜の園』に出演するなど、本数は決して多くないが着実に経験を重ねてきた。そんな松井に、今作にかける思いを聞いた。
松井玲奈
年に1回くらいは舞台をやりたい
ーー約2年ぶりと少し間が空いての舞台出演となります。
本当は年に1回くらいのペースで舞台をやりたいと思っているのですが、昨年は映像のお仕事が多かったので、自分としてはやっと久しぶりに舞台ができる、という思いです。村上春樹さん原作ということで、一番最初に台本を読んだときはやはりちょっと難しいな、と思ったのですが、でも自分が初見で難しいと思ったその感覚を大切に、舞台を観る人に面白いな、楽しかったな、と思ってもらえるような舞台を作っていけたらいいなと思いました。初めて挑戦するようなことがたくさん詰まっている作品なので、自分がまだ行ったことのない場所に行くような気持ちです。
ーー舞台を年1回くらいはやりたい、というのはどうしてそう思われるのでしょうか。
舞台は観るのも出るのもどちらも好きです。アイドルを志したのは、舞台に立つことに慣れたかったという思いからなんです。お客さんの反応がダイレクトに返ってくるのが舞台のよさだなと感じています。舞台は、キャスト、スタッフ、そしてお客さんと、その場にいる人みんなで一つの作品を創るという感覚があります。定期的に舞台をやらないと楽しんだり戦ったりする感覚を忘れてしまいそうな気がするんです。そもそもお芝居をやりたい、と思ったのは、蜷川さんの作品を見て「舞台って面白い、やってみたい」と感じたことがきっかけだったので、舞台が一番帰る場所でありたいな、という思いはあります。
松井玲奈
ーー倉持裕さん演出作品へのご出演は初ですが、倉持作品にはどのような印象をお持ちですか。
『上を下へのジレッタ』と『鎌塚氏、腹におさめる』を拝見しているのですが、その二つともとてもコミカルだったので、倉持さんの作品ってコメディーなのかな、と思っていたんです。でも今作はコメディーとはまったく色の違う作品なので、どのように演出されるのか、すごく楽しみです。
ーー古川さん、川口さん、そして木場さんと、全員が初共演です。どのような稽古場になりそうでしょうか。
古川さんはとても静かな方で、「あまり僕しゃべらないんです」とご自分でおっしゃっていたので、きっと稽古場は静かな感じになるんじゃないでしょうか。多分、日常会話が飛び交うよりも、この作品は深く掘っていけば掘っていくほど面白い発見がどんどん出てくると思うので、そういう話をみんなで交わしながら、いい形に持っていけたらいいな、と思います。木場さんや川口さんには蜷川さんのこととか、舞台のお話しをたくさん聞いてみたいです。
松井玲奈
描かれていない部分をどう埋めていくか
ーー今作は村上さんの小説の舞台化ですが、どんなところが楽しみですか。
村上さんにはファンの方がすごく多いので、作品については、それぞれの方にそれぞれの正解があると思います。それが舞台になったときに、たぶん「自分の正解とは違う」と思う方もいるのかもしれないな、という不安はあるんですけど、でもそこを怖がっているのもよくないと思うので、この座組みんなで作った今回の舞台を、一つの物語として自信を持って上演できたら素敵だな、と思います。小説は小説であり、舞台版は舞台版である、という認識で楽しんでいただけたらうれしいです。
ーーご自身も小説家として今年4月に短編集を出版されました。古川さん演じる小説家の淳平に対して何か思うところはありますか。
古川さんは、少ない言葉数の中で自分が伝えたいことをきちんと伝えている方だという印象があって、言葉を厳選して使っているところが淳平というキャラクターに通じるところではないか、と思います。私自身、自分の中にある思いを言葉にするという作業が、口でしゃべるよりも文字に起こす方が楽しかったりスッキリする部分があるので、淳平が言葉数少なく、本当に伝えたい大事なことをなかなか伝えられずにぼやかしたままにしているところが、だからこそ物語が書ける人なのかな、と感じました。
松井玲奈
ーーご自身が演じる小夜子という役についてはどう思っていらっしゃいますか。
本が好きだったり、思っていることをはっきり口にしなくて、行間を読み取って欲しいタイプなのかな、という部分は自分に似ているなと思ったりもします。村上さんの作品は、読み手に委ねているところが多く、それは読んだときに考える余地があるように作られているのかな、という気がしていて、小夜子についても、淳平の視点での描写というのもあり、細かいことはあまり書かれていません。そこをどう埋めていって、自分が感じている小夜子像をどう形にできるか、というのが楽しい作業ですね。
ーーでは最後に、この公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
沙羅くらいの年齢の子どもがいる母親役は初めてやるので、自分としても楽しみで、どういう女性になるのか見て欲しいなと思います。この舞台に興味を持って見に来てくださる方には、ぜひ原作を読んで来てもらいたいです。そうすれば、より深く作品の中に入って楽しめるんじゃないかな、と思います。
松井玲奈
スタイリスト=佐藤英恵[DRAGON FRUIT]
ヘアメイク=白石久美子
取材・文=久田絢子 撮影=寺坂ジョニー
公演情報
脚本:フランク・ギャラティ(Frank Galati)
演出:倉持裕
会場:よみうり大手町ホール(東京)※ほか愛知公演、 神戸公演あり。
企画制作:ホリプロ