篠井英介と河合雪之丞、2人の女方が新派で競演 六月花形新派公演『夜の蝶』取材会レポート

レポート
舞台
2019.5.8
左から、山村紅葉、篠井英介、河合雪之丞、喜多村緑郎、成瀬芳一(脚色・演出)。

左から、山村紅葉、篠井英介、河合雪之丞、喜多村緑郎、成瀬芳一(脚色・演出)。

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6月6日(木)~28日(金)にかけて六月花形新派公演『夜の蝶』が、三越劇場で上演される。公演に先駆け5月7日、取材会が開催された。登壇したのは、劇団新派喜多村緑郎河合雪之丞、脚色・演出の成瀬芳一、そしてゲスト出演の篠井英介山村紅葉だ。本作の見どころとともに、キャストのコメントを紹介する。

雪之丞、篠井英介と口をきかない宣言?!

舞台『夜の蝶』は、昭和32年に発表され、第一回直木賞を受賞した同名小説(作・川口松太郎)を原作にしたもの。舞台化されたのは、小説の発表と同じ年。物語は、昭和30年代の銀座を舞台に、2人の高級クラブのママがプライドや愛や欲をかけて対立する話だ。

『夜の蝶』あらすじ
銀座随一の高級クラブ“リスボン”には、政治家や財界人が集う。ママの葉子は、このところ、銀座に新しく開店する京都風の高級クラブ“お菊”が話題の中心となっていることが気に入らない。“お菊”のママは、京都からきた舞妓あがりお菊。お菊の銀座での出店を後押ししたのが、大物政治家の白沢一郎だった。


注目は、ライバル関係の洋子とお菊を、新派の女方河合雪之丞と、現代演劇の女方篠井英介が演じる点。

昭和32年の初演では、葉子を初代水谷八重子が、お菊を花柳章太郎が演じた。新派による再演の中では、二代目水谷八重子と坂東玉三郎も演じたという。しかし葉子とお菊を、2人とも女方が演じるというキャスティングは、今回が初めてなのだそう。新派の女方と現代演劇の女方の競演という点も見逃せない。

会見では、河合は「篠井さんとずっと対立する役を勤めます。役に入るため、篠井さんとは稽古場から一切口を聞かないでおこうと思っております」と冗談めかした宣言で、一同を大いに笑わせた。

左から、山村紅葉、篠井英介、河合雪之丞、喜多村緑郎、成瀬芳一(脚色・演出)。

左から、山村紅葉、篠井英介、河合雪之丞、喜多村緑郎、成瀬芳一(脚色・演出)。

昭和の名作が、令和にリンクする

時代は昭和の前半。「高度成長期に向かっていく時代。物事がスピーディーに変わっていく時代」だったと、成瀬氏はいう。新派の演目は、それまでお茶屋や芸者衆の世界を扱うことが多かった。しかし時代の流れにいち早く反応した劇作家の川口松太郎は、『夜の蝶』により「スピーディーに飲んで遊べるバー文化」を新派の演目に取り込んだのだそう。

小説の発表から60年以上がたった。成瀬氏は、今回の再演にあたり、時代設定をわずかにずらしたという。具体的には、昭和32年頃だったものを「昭和34~35年」へ変更し、東京オリンピック間近という設定に変えた。これにより、劇中の時代と令和元年の現在を、リンクさせるという試みだ。

さらに「マダムの対決だけでなく、男性社会の対立も含めて、新たに書き直しました。原作と変わった中にも、新派という集団の独特の空気感も織り交ぜながらみていただける作品ができれば幸いです」と見どころを語った。

成瀬芳一(脚色・演出)

成瀬芳一(脚色・演出)

緑郎が演じるのは、政治家の白沢一郎。葉子とお菊が、とりあう男性だ。

「平成をまたぎ、昭和の作品となれば、いまや新派の古典といえるのではないでしょうか。その古典を洗い上げ、いまに通ずる新しいお芝居にという試みは、僕や雪之丞が普段考えている古典の掘り起こしとも言えます」「新派の歴史の中で、令和最初、節目の公演に出演させていただけることには、うれしさと同時に、責任を感じます」

篠井とは初共演。篠井が演じるお菊とのラブシーンもあるのだとか。

喜多村緑郎

喜多村緑郎

雪之丞は、リスボンのマダム葉子を演じる。

実在の人物がモデルとなった役で、雪之丞は、とある銀座のお店でその人物を知る方に、話を聞くことができ「近しい感情を得た」という。雪之丞もまた、篠井とは初共演。「女方二人で、葉子とお菊を演じるのは、初めてのことです。皆さんには新しい『夜の蝶』をご覧いただけるのではないでしょうか」と呼びかけた。

河合雪之丞

河合雪之丞

山村紅葉が演じるのは、お菊とともに京都から銀座へ出てくるお春。原作よりもコミカルなキャラクターに脚色され、金庫番のような女の人になるのだそう。母(山村美紗)が元気だったころから、祇園にはよく足を運んでいたという。

「祇園と銀座にはずいぶんお金をつぎ込みました。それがやっと生かせる! ただ飲んでいただけじゃないよ、と皆に言えると思うとちょっと嬉しい!」と声を弾ませ、笑いを誘った。

劇中の時代への印象を問われると、「むかしは女優の世界においても、女優同士がしょっちゅう一緒に食事したりお酒を飲むなど、人間関係がとても密でした。その分ライバルへの嫉妬心も強く、「あの人には負けないように」とお互いに切磋琢磨しました。そのような、昭和のある種の良い部分、よき昭和の濃い部分が、この作品に描かれているように思います」

「口をきかない」宣言をした雪之丞に対し、「仲良くしてください!」と切り出したのは篠井英介。新派の公演には、初めての参加となる。

「むかしから歌舞伎、新派、文楽と古典が大好きでした。憧れをもって上京しました。そんな新派に、小劇団出身の僕が女方として呼ばれ、雪之丞さんや喜多村さんたちとご一緒できる。長生きすると、すごいことが起きるものだなと思っています」「令和になり、新派でこの作品を、不思議な組み合わせでみられる。演劇好きの方には、かなり面白味のある出来事では」と呼びかけた。

よき昭和の濃密な部分を描き出す

雪之丞は、『夜の蝶』の時代のイメージを次のように語る。

「みんなが一丸となり前進し、経済が発展していく時代だったのだと思います。その発展に欠かせない社交場が、銀座だったのではないでしょうか。昭和32年当時は、銀座そのものが大きくなっていく最中。銀座もまた、社会と一緒に大きくなっていた頃だったと聞きます。そのような雰囲気を、舞台でも味わっていただければ幸いです」

さらに雪之丞は、自身の母親が、銀座でバーをやっていたことがあったのだそう。

「芝居が終わると毎日のように立ち寄り、そこからお客さまに連れられてクラブにもいきました」「(当時からの縁もあり)いまママさん、ホステスさんたちが、銀座をあげて舞台『夜の蝶』を応援してくれている雰囲気を感じています。その方々の期待にこたえたい」と意気込みを語る。

山村は、テレビや電話が普及しはじめのエピソードを母・山村美紗から聞いていたことから、「『夜の蝶』の時代は、よき昭和、皆が新しいことに向かう、夢と希望に溢れた時代」とイメージする。

「オリンピックを前に元号も変わり、いまの私たちにも、これから明るい素晴らしいところに向かっていくんだという勢いがあります。お芝居の設定は昭和ですが、いまも共通するエネルギーを感じていただければと思います」

女の戦いの中にも、情愛・情感を

記者説明会と同じ日、キャストたちは初めて台本の読み合わせをしたという。篠井はそこで、あらためて気づいた新派の良さ、新派らしさを、「情愛」「情感」という言葉で表現した。

「明治、大正を舞台にした新派のお芝居をみた時に、その時代を生きたことがなくても、懐かしさを感じたり、胸が締め付けられる気持ちになったりします」「『夜の蝶』は、女の戦い、男たちの政治といった人間たちの、生きざまを描き、きつく言い合ったり嫌味を言い合ったりもする。それでも新派らしさを感じられるのは、個々の芯に情愛があるからだと思いました。白沢は彼なりに女たちを愛しているし、お菊とお春は姉妹のような関係性。それぞれの交流の中にあたたかい血が流れている。そこに愛おしさを感じられる」「人間って愚かでかわいいな、やさしいもんだな、と心に響けば、新派らしいお芝居になっていくのではないだろうかと思いました」

篠井英介

篠井英介

取材会の最後、「夜の銀座での武勇伝は?」との質問があがった。雪之丞と紅葉は、ともに銀座でお酒を飲む仲だというが、紅葉が「このような場で喋れるような、可愛い武勇伝はございません。ごめんなさい」とチャーミングな回答で切り返し、一同の笑い声の中、取材会は締めくくられた。

会場となる三越劇場では、回り舞台による演出を予定しているのだそう。劇中の女の戦いはもちろん、ルーツの異なる2人の女方の競演も見逃せない。六月花形新派公演『夜の蝶』は、6月6日~28日までの上演。

左から、山村紅葉、篠井英介、河合雪之丞、喜多村緑郎。

左から、山村紅葉、篠井英介、河合雪之丞、喜多村緑郎。

公演情報

六月花形新派公演『夜の蝶』
 
■日程:2019年6月6日(木)~28日(金)
 
■原作 : 川口松太郎
■脚色・演出 : 成瀬芳一
■出演 : 喜多村緑郎、河合雪之丞、瀬戸摩純/山村紅葉、篠井英介
■会場:三越劇場
 
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