世界遺産・元離宮二条城を舞台に京都で初開催 『artKYOTO』がキックオフ
左から來住尚彦(一般社団法人 アート東京 代表理事)、渡邉隆夫(京都府中小企業団体中央会 会長/西陣織工業組合 理事長)、門川大作(京都市長)、佐々木丞平(京都国立博物館 館長)、近藤誠一(公益財団法人京都市芸術文化協会 理事長/元文化庁長官)
『artKYOTO』は、世界のアートシーンを牽引すべく、世界遺産・元離宮二条城を舞台に、古美術から現代美術までの厳選された出展ギャラリーがそれぞれの審美眼に基づいたアート作品を展示・販売する国際的なアートフェア。令和3年に文化庁が京都府に全面移転することもあり、京都の地で歴史を踏まえながらも、新たな視点で社会の価値を生み出すアートにおいて、鑑賞から所有まで、さまざまな体験を提供することが狙いである。9月の開催に伴い、6月4日(火)、「artKYOTO実行委員会」が設立され、京都経済センターにて記者発表が行われた。実行委員長の門川大作氏(京都市長)、実行委員の近藤誠一氏(公益財団法人 京都市芸術文化協会理事長・元文化庁長官)、佐々木丞平氏(京都国立博物館館長)、渡邉隆夫氏(京都府中小企業団体中央会 会長・西陣織工業組合理事長)、そして総合プロデューサーを務める一般社団法人 アート東京 代表理事の來住尚彦氏が登壇しトークを繰り広げた。その模様をレポートしよう。
記者発表の様子
世界遺産での作品鑑賞だけでなく、購入もできるアートフェア
まずは実行委員長の門川市長が挨拶。「京都の最大の都市促成は文化芸術であり、ものづくり。それを基盤にして人や芸術が育つ、そんな街であると思っています」と述べ、『artKYOTO』について「二条城の重要文化財において、工芸から日本画、現代アートまで多彩な作品を出展いただき、鑑賞だけではなく購入もできる、今までなかった事業」と語った。
門川大作 京都市長
また、続けて2017年度のアート市場における日本のマーケットが、世界では6.75兆円なのに対し、日本は3%程度の2,437億円であることに触れ、「我が国のアーティストが豊かな暮らしができていないのは、市場が豊かでないことが大きな要因だと思います。市場を作ることで芸術家がいきいきと創造的な活動をされ、暮らしも豊かになり、そういう姿を見て芸術を志す人が増え、裾野が広がっていく。そのために『artKYOTO』を大成功させたい。よろしくお願いします」と意気込みを述べた。
京都でアートフェアを行うことの意味
続いては、登壇者5人によるトークセッションが行われた。
記者発表の様子
『artKYOTO』が開催されることになった経緯は、2年前に來住総合プロデューサーが門川市長に声をかけたことがキッカケ。「京都には暮らしの中に文化があり、季節ごとに掛け軸やお茶菓子が変わる。生活に根ざしたものがアート作品に昇華している部分がある。それが『artKYOTO』の根幹」と來住氏。
來住尚彦 一般社団法人 アート東京 代表理事
今回『artKYOTO』に出展する30のギャラリーのうち、3分の1が京都のギャラリー。そのため掛け軸やお茶道具など、古美術の割合が増える見込みがあるという。出展ギャラリーの選定に関しては、「京都らしさは京都の人に聞くのが1番」とのことで、來住氏自らギャラリーに出向いて話をした上で、出展するギャラリーを決定したそうだ。
東京と京都で開催することの違いや、フェアの継続性については、「『アートフェア東京』と『artKYOTO』は全然違うものであるということが、やる意味だと思う。次年度以降は京都らしさを作り続けないと継続は難しい。東京とは違う場所なので、研究しながら徐々に京都の特色も出してゆこうと思う」と來住氏は語った。それに対し近藤理事長は「京都と東京の違いは、“雅と粋”の違い。古い雅と粋ではなくて、“明日の雅と明日の粋”。それが何かを追求することで、違いが出てくるのではないか」と述べた。
近藤誠一 公益財団法人 京都市芸術文化協会 理事長・元文化庁長官
また、9月1日(日)〜7日(土)に日本で初開催されるICOM(国際博物館会議)と時期が重なったことについて、佐々木館長は「世界中からICOMの会員3,000人が京都に来られる。会議が主体だが、それだけではなく、最先端の京都の姿を見たい、体験したいという方がほとんど。この『artKYOTO』では、古代から現代までの文化芸術要素が見れる、ジャンルを問わないあらゆるものが結集する機会。大きな刺激の場になることは事実なので、ICOMの会員にも見ていただきたい。期待しています」と述べた。
佐々木丞平 京都国立博物館 館長
来場者数1万人、売上目標は5億
この日、トーク議題としてたびたび上がったのが、文化と経済の結びつきについて。『アートフェア東京』では今年29億円もの売上を達成したが、今回のフェアの売上目標は5億円。
近藤理事長は「買っていただくことで経済活動が循環することが重要。ただ美しいものを鑑賞するだけでは、文化は失速する。経済活動が基盤にならないと発展していかない。文化と経済が良い形で車の両輪として回っていくことが大切」と述べ、渡邉会長は「なんでも買えという話ではなくて、買ってどれだけ楽しい生活が送れるかが大事」と、文化がもたらす潤いについても言及した。
渡邉隆夫京都府中小企業団体中央会 会長・西陣織工業組合 理事長
門川市長は「文化芸術に関わってきた方、世界で活躍してきた方と、京都の誇るべきものづくりを融合して、しっかりと価値を認め合い、購買もしていただく。そのことで、伝統産業やものづくり、文化芸術に献身される方が次の創造に専念でき、次世代につながっていく。ぜひ良い循環のスタートにしたい」と締め括った。
トークの様子
最後に、登壇者による鏡開きが行われ、記者発表は終了した。
鏡開きの様子
アートで「稼ぐ」ということ
その後別室で、佐々木丞平 京都国立博物館館長と、來住尚彦 プロデューサーの対談が行われ、日本のアートにおけるマーケットの考え方に触れた。
來住尚彦 一般社団法人 アート東京 代表理事と佐々木丞平 京都国立博物館 館長の対談
「日本には文化は経済と直接関係がなく文化で金儲けするのは、はしたないんじゃないのという既成概念がずっとある。でも生き死にの問題なんですよね。言葉が適当かわからないけど、今のミュージアムでも「稼ぐ」ということが必要になっている。10年前の美術館と今の美術館は随分違う。稼ぐためには人に来てもらわないと。その認識がまだ皆さんに定着していない。働く人の意識改革が必要。これからのミュージアムは、経済のことを考えないといけない局面にきている。従来のやり方で維持できるものはキープした上で、経済的な点を取り入れて変えていく。ただそこが逆転してはいけない」と佐々木館長。
來住尚彦 一般社団法人 アート東京 代表理事と佐々木丞平 京都国立博物館 館長の対談
來住氏は「そこは尊重しないといけませんね。文化=時の流れ。時の流れが文化を醸成していると思っている。時を刻むために経済活動をしないといけないのは当たり前だけど、日本人は呑気すぎる。ルーブル美術館は王様が作ったけど、どんどん変遷して世界屈指の美術館になった。そこには数々の経済活動やミッションがあった。経済活動がないと文化を支えられないし、文化がない経済活動は本当に意味がないと思う。文化と経済活動のことは常に議論していかなきゃいけないと思っています」と述べた。
『artKYOTO』は2019年9月7日(土)〜9日(月)世界遺産の元離宮二条城で開催される。
取材・文=ERI KUBOTA 撮影=高村直希