『未来和樹 SINGS HEART LIVE 2019』~さらなる“未来”が見えた充実のソロライブ
未来和樹
2019年7月14日(日)までミュージカル『オリヴァー・ツイスト』でタイトルロールを務めていたのが、未来和樹である(山城力とダブルキャスト)。彼・未来の活躍ぶりは、先日のSPICE記事 でも紹介した。なお、同公演は9月14日(土)~9月16日(月・祝])に兵庫県の兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールでも開催されることが決まっている。
さて本日は、そんな未来の活動を少し過去まで遡り、2019年5月18日(土)と19日(日)に東京・eplus LIVING ROOM CAFE&DININGでおこなわれた『未来和樹 SINGS HEART LIVE 2019』のレポ―トをお届けする。
2017年、ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』日本版が、東京と大阪で上演されたことは記憶に新しい。旋風が巻き起こり、16万人もの観客を動員、菊田一夫演劇賞大賞や読売演劇賞選考委員特別賞を受賞した。この舞台でタイトルロールのビリーを演じたのは5人の少年。その中の一人で、張りのある美声で注目を集めた当時15歳の中学生が、未来和樹(みらいかずき)だった。
その『ビリー・エリオット』から約1年半を経て、この4月で17歳となった彼が、変声期後の初となるソロライブを迎えたこの日(筆者が観たのは19日のステージ)、会場には、その姿を一目見ようと多くのファンが集まった。は早々にソールドアウトとなっていた。
ゲストには、吉岡花絵(よしおかはなえ)、古賀瑠(こがるいと)、Theater Dance Unit COCOを迎え、ピアノ演奏は岡井麻理子が務めた。『ビリー・エリオット』でビリーの親友マイケル役を演じた古賀は東京公演のみのゲストで、大阪ではやはりマイケル役だった城野立樹(しろのりつき)がゲスト出演している。
満員の客席の前で全19曲が披露されたライブ。1曲目には6月7日に実写版が公開されることでも話題の『アラジン』より「理想の相棒-フレンド・ライク・ミー」でゲストの古賀瑠が登場。『ビリー・エリオット』で共演した二人が、「こんな良い相棒ほかにはいないのさ」と再び背中を合わせた。その後も時折見覚えのあるタップダンスや『ビリー・エリオット』ネタを盛り込みながら観客を沸かせ、「フィニッシュ!」と華やかにオープニングを彩る。
未来和樹&古賀瑠
未来和樹&古賀瑠
未来和樹&古賀瑠
続くナンバーには、未来自身のピアノの弾き語りで歌う曲あり、17歳のセレクトとは思えない懐かしの昭和歌謡曲あり、「いつか本当の舞台で歌えたら」と前置きした憧れのミュージカルのナンバーまで、情感たっぷりに熱唱。
中でも、2013年のミュージカル『アニー』で主役を演じた吉岡花絵とのデュエット「プリュメ街~心は愛に溢れて」(『レ・ミゼラブル』)は、17歳の未来と18歳の吉岡が魅せたきらめきと無限の可能性に、ミュージカル界の“未来”は明るいと確信させるような説得力のあるパフォーマンスを披露した。
吉岡花絵
左から、吉岡花絵・未来和樹
曲の合間のトークでは、「今回のライブを構成・演出するにあたって気付いたんですけど、どうやら僕って異常にこだわりが強いらしいんですよ」と話すと客席のほぼ全員が頷いて笑いが起こるなど、未来の愛され力が炸裂。会場は温かい空気で包まれていた。
休憩をはさみ、第二部。未来と古賀が二人で「ミー&マイ・ガール」(『ミー&マイ・ガール』より)を楽しくデュエット。貴族の御落胤ビル役は未来が、恋人の町娘サリー役は古賀がそれぞれ務めたのだが、「ビリー」ファンに嬉しい小ネタ&古賀の可愛らしさはここでも炸裂。直前まで「勝手にしやがれ」を歌っていた未来のもとに古賀が赤いチェックの衣装を持って駆け寄ると、「脱いで!」「うーーで!」と促す。そして「なんか気付かないのぉ?」と未来に迫ると、「何、何?」とおどける未来に「もぉ~、サプラーイズ!」とちょんまげ頭につけたリボンを見せる。と、そこには「カズキ」の文字が! どこか懐かしい、茶目っ気たっぷりの親友コンビの掛け合いだったのであった。
未来和樹&古賀瑠
未来和樹&古賀瑠
未来和樹&古賀瑠
かと思えば、未来がひとり弾き語りでしんみりと聴かせるBilly joelの名曲「Honesty」も印象深かった。歌詞が英語ということもあり「最近歌詞についてよく考えるようになりました」と語る。そんな中、「続いて披露する曲の歌詞は、ビリーになるために必死に戦っていた15歳の当時の僕からの手紙のように思えて、ちょっとドキッとしたんです」と紹介して歌い始めたナンバーはアンジェラ・アキの「手紙~拝啓 十五の君へ~」だった。
当時『ビリー・エリオット』のタイトルロールの中では最年長の15歳で選ばれた未来は、成長期とともに訪れる自身の変化にとても苦しんだことだろう。変声期を終え、新しい声に生まれ変わった今まっすぐに「自分の声を信じ歩けばいいの」と歌う未来の姿を見て、客席には涙する人も多く見受けられた。
第一部で「命をあげよう」(『ミス・サイゴン』より)、第二部で「No One Else」(『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』より)と、いずれも絶品のソロを聴かせた吉岡花絵とは、今一度『レ・ミゼラブル』から、今度は「夢やぶれて」と「On My Own」のミックスアレンジを二人で歌い、実力派同士のデュエットの凄みを改めて観客の心に刻み込んだ。また、Coco Dance Company オリジナルダンス「Le Jazz Hot」(『Victor/Victoria』より)では、ダンサー未来和樹として、かつて熊本で一緒に踊っていたTheater Dance Unit COCOと華麗に共演。ここでも彼の多彩なエンターテイナーぶりを証明してみせた。
未来和樹・吉岡花絵
ライブの終盤では「僕はずっと、こうしてお客様と近い距離でライブをすることが夢でした。この半年間、構成から演出から振り付けまで大変な毎日でしたが、こうしてお客様の笑顔を見ることが出来て本当に良かったと思います」と振り返る。最後には、本日の共演者が勢揃いする中、憧れの槇原敬之の「僕が一番欲しかったもの」を満面の笑みで熱唱する未来にあたたかい拍手が送られていた。
ミュージカル『オリヴァー・ツイスト』でも大活躍だった未来和樹。そんな未来和樹の“未来”に今後も期待したい。
左から吉岡花絵、未来和樹、古賀瑠
<第一部>
M1:「理想の相棒-フレンド・ライク・ミー」(『アラジン』より)※with古賀瑠、Theater Dance Unit COCO
M2:「残酷な人生」(『モーツァルト!』より)
M3:「命をあげよう」(『ミス・サイゴン』より)※吉岡花絵ソロ
M4:「桜坂」※with吉岡
M5:「プリュメ街~心は愛に溢れて」(『レ・ミゼラブル』より)※with吉岡花絵
M6:「僕こそ音楽」(『モーツァルト!』より)
M7:「Cinema Italiano~Coco Dance Company オリジナルナンバー~」(『NINE』より)
M8:「ヨイトマケの唄」
休憩
<第二部>
M9:「勝手にしやがれ」※with Theater Dance Unit COCO
M10:「ミー&マイ・ガール」(『ミー&マイ・ガール』より)※with古賀瑠
M11:「夏の終わりのハーモニー」※with吉岡花絵、未来はピアノ&ヴォーカル
M12:「Honesty」※未来はピアノ&ヴォーカル
M13:「手紙~拝啓 十五の君へ~」
M14:「情景~ピアノソロ~」(チャイコフスキー『白鳥の湖』より)※岡井麻理子ソロ
M15:「Le Jazz Hot~Coco Dance Company オリジナルナンバー~」(『Victor/Victoria』より)※未来もダンス
M16:「No One Else」(『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』より)※吉岡花絵ソロ
M17:「夢やぶれて」×「On My Own」(『レ・ミゼラブル』より)※with吉岡
M18:「陽ざしの中へ」(『ノートルダムの鐘』より)
M19:「僕が一番欲しかったもの」※全員
(5月18日はM11が「Yesterday Once More」、M12が「道化師のソネット」)
取材・文=島崎あさみ
写真撮影=安藤光夫