ピンク・リバティ新作『煙を抱く』上演記念、主宰の山西竜矢が福原充則と特別対談
左から福原充則、山西竜矢
昨年上演した『夕焼かれる』が各方面から高評価を得たピンク・リバティ。主宰の山西竜矢は元お笑い芸人で、劇団子供鉅人に俳優として在籍する経歴の持ち主。短編映画『さよならみどり』が第6回クォータースターコンテストでグランプリを獲得するなど、活躍の場を広げている。7月9日に幕を開ける『煙を抱く』の稽古開始前、山西たっての希望で福原充則との対談が実現した。小劇場や商業演劇のみならず、映像分野での脚本も多数手がける福原。山西の憧れる先輩作家との演劇問答が、なごやかなムードのなか繰り広げられた。
◆きちんと構成を組み立てる
――おふたりが最初に会ったのはいつのことですか?
山西 直接お会いしたのは、昨年上演した『夕焼かれる』の終演後ですね。その前にクォータースターコンテストという短編映像作品を審査する大会にエントリーして、『さよならみどり』でグランプリをいただいたとき、福原さんが審査員のおひとりでした。褒めてくださったことを知って、それから福原さんが好きになりました(笑)。
福原 ははは! その理由がいいね。授賞式はあったはずだけど、なんであのとき行かなかったんだろう。
山西 審査員のみなさんはコメント映像で登場されていて、式にはいませんでした。
福原 そうだった。選考会で審査員が集まることもなかったし。だから、映像を先に観ていて、舞台を観たのが少しあとのことだったんだね。実は、まだ子供鉅人を観たことがないんです。ずいぶん前からいろんな人に薦められているんだけど、タイミングが合わなくて。ほら、関西から来た劇団の人たちって怖そうじゃない?
山西 怖くないです(笑)! みんな優しい人間ばかりですので!
山西竜矢
――『夕焼かれる』をご覧になった感想は?
福原 すごく面白かったです。映像を観たときの印象もそうなんですけど、構成がしっかりしていて……。今、いくつでしたっけ?
山西 29歳です。
福原 若い人のなかには、構成なんて興味がなくて、あまりしっかり組み立てない人もいるじゃないですか。構成をしっかりやるほうがむしろバカにされるみたいなことがあるでしょう。
山西 (笑)
福原 きちんと構成を組み立てることは意識していますか?
山西 はい。もともと、お笑い芸人をやっていたときに、尊敬する芸人さんに形式や構成にこだわってらっしゃる方が多くて。短い時間で笑いをとるという明確な目的があるからだと思うんですが、舞台の上に立つことを始めた最初の時期にそういうところにいたのもあって、壊すなら本来の基本的な構成ができるようになってからだという気持ちは強いです。あと、演劇を始めてからずっとそばで見ていた子供鉅人主宰の益山貴司も構成にすごくこだわる人なので、その影響も大きくあります。
福原 僕はきちんと構築したものをわざわざ壊すということに面白さを感じるので。シベリア少女鉄道の土屋(亮一)さんの壊し方とか憧れます。呆れながら(笑)、憧れる。
山西 とらわれ過ぎるのはもちろんダメだけど、構成をしっかりすることはいい壊し方ができる土台にもなると思うので。これからも意識していきたいなと思います。
福原充則
◆自分の個性からは逃れられない
福原 僕はどうやって芝居を書いたらいいのかわからないまま脚本を書き始めたんです。あまりにわからなくて、30歳を過ぎたあたりにシナリオの書き方の本とか買いましたからね(笑)。要するに、感覚だけでやっていたんですよ。
――基礎が大切なんですね。無手勝流には限界があるというか……。
福原 ミュージシャンは楽器を演奏するじゃないですか。どこをどうすれば音が出るのかっていう楽器の仕組みをわかってますよね。なのに僕はどこをどうすれば〝お話〟になるかわからないまま、脚本を書いていたので。構成大事!
山西 僕、『こそぎ落としの明け暮れ』がすごく好きで。「なんで?」と聞かれるとうまく答えられないのですが……。
福原 えーっと……、いきなり矛盾したこと言いますけど、『こそぎ落とし~』は全然、構成とか考えないで書いたの。構成無視!
山西 (笑)。これだけ構成の話をしておいてあれなんですけど、確かに『こそぎ落とし~』はそういう部分とは違うところで好きな作品です。登場人物がみんな明るいけど、どこかしんどそうで……。しんどそうな人たちが出てくる芝居が好きなんです。「僕もそうやで」みたいな気持ちになって、泣けてくるというか……。話が変わるんですが、福原さんがどうやって台本を書くのかが気になります。たとえば、書く場所にはこだわりますか?
福原 そんなにこだわらないけど、今は仕事場を借りているんですよ。シェアオフィスみたいなところです。パーテーションで区切られていて、ひとりあたりのスペースは狭いんだけど、フロアはやたら広いの。会議室もあるし24時間使えるのはいいんだけど、遅い時間は広いフロアで僕ひとりになるんです。夜は暗くなって怖いんだよね(笑)。今、人が死ぬドラマを書いているから、なおさら怖いんだよ。結局、夜はファミレスに移動して書くことが多いかな。どこで書いているの?
山西 家です。家では書けないなと思って外に行ってみたところ、別に外でも書けないときは書けないことがわかって、場所の問題じゃないなと(笑)。最近はキッチンの狭い机で、どうやっても眠ってしまえないところで書くようにしています。
福原 家で書けるのはすごいね。雑音は気にならない?
山西 集中していると大丈夫です。僕自身がすごいおしゃべりなので、他人の声がやかましいとは思わないです。
福原 えっ、おしゃべりなの? そんなふうに見えないよ。(公演のチラシ裏にある山西の写真を見て)ほら、すごく閉ざした人の表情じゃない? たまにしゃべると他人の悪口しか言わないヤツに見える(笑)。
山西 よく言われます(笑)。
福原 飄々とした感じで人を殺す役とかできそうだもんね(笑)。
山西 でも、よくしゃべるという点は意外に思われるのですが、悪口は実際結構言っていると思います。なんなら一番好きかもしれない(笑)。
福原 飄々としている部分は自分でも意識して出しているところがあるでしょう。こないだの芝居の冒頭で、オープニングの挨拶をしていたよね。あのときもシニカルな感じでさ。「僕、シニカル」みたいな(笑)。
山西 あの、ホントに芝居、楽しんでいただけましたか(笑)。
福原 もちろん面白かったよ(笑)。でもそういうシニカルな部分は、もとから持っている資質であり、魅力だと思う。それを出していいし、みんな自分の個性からは逃れられないしね。「背が高い」とか「巨乳」という個性と同じ。
ピンク・リバティ第四回公演『夕焼かれる』より(撮影:佐藤祐紀)
◆“風情”で芝居を書きたい
――山西さんは、執筆の前から公演タイトルを決めることが多いそうです。福原さんもタイトル決定は早いですか?
福原 キャスティングのときに決めておくことが多いですね。まずタイトルで興味もってもらってオファーを前向きに考えてもらう、という……。あと今の時代、検索されやすさも考えて造語にするとか。『夕焼かれる』、いいタイトルですね。
山西 ありがとうございます。
福原 僕はタイトルマニアなんです。猫ニャーのときのブルー&スカイさんのタイトルはどれも好きだったなあ。特に『弁償するとき目が光る』とか!、あと動物電気の『タッパー!男の器』とか!
――今度の『煙を抱く』は、どういう話なんですか?
山西 失踪した奥さんを主人公が探すロードムービーのようなものになります。人が人を探していく過程でどんどん捜索の対象や存在が曖昧になり、次第に何を探しているのかに靄がかかっていくような話にしたいなあと。今回は“風情”に重きを置きたいんです。どれくらいうまくいくかわからないですが、「自分は今こういうことを思っています」というところをできるだけ正直に、曖昧なことは曖昧なままの質感で、風情として表明したい気持ちがあって。もちろん観に来てくださった方が楽しめるようなものをつくるというのは大前提なんですけど、これまでより余白の大きい作品になると思います。
ベッド&メイキングス第6回公演『こそぎ落としの明け暮れ』より(撮影:露木聡子)
◆作品を手がけるうえで持つべき「芯」
――今日は、山西さんから福原さんに聞きたいことを考えてきてもらいました。この機会に、質問があれば……。
山西 福原さんは、作品を手がけるとき何から考えますか? たとえば『こそぎ落とし~』にしても、どのパーツを最初に書くのかなど、知りたいです。
福原 僕のこれまでのことを先に話すと、劇団を始めたのは27歳のころなんです。それまでは役者をやっていたけど、下手すぎてお客さんからお金もらうのが心苦しくて。でも、やめるふんぎりもつかないし、ならば演劇を全部やりきろうと思って、役者をやめて、作と演出を始めました。大学を卒業してから3年か4年経っていた時期ですけど、若いころの3年は、永遠のように長いから。
山西 僕も最初は役者だけをやっていて、ピンク・リバティで書き始めたのが26歳のころです。
福原 その後もゴキブリコンビナートでだけは役者として出させてもらってたんですけど、それは「死ぬかも」ってくらい身体を張る芝居だったから、ここまでやったら少しはお金をもらっていいだろうと思っていました。自分が作・演出するようになって、だんだんと、微力ながらでもお客さんの生活を変えるようなものを作りたいと思うようになってきました。音楽や映画に、受け手として生き方が変わるほど影響を受けてきた人間なので。だから、1個でも芯を持とうと思うようになりました。作品ごとにひとつだけ、生活改善ポイントみたいなテーマを考えてます。昔はただ面白いと思ってもらいたいだけだったけどね。
山西 僕も、最初はただお客さんに楽しんでもらえればいい、みたいな思いから始まりました。最近ようやく、これを書かなきゃいけないのかもしれないという気持ちが生まれてきて。
福原 だけど、楽しんでもらおうという思いは大事だよね。そもそも楽しんでほしいとは考えないタイプの作家さんもいるだろうけど、じゃあその楽しませたい動機はなんなのか? 「褒められたい」「モテたい」「切実な問題を共有したい」とか、いろいろあると思うんです。
山西 これを書きたいということが明確になってきた時期から、モテたいという気持ちが薄れてきているんです。
福原 モテ飽きた?
山西 違います(笑)。前はもっと大きくあった、そういう気分が気付けば薄れてきていたというか。大多数にモテなくていいから本当に好きになってほしい、みたいな気持ちになってきていて。
福原 言いたいことや、書かざるを得ないことを、エンターテインメントのフォーマットでやることが大切だと思ってて。僕も今考えていることは数年前と違うし、これから先も変わると思うんだけど、「書かなきゃいけないことがあるんじゃないか」と自分に問うのは、作家の端くれとして必要だと思っています。それをいかにエンターテインメントとしてやるかを考えてます。性欲が高まって、抜かざるを得ないってときだって、風俗嬢が事務的だったらさみしいじゃん。楽しく抜きたいじゃん。……この例えじゃないか(笑)。
山西 (笑)。でも、書くべきこととエンターテインメントをどう両立させるか、というバランス感覚は、僕もすごく大切にしていきたい部分です。
福原 じゃないとワクワクしないもんね。自分のやりたいことを閉鎖的に発表するだけでは、僕は物足りない。どれだけ人を巻き込めるかにワクワクするから。世の中を巻き込んで、いろんなところに影響を与えるつもりでやる。それにはやっぱり構成が必要かなぁと。少なくとも僕の作風では。
山西 最初の話に戻ってきましたね(笑)。
福原 舞台を観て、それができそうな作家さんだなと思いました。偉そうに話して申し訳ないけど(笑)。
山西 いえいえ、本当にうれしいです。
左から福原充則、山西竜矢
◆身につけた技術をくだらないことに使えるか
山西 福原さんは役者さんをどう選ぶのか、座組みの基準を知りたいのですが……。
福原 やっぱりうまい人が好きです。また音楽の話になっちゃうけど、ミュージシャンなら楽器が弾けないとね。もちろん、弾けない面白さもあるんだけど。役者にしても、できたうえで個性的になれたほうがいいと思う。だから、いかに技術を無駄遣いしているかが問われるというか、時間をかけて身につけた技術をくだらないことに惜しみなく使える役者さんは面白いですよ。それは技術のない人にはできないですから。作家にしても構成がしっかりできたほうがいいのはそれで、「構築力があるのに、そこにいくんだ!」みたいな、作家の技量をドブに捨てるような人のほうがワクワクするよね。
山西 技術と、技術じゃ補えない部分の両方を持っている人は強いですよね。
福原 存在そのものが生き物として面白い人もいて、もちろんそういうタイプを否定はしないけど。生き物として面白い人は、経験上、稽古場に来ないんですよ。稽古時間が守れないし、稽古場までの地図が読めない(笑)。逆に、時間守れて地図が読めるくらいの常識があるなら、ちゃんと技術も覚えたほうがいいと思います。
――ありがとうございます。そろそろタイムリミットなのですが、山西さんはほかに聞き残したことはありませんか?
山西 たくさんお聞きできました。ありがとうございます!
福原 じゃあ最後に、芸人時代のネタを見せてもらおうかな(笑)。
山西 それはちょっと勘弁してください(笑)!
撮影・構成・文/田中大介
公演情報
■脚本・演出:山西竜矢
■出演:武田知久(文学座)、葉丸あすか(柿喰う客)、樋口勇輝(ブルドッキングヘッドロック)、半田美樹、平井珠生、黒住尚生、稲川悟史、元松あかね、鈴鹿通儀、中前夏来、土屋翔(劇団かもめんたる)、丸山利咲、斎藤友香莉、山西竜矢(ピンク・リバティ/子供鉅人)
■日時&会場:2019年7月9日(火)~14日(日)@下北沢 シアター711
■料金
前売3,500円 当日3,800円
※全席自由
※未就学児入場不可
■問い合わせ:ピンク・リバティ kodomo.pinkliberty@gmail.com
■公式サイト:https://www.pink-liberty.com/