大衆演劇の入り口から[其之七] 十条・篠原演芸場のおにぎりがニッポン一おいしいワケ

2015.11.23
レポート
舞台

筆者一番のお気に入り、たらこおにぎり。たらこがたっぷり詰まっている。

篠原演芸場外観 花浅葱さん撮影

一日500個売れるおにぎり

とにかく、おいしい。ホクホクした炊き立てのお米。たっぷりのたらこ。適度な水分を含み、人の手でぎゅっと握りこまれている。もう一口、もう一口と、パクパク食べ進め、市販より大きめのおにぎりをペロっと数分で食べきってしまう。食べるたびに筆者は思う。十条の大衆演劇場・篠原演芸場のおにぎりはニッポン一だ!と。

「特にお客さんが多い日は、昼の部と夜の部合わせて500個くらい作ります。普段の土日だと300個から350個くらいかな」

と、篠原演芸場で働く篠原美津子さんは売れ行きを語る。

篠原演芸場の売店。おにぎりはからあげ、こんぶ、うめ、たらこ、さけ、おかかの6種類。

 

“篠原のおにぎり”は、全国の大衆演劇ファンに知られる名物だ。関西・九州・東北…全国各地からお目当ての劇団を追って遠征してきたファンが、「篠原といえばおにぎり!」といそいそ売店へ行く。たいていのお客は開演前に買うが、混んでいるときは売り切れてしまう。そういうときは“おにぎり予約”をする。

「予約お願いします!たらこと、鮭と、こんぶ一つずつ」

公演の冒頭には30分程度のミニショーがある。その間に、スタッフさんは予約されたおにぎりを握る。そしてミニショー終了後の休憩時間に、お客が売店に取りに行くという仕組みだ。

この名物の味は、どうやって作られているのだろう?

「あの、おにぎりについて取材をしたいんですけども…」

篠原演芸場に申し込んだところ、快くOKをいただいた。11月の日曜日、11:00過ぎ、開場前の篠原演芸場にお邪魔した。

お米にも具にもこだわりがいっぱい

まず驚いたのが、この大きなお釜!

二升炊きとのことだ(二升=20合)。おにぎりを手にしたとき、いつも炊き立ての温かさなのを不思議に思っていたが、その理由がわかった。演芸場の女将さんいわく、

「昔は普通に家庭用のお釜だったんですよ。だから自宅で握って、保温容器に入れて持って来ていたんですけど。でもおにぎりがすごく出るようになって、15、6年前から今のお釜になりました」

傍らで、篠原さんがお米をかき混ぜながら言う。

「必ずこうかき混ぜて、空気を入れるようにして、お米をふんわりさせるんです」

米は長年コシヒカリだが、おいしくするためにもう一工夫。

「新米の時期だったりすると、古米になっちゃってパサパサするといけないので、他においしいご飯を取り寄せて混ぜたりして、ブレンドにしてやってます。特にお米は安いもの使ってないですね。原価ギリギリな感じですね(笑)

具にもこだわりが詰まっている。たとえば人気の鮭。

手にするとしっかり重みがある。中は塩味のきいた鮭。

フレーク状の鮭を買うのではなく、まず専門の業者から生の鮭を取り寄せるという。

「生の鮭を焼いて、それをほぐして、骨を取る作業をして、自分たちでフレーク状にします。なるべく新鮮なものをと思うので、前日に焼いてほぐしたものを次の日にお客様に提供したり…。逆にその日に焼いたものをすぐほぐして、夜の部に間に合うようにしたりしています」

たらこも専門の業者から取り寄せる。こんぶも何種類か集め、篠原さんたち自身が一番おいしいと思うものにした。いずれの具も、複数の種類を食べ比べた上で、その中から炊き立てのご飯に一番合うものを選んでいる。

儲け儲けにならないように

お米にも具にもこだわって、一個130円。コンビニおにぎりと同じ値段というのは、正直、破格だと思うのだが…。

「そうなんです…だから消費税が上がった時はすごい大変だったんですけど。劇場に入ってくれたお客様に対して、おいしいものを提供したいっていう女将や社長の考え方でやってるので。あんまり、儲け儲けにならないように。うちに入場してくれてるだけで、入場料をいただいてるので、中に入って来てくれたお客様に対しては、品質を落とさず、おいしいものをと思ってます」

おにぎり作りの様子を見せていただいたとき、調理場にいたのは3人だった。

「普段は何人くらいで作ってらっしゃるんですか?」

と篠原さんに聞くと、

「普段もこのメンバーです。自分と、女将と、あともう一人の従業員だけです」

驚いた。一日最多500個のおにぎりを、たった3人で作る。しかも開場してお客が入り始めると、一人は切符売り、一人は売店で商品の受け渡しや会計、もう一人は喫茶で接客をする。その合間におにぎり作りというのは、培ったやり方がなければできないだろう。

手際よく握り、アルミホイルで包んでいく。調理場は大忙しだ。

開演前、幕が開くのを待ちながらおにぎりを頬張るのは、多くのファンの楽しみだ。おにぎりを握る3人の手が、東京の大衆演劇を縁の下から支えている。

ここまで読んでいただいて、大衆演劇は観たことないけど、篠原演芸場のおにぎりを一度食べてみたい!と思ったSPICE読者の方。売店は劇場内にあるので、おにぎりを買えるのは入場料を払った方のみです。この記事を読んでいただいたのも何かのご縁。一度、篠原演芸場で大衆演劇を観てみませんか?入場料1600円で3時間半、たっぷり満足させてくれます。大衆演劇は初めてという方へ、篠原さんよりメッセージを頂戴しました!

「大衆演劇は年齢関係なく、お年寄りから若い世代の方まで楽しめます。毎日日替わりの内容で公演してますので、どの日にちに来ても、喜んでいただけるようになっております。劇場スタッフ一同お待ち申し上げております!」

篠原美津子さん 11/8 筆者撮影

12/15(火)には一大イベント「女優演劇祭り」も。劇団の垣根を越えて女優が集まり、各々の芸を披露する。

12/15(火)には女優演劇祭りがある。篠原演芸場内に貼られたポスター。

人情芝居で胸がいっぱい、ホクホクおにぎりでお腹もいっぱい。十条・篠原演芸場へ、どうぞいらっしゃいませ!(公演情報は下へ)

篠原演芸場内部。左上には公演中の劇団のタペストリーがかかっている。

 
公演情報
篠原演芸場11月公演 劇団天華
期間:11/1(日)~11/29(日) 昼の部まで
篠原演芸場12月公演 新喜楽座
期間:12/1(火)~12/24(木) 昼の部まで
 
会場:篠原演芸場 公式サイト
日程土・日・祝祭日は昼夜2回公演 平日は夜の部のみ
時間:昼の部12:30~16:00  夜の部:18:00~21:30
料金:大人1600円 小人900円
座席を予約する場合の予約料:一般席300円 桟敷席400円
※予約なしにフラッと行っても観られるのが大衆演劇の魅力の一つ。だが前方の席で観たい・友人と並んで席を取りたいという場合には予約しておくと確実だ。
 
問い合わせ先:03-3908-1874
東京都北区中十条2-17-6
●JR埼京線「十条駅」または京浜東北線「東十条駅」より徒歩5分
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