SHISHAMO ポップネスと切なさが炸裂する決定打・新曲「君とゲレンデ」を語る
SHISHAMO
全15公演、1万8000人動員の『SHISHAMO ワンマンツアー 2015秋「熱帯夜はまだ続くけど、ガールは今日も笑わなきゃいけない」』をはじめ、演奏、パフォーマンスの両面で急激な成長を続けているSHISHAMOから、ニューシングル「君とゲレンデ」が届けられた。切なくも愛らしい冬の恋愛を描いたこの曲は、「君と夏フェス」と並び、SHISHAMOのポップサイドを象徴するナンバーとして広まっていくことになりそうだ。
SPICEでは今回もメンバー全員にインタビュー。秋ツアーの手応えから、「君とゲレンデ」の制作、間近に迫ってきた日本武道館公演(2016年1月4日)に関して、さらには好きなTVドラマまで……?! 今回もたっぷり訊いた。
――まずは秋のツアーの手応えについて訊きたいと思います。会場、観客動員を含めて、もっとも大きな規模のツアーになっていますが、みなさんの印象はどうですか?
宮崎朝子(Gt/Vo・以下、宮崎):いつものツアーよりも期間が短いんですよね。
吉川美冴貴(Dr・以下、吉川):平日も結構やってるからね。
宮崎:前は学校に通ってたこともあって、“週末だけ”ということが多かったんですよ。今回は平日にもやってるから、1回の遠出で4回くらいライブをやることもあって、かなり濃いですね。
松岡彩(Ba・以下、松岡):そうだね。
宮崎:前のツアーと違うこととしては、土地土地によって、お客さんに合ったライブをやろうと考えていて。場所によって雰囲気がぜんぜん違うんですよ。たとえば(ステージと客席の)距離感にしても、向こうからグイグイ詰めてくることもあるし、こっちから歩み寄っていかないと縮まらないこともあるから、どこでも一緒のやり方だとマズイなって思って。
吉川:MCもそうだよね。朝子のMCはけっこう激しめなんですけど…。
――わりと率直ですよね(笑)。
吉川:それをわかってて楽しんでもらえればいいんだけど、初めてのお客さんが多い場所だと「え?」みたいになることもあって。
松岡:「本気で言ってるの?」って思われたり(笑)。
吉川:それを上手く和らげるというか、フォローすることはありますね。
宮崎:私はどこでも変わらないからね(笑)。そのぶんはフォローしてもらって。
松岡:年齢層も会場によって違いますからね。高校生が多いこともあるし、もっと大人の人が多いこともあって。反応も違うんですよ。昔の曲でワーッとなったり、最近の曲でワーッとなったり。
宮崎:そうそう。セトリとかをすごく変えているわけではないんだけど、アンコールはその日の雰囲気によって決めてますね。
松岡:急に「今日はこの曲をやろう」ってなるから、私はいつもアセアセしてるんですけどね(笑)。
宮崎:私も迷ってるんですけど、そこは。いきなり違う曲をやろうって言ったら、2人(吉川、松岡)をアセアセさせちゃうから。でも、「今日のお客さんには、絶対にこの曲がいい」っていうこともあって。意外と上手くできたりもするしね。
吉川:そういうときはすごい集中するからね(笑)。
宮崎朝子(Gt/Vo)
――10月29日のZepp Tokyo公演を見せてもらいましたが、お世辞でも何でもなく、ベースがホントに良くなってますよね。
松岡:えっ、ありがとうございます!
吉川:今回のツアーだけではなくて、リズム隊はもっとレベルアップしないといけないと思っていて。出来るはずだっていう気持ちもあるし、もっと良くしないと、この先やっていけないだろうなって思うので。
宮崎:もしかしたら、「自分たちの演奏は良くない」って思い込み過ぎてるのかもしれないけどね。
吉川:そうなのかな?
宮崎:最近、よく思うんだよね。もともと「自分たちはヘタだ」って思って始めてるから、「もっと上手くなりたい」ってずっと思ってるし、演奏に対するコンプレックスもあって。
吉川:ライブが終わったあと録音したものを聴いてるときも、「課題ばっかりだな」って思うからね。
宮崎:自分たちの中のハードルも上がってるし、シビアには見てるよね。だから「演奏が上手くなった」って言われると、ビックリする(笑)。まあ……これだけライブをやってれば少しは良くなってるかなと思うけど。
――「熱帯夜」の演奏も印象的でした。ブラックミュージックのテイストが入っている曲ですが、バンドのグルーヴにも深みが出ていて。
宮崎:あ、そうですね。最初は「これ、致命的だな」と思ってたんですけど(笑)、それこそシビアになって集中的に練習したので。最近のライブでは、一番いいんじゃないかな。
吉川:そうだね。
宮崎:もちろん照明とかもあるんだけど、いままでのSHISHAMOにはなかったタイプの曲だし、「熱帯夜」をやるとライブが締まるんですよね。
松岡:最初は苦労したけどね。
松岡彩(Ba)
――そして12月2日(水)にはニューシングル「君とゲレンデ」がリリースされます。SHISHAMOのポップな部分が強調されたナンバーですよね。
宮崎:夏に「熱帯夜」を出したことで、自分の中でやりたいことが広がった感じもあって。もしかしたら、その流れにある曲をリリースするべきだったのかもしれないけど、「自分たちが良いと思ってればいい」ということではなくて、やっぱり「聴いてもらわないと意味がない」と思ってるので。もっとSHISHAMOを知ってもらえたら、もっともっと好きなこともやれるだろうし。
――いまはもっとリスナーを増やしていくことが先決だと。
宮崎:自己満足ではなくて、もっともっと好きなことをやるための曲という感じかもしれないですね。SHISHAMOを知ってくれたキッカケって、やっぱり「君と夏フェス」が多いんですよ。ああいうタイプの曲を好きになってくれる人がこれだけたくさんいるんだったら、もう1回やってみようっていう。集大成くらいの意気込みで…。
――お!
宮崎:いや、そうでもないです。
吉川:早いな!(笑)。
――(笑)。「君とゲレンデ」というタイトルもド直球ですからね。
宮崎:こんなタイトルにするはずじゃなかったんですけどね…(苦笑)。
吉川:いろんなことを経てね。
――歌詞の中に「ゲレンデ」という言葉は出てこないですからね。ちなみにメンバーのみなさんはゲレンデって行ったことありますか?
宮崎:この前行きました! スタッフと一緒にスノーボードやって。
松岡:すごく楽しかったんですけど、最後のほうでお尻を打っちゃいまして。立てなくなるくらい痛かったから、ひとりで温泉で待機してました。
吉川:残念だったね。
――彼氏と一緒に行くと、もっと楽しいんでしょうねえ。
宮崎:そんなことは知らないです。
吉川:あはははは!(笑)
宮崎:でも、結構いたよね。お揃いのウェアとか着ちゃって。
吉川美冴貴(Dr)
――そういう人たちも「君とゲレンデ」を聴けばグッと来ると思いますよ。幅広い人が共感できる歌詞を意識することもありますか?
宮崎:最近はけっこう考えますね。SHISHAMOのお客さんって、少女漫画を読んでキュンとする感じの人も多いと思うんですよ。それを短い時間で提供するっていうことも必要なのかなって。曲だったら、マンガみたいに自分で読まなくてもいいし(笑)。そういう変な使命感みたいなものはあるかもしれないですね。もちろん、音楽的なところも聴いてほしいけど。
――宮崎さん自身も、ラブソングを聴いてキュンとすることってあります?
宮崎:あります。私もそういうタイプだと思うんですよね。「このメロディにこの歌詞が乗るとグッと来るんだよな」とか。SHISHAMOのお客さんにも、そういう聴き方をしてほしいなって思うし。私、少女漫画も好きなんですよ。あとは恋愛ドラマ。いちばん好きなのは「愛していると言ってくれ」ですね。
――豊川悦司と常盤貴子が手話でやり取りする恋愛ドラマ。あれ、90年代中盤ですよね?
吉川:私たちが生まれた頃だね。
宮崎:いま、ああいうドラマってないですよね。主題歌(DREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」)もいいんですよねー。
吉川:私は学園モノが好きなんですよ。恋愛が入ってくると心が痛むというか、「学生時代、もうちょっとやりようがあったかもな」って思っちゃうので。
宮崎:わかる! 高校を卒業してばかりのときって、「君に届け」とか読めなかったからね。「もう2度とこんな思いはできないんだな」って。
吉川:「さよならの季節」のMVを撮ってるときも「ウワーッ」って思ってたんだよね、自分たちの曲なのに。学校のセットだったから……。
松岡:私はミステリー系をよく見ますね。
宮崎:今だと「サイレーン」とかね。
松岡:3人でドラマの話をすることもけっこうありますよ。
――そういうところは女の子っぽいですね。
宮崎:私、かなり女の子ですよ。最近はもっと女の子になって来てる気がする。何て言うか、バンドってけっこう非日常じゃないですか。でも、何百人、何千人という人の前でライブをやっていると、それが日常になってくるんですよね。そうなればなるほど、普通の恋愛ドラマが見たくなるというか。ディズニーシーとか行きたいし。いままで、そんなこと思ったことなかったんだけど。
吉川:あぁ、なるほど。私、地元のスーパーで果物とか買ってるときが幸せ。
宮崎:わかるわぁー。
吉川:地元の友達と会うと心が和やかになるしね。
宮崎:普通のことがすごく輝いて見えるんだよね。
SHISHAMO
――では、シングルの話に戻って。カップリング曲の「女ごころ」は濃密なグルーヴが印象的なミディアムチューンです。
宮崎:「熱帯夜」の流れにはあるのは、こっちのほうかもしれないですね。この曲、歌詞がちょっと難しいというか、たぶん大体の人は理解できないんじゃないかなって。
松岡:最初に聴いたとき、私も「ん??」ってなったんですよ。歌詞のなかに“あなた”と“彼”と“私”が出て来るんですけど、“あなた”と“彼”は同じ人だと思ったんですよ。そうじゃなくて、3人出て来るんですよね。
――“彼”と“私”が両想いになったというだけではなくて、その結果、その前に好きだった“あなた”のことが思い出せなくなるっていう内容ですよね、これは。
宮崎:そこをわかってもらえると「怖いね」って言われます(笑)。これは珍しく、タイトルが先に決まってたんですよ。「“女ごころ”の概念を変える」くらいの感じだったので。よく「女の子は上書き保存する」って言うじゃないですか。
吉川:男の人は恋愛の思い出を別名で保存していて、いつでも開けるようにしてるっていうね。
宮崎:そうそう。女の子は上書きしちゃうから、その前のことは思い出せないんです(笑)。
――確かにちょっと怖いかも。「女の子って、本当はこんなこと考えてるんだよ」ということを歌詞にしたいという気持ちもある?
宮崎:いや、それはないですね。昔から「メッセージ性だけはないバンド」なので。
吉川:言い切ったね。
宮崎:伝えたいこともないんですよね。曲を作るために歌詞を書いているというか……私、歌詞からじゃないと曲を作れないんですよ。だから、好きな音楽をやるために歌詞を書いているっていう感じですね。そこが遊べる場所でもあるし。
――最後に2016年1月4日に開催される初の日本武道館公演について、改めて聞かせてください。そろそろ実感が出てきました?
吉川:うーん、まだ実感はないですね。たぶん、当日のリハくらいで実感するんだと思いいますけどね。
宮崎:そうだね。どこでも同じなんですよ、それは。Zeppでも小さなライブハウスでも同じだし、会場が大きいから緊張するということでもないので。ずっと武道館を目標にしていたとしたら、また違うと思うんですけどね。
吉川:うんうん。
宮崎:ひとつひとつのライブを着実に、誠実に、一生懸命やってきただけで。(武道館は)出来ることは多いと思いますけどね。せっかくだから、普段のライブハウスでは出来ないこともやってみたいなって。
――松岡さんは武道館の思い出ってありますか?
松岡:初めて武道館に行ったのが、andymori先輩のライブだったんです、ぜんぜん周りを見ないで、ステージばっかり見てましたね。
――andymoriのラストライブですね。あのときはいつも通り、ひたすら演奏するっていうライブでしたよね。
宮崎:カッコ良かったですよね。武道館だからって特別なことをするんじゃなくて、曲だけをやるっていう。私自身はそういうバンドが昔から好きなんですけど、SHISHAMOはそうじゃなくてもいい気がしていて。……私は武道館に行くと、逆に周りばっかり見てるんですよ。武道館が特別なのは、お客さんが主役っていう感じがするところかなって。囲むようにしているお客さんが、あの雰囲気を出しているというか。
――観客にとっても特別感のある会場ですからね。
宮崎:そう、私たちよりもワクワクしているお客さんもいっぱいいると思うんですよ。そういう人たちにも夢を見させてあげるというか、キラキラしたライブが出来たらいいなって。
――それは「君とゲレンデ」をシングルにした理由とも重なってるのかも。もっともっと多くの人にSHISHAMOの音楽を伝えたいっていう。
宮崎:もっといろんな人に聴いてほしいと思うと、SHISHAMOがやった方がいいことって、もっとあるんだろうなって。自分たちの気持ちにこだわり過ぎないほうがいいというか、ヘンに縛ったりしないで、自由にいろんなことをやりたいなって思いますね。でも、「変わらないでいきたい」という気持ちもあるんですよ。それはいままでSHISHAMOを応援してくれてきた人たちのためでもあるし、自分たちの為でもあるんですけど。根本は変わらず、変わっていけるのが一番いいんでしょうね。
撮影=菊池貴裕 文=森朋之
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