五嶋みどり「人間の原点を見つめなおす機会になれば」 『神々の息吹に誘われて』ヴァイオリン・リサイタルへの想い
五嶋みどり
2019年10月、沖縄・長野・出雲・倉敷の4か所で、ヴァイオリニスト・五嶋みどりが『神々の息吹に誘われて』と題したリサイタル・ツアーを行うことが先ごろ発表された。国連ピース・メッセンジャーとして、また、自身が設立したNPOなどを通じ社会活動も積極的に行っている世界的ヴァイオリニストの五嶋が、発表会見にて語ったリサイタル・ツアーへの想いをお届けする。
――『神々の息吹に誘われて』というツアーを沖縄、長野、出雲、倉敷の4か所で開催しようと思われた理由をお聞かせください。
日本には昔から神様にまつわるお話が多く、幼い頃より慣れ親しんだ神話や昔話には、山の神様や海の神様など、たくさんの神様が出てきます。今回のツアーの副題にある“神様”は私にとって宗教的なものではなく“自然”ととらえていて、人間の生活も含めたところの自然の中に音楽がある、と思っています。そこから作曲された曲が演奏され、その優れたものが心を癒すものとして受け継がれているのだと思います。わりあい色々な視点から考えられるタイトルで、一つの考え方ではなく、多くの意味合いがあり、また人それぞれの概念によって違っていてもいい。今回のツアーが知る機会、学ぶ機会、また、考える機会につながるようなところ4か所で開催できることを大変嬉しく、楽しみに思っております。
沖縄にはこれまでNPOの活動やコンサート、プライベートでも何度も訪れたことがあって、私は暖かいところが好きなので、美しいサンゴ礁の彼方から吹いてくる風は格段に愛おしいですね。これまでの訪問で沖縄の歴史を学び、心に残ることがたくさんありました。けっして沖縄の人々の意図したことでなかった、歴史に飲み込まれる時があったことなどは、国連ピース・メッセンジャーとして、実際沖縄の島で感じたことを私なりに色々な形で発信していくことは大切だと考えています。認定NPOミュージック・シェアリングのICEPの活動で、インドやベトナムのハンセン病コロニーを訪問したのですが、今回は沖縄でも国立療養所「沖縄愛楽園」を訪問します。
沖縄公演
長野は訪問回数も多くて、先日もNPOの活動で屋代に行ったばかりです。コンサートも松本、長野、軽井沢でも行っていますし、特に善光寺は私の母が好きで、お寺にまつわるお話を聞いていましたし、ご本堂でバッハを演奏させていただいたので思い出深い所です。水も空気もきれい。どこにでもお蕎麦屋さんがあって、最近ではドライフルーツもあちらこちらで売られていますよね。
長野公演
出雲では神様が一年に一回集まる会合の約ひと月前のプレ・イベントというところでしょうか。自然が実りをもたらすこの季節に出雲を訪問し、自治体がとても力を入れておられる出雲芸術アカデミーで子どもたちと少し交流する時間があると聞いています。出雲にはNPOの活動初期の頃に訪問コンサートに行ってから、ずいぶん経ちますので楽しみにしています。
出雲公演
倉敷のある岡山県ともご縁があって、旭川荘をはじめNPOの活動で何度も訪問しています。倉敷にはリサイタルでもオーケストラとのツアーでも行ったことがあります。先日岡山駅で電車を乗り換えたのですが、まだ桃の時期には早くて出回っておらず残念でした。桃太郎ゆかりの地ですからね(笑)。
倉敷公演
――今回の選曲の意図は?
大きな曲と小さな曲、ソナタと小品など、同じ作曲家の作品でも違った雰囲気の曲を組み合わせることで、その違いや共通点が新鮮に感じられ、新しい発見があるのではないか、と思います。
――ピアニストのイェヴァ・ヨコバヴィチューテさんについて
日本では数年前に大阪で共演しました。アメリカやヨーロッパ、南米などでも共演を重ねています。現代曲のプロジェクトでもご一緒します。
――最後にこのツアーを楽しみにしておられる方にメッセージをお願いします。
自然には、現代社会でもてはやされるイノベーションから解放され、人間本来の感情を取り戻す力があります。演奏家や作曲家の意思、作品の時代背景、聴衆の一人一人がおかれた立場によって、感情の起伏はそれぞれですが、直に触れ合う皆様とのひと時が、ほんの少し……人間の原点を見つめなおす機会になれば、と期待しています。
五嶋みどり
6月29日(土)より沖縄公演、翌30日(日)より長野公演、その後、7月6日(土)より出雲公演の一般発売が開始される。
公演情報
各公演会場のチラシ 左から 沖縄公演、長野公演、倉敷公演、出雲公演