山本一慶&青木空夢「完璧なパズルのようなコメディーです」 舞台『Run For Your Wife』インタビュー

インタビュー
舞台
2019.7.19
左から 山本一慶、青木空夢

左から 山本一慶、青木空夢

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イギリスの劇作家レイ・クーニー原作の傑作コメディとして知られる『Run For Your Wife』。日本でも繰り返し上演され人気を得ている本作で主人公のジョン・スミスを演じる山本一慶と、トラウトン警部を演じる青木空夢が稽古開始を前に初対面。作品について賑やかに語り合った。

左から 山本一慶、青木空夢

左から 山本一慶、青木空夢

ーーお二人は今作が初共演。今までお互いの接点は?

山本:会うのは今日が2度目。初々しい関係です(笑)。初対面はビジュアル撮影のとき、チラリとすれ違ったぐらいだったので。

青木:あの日はほぼ入れ替わりでしたからね。僕にとって一慶さんは、ミュージカル『テニスの王子様』の先輩。一慶さんの出られていたテニミュ、観てましたよ。

山本:あ、そうなんだ!

青木:はい。ほかにも舞台を数作、拝見してます。

山本:ありがとう。青木くんは僕、「すごくいい役者さんだよ」っていう噂は周囲からずっと聞いてたので…スタッフさんからも聞いたことありますし。

青木:え、うわっ、ホントですか?

山本:うん。

ーーお二人とも2.5次元作品への出演が多いですからね。

山本:そう。だからなんとなく間接的なつながりはあったのかな。今回、満を辞しての共演となりました。

青木:そうですね。今は台本をいただいて、そのボリュームにびっくりしているところ。会話、テンポ感──すべてが大事だなと圧倒されてます。

山本:いやもうホント、僕も「読み終わる気がしない!」って思いながら読んでます(笑)。

左から 山本一慶、青木空夢

左から 山本一慶、青木空夢

ーー物語は山本さん演じるジョンが二重結婚をしていることから巻き起こるドタバタ劇。騒動の元凶であるジョンが、二重結婚をしそうにもない真面目で平凡なタクシー運転手であることとのギャップも効いてます。

山本:ザ・コメディーですね。日本人だったらもうすでに「二重結婚」という設定で「けしからん!」となるんじゃないかと思うんですけど(笑)、ま、イギリスの作品ということで、まずそこをひとつの面白さとして受けてれていただいて…文化や習慣が違えば、自ずと感じ方や考え方も変わりますからね。ストーリー的には、ジョンが二重結婚の秘密がバレそうになったことでそれを隠すための嘘をつき、その嘘がまた別の騒動と嘘を呼んで、さらに嘘に嘘を重ねていくうちに平和な日常がボロボロと崩れていく。その様がとても面白く描かれています。なによりすごく計算されている脚本なので、読んでるだけでも「見事な展開だなぁ」と思いますよね。

青木:翻訳モノなので、台本を読んでいる段階では正直細かいニュアンスの部分での違和感っていうのがまだあって…自分は翻訳劇の経験がないので、この世界観はチャレンジだなぁと思います。日本人の感覚とは違うところで奥にある面白さまで読み取り、表現しなければいけないので。

山本:英語で韻を踏んで書かれた台詞、ダジャレみたいな表現が日本語に直されたときにどういう言葉になるのか。それによって原作とちょっと変わってくるところもあるとは思うんですけど、クスクス笑いがひとつずつ積み上がっていく感じとか…ドッと一瞬の笑いと取りに行くんじゃなく、すごく緻密に検査された状況が積み重ねられていく先に生まれる笑いがね、すごく心に残る種類の笑いだなって思う。

青木:(深く頷く)。

青木空夢

青木空夢

山本:観劇後に「あのシーンこうだったよね」「そうそう。それが面白かったよね」って会話ができるような良質な笑い。日常のその場で起きてしまった出来事自体が本当に面白いんですよ。

青木:一言で言うと、次々に起きるすれ違い、ですね。

山本:そう、すれ違いの面白さ。そこがこの作品の一番の魅力でしょうね。それを僕と、青木くん含めたとても面白い俳優さんたちと作り上げていくのが楽しみです。台本は計算され尽くした完璧なパズルのようなコメディーだから、面白いのは当たり前。あとはホントに役者次第なので。

青木:そうですよね。完成されたストーリーだからこそ、一人一人の個性、集まった顔ぶれでまた全然違う世界が作れるはず。ここ2、3年、演技レッスンでいろんな戯曲に触れてますけど、こういうタイプの作品には触れていなかったので…やっぱりひとりで作る世界じゃなく、周りのみなさんとのやり取りの中で豊かになっていく作品なんだなって思います。

山本:稽古場でどうコミュニケーションをとって擦り合わせていけるかで僕らの完成度も全然違うと思うので、そこはしっかりと。普段の関係も楽しくなればなるほど、お芝居の中での関係も充実していくような気はしてますね。日常から生かしていけることは大いに生かしていきたいです。

山本一慶

山本一慶

ーーそれぞれの役にはどんなイメージを抱いていますか?

山本:僕は初見からこのジョン・スミスという、あろうことか重婚をしている男性がね(笑)、なぜだか憎めずにいて。ふざけたことしてるんじゃないぞと思う反面、すごくがんばって嘘ついているのを応援したくなるんですよ。

青木:確かに。悪いやつに見えないんですよね(笑)。普通に考えたらやばいことをしてるのに、全然悪いことしている人の空気じゃない。どっちの奥さんもちゃんと大切にしているし。

山本:なんかね、「気づいたら二人いたんだ〜」とか言って、重婚の事実を全然悪いと思っていない。その感覚が…「僕もそういうチャンスがあったらそうしてるかもしれない」と、思わせてくれるんです(笑)。「僕はどっちも好きなんだ」って、それってもう哲学ですよ。そして僕はもうすごく共感してる。

青木:この作品ならではの哲学ですよね。それで納得させられちゃう(笑)。

山本:しかもまた女性陣が重婚には向いていないような、とても強い女性たちで。「あなたについていくわ」ってタイプの女性だったら重婚生活も穏便に秘密に運べるかもしれないけど、そうじゃなく…

左から 山本一慶、青木空夢

左から 山本一慶、青木空夢

青木:それぞれに「私」「私」感のある、主張する女の人ですよね。その二人と同時に結婚しているジョンはすごいですよ。

山本:うん。僕なんて「ジョン・スミス、よりによってなんでこの二人?」って、彼の選択を問い質したいくらいだよ(笑)。

青木:だからこそすごい。あの二人を相手に二重婚していることが!

山本:そりゃあしっかりスケジュール組んで生活するよね〜。そのジョンのチミチミした感じがまた愛おしく、人間臭い魅力だなって思います。お客様も観たら多分彼の嘘を応援したくなると思いますよ。バカみたいな嘘を(笑)。

青木 で、僕が演じるトラウトンは、唯一ジョンのことを怪しんでいる人です。ジョンの周りの人は本当に誰ひとり彼のことを疑ってないんですけど、トラウトンはジョンが今の生活を壊したくなくて奮闘している中での唯一の障害というか、トラウトンだけが、常にこの嘘で保たれている状況を壊せるきっかけになり得る存在。

青木空夢

青木空夢

ーー劇中での重要なフックですね。

青木:鍵となってくる人物ですね。彼は彼で確固たる思いを貫いている。その言動は作品に欠かすことのできないスパイス。でもなんでみんなジョンのこと全然怪しまないんだろう?

山本:変なんだよ、みんな(笑)。もっとジョンのこと疑わないとダメでしょ。

青木:そうですよ。あきらかに怪しい。

山本:うんうん。

青木:同じ警官のポーターハウス警部という可愛らしいキャクターがまたね、いい人すぎてすぐ騙されちゃうし(笑)。そういう人もいつつ、なぜかジョンの嘘はことごく結果的にうまく進んでいっちゃうので、状況はどんどんややこしくなっていきます。面白いです。冷静に考えればジョンを疑っているトラウトンはいたって普通の人間なんですよ。でも一人で疑ってるので、みんなの中にいると浮いた存在に思えてしまう。そこで最終的に僕の“普通の人”のほうが周囲の人たちよりもなんかおかしな人に見えたら、より作品が豊かになっていくんじゃないかな。

山本:そうだね。全体的にはあれ、テレビの『笑ってはいけない』みたいな空気になったらいいんじゃない? お客さんが「なんかこれ笑ったらいけないのかなぁ」と思いつつ、僕らのやることを見て堪えきれずについ吹き出しちゃうような。

ーーコメディの真髄。変な緊張感の可笑しさ。

山本:それってすごく難しい。稽古を大切に積み重ねてこその「上質な笑い」ですね。

青木:僕は結構前にコメディーは一度やったことあるんですけど、そのときはボケ寄りのキャラクターで、お芝居も全然、今からも考えられないくらいできてなかった頃。なので、今回は真剣に芝居をすればするほど面白くなる作品でもありますし、自分にとっては“コメディーに関してのリベンジ作品”という気もしています。

山本:おおっ。

青木:真剣に生きれば生きるほど面白い。役者としてなんとも嬉しい思いになれる作品です。やりがいを感じてます。

山本一慶

山本一慶

ーーちなみにお二人自身は「二重結婚」についてどう思われますか?

山本:僕はもうね〜、「賛成」。

青木:えっ、なんでですか??

山本:いろんな女性と幸せに過ごしたい…けど、ただデレデレしてるだけだと流石に怒られちゃうから(笑)、結婚して、ちゃんと責任を持ってるぞという気持ちも伝えられたらいいのかな、と。もちろん二人とも平等に愛しますよ。あ、実際にできるかどうかは別問題。あくまでも思想としての回答です! モテてみたいんです(笑)。

青木:僕は無理ですねぇ。二人を平等に愛するとか…そんなの絶対無理。多分両方とも中途半端になっちゃうと思うから、性格的にも絶対向いてないです。だったら結婚ではなく普通に恋愛をして、いろんな人と出会いながら、どちらが本当に好きなんだろうと迷うことがあっても(笑)、いつかひとりの人と結婚できれば。

山本:あのね、多分ね、ジョンも今の僕みたいにすっごい甘い考えから始まったんだと思う。なんか今それがわかった。愛してくれる人がいることで満たされたいんですよ──僕のような弱きモノは(笑)。

青木:(笑)。

ーージョンのように人生を切り抜けるためのアドリブ、ピンチのときのとっさの嘘はつけそう?

青木:僕は絶対ダメ。数秒でバレます(笑)。

山本:僕は人の嘘見破るのは得意なんですけど…自分が嘘つくのはすごい下手。声とか震えちゃって、キョトキョトしちゃうので(笑)。

左から 山本一慶、青木空夢

左から 山本一慶、青木空夢

ーーでは嘘はジョンにお任せして。最後に改めて本作の見どころをお願いします。

山本:自分の中のダメなところがなんとなくジョンに重なるところもあったりして、彼のことは親近感を持って演じられそうです。また、今回ジョンの親友のスタンリー役でルー大柴さんが出られるんですけど、ルーさんは65歳で僕が30歳。原作では齢の近い二人なんですけど、今回はこの年齢差の大きいキャスティングで一緒に嘘をついていくっていうのがね、オリジナルな魅力にもなるし、ジョンのいい加減な性格も引き立つんじゃないかな。

青木:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクとマーティみたい!

山本:あー、わかるわかる! うん、そこのコンビネーションもどうぞお楽しみに。あとは…そうですね。探偵モノを見ているような気分というか、お客様はもうジョンが嘘をつくのはわかっているので、その嘘を受けて「それはなんなの?」「だからどうなるの?」って、嘘のその先を想像したり推理したり、ワクワクしながら物語にのめり込んで欲しいなって思ってます。僕自身が台本を読みながらそういう気持ちを感じていたので、「先に進むための嘘がもっと欲しい!」みたいなコメディー以上のワクワクと面白さ。あの特別な気分を一緒に味わって欲しい。そこを大事に作っていきたいです。

青木:そうなると僕はお客様同様一人の探偵として、ジョンの嘘を受け止め推理し、ジリジリとジョンとスタンリーを追い込んでいきたいですね。「その二重結婚、うまくいかせねぇぞ」っていう役割を全うしていきたいです。そこでジョンがまたどう立ち回っていくのか、お客様にはその必死な姿を楽しんでいただければ。コントじゃなくコメディー。役者がやることに意味がある、役者が舞台上で生み出す「笑い」を大いに堪能してください。

山本:なかなか味わえないタイプの素敵に仕組まれた「笑い」でできている『Run For Your Wife』。心に残る笑い溢れるコメディー、ぜひ生で体感してくださいね。お待ちしています。

左から 山本一慶、青木空夢

左から 山本一慶、青木空夢

取材・文=横澤由香 写真=山本れお

公演情報

舞台『Run For Your Wife』
 
公演期間:2019年7月27日(土)~31(水) 
劇場:三越劇場
料金:S席7,800円 A席6,800円(全席指定・税込み) 
出演:山本一慶、花奈澪、七木奏音、鮎川太陽、青木空夢、我 善導、ルー大柴
 
訳:小田島雄志/小田島恒志
演出:菅原道則
企画・製作:アーティストジャパン 
 
★新聞記者役で飛び入りゲスト出演決定!
7月27日(土)17時、28日(日)17時:小南光司
7月29日(月)18時30分:稲垣成弥
7月31日(水)14時:橋本真一
 
※山本一慶とゲストとの短いトークもあります
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