SYOMIN’S第2回公演『砂の家族』 ドラマ「相棒」でおなじみの山中崇史と美津乃あわが対談
2019年7月17日(水)から21日(日)にかけて、下北沢・シアター711で上演されるSYOMIN’S(ショミンズ)第2回公演『砂の家族』。本公演でW主演を務める山中崇史と美津乃あわの対談が、7月2日(火)に稽古場で行われ、作品や小劇場演劇の魅力についてじっくり語り合ったので紹介する。
2018年にアラフィフ男女の演劇ユニットとして、俳優・脚本家・演出家の今奈良孝行と女優の美津乃あわの2人が結成したSYOMIN’S。好評だった旗揚げ公演『隻眼の産婆』(作・演出:今奈良孝行)に続く第2回公演は、人気ドラマ「相棒」シリーズで警視庁捜査一課・芹沢刑事として出演中の、 劇団扉座・山中崇史をゲストに迎え、一層重厚な舞台づくりを目指している。今回の対談では途中今奈良も参加し、話を盛り上げた。
太平洋戦争が終わってまもなく。空襲で親をなくした3人の少年少女が、防空壕の跡で雨風をしのいでいた。 読み書きもままならない彼らは、中学時代の恩師の勧めるまま、男は危険な炭鉱で、女は置き屋で働き始める。 苦難の果てに、それぞれようやく「家族」を手に入れた3人。しかしそこでもまた、次々と悲劇が彼らを襲う。 家族に憧れ、家族を守ろうと、社会の底辺で必死にもがきながら生きる人々の物語。
美津乃:山中君って文章まとめる力すごいよね 前に全員で座談会やった時、一人だけちゃんと文章で話してくれた。
山中:そうですかあ? そう言ってもらえるとありがたいですけど。「相棒」(※)の現場などでインタビューされることがよくあるんですが、好き勝手喋ってると、あとで見たら「俺こんなこと言った!?」みたいなことがよくあって。これいかんな、と。だからちゃんとしようと体に染みついてるのかもしれないけれど。
※山中は人気TVドラマシリーズ「相棒」season2より、捜査一課刑事・芹沢役で出演中
美津乃:さすが芸能人。
山中:劇団員ですよ!
美津乃:そう、崇史君は今回、劇団扉座からお招きして、SYOMIN’S公演に参加してもらいました。
山中:ありがとうございます。
美津乃:でも今「相棒」ガンガン放送中ですよね。
山中:昼間に再放送もしてるから、オバちゃんから「昼も夜も大変ねェ」って言われたりします(笑)
美津乃:お稽古前半はちょっと撮影とかぶったんですけど、案外大丈夫でしたね。
山中:ご迷惑かけて申し訳なかったんですけど、欠席が少なくなってよかったです。
■ここで少々酩酊した今奈良孝行が乱入
今奈良:一番最初に山中君に台本渡したんですよ。読む暇ないかなと思ってたんだけど、稽古初日、自分で製本して(※)しかも(読み込んで)ボロボロになったやつ持って来て。
※小劇場演劇の台本は、大抵コピーされた紙の束そのまま
美津乃:さすが!
山中:いやいや、ならもっとちゃんとやれよって話で…
今奈良:すごいですよ。
美津乃:最初から台本見ずに稽古して、いやさすがだわ。
山中:僕、劇団で一番セリフ覚えるの遅いんですよ。
美津乃:そうなの。
山中:ふざけんな! っていつも仲間、先輩から言われてるんですよ。だから、外部の公演に呼ばれた時にはなるべくご迷惑かけないようにしなきゃと必死で。
美津乃:わたしもスロースターターで。
今奈良:いやまあ、あなたもいろいろあるとは思うんですけど、覚えてないね。
美津乃:めっちゃ読むのよ。でも立つとダメなんですよ。
今奈良:ここは、崇史くんが早いということで。
山中:恥かきたくなかったから。今奈良っちが書いて演出してくれるって、初めてで、俺出たかったから。
美津乃:え、山中君出てくれるの!? ってちょっと浮足立ったよね。
山中:何年か前に友香ちゃん(※)に劇団宝船声かけてもらって出られなかったのが悔しくて。今回めちゃくちゃうれしくて。あわさんと芝居出来るのもほんと楽しみで。
※新井友香。今回出演している女優で今奈良孝行の妻。劇団宝船を主宰
美津乃:今奈良っちの現場ってホントいい人ばかりでね。演劇の現場って、腹に一物持った人の集まりがデフォルトだという観念があったんだけど、今奈良っちの現場では、なんなら私が一番悪人? くらいいい人ばかりで。私が浄化される感じ。
山中:やさしい分、やらなきゃ、って思わされます。
美津乃:崇史君、ふだん劇団扉座ではどんなポジションにいるのかしら?
山中:うちの劇団は、座長(劇作家・演出家の横内健介)が、高校生の時演劇部で全国大会で優勝出来ずに2位になって、時間が延びたせいらしいんですけど(※)、その時の出ていたメンバーの岡森諦(あきら)と六角精児がいまだにいる。
※全国高校演劇大会の上演時間は60分。1秒でも超えると失格となる。
美津乃:すごい。
山中:そこからずっと、善人会議、扉座と名前は変わるけど40年近くやってるんです。旗揚げメンバーがかなり残っていて、僕がそのすぐ下。今やベテラン組に入れられてしまっている。在籍24年。人生48年の半分、扉座にいます。
美津乃:長く続くって組織が素晴らしいんだね。今回の崇史君、序盤は撮影とうちの稽古と二足のわらじで奮戦してくれたんだけど…。
山中:すみません、ご迷惑かけました。
美津乃:とんでもない。そんなときの気持ちって?
山中:逆に絶対甘えたくないんです。「ふふん、あいつよそでもやってるから、中途半端な芝居してんだ」とか思われたくない。俺が思ったことあるから。そういう風に、俺もいつか「スミマセン、ちょっと撮影で稽古お休みします」とか言ってみたいってずっと思ってて。実際自分がそうなったとき、大変だコリャ、と思ったの。でもそこはカッコつけなきゃいかんな、と思うようになった。
今奈良:僕はいろいろ準備とかで稽古場に1時間前くらいに入るんだけど、「ウぃす」とか、崇史君いたりする。練習してるの。
美津乃:主役が頑張ると周りがついてくるよね、崇史くん見てるとそれ感じる。
今奈良:演劇好きなんだね。
美津乃:今回の劇場、シアター711(※)の舞台に立ったことは?
※下北沢の名門、本多劇場グループの小劇場。座席数80程度。
山中:初めて! だから楽屋の位置とか、いろいろ確認や準備をしておきたい。早替えの段取りとかも大変だし。小道具の準備とかも出来れば…でないとテンパっちゃうから。
美津乃:何もかも冷静で完璧な佇まいなのに。
山中:うそでしょ!
美津乃:めっちゃ白鳥してるな!水面下でのバタバタすごいんだ。努力の人なんだ、崇史君は。
山中:自分が楽しいから。
今奈良:腹筋もしてるし。
山中:だって今回ふんどし姿になんなきゃいけないし!
美津乃:(笑)
山中:演劇であのキャパは久しぶり。立つまでは緊張するなー。立てば楽しめると思うけど。
美津乃:手を伸ばせばお客さんに届く距離でね。
山中:あ、ここにお客さんいる! みたいなあの緊張感。楽しみだよなあ。昔オフオフ(※)で一人芝居やってて、売れないバンドのボーカル役で自作の曲のデモテープを売るってのやったことがるんです。「500円、500円です」って。そしたら、一番前のお客さんが「ください」って。
※同じく本多グループの小劇場、OFF・OFFシアター
美津乃:どうしたの?
山中:「…じゃあ」って売ったの! …急に思い出しちゃった、昔のこと。
美津乃:今回そんなことあるかな。
山中:ふんどしの紐引っ張られたら地獄だけどね(笑)
美津乃:えーと、今回のお話、『砂の家族』の率直な感想を聞かせて。
山中:今奈良っちについて知らないことが一杯あるんだとビックリした! この、ブンゴとハルの物語(※)の、脚本読んだ時にね、この人の中にこういうコトあるんだ、この人お客さんにこんなの見せようとしてるんだと知った時、俺この人のこと全然知らないや! と。すごくいい奴で、飲んで楽しい奴だとは知ってたけど、それだけだったかもしれんと思って。…いいよね、一緒に演劇するって。そういうことが全部わかる。
※「砂の家族」は、戦争で家族を亡くしたブンゴ(山中)とハル(美津乃)を中心とする物語
美津乃:特に作家とか演出家はね。作家は、自分の中の引き出し全部さらけ出すし、演出は、何かの場面で「そうじゃなくてこうして」と言った瞬間、「あ、この人はこういう風に生きてきたんだ。こんな時はこんな反応をするんだ」ってまざまざと見えるから。作・演出って丸裸。特に今奈良っちはリアルを求めるし、形じゃないものを求めるし、すごく面白い。
美津乃あわ
山中:演劇って、最初から決まったことを2時間お客さんに見せるものなんだけどさ。決まった中でどれだけ役者を生きて見せようと思ったら、こんだけ通し稽古やんなきゃダメかって思った(※)。だって、ひとつひとつのシーンを抜き稽古で固めることもできるのに、固めないんだな、と。全体の流れで通していくと、役の一生がわかるし、ありがたいよね。
※今奈良は、早い段階から通し稽古を繰り返し行う演出法で知られる
美津乃:そう! 今回崇史くんと私がW主役ということで、私たちにとって通し稽古がすごく有難い、ってすごく感じる。通し稽古でないとわかり得ない感情が出てくる。
山中:あと何回くらい通すんだろ?
美津乃:下手したら20回。
山中:まあ、10でも15でも。そうなったらこんどは捨ててく作業かな、と。そしたらほんとにお客さんに無駄のないひとつの作品を持って帰ってもらえるなと思う。よく初日なんかのお客さんの感想で「ヒヤヒヤした。役者の緊張が伝わった」とかあるけど、軽くそこはクリアして、初日からお客さんに100のものをお見せできる。いいな、と。そこに到達したい演出家の気持ちがよくわかる。
美津乃:自信もつくし、愛着もわくし、まさにブラッシュアップ。余計なものを取り除いてね。
山中:完全に舞台上でその役でいられるもんね、そこまでやればね。幸せですよ、呼んでいただいて有難い。
美津乃:私もほんとうれしいです、一緒にやれて。
山中:僕こそあわさんとご一緒出来るの楽しみですよー! やるんでしょ、あのメイク?(※)
※「小劇場の破壊女王」として君臨した関西時代、独特の濃いアイメイクが美津乃あわのトレードマークだった
「小劇場の破壊女王」として君臨した関西時代の美津乃あわ
美津乃:しないよ!
山中:え? あのアイラインどうするのってずっと思ってるのに…。
美津乃:今奈良っちに禁止されてる。
山中:あの美津乃あわと共演できるという夢が…。
美津乃:それはともかく、しっかりした作品をお届けしたいと!
山中:そう! ほんとにそうです。僕も頑張ります!