東京都写真美術館で、女性作家の映像表現に注目した展覧会『しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像』

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2019.7.19
カロリナ・ブレグワ《嗚呼、教授!》2018年 Courtesy of the artist

カロリナ・ブレグワ《嗚呼、教授!》2018年 Courtesy of the artist

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日本・ポーランド国交樹立100周年を記念して、東欧の文化大国ポーランドの1970年代以降の美術を、女性作家と映像表現のあり方に注目して紹介する展覧会『しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像』が、2019年8月14日(水)〜10月14日(月・祝)まで、東京都写真美術館にて開催される。

エヴァ・パルトゥム《ドローイング TV》 1976年Courtesy of the artist

エヴァ・パルトゥム《ドローイング TV》 1976年Courtesy of the artist

20世紀のポーランド美術史・映画映像史は、数多くの男性の名によって語られてきた。しかし、ベルリンの壁崩壊後いっきに東側に流れ込んできたグローバル経済の波に参画し、EU加盟も果たした21世紀のポーランドにおいて、女性たちによる多くの表現が、特に映像表現の領域で存在感を放っている。それと同時に、これまで十分に語られてこなかった、女性作家の映像を用いた表現の先駆例について再検証しようという流れが生まれている。

本展は、ポーランド国内外の研究者やキュレーター、関連機関との連携交流を通じて、ポーランドの1970年代からの美術の歩みを、その時代背景をふまえながら新たな視点で読み解くもの。そして、世代を異にする女性アーティストたちが、自身のおかれた社会環境を見つめ、それぞれの表現方法で発信する術を、いかに見出してきたかをたどる、きわめて意欲的な展覧会となっている。

見どころ1:ポーランド女性作家が選んだ「アート」という闘いかた

ズザンナ・ヤニン《闘い》2001年 シングルチャンネル・ヴィデオ、カラー、サウンド(9分)   Courtesy of Zuzanna Janin Studio and lokal_30, Warsaw

ズザンナ・ヤニン《闘い》2001年 シングルチャンネル・ヴィデオ、カラー、サウンド(9分)   Courtesy of Zuzanna Janin Studio and lokal_30, Warsaw

世界的に広まった#MeTooや日本の#KuTooなど、女性に関する問題は、いまも日常的に身近なところで起こっている。ポーランドでは伝統的な慣習が大切にされ、女性には「良き母」、「良き妻」、「良き娘」そして、「良き働き手」であることが理想として求められてきた。また、東欧と西欧の格差による差別や、多様な性への偏見といった根深い問題もあり、これらは時に、女性たちの自己実現を難しくしてきた。

このような目に見えないさまざまな問題と向き合うために、ポーランドの女性作家たちは、社会のなかで自分らしく生きるための術として、「アート」を必要とした。彼女たちが挑む、しなやかな闘いかたは、性別を越えて、私たちに、社会のなかで自分らしく生き抜くためのアイディアと希望を与えてくれるだろう。

見どころ2:実験的な映像表現

カタジナ・コズィラ《罰と罪》2002年 7チャンネルヴィデオ、カラー、サウンド(9分)  Courtesy of the artist

カタジナ・コズィラ《罰と罪》2002年 7チャンネルヴィデオ、カラー、サウンド(9分)  Courtesy of the artist

1970年代、世界ではヴィデオ・カメラを使った映像が、絵画や彫刻、映画とも異なる新しい分野の芸術として頭角を表した。本展では、1970年代から約50年にわたる、ポーランド女性作家の映像表現の変遷を一望することができる。

共産主義政権の下、まだヴィデオ・カメラを使う機会が限られていた1970年代には、フィルムを使って実験が試みられた。民主化を果たし、1990年代に入ると、ヴィデオ・カメラや新しい映像技術を使った表現がつぎつぎと生まれる。その手法は、自分自身がカメラの前に立ってアクションする「セルフィー」、日常を非日常に置き換える「発想の転換」、社会や人間の暗部までを鋭く暴き出す「批判精神」、既存のシステムやメディアを利用して表現をする「ハッキング」など作家の世代によっても様々。冷戦下の共産圏を生きたパイオニア世代から、グローバル化した現代のデジタル世代に共通する実験精神は、誰もが気軽に動画を撮影・発信できる時代のいまだからこそ、新鮮な驚きをもたらしてくれるだろう。

見どころ3:日本初公開作品を多数紹介

ユリタ・ヴイチク《芋の皮剥き》2001年 シングルチャンネル・ヴィデオ、カラー、サウンド(10分52秒)  ザヘンタ国立美術館(ワルシャワ)所蔵作品 Collection of Zachęta -  National Gallery of Art, Warsaw

ユリタ・ヴイチク《芋の皮剥き》2001年 シングルチャンネル・ヴィデオ、カラー、サウンド(10分52秒)  ザヘンタ国立美術館(ワルシャワ)所蔵作品 Collection of Zachęta - National Gallery of Art, Warsaw

近年ポーランドでは、多くの研究者の尽力により、これまで十分な調査研究がなされてこなかった女性映像作家たちの功績を再評価する動きが高まっている。本展は、東京都写真美術館が、出品アーティストのみならず、現地ポーランドで活躍する気鋭の研究者、キュレーターをはじめとする多くの人々との交流の成果として、実現するものだ。これまでとは異なる新たな切り口で、ポーランドの同時代美術と映像表現の変遷を紹介する。作品のほぼすべてが日本初公開となる、大変貴重な展覧会となっている。

イベント情報

日本ポーランド国交樹立100周年記念
ポーランド芸術祭2019 in Japan
しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像 1970年代から現在へ
会期:2019年8月14日(水)〜10月14日(月・祝)
開館時間:10:00-18:00(木・金は20:00まで)※入館は閉館30分前まで
※ただし、8月15日〜8月30日の木・金はサマーナイトミュージアム期間につき21:00まで開館
休館日:毎週月曜日(ただし、月曜日が祝日、振替休日の場合、翌火曜日休館)
会場:東京都写真美術館
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