生ヒップホップバンドを体現し続けるサラリーマンバンド・AFRO PARKER、新曲リリースそして東阪でのライブを前にそのライフスタイルに迫る
AFRO PARKER
会社務めとバンド活動を両立させる生き方としても、生ヒップホップバンドという形態としても、AFRO PARKERは特筆すべき存在だ。静岡在住の弥之助(MC)と福井在住のwakathug(MC)をはじめ、海外勤務のメンバーを含む遠距離バンドでありながら、大学の音楽サークル時代からの友情とヒップホップ愛で結ばれた7人の絆は固く、コンスタントにライブと制作を続けて今年でついに15周年。6月にリリースした4年振りの5thアルバム『Listen』、11月26日にリリースした最新曲「キャッチーなメロディーとハッピーな言葉」も好調な中で、12月には東京、1月には大阪でのライブも決まった。AFRO PARKERはいかにして道なき道を切り拓き、働くバンドマンのモデルケースになったのか? お仕事中の加地三十等兵(G)とBUBUZELA(Sax)を除く、弥之助(MC)、wakathug(MC)、Boy Genius(Key)、KNOB(B)、TK-808(Dr)に話を訊いた。
――AFRO PARKERといえば、サラリーマン兼業バンドであり、なおかつ遠距離バンド。それがとうとう15周年ですか。
弥之助:15年もやってんの?って、自分でも怖くなりますね。2025年になって「15周年イヤーです」と自分で言いながら、初めて実感が湧いてきたというか、ようやく馴染んできましたけど、あっという間の15年だった気もします。
KNOB:活動し続けて15年というよりは、一緒にいたら15年経った、みたいな感じが近いかも。ずっと友達のまま15年って感じです。
ーーひょっとして、遠距離が良かったのかもしれない。
KNOB:確かに。距離が遠いことで、不要なケンカはしなかった可能性はあるかもしれない。
TK-808:距離はあっても、集まったら飲んだりご飯行ったりとか普通にしているので、自然な感じではあったのかなと思いますね。
――バンドなのでもちろん音楽性が大事ですけど、友情というか、人間性がまず根底にあるというか。
TK-808:音楽性で言ったら、みんな違うよね?
wakathug:だいぶ違うんですけど、違うからこそあまり干渉しない感じが逆にいいというか。
KNOB:ヒップホップというジャンルが、あらゆるジャンルを取り込んでしまえるものなので、バラバラだったのがかえって良かった部分は確かにあるかもしれない。
KNOB(B)
――それ、キーワードですね。みんな違ってみんないい。
Boy Genius:多様性の時代ですね。それと、「仕事やりながら大変じゃないですか」とよく言われるんですけど、逆に仕事をすることでお金の心配をしなくてよかったんですよ。AFRO PARKERで売れなきゃ死んじゃう、というのがなかったので、辞める状況が発生しなかったというか、続けようと思えばいくらでも続けられるので、そう問われるたびに「バンド一本でやるほうが大変じゃないですか」と答えるんですけど。
wakathug:ただ普通は、そのアーティストが仮に働いていたとしても、「サラリーマンやってます」みたいなことは大々的に言わないと思うんですよ。
弥之助:サラリーマンの傍らで音楽やってますみたいな、片手間感が出ちゃうのは怖いんですけど、今となっては、働きながらアーティスト活動するのは当たり前の時代じゃないですか。そこであえて「サラリーマンやってます」と言っているのは、単純に他にフックがなかったんですね(笑)。
wakathug:そんなヒップホップって感じでもねえしな、みたいな。
弥之助:壮絶な生い立ちでもないし、ストーリーが何にもない。
Boy Genius:途中で、サラリーマンを前面に出すのやめない?みたいな話も何度もあったんですけど、他にあんまり言うことがなくて(笑)。
弥之助:結果、自分たちで背伸びをせず、自然体のままで長く続けられているのは、ストレスがないということなのかもしれないですね。
――それもキーワードですね。ストレスのない活動。
弥之助:AFRO PARKERでいることが楽なんですよ。
KNOB:暮らしの中に音楽があるって感じだからね。そっちのほうが確かに楽かもしれない。
弥之助: Boy Geniusが言ってくれたように、お米を食べる手段がほかにあるからこそ、音楽の面では何にも曲げなくていいというか、やりたいことだけできるのが大きいですね。もちろん聴いてほしいから、トレンドを気にしなきゃとか、流行を追わなきゃとか、新曲のたびにそういう話は当然するんですけど、それが最初の柱じゃない。あくまでも自分たちが楽しくて好きなもので、言いたいことを言えているのは、衣食住の柱があるからこそなのかもしれないなとは思います。
――衣食住音、ですね。衣食住の上に音楽が乗る。
弥之助:それいただきます。次からそう答えます(笑)。
弥之助(MC)
――新曲の話、行きましょうか。タイトルが「キャッチーなメロディーとハッピーな言葉」。
wakathug:長い。
弥之助:過去最長タイトルです。
――略称は「キャチメロ」。どんなふうに作った曲ですか。
弥之助:自分がトラックを作ったんですけど、ちょっと懐かしいピアノとシンプルなドラムフレーズをやりたいなと思って、トラックを作って、仮歌で何か乗せてバンドメンバーと共有しようと思った時に、ちょうどその時期にバンド内で出ていた話題で、「やっぱり歌はキャッチーなメロディーとシンプルなフレーズだよね」と言っていたのをそのまま歌ってみました。僕は冗談のつもりだったんですよ。
wakathug:最初のデモはそんな感じだったよね。
弥之助:その後一回お蔵入りして、またやることになった時に、創作においてそればかり考えながら作るのは辛いんだよな、という視点の曲にしようと思ったんですね。僕自身はよくわからないこねくり回した音や表現が好きなので、キャッチーなワンワードの繰り返しフレーズとか、嫌悪感までは行かないですけど、苦手意識があったんですよ。でもいろんな経験を重ねることで、それをやっと歌えるようになりました、という思いをサビに乗せてみたら、ヴァースのほうはネガな感情が溢れだした仕上がりになったという、不思議な曲です。
wakathug:さっきの衣食住音の話で行くと、伝わりやすさを最優先するなら、本当にキャッチーなメロディーでやるぞ、ということになると思うんですけど、僕らはそこはあんまり考えたくないよね、でももっと有名になりたいよねという、相反する気持ちがそのまんまドン!と出ている。
弥之助:一番ストレートというか、お客さんに届くまでに何もフィルターがかかってない僕らの感情が、サビにもヴァースにも表れています。
wakathug:中学生とか高校生とかで、こねくり回して難しいものがかっこいい、みたいなのものに一回触れちゃうと、抜けないじゃないですか。でも市場を見てみると、すごくわかりやすいワンワードが溢れていて、それは辛いよねという気持ちがあって。
弥之助:それでいいのかな?という逡巡も吐露しつつ、キャッチーなメロディーの曲たちをディスるんじゃなくて、「お前らもやるんかい!」っていうツッコミを自分に入れつつ、作った曲ですね。これが本当に、100%キャッチーなメロディーとハッピーな言葉の曲だとして受け取ってくれた方がいたとしても、それはそれで嬉しいんです。
――ひとひねりしたところが、まさにAFRO PARKERらしい。サウンド面での聴きどころは?
Boy Genius:音の作り的には、たぶんこれまでの曲で一番シンプルなんじゃないかな。そのままどうぞ、という感じの曲ですね。生々しさ楽しんでもらえればいいかなと思います。
wakathug:ライブでやると変わるので、すごく良くなるのかなと思います。ライブに来てほしいです。
TK-808:シンプルなのはそのまま、ライブもそれでいいのかなと思うので、たぶんそうなると思います。
KNOB:ただライブでは、やや間延び感が出ちゃうとは思うので、いろんな楽器をこまごまと入れながら、細かいノリも大きいノリも両方出せるように調整していきます。
wakathug(MC)
――それができるのが、生ヒップホップバンドの強みですよね。今の日本では希少価値ですけど。
Boy Genius:他にいないですよね。いわゆるヒップホップの人が、バンドの人を呼んでライブをやるとか、例えばSTUTSさんがそうですけど、バンドという形態では、韻シストさん以外にはあんまりいないですね。
KNOB:その下だと、SANABAGUN.は世代が近いですけど。
――活動休止しちゃいましたね。残念ながら。
弥之助:SANABAGUN.は、初めて見た時に打ちのめされました。韻シストさんもしかりですけど、同じようなことをやっているバンドが少ないからこそ、絶対に背中を追っちゃいけないなと思って、近しい人を見つけたら差別化のことばかり考えていましたね。同じことをやったら、自分たちの存在意義が薄れちゃうから。畑が違うので、勝手に出てくる違いはあるんですけど、歌う内容、コンセプト、サウンド面に関しては、かっこいいなと思いつつも、背中を追うだけじゃもったいないなという脅迫観念はありました。15年間ずっと。
TK-808:僕はOvallさんを聴いた時に、これを生でやってんの?という衝撃がありました。その前にクエストラブ(THE ROOTS)はいましたけど、ヒップホップ的なビートを生ドラムでやるという流れが、日本で盛り上がったのはその頃からだった気がします。
弥之助:Ovallは衝撃的だったね。
wakathug:wakathug:僕らのファーストアルバムは、(Ovallが所属する)origami PRODUCTIONSのスタジオで録ったんですよ。その頃、ちょっとレイドバックしたビートを生ドラムでやるみたいことが、Ovallのmabanuaさんだったり、Yasei Collectiveさんだったり、あの時代にグッと出てきた気がします。
KNOB:それこそDTM上でスネアやキックの位置を動かして、どこが気持ちいいのかな?とかやっていたし。
wakathug:もうなくなっちゃったんですけど、代官山にあったライブハウスで僕がアルバイトしていて、そこにOvallさんも結構出ていて。AFRO PARKERを結成した頃にブッキングに入れてもらって、いろんなアーティストのオープニングアクトをやらせていただいて、ブラックミュージックの生音再現ムーブメントみたいなところに、ちょっと関わらせてもらったんですよね。
Boy Genius:2010年頃だね。
Boy Genius(Key)
――そこから出てきて今も続けているバンドって、本当に希少ですよ。もっとアピっていいんじゃないですかね。
Boy Genius:同世代もいないし、下の世代もあんまり出てこない。
KNOB:どちらかというと、普通にロックとかポップスにラップの歌唱法だけが取り入れられていて、ヒップポップバンドではなくなっているかもね。Kroiとか、ブラックミュージックテイストで、ラップっぽいこともやるけど、ヒップホップではないし。
弥之助:他のジャンルに、当たり前にラップが歌唱法のアクセントとして登場してから、ここまで人口に膾炙していったのも、2010年比で言うとだいぶグラデーションが変わっていて。当時はラップしたらイコール・ラッパーというか、イコール・ヒップホップまで繋がっていて、ポップスとは別のものと思われていたので。
wakathug:その後、フリースタイルラップのブームがあって、それがJ-POPに定着していって。
Boy Genius::K-POPの影響もあるよね。
弥之助:ポップスとか、アニソンとかって、懐が深いじゃないですか。ジャンル関係なく、面白いサウンドだけが凝縮されていくような貪欲な動きが、ラップに関しても起きたのではないかと思っています。だから我々も、結成当時よりも本当に居心地が良くなったんですよね。
KNOB:異物感はなくなってきたよね。
Boy Genius:2010年頃は、ラップやるならイカつくなきゃとか、ヒップホップ然としてなきゃとか、そういう流れが結成して10年弱はあったと思う。
wakathug:現に、イベントに出させてもらった時に、「なんだこいつら」みたいな顔で見られることが結構あったんですよ。
Boy Genius:WACK(ダサい、ニセモノ)だなと思われていた(笑)。
弥之助:WACKだと思われてるんだろうなーと思いつつも、好きだからやってますみたいな感じ。そこの居心地はだいぶ変わったなというのと、変わった上で、ヒップホップバンドですと胸を張って言えるようになったけど、果たしてここからも言い続けるのか?というと、まだ答えは出ていないですね。
Boy Genius:USのヒップホップも様変わりして15年前とはだいぶ違うし、「これはヒップホップなのか?」みたいな曲も出てきているし、ヒップホップというもの自体がよくわからなくなってはいますね。
――先日、トラヴィス・スコットを見ましたけど、ある意味ロックコンサート的だなと思いましたね。音もそうですけど、見せ方や存在感において。
KNOB:ヒップホップが、ポップスになったんですよね。
――そういうことかもしれないですね。
弥之助:だとすると、その揺り戻しがまた来ますね。ひと昔前のみんなのイメージの、硬派なラッパーのスタイルが、カウンターで勝ち上がっていくかもしれない。15年もやってると、そういう変化点とか、音楽の流行りの話ができるから面白いですよね。
TK-808(Dr)
――そんな激動のシーンをサバイブした、AFRO PARKERの15周年を祝う〈AFRO PARKER 15th Anniversary TOUR Part 02.〉が、年末と年始に開催されます。ハッピーなライブになりそうですか。
弥之助:そうですね。そもそも15周年のツアーを一回やっているのに、「もう一回やるぞ!」ということなので。
wakathug:15周年パート2です。10周年の時はコロナで、やろうとしていてできなかったので、今は動けるようになって嬉しいんですよね。
――東京公演は12月14日に表参道のWALL&WALLで、大阪公演は1月12日に心斎橋のLIVE SPACE CONPASSで。意気込みをぜひ。
TK-808:6月に大阪と東京でやったライブも、だいぶ面白い感じにはできたと思っていて、今回は新曲もあるし、一味も二味も違ったものをお見せできるのではないかと思います。
KNOB:15年やっていると、曲の制作の仕方も変わって、必要な楽器も変わっているので、「こんな曲もあったよね」なんて思いながらやっているんですけど、いろんなものを吸収した今の状態で昔の曲をやると、絶対に昔より良くなっているなと思います。ひと昔前には、ここ3人(弥之助、wakathug、Boy Genius)だけで曲を作って、僕らは全く何もしないみたいな時期もあったんですよね。そういう時期の曲もようやくバンドでやることがここなれてきた感もあって、今は非常にちょうどいいバランス感でライブができる状態だなというのは、6月のライブをやって思ったことですね。キャッチーなメロディーを、さらにキャッチーにやれるようになっていると思います。
――お客さんと一緒にどんな空間を作るのが、AFRO PARKERの理想ですか。
弥之助:来てよかったな、いい日だったなと思ってほしいです。ライブは見る側も疲れるけど、気持ちいい疲労感を持って帰りの電車に乗ってほしいし、そのためなら何でもやりますという感じです。自分のために見に来てほしいですね。お客さん自身が何かを持って帰ってほしいし、僕らもそれに対して何か与えられるものがあったら一番嬉しいなと思います。
KNOB:圧倒的な非日常でなくていい、ちょっとした非日常でいいよね。日常よりは特別な経験をしてほしいけど、ふらっと行って、ふらっと楽しんで、一段上のテンションになって帰ってもらえたら、僕らとしてはいいのかなと。みんなの暮らしの中に僕らもいてほしいし、僕らの暮らしの中にみんなもいてほしいので。
wakathug:AFRO PARKERの音楽は、仕事終わりの平日の火曜とか水曜とかの地味な日に、ちらっと聴いてくれると嬉しいんですよ。そして土日にライブして、ああよかったな、また来週も頑張ろうと思う。僕らは言ってることがサラリーマンだったり、日常的だったりするので、その言葉が仕事中とかにうっすら響いてくれると、嬉しいのかなと思います。
KNOB:しんどい時に背中をもう一押し。
wakathug:それが「After Five Rapper」(セカンドアルバム『LIFE』収録曲)と言っているゆえんかもしれない。
Boy Genius:それと、エゴサしてると、「予約したけどヒップホップのライブ行ったことないし、一人で行っていいのかな」と書いている人がいて。でも終わってみたら「幸せだった。全然怖くなかった」みたいな。
弥之助:「怖そう」というのは、ヒップホップというジャンルが背負っている業(ごう)ですね。でも僕らはそうじゃない。
Boy Genius:ニコニコして帰ってもらいたいです。AFRO PARKERのライブって、終盤にかけてエモさと多幸感がグイっと上がって、結局みんなニコニコして帰るのがいつものパターンで。キャー!でもないしウォー!でもない。
弥之助:じんわり、ニコニコ、みたいな感じですよ。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
AFRO PARKER
AFRO PARKER - キャッチーなメロディーとハッピーな言葉 (Official Music Video)
ライブ情報
2026年1月12日(月)心斎橋 LIVE SPACE CONPASS
OPEN/START 16:30/17:00 ¥4.500(1D別)
リリース情報
Music Streaming
https://orcd.co/catchymelody
Official Website
https://afroparker.com/