小堺一機がトーク&ソングで魅了「緊張もしますが、人の前でやるのが好きなんです」
小堺一機
お茶目なビジュアルと皆の笑顔を誘うトークが魅力的なエンターテイナー・小堺一機のライブ『小堺一機トーク&ソング SPECIAL~リハの気分で!~』が、2019年8月14日(水)、15日(木)の二日間、東京・Bunkamura シアターコクーンにて開催される。昨年4月に『小堺一機トーク&ソングショーVol.1』として開催されたこのライブは、「テレビでは決して見られない小堺一機が今宵あなたにちょっぴりオトナの歌と笑いを届けます」と題し、大盛況のうちに終了した。
さて、今年の公演ではどのような魅力的なひと時を提供してくれるのだろうか。またサブタイトルにある“リハの気分で”の意味とは? 小堺に直接伺ってきた。
■「やっぱりそういうのがしたかったのね」とあたたかい眼差しを
ーー今回初のシアターコクーンでの開催ですね! 前回のMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREと比べたらかなり大きな劇場となりますが、自信のほどは?
ええ……大丈夫かな(笑)? 毎回いつも「大丈夫か?」って思っているんですけどね(笑)。
ーーなるほど(笑)。今回はどのような曲を歌うんですか? ちらしには小堺さんのオリジナル曲や昭和歌謡ヒットや映画音楽とありますが……もっと具体的に伺ってもいいですか?
昭和の歌はちゃんと歌うと全部で20曲くらいになるんですが、そうはいかないので、替え歌にしたり、「この人はこんな曲を歌わないでしょ?」という「もしも~」的な歌とかね。
小堺一機
ーーその曲はやはりその人のモノマネをしながら歌うんですか?
ええ、「モノマネ」というと似ていないって声が上がるのでそこはモノマネです、と言わずにやります。雰囲気でね(笑)。
ーー前回のライブの時はいかがでしたか?
1回目のライブではいつもいらっしゃるファンの方も多かったですが、ライブを始めると「ああ、やっぱりそういうのがしたかったのね」って顔されました(笑)あたたかい眼差しをされていましたね。
■常に自分に「のりしろ」を作っておく
ーー今さらですが、お客さんの前で歌ったり、しゃべったりする事って緊張しませんか? 毎日同じ観客ではないわけですから反応も毎日変わりますよね?
TVで僕の事を覚えてくださった方がほとんどだと思うんですが、僕はやっぱり客前でやることが好きなんです。子供の頃、NHKの合唱団に入った時もホールでお客さんがいらして、『ぎんざNOW!』でも目の間にお客さんがいた。『紅白歌のベストテン』の前説もやっていて、やはりそこにはお客さんがいたんです。生のお客さんが目の前にいる方が緊張もするけれど楽しいんです。お客さんの前だと反応がすぐわかるんですよ。自分が投げた球が「あ、これ好きですね!」「こっちはあまり好きじゃないんですねえ」って。「最後にお客さんが(笑いの)仕上げをしてくれる」そんな風に思うんです。今もスタッフだけでドラマや番組を作っている時、見ている人の反応が凄く気になるんです。
よく先輩方が話してましたが、自分でがっちりとネタを作りこんでいくもんじゃないって言われましたね。完璧にしていくのならドラマか映画をやればいい。この世界はパッとお客さんに投げてその日に生まれるモノのほうが稽古をやるよりすごいモノをいただけるんです。もちろん稽古はちゃんとやった上ですが。また、今日ものすごくいい反応をいただいたので、明日同じようになぞろうとするとダメなんです。緊張もするし、楽しいところです。
ーーいい反応をいただけたネタは何度も使いたいでしょうが、そこはそうしないんですね?
人間が持つレーダーって凄いんですよ。どこかで「これ、昨日ウケたんですよ」って顔を演者がしてしまうんです。なぞったネタをやってウケなかったとき、「これ、〇〇でやったネタなんですけどね」って言いながらやる演者さんもいますが、あれって本当なんですよ(笑)。演者としては嬉しかったからあの現場をもう一度再現したくてやるんですが、それは今日できるって事ではないんです。だからやる側としてはネタをがっちりキメこまず、稽古するところと、あえて稽古をしない部分……常に「余白」「のりしろ」を持って舞台に立てるように作っておく事で、より楽しくなるんです。
小堺一機
ーー“リハの気分で”というのもそんなところから生まれたキーワード?
そうなんです。市村正親さんからは「いいか、小堺。リハーサルはどこを間違えたかを確認する場所なんだ。だから間違えなかったとホッとするなよ。本番で絶対間違えるから」って言われました。本当なんですよこれ。ありえないところで本番は間違えるんです。だからリハの時に自分の中の「のりしろ」を今日は1㎝にしよう、2㎝くらいとっといたほうがいいかな、とアンテナをお客さんの方に向かって立てながらやるんですね。
うちの萩本(欽一)が、言うんです。「お客さんの気持ちを言ってあげるとお客さんはそいつを信用する」って。「ちょっと緊張しているかも」ってドキドキしているのがバレている時にあえて口にしてみるとお客さんが「あ、この人大丈夫」って許してくれたりね。そこを全部隠し通すのではなく、ステージ上で遊べるくらいリハをやって余裕を持ってやるといいよって言うんです。
そうそう「欽どこ!(欽ちゃんのどこまでやるの!)」の話ですが、あれ、1日8時間くらい稽古をするんですが、翌日になると「昨日のはナシ」でまた別の事をやるんです。いい欽ちゃん・ブートキャンプですね(笑)。一度がっちりやっているから、身体の中には入っている。その状態だと本番になって「あ、ここどうしよう」となった時にいちばん役に立つのが昨日までやっていたその稽古だったりするんです。もう何を忘れていても口から台詞が出てきますから。
■ミュージカルは苦手だったのに『ザッツ・エンターテインメント』で大ハマリ!
ーー映画音楽も歌われるそうですが、小堺さんの映画に関する思い出を聴かせてください。
僕らの時代は「映画館に行って上演されているものを観る」だったんです。今だと「この作品が見たいから映画館に行く」じゃないですか。僕らの時代は300円で3本とか、とにかく映画館に行ってその日やっているものを見ていたので、結果好きな映画のジャンルというものがないんです。中学生になるとちょっとナマイキになって「あの作品が見たい」なんて言い出すんですが、そんな作品に限って3本目の上映で、興味なかった前の2本も見なければならない。でも思いがけずその2本が凄く面白くて大発見だ! で、次見に行くときは前の2本に出ていた役者さんが出ている映画を見に行く……こうしていろいろな「お土産」をもらいながら、作品、役者さんを覚えていきました。
今だと「予告編」と(映画泥棒のモノマネをしながら)「それは犯罪です!」ってものくらいしか新しい「お土産」がなくて。昔の場合だとまるまる2本見る訳ですから、何か「お土産」がもらえて、あとで周りの人に話すと「アレは音楽がいいんだぜ」って先輩が新しい情報を教えてくれ、またそこからさらに世界が広がっていきましたね。今「本当に映画にお詳しいですね」と言われる事があるんですが、そういう体験に助けられているところもあります。
小堺一機
ーー特に印象的だった作品は?
昔はミュージカルには全然興味がなかったんです。タモリさんと一緒でね。「なんで悲しい時に街の中でくるくる回って歌い踊っているんだよ!」とか思ってしまうタイプでした。と思っていたら、父親が突然『ザッツ・エンターテイメント』を見に行こうって誘ってくれたんです。父も映画は好きですが、それってミュージカルの映画じゃないか、あまり興味がわかないなって思っていたんですが、一度見たらビックリしちゃって! 初めてフレッド・アステアという人を認識して、白タキシード姿で踊る姿に「なんてかっこいいんだろう、これは凄い!」となりまして。その話からまた先輩が他のミュージカル映画の話をしてくれて、やがて他のミュージカル映画の劇中曲「ビギン・ザ・ビギン」を教えてくれて……そこですかさずタップダンスを習いに行っていたら、今またもう少し大きな人間になっていたかもしれませんね(笑)。この世界に入ってからタップを学んだので、それでも22年くらいはやっていますけど。とにかく自分の好みが急に変わってしまった作品でした。
そして、自分が見たいと思って見に行った映画は『三大怪獣 地球最大の決戦』。浅草東宝のこけら落とし上映だったんです。この映画館は凄いんですよ。スクリーンの前に噴水があってお客さんが入ってくるとシャーって水を吹いて、照明が変わったりしたんです。今思うと昔のほうが映画館って贅沢でしたね。そんな場所で友達と怪獣映画を見て「キングギドラが」とか言いながら楽しんでましたね。
■見どころは僕じゃなくて……(笑)
ーーお話を聴いていると小堺さんのタップダンスを観たくなります! 今回は踊らないのが残念ですが。さて、これから稽古やリハがありますが、今の時点でズバリ見どころは?
あのね、宇佐元くんが曲を飛ばすところ! 「皆何を間違えているんです?」って顔しているんですが君が間違えているんだよ! って(笑)。僕もたまにやるんです。僕も飛ばしたりして「あれ、皆ちゃんとやろうよ」って顔をするんですが、「あなたが間違えているんですよ」って突っ込まれたりしてね。そんな時に橋本さんが非常に冷静に構えているのが見どころです(笑)。
ーー共演者の宇佐元恭一さん(ピアノ)と橋本歩さん(チェロ)の存在にも注目ですね。
宇佐元くんとはもう30年の付き合いになりますね。若い時、文化祭に呼ばれた時は宇佐元くんも即興で弾いてくれるし、その場ですぐネタをパスすることができる。橋本さんもクラシック畑の方なので「私、こんな事には付き合えないかも」って思われるのかなと思っていたら、そんな事は全然なく楽しんでくれて嬉しいですね。
ーーライブを楽しみにしているお客さんにメッセージをお願いします。
『トーク&ソング』という事でしゃべりの中に歌が散りばめられているんですが、なるべく「さあ、次はこんな歌謡曲を~」的な目次を言わず、しゃべっているうちにいいところから自然に歌に入るようにしたいと思っています。「次は何を歌うのかな?」「私の予想が当たるかしら」とお客さんに思っていただきながら進めていくときっと面白いと思うんですよ!
小堺一機
取材・文=こむらさき 撮影=福岡諒祠
公演情報
■会場:東京・Bunkamura シアターコクーン
■出演:小堺一機
宇佐元恭一(ピアノ)、橋本歩(チェロ)