村上春樹の短編小説2作品が混じり合う、舞台『神の子どもたちはみな踊る after the quake』プレスコール&囲み取材レポート
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『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
村上春樹の名作短編小説を舞台化した『神の子どもたちはみな踊る after the quake』が、2019年7月31日(水)に東京・よみうり大手町ホールで初日を迎えた。それに先立ち、プレスコール&囲み取材が行われた。
プレスコールでは、今作の冒頭のシーン、作家の淳平(古川雄輝)が大学時代からの友人・小夜子(松井玲奈)の娘・沙羅(横溝菜帆・竹内咲帆のWキャスト/プレスコールでは横溝が出演)に「くまのまさきち」の話をしている場面から始まった。小夜子によると、沙羅は地震のニュースを見て以来、悪夢におびえるようになったのだという。
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
即興で作った物語を語る淳平、それを見守る小夜子、それぞれが幼い沙羅を心配し、守ろうとする優しさに満ちている。しかし、沙羅の見る夢の不穏さも同時に伝わって来て、緊張感のある物語の始まりとなる。
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
続いて始まったのは、淳平が書いている小説「かえるくん、東京を救う」のシーンで、それまでの静かな雰囲気とは一転、ジャズ調の激しい曲が流れる中、かえるくん(木場勝己)と片桐(川口覚)が登場する。普通のサラリーマンの片桐の元に、かえるくんが突然やってくる。かえるくんが言うには、東京の地下にはみみずくんがいて、そのみみずくんが東京に大地震をもたらそうとしているというのだ。なんとかその大地震を食い止めるため、自分と一緒にみみずくんと戦って欲しい、とかえるくんが片桐に頼む、という不思議なストーリーだ。
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
かえるくん役の木場は、緑色の手袋に緑色の靴、蛙の顔を模した被り物が頭の上に乗っかっているだけで、それ以上に蛙を示すようなアイコンは身に着けていない。しかし、やはり木場の俳優として持っている説得力が、その演技だけでも彼を「かえるくん」以外の何者でもない、と思わせてくれる。かえるくんの持つ温かさが奇をてらうことなく素直に伝わってくる様は、そのまま木場本人の俳優としての深みであると感じられる。
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
このシーンで淳平は、この物語の作者として、語り手のようなポジションになる。原稿用紙を持ちながら、「かえるくん~」の物語が進行する舞台上を動き回り、「蜂蜜パイ」の世界との交錯が視覚的にも伝わってくる。
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
そして場面は変わり、小夜子が「かえるくん~」の原稿を読んでいるシーンが始まった。淳平が机に向かい執筆する中、読んでいる小夜子のところに「かえるくん~」の登場人物である、かえるくんと片桐がやってくる。かえるくんは片桐に、地震を食い止めるための計画を説明する。小夜子もまるでその話に一緒に加わっているようで、ここでも2つの別々の物語が交錯し、混じり合う様子が見て取れる。舞台中央で物語を進める木場・川口・松井の3人のやり取りがコミカルで小気味よく、見ている方もワクワクドキドキするような感覚だった。
『神の子どもたちはみな踊る』プレスコール
混じり合った2つの物語は、どのような展開を見せ、どのような結末を迎えるのか。ぜひ劇場で確かめて欲しい。
続いて行われた囲み取材には、古川雄輝と松井玲奈が登壇した。
『神の子どもたちはみな踊る』囲み取材 左から古川雄輝、松井玲奈
それぞれが演じる役柄についての質問に、古川は「僕は淳平という小説家の役で、少し内気で自己表現が苦手で、松井さんが演じる小夜子に思いを寄せているけれども、それをなかなか伝えられない人物です」、松井は「私が演じる小夜子という役は、4歳の子どもがいるシングルマザーで、淳平との関係が近づくのか近づかないのか、そういう中で震災が起きたことで子どもも自分もちょっと心が疲れてしまっている役です」とそれぞれ説明した。
どのような稽古だったのか、という質問には、古川は「舞台をやるのが3年半ぶりで、感覚的にいろいろ忘れている部分もあって、“舞台だとそういう表現をしていいんだ”とか、新たな発見もありました。稽古は役者として成長できる、学べる場でもあるので、楽しくやらせてもらいました」、松井は「二つの作品が混ざり合ってどんな舞台になるのかな、と思っていましたが、木場さんが演じているかえるくんが、作品全体をうまく繋いでいく感覚が見ていて面白くて、稽古場に行くのが毎日楽しかったです」と、それぞれ楽しかった様子をうかがわせた。
村上春樹作品の魅力はどこだと思うか、と問われると、古川は「いろんな比喩表現が出て来ますが、読む人によってとらえ方が変わると思うので、深読みしたり、「これはどういうことなんだろう」と考えながら読めるところが面白いと思います」、松井は「稽古をしていく中で、どんなふうに村上さんはこの物語を伝えたかったんだろう、と読む側に考える余白を与えてくれるところが楽しい部分だと思います」と、読んだ人がそれぞれに感じたり考えたりできるところを魅力として挙げた。
『神の子どもたちはみな踊る』囲み取材 左から古川雄輝、松井玲奈
今回が初共演となる2人に互いの印象についての質問が飛ぶと、古川は「松井さんは稽古の取り組み方を見ていても、すごくプロフェッショナルだと思いましたし、何事にも全力で取り組んでいて素晴らしいです」、松井は「古川さんは稽古場で黙々と稽古に打ち込んでいるイメージだったんですけど、昨日のゲネプロでステージに立った瞬間、稽古場からさらにパワーアップしたお芝居をしていて、引っ張っていってくれる感じがして頼もしかったです」と互いの姿勢をたたえ合った。
「以前、インタビューで『村上さんの作品を目でも楽しんで欲しい』とコメントしていたが、本番を控えた今、具体的にどういったところを目で楽しんで欲しいと思うか」という質問に古川は「例えば僕が相手の心情について話し出したり、急にナレーションになったり、普通の会話劇や舞台では味わえない雰囲気があって、そこが村上さんの作風とマッチしている点でもあります。原作を読むのとはだいぶイメージが違うと思うので、そこを楽しんでもらいたい」と答えた。
舞台出演にかける思いを聞かれた松井は「今までは、本番を迎えるまですごく緊張してたんですけど、今回はすごく楽しくて、早く本番を迎えたいと思っていました。舞台の上でお芝居をするのがすごく楽しいです」と語った。
『神の子どもたちはみな踊る』囲み取材 左から古川雄輝、松井玲奈
東京公演は8月16日(金)まで、そのほか愛知、 神戸でも上演される。
取材・文・撮影=久田絢子
公演情報
脚本:フランク・ギャラティ(Frank Galati)
演出:倉持裕
出演:古川雄輝、松井玲奈、川口覚、横溝菜帆・竹内咲帆(子役・Wキャスト)、木場勝己
日程:2019年7月31日(水)~8月16日(金)
会場:よみうり大手町ホール(東京)※ほか愛知公演、 神戸公演あり。
主催:ホリプロ/読売新聞社
企画制作:ホリプロ
お問い合わせ:ホリプロ
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/kaminokodomo2019/