岡田将生「自信を持って作品を届けられる」 舞台『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』初日前会見&ゲネプロレポート
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『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』に出演している岡田将生(写真提供:東宝演劇部)
イギリスの劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルによるサスペンスドラマ『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』が2019年8月、日本初演を迎える。アレクシ・ケイ・キャンベルの戯曲をこれまで二作品演出した経験がある、文学座出身の上村聡史が日本版演出を手掛け、岡田将生、木村多江、益岡徹、峯村リエ、相島一之、立川三貴、前田亜季と舞台に限らず、テレビや映画など多方面で経験豊富なメンバーが出演する。
プレビュー公演初日を控えた8月1日(木)、ゲネプロ(総通し舞台稽古)が公開され、岡田将生、木村多江、益岡徹が取材に応じた。
『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』に出演する、益岡徹、岡田将生、木村多江(撮影:五月女菜穂)
物語の舞台は1937年、イギリスのヨークシャー州。ある日、裕福な炭鉱主であるハロルド・プリチャード(益岡徹)のもとに、エイブリー一家が訪ねてくる。かつては家族同士で仲良くしていたのだが、10年前にハロルドの一人息子・エドガー(当時12歳)が、ブラッケン・ムーアという荒地の廃坑に落ちて、亡くなった事故をきっかけに疎遠になっていた。
それ以来、エドガーの母親・エリザベス(木村多江)は家の中でふさぎこんでおり、彼女を励ますためにエイブリー一家はプリチャード家に数日滞在する予定だった。エリザベスはエドガーの親友であった、エイブリーの一人息子・テレンス(岡田将生)と再会すると、亡き息子への思いを溢れんばかりに話し出す。
しかし、その日から毎晩、うなされたテレンスの恐ろしい叫び声が、屋敷中にこだまするようになる。テレンスはエドガーの霊が憑依し、何かを伝えようと囁いてくるという。やがてエドガーの霊にとり憑かれたテレンスは、事故現場であるブラッケン・ムーアに向かう。そして事故当時の知られざる真実が、少しずつ明らかになっていく……。
『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』のゲネプロの様子(写真提供:東宝演劇部)
俳優として長年キャリアを積んだ後、劇作家に転身したアレクシ・ケイ・キャンベル。本作『ブラッケン・ムーア』は2013年6月にロンドンのトライシクル劇場で初演されている。サスペンスタッチに物語が展開しつつも、最後に意外などんでん返しが待ち受ける、親子愛・夫婦愛の真実を描く戯曲だ。
ちなみに、原題も『Bracken Moor(ブラッケン・ムーア)』。brackenは植物のワラビ、moorは原野や荒地を意味し、劇中では何十年も前に閉鎖された炭鉱で、今はワラビが覆い尽くしている場所を「ブラッケン・ムーア(ワラビの野)」と読んでいる。この何十年も前に閉鎖され、ワラビが鬱蒼と茂る炭鉱跡というのは、近代以降、物質的・合理的という名のもとに人間が封印してきた精神性、神秘性も同時に表している。
本作の日本初演版演出を務める上村聡史は、これまで『信じる機械-The Faith Machine-』(2014)と『弁明』(2016)とキャンベルの戯曲を2作品演出した経験を持つ。また、戯曲を深く読み込み立体化する手腕に定評があり、小劇場から大劇場、古典から現代劇と幅広く活動している。本の面白さを最大限に引き出し、観客の想像力を刺激する上村の演出にもぜひ注目していただきたい。
『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』のゲネプロの様子(写真提供:東宝演劇部)
初日前の囲み取材の様子をお伝えする。
ーーいよいよ開幕が迫ってきましたが、まずはお気持ちをお聞かせください。
岡田:1ヶ月みっちり稽古ができました。みなさんと台本の解釈が深まった状態で稽古ができたので、自信を持っていろいろな方々にこの作品の良さを届けられるのではないかなと思っています。
木村:明日初日なのですが、まだ1回もちゃんとできたことがないので、ちょっと大丈夫かなと不安でいっぱい。でも、共演者の方々がすごく心強くて、みんな素敵な方ばかりで、みんなで助け合おうという話になっています……。作品自体はとても面白くて、重厚で、大人の芝居。すごく魅力的な人たちがこの舞台を盛り上げていってくださるので、私もそれについていきたいなと思っています。
益岡:今日まで1ヶ月ちょっと、稽古場でみんなと一緒にやってきました。幕が開いてからもまた1ヶ月間、多分家族よりも長い時間を一緒に過ごすと思うんですけど、みんなとの関係もまた一段と深まって、芝居の内容も深まっていくのではないかと思っています。それを楽しみにしています。
『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』に出演している益岡徹(写真提供:東宝演劇部)
ーーご自身の役柄と役作りのポイントを教えてください。
岡田:僕はテレンスという役を演じます。(木村と益岡が演じる)ハロルド家の亡くなった息子エドガーの10年来の親友です。子どもの頃エドガーとお付き合いしていたことによって、またこの二人の家庭に入っていくことになって、エドガーの幽霊が僕に取り憑いて、いろいろなことを二人に伝えていくという役柄です。役作りは、子どもをいっぱい見ました。(エドガーと同じ年齢の)12歳ぐらいの動きとか喋り方とか声の高さとか、そういうことをいろいろ研究して、今回臨ませてもらいました。
木村:私はエリザベスという女性を演じます。旦那さんは益岡さんが演じるハロルド。私たちの子どもが亡くなって10年経っているけれども、その暗闇から抜け出せない女性の役です。役作りについては、まず日本人ではなく、イギリスの女性なので、イギリスの映画をたくさん見ました。時代背景も今よりちょっと前の話なので、時代背景がわかるような映画を見たりしましたね。なかなかの薄幸な役をやらせていただくんですけど、強さと悲しみと果てしない深さと、闇みたいなものを2時間の舞台の中でどれだけ表現できるか。すごく悩みながら役作りをしました。
益岡:作品的にいろいろな要素が絡まりあった、内容になっています。僕たちの息子が死んでしまったことで、夫婦の間の断絶があり、親友一家が何とか日常を取り戻せないものかと訪ねてきてくれたり、テレンスが私たちの息子に憑依されたり、病的な奥さんがどうなっていくかとか……。僕が演じるハロルドは、男はこうあるべきだということや慣習に囚われてしまっている。その部分が非常によく書かれている脚本だと思いました。稽古の最初に本読みを長くやったんですけど、その時に感じたことや演出の上村さんが言ったことを、今でも新鮮に思い出します。
『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』に出演している木村多江(写真提供:東宝演劇部)
ーー岡田さんは、木村さんと益岡さんと舞台での共演は初めてですよね?
岡田:はい。初めてです。本当に舞台上でたくさんのことを教えてくださったり、見せてくださったり。今回の芝居はセリフがすごく大切。特にお二人はたくさん膨大なセリフがあるなかで、言葉の力や伝える力があって、すべてダイレクトに心に響いてくる。会話のキャッチボールを勉強させてもらっています。
益岡:いやいや、岡田さんもね、すごいんですよ。喋り出したら止まらない、憑依される部分があるから。すごいんですよ。見どころになるので、後の質問となると思いますけれども……。
岡田:言っちゃったじゃないですか(笑)
ーー日本初演の舞台ですが、初演に出演するということについてはいかがですか?
岡田:いろいろ考えてしまうとプレッシャーを感じてしまうので、今回は本当に演出家の上村さんについていこうという気持ちがありました。僕は舞台の経験があまり多くないので、上村さんに演劇というものを教えてもらいたいと思って、この作品に関わらせてもらいました。なので、あまり難しく、初演とか一番最初というのを意識しないようにしました。
ーー木村さん、先ほどうまく行っていないと仰っていましたけれども、具体的にはどういうことですか?
木村:あのね……セリフを完璧に言えないんですよね。
岡田:そんなことないです。そんなことないです。
木村:皆さん守ってくださるんですけど、本当に1回もうまく行っていなくて。この後ゲネプロをやるので、そこで何とか完璧にやって本番に臨みたいなと思います。……すごいみんなゲラ(※笑い上戸)なんですよ。岡田さんも私もゲラで、すぐ吹き出しちゃうんですよ。すごい真面目な芝居なのにニヤニヤしていたり、ちょっと笑っていたり。あと、岡田さんが倒れているシーンで、ちょっとカクンとなっていて、寝てるのかなとか……。
岡田:ちょっと! 全然お互いを守ってくれていないじゃないですか!(笑)
木村:温かく見守っています(笑)。起きて! と思いながら芝居をしています。
岡田:大丈夫です。寝ていないです(笑)
木村:すごく真面目にやっているんですけど、たまに益岡さんがおかしかったりして……。
益岡:そういうつもりは全くないんです。岡田くんが寝ているシーンで、本当に寝るのはいいんだけど……。
岡田:いや、だから寝てないですよ(笑)。結構、長い時間横たわっているシーンがあるんですよ。そこから起きてからの、爆発的にわーっとやらなくてはいけないので、寝ていられないです。
木村:ふふ、エネルギーを貯めているんだよね。
『ブラッケン・ムーア〜荒地の亡霊〜』のゲネプロの様子(写真提供:東宝演劇部)
ーー岡田さんについての印象はどうですか?
木村:以前、悪い役をやっていらっしゃるのを拝見していて、ちょっと怖いのかなと思ったけど、雨に濡れて、捨てられた子犬みたいな(笑)。かわいいらしいです。すごく誠実に、真面目に取り組んでいる。セリフがたくさんあるのに、初日からバーっとセリフを覚えて、台本を外していた。すごく忙しいのに、真面目に取り組んでいらっしゃるんだなぁと思いました。私も焦って、触発されて。……頑張ります。
ーー岡田さん、演じる上で苦労した点はありますか?
岡田:お話の核となる、ネタバレになってしまうところが一番大変でした。なぜここにきて、取り憑かれて、すべてを伝えるシーンがあるんです。ずっと喋っていまして、長い時間をかけて益岡さんに言葉でちゃんと伝えていくシーンなんです。それは大変ですし、一番の見どころでもある。一生懸命やろうと思っています。
ーーカンパニーのチームワークはどうですか?
岡田:見ての通り、穏やかに助け合いながらやっています。僕はこのメンバーで年下なんですけど、皆さんに甘えさせてもらっています。皆さん自由で、本当に気を使わず。お芝居に集中できるカンパニーです。
ーー最後に一言お願いします!
岡田:愛と喪失と再生という3つのテーマを軸に動いていく話です。僕たちのセリフの言葉の力を皆さんの耳に、脳に届けたいと思っています。ぜひお時間がある方は舞台に足を運んでいただけると嬉しいなと思っています。14日からはシアタークリエ、その後全国でやります。
ーー岡田さんの代表作の一つになるといいですね。
岡田:そうですね。舞台は本当にいろいろな勉強をさせてもらって、学べる場所。1ヶ月学んできたことを100%でお客さんに届けたいなと思います。
フォトセッションに笑顔で応じる岡田将生(撮影:五月女菜穂)
上演時間は約2時間40分(途中休憩あり)。4日(日)までシアター1010(東京都足立区)でプレビュー公演を終えた後、14日(水)から日比谷・シアタークリエで東京公演が開幕。その後、長野、愛知、静岡、大阪を上演する。上質なサスペンス会話劇をぜひお見逃しなく!
公演情報
翻訳:広田敦郎
演出:上村聡史