『円山応挙から近代京都画壇へ』展レポート 応挙晩年の傑作《松に孔雀図》含む、約100件の名品が集結!
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円山応挙 重要文化財《松に孔雀図》 寛政7年(1795) 兵庫・大乗寺蔵 東京展:通期展示
江戸中期から昭和初期までの円山・四条派の系譜をたどる展覧会『円山応挙から近代京都画壇へ』(会期:〜2019年9月29日)が、東京藝術大学大学美術館にて開催中だ。江戸中期から後期にかけて、京都で活躍した画家・円山応挙は、写生画による親しみやすい表現で多くの人々の心を捉えた。狩野派や中国の絵画が主流だった時代に、画題の解釈を必要とせず、見るだけで楽しめる応挙の作品は京都で多大な影響を持ち、やがて「円山派」を確立した。
円山応挙 重要文化財《写生図鑑(乙巻)》 明和7年〜安永元年(1770-72) 株式会社 千總蔵 東京展:前期展示
与謝蕪村に師事し、後に応挙の画風を学んだ呉春(ごしゅん)は、応挙の写生画に蕪村のすっきりとした情緒を加えた画風によって、「四条派」を形成する。円山派と四条派を融合した「円山・四条派」は、京都画壇の主流となり、竹内栖鳳や上村松園など、近代の日本画家たちに脈々と受け継がれていった。
左:呉春 《山中採薬図》 江戸時代後期 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館蔵 東京展:前期展示
本展は、近世から近代へと引き継がれた円山・四条派の画家たちの作品を、「自然、人物、動物」のテーマごとに紹介するもの。東京展では、重要文化財8件を含む約100件の名品が会場に集う。なかでも、東京では約10年ぶりの公開となる応挙晩年の作品《松に孔雀図》を含む、大乗寺襖絵の立体展示は見逃せない。一般公開に先立ち催された内覧会より、見どころをお伝えしよう。
源琦 《四季花鳥図》 江戸時代中期〜後期 京都国立博物館蔵 東京展:前期展示
左:山口素絢 《女官図(緋大腰袴着用)》 江戸時代後期 奈良県立美術館蔵 東京展:前期展示
墨の濃淡がリアリティを生み出した《松に孔雀図》
展覧会冒頭では、「応挙寺」として親しまれている大乗寺(兵庫県香住)の襖絵が立体展示される。応挙とその門人13名が、大乗寺の客殿に描き出した165面の襖絵群のうち、本展では応挙、呉春、山本守礼、亀岡規礼が手がけた襖絵32面が出品されている。東京藝術大学大学美術館 准教授の古田亮氏は、応挙が亡くなる3ヶ月前に手がけた《松に孔雀図》について、以下のように解説した。
円山応挙 重要文化財《松に孔雀図》(部分) 寛政7年(1795) 兵庫・大乗寺蔵 東京展:通期展示
「本作は墨一色で描かれているが、墨の濃度によって立体的に見える。墨の濃淡がまるで色の違いのように感じられて、松の葉は緑色、幹は茶色、孔雀の羽は青色のようにも見えてくる。金地に濃淡を使った墨のテクニックによって、一種のリアリティを生み出している応挙の力が、亡くなる直前まで発揮されている」
さらに古田氏は、呉春が手がけた2作の襖絵のうち、先に描いた《群山露頂図》は文人画(文人が制作する絵画)風であるのに対し、8年後に描いた《四季耕作図》には、応挙の影響があらわれていると説明。
呉春 重要文化財《群山露頂図》 天明7年(1787) 大乗寺蔵 東京展:前期展示
呉春 重要文化財《四季耕作図》 寛政7年(1795) 兵庫・大乗寺蔵 東京展:通期展示
「応挙の作風は、ごく自然で、親しみやすい絵画であることに特徴があり、奇をてらったり個性を発揮したりといったことはない。《四季耕作図》では、応挙によるわかりやすく、人々の生活に寄り添ったような画題や描き方が、呉春の作品の中にあらわれている」
チームで京都画壇を作り上げた円山・四条派
近代の円山・四条派の画家たちは、応挙や呉春を源泉としつつ、「(流派としての)変化は非常になだらかなもので、大きな変革がない」と、古田氏。
右:長沢芦雪 《薔薇蝶狗子図》 寛政後期頃(c.1794-99) 愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵 東京展:前期展示
「一度作られた応挙・呉春の様式が、京都の中でポピュラリティーを得ることで、応挙がはじめたことが昭和戦前期までずっと続いてきた。京都の人たちが、『この絵画が私たちの絵画である』という認識をして育んできた全体像が、円山・四条派であるともいえるでしょう」
円山・四条派の画家は、円山派と四条派の絵画を時に融合させたり、使い分けたりすることで、あらゆる注文に応じてきたのかもしれない。円山・四条派の流れは、やがて猿の絵を得意とする森派、虎の絵を得意とする岸派などの画系を生む。古田氏は、「様々な流派が共存し、チームで京都の画壇を作り上げていたのではないか」と語った。
左:森狙仙 《雪中燈籠猿図》 江戸時代後期 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館蔵 東京展:前期展示
岸竹堂 《猛虎図》 明治23年(1890) 株式会社 千總蔵 東京展:前期展示
本展初公開となる《魚介尽くし》は、円山・四条派がそのほとんどを占める総勢28名の画家が、ひとつの画面に魚介類を描いた合作。
左:森寛斎ほか 《魚介尽くし》 明治5~6年頃(c.1872-73) 東京展:通期展示
大人数で描かれたものにも関わらず、まるでひとりの画家が描いたかのように調和がとれて統一性のある画風は、四条・円山派の特徴を示す一例になっている。
応挙の美人画《江口君図》は、東京展のみの展示!
会場には、呉春の画風の源泉となった与謝蕪村の作品も展示されている。また、自然、人物などテーマごとに作品が分けられた展示室では、同じ画題を異なる時代の画家たちが描いた作品を並べている。
右:与謝蕪村 《闇夜漁舟図》 江戸時代中期 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館蔵 東京展:前期展示
たとえば、岸竹堂の《大津唐崎図》と野村文挙の《近江八景図》は、どちらも琵琶湖畔の唐崎の風景を描いたもの。
岸竹堂 《大津唐崎図》 明治9年(1876) 株式会社 千總蔵 東京展:前期展示
野村文挙 《近江八景図》 明治32年(1899) 滋賀県立近代美術館蔵 東京展:通期4幅ずつ展示
また、「三顧の礼」の故事を画題にした《風雪三顧図》は、応挙、呉春、中島来生がそれぞれ描いている。三者三様の表現の違いを、じっくり見比べるのも面白そうだ。
左:円山応挙 《風雪三顧図》 江戸時代中期〜後期 相国寺蔵 東京展:前期展示
京都国立近代美術館 学芸課研究員の平井啓修氏は、「円山派・四条派と枠組みができないくらい、互いに学びあいながら時代が進んでいくことを見ていただきたい」とコメントした。
さらに、応挙の数少ない美人画の中でも優品として知られる《江口君図》の出品も見逃せない。応挙は解剖図を参考にして、人体の骨格や構造を意識しながら人物画を描いたそうだ。
左:円山応挙 《江口君図》 寛政6年(1794) 静嘉堂文庫美術館蔵 東京展:前期展示
本作について、平井氏は「髪の毛の上部に注目すると、はらはらと髪が落ちていくところが自然に描かれている。着物の柄は線に無駄がなく、均一に描かれている。根を詰めて描くところに、応挙の力量の高さがあらわれているのではないか」と語った。なお、本作は東京会場の前期(〜9月1日(日))のみの展示となるので注意しよう。
『円山応挙から近代京都画壇へ』展は、2019年9月29日(日)まで。前期・後期で大幅な展示替えが行われるので、ぜひ一度ではなく、二度足を運んでみてはいかがだろうか。