名花オクサーナ・ボンダレワに聞く~ミハイロフスキー劇場バレエ『眠りの森の美女』『パリの炎』の魅力
オクサーナ・ボンダレワ
ロシア・サンクトペテルブルクのミハイロフスキー劇場バレエ(日本公演の旧称レニングラード国立バレエ)が2019年11月、4年ぶりに来日し、ナチョ・ドゥアト版『眠りの森の美女』全3幕プロローグ付き、ミハイル・メッセレル改訂振付『パリの炎』全3幕を上演する。共にカンパニーを代表する全幕作品の日本初演で、芸術の秋を飾る注目公演になりそうだ。SPICEでは、『パリの炎』に主演するオクサーナ・ボンダレワ(ミハイロフスキー劇場バレエ出身、元マリインスキー・バレエ ファースト・ソリスト)に単独取材を行い、ミハイロフスキー劇場バレエの特色や来日公演の見どころを聞いた。
ロシア・バレエ界屈指の実力派プリマに注目!
ーーボンダレワさんは2009年~2014年にミハイロフスキー劇場バレエで踊り、現在も客演しています。バレエの原点はウクライナのドニエプロペトロフスクのバレエ学校、バレエ団で、2005年~2009年にはロシア国立ラドチェンコ・バレエで踊られています。そしてミハイロフスキー劇場バレエを経て2014年~2017年にマリインスキー・バレエで活動されました。豊富なキャリアと実力からすると昨年(2018年)初めて日本で踊られたのは不思議な気もします。
オファーはあったのですが実現しなかったんです。ミハイロフスキー劇場バレエ時代にもタイミングが合わず日本公演に参加できませんでした。だから去年初めて来日する機会を得てファルフ・ルジマトフさん(マリインスキー劇場出身で元ミハイロフスキー劇場バレエ芸術顧問、そして長年世界的に活躍するダンサー)とも共演し非常に心に残りました。日本ではとても幸せな時間を過ごしています。皆さんからいただく前向きなエネルギーで、この先1年分のエネルギーを充電できました。日本のお客様は正直で、エモーショナルで、SNSなどでも素晴らしいメッセージをくださるので幸せです。
オクサーナ・ボンダレワ
ーーウクライナのバレエ団からスタートし、モスクワのカンパニーを経て、サンクトペテルブルクの名門で活躍されましたが、キャリアをどのように選択してきたのですか?
2008年にモスクワのラドチェンコ・バレエにいた時に、ユーリー・グリゴローヴィッチ記念国際バレエコンクールでグランプリを受賞し、その報償としてモスクワ国立舞踊アカデミー(ボリショイ・バレエアカデミー)で1年間研修しました。そこからモスクワ国際バレエコンクールに出場して銀賞をいただき、ミハイロフスキー劇場バレエから誘いを受けました。2013年にはモスクワ国際バレエコンクールで金賞を受賞し、2014年にマリインスキー・バレエに入りました。コンクールを通してプロのバレエの世界の道が開けた気がします。
ミハイロフスキー劇場は「私の故郷」
ーーミハイロフスキー劇場バレエに5年間所属し、現在もゲストとして出演されています。カンパニーの雰囲気・カラーはどのようなものですか?
ミハイロフスキーにはマリインスキーに移ってからも客演していました。どちらもサンクトペテルブルクの有名な劇場です。マリインスキーで踊ることができて光栄でした。素晴らしい先生方に学べましたし、ウラーノワをはじめ偉大なダンサーたちが踊ってきた舞台に立ち緊張すると同時に凄く興奮したことを覚えています。いっぽうミハイロフスキーは私にとって故郷のような劇場で温かく居心地がよく、クリエイティブな雰囲気もあります。マリインスキーが規模の大きなお城だとすると、ミハイロフスキーはミニアチュールのおとぎの世界のようです。何よりも劇場自体が美しく周囲の環境も素敵です。芸術広場に建ち、お隣はロシア美術館で、すぐ側に血の上の救世主教会があって、グリボエードフ運河が流れているというように、サンクトペテルブルクの名所が集まる場所にあります。
オクサーナ・ボンダレワ
ーー2011年にスペイン出身の世界的振付家ナチョ・ドゥアトが芸術監督に就任しました(2014年まで務め2019年に復帰)。古典を主に上演していた所にドゥアトが来て、彼の作品が上演されるようになりましたが、ダンサーの皆さんは当初どのように受け止めましたか?
ナチョのような素晴らしい振付家が来てくれたので皆喜んでいました。スペイン時代の作品を持ってきただけではなく、私たちと一緒に新しい作品に取り組んだことはナチョにとっても挑戦だったと思います。バレエの世界での歴史的なトピックとなるような瞬間を過ごせてとても幸せでした。特に『くるみ割り人形』のマーシャは私に振り付けてくれた役で大成功でした。
ナチョが来てもミハイル・メッセレルが首席バレエマスターとして自作とクラシック作品を監督するために残っていました。私たちダンサーのクラシックの技術をキープするために彼自身がレッスンを見てくれました。ポワント(トウシューズ)を履いてクラスレッスンをしましたが、ナチョの作品では柔らかいバレエシューズを履く作品が多くなるので、脚のバランスや脚を鍛えるために重要だったと思っています。それ以降もクラシックのクラスレッスンの際にポワントを履いて受けるようにしています。
オクサーナ・ボンダレワ
美しく彩り豊かなドゥアト版『眠りの森の美女』
『眠りの森の美女』 Photo:Nikolay Krusser
ーー今回の来日公演で上演されるドゥアト版『眠りの森の美女』(2011年初演)についてもよくご存知だと思います。特徴はどこにあるのでしょうか?
マリウス・プティパの古典を基に美しく彩り豊かにしたというのが私の印象です。振付けからはナチョの音楽的なニュアンスが感じられるでしょう。上演時間は2時間半です。ナチョは現代人の時間感覚にフィットするテンポで創ったと思います。現代は技術革新も交通手段も情報伝達も物凄い速さなので、プティパの時代のように6時間というのは長すぎます。
ーー日本でも長年絶大な人気を誇るルジマトフがカラボス役を演じます。
カラボスは強い印象をもたらす悪の妖精で、裏のヒロインです。悪そのものに性別はないので、解釈を広げるという意味でも男性が演じるのは面白いと思います。ルジマトフさんは、ご自身のカリスマ性で素晴らしく演じています。私にとってルジマトフさんは半分人間、半分神様のような存在ですが、お客様も彼のエネルギーにあてられてもの凄い反応をします。この世のものではないような存在という意味でルジマトフさんに合っている役だと思います。
オクサーナ・ボンダレワ
心に残る壮大なスペクタクル『パリの炎』
『パリの炎』 オクサーナ・ボンダレワ 写真提供:光藍社
ーー今回主役のジャンヌ役を踊る(11月21日19:30)『パリの炎』について伺います。これはメッセレルが2013年にワイノーネンによる原典版の復元に補足の演出を加えた版です。ボンダレワさんはニューヨーク公演でも主演されていますね。この作品の魅力を教えてください。
『パリの炎』はフランス革命をモチーフにした壮大なスペクタクルです。メッセレルは元のワイノーネン版にさまざまな色彩を加えて非常に美しい作品にしました。私のお気に入りは第2幕のマルセイユ広場のダンスです。民族舞踊もあって鮮やかです。戦闘という悲劇も待っていますが民衆は団結し、リーダーのフィリップが彼らに力をあたえています。
ーー先年日本でボリショイ・バレエが上演し話題となったアレクセイ・ラトマンスキー版(2008年初演)をご存知ですか?
メッセレル版とラトマンスキー版は共にワイノーネンから出発した面白い作品ですが解釈が全く違います。その違いを観客の方々ご自身で感じていただきたいのですがフィナーレも異なります。メッセレル版はハッピーエンドですがラトマンスキー版は完全に幸せとは言えません。私もお客様に幸せな気分で帰っていただきたいのでメッセレル版は人々の心に残ると思います。
オクサーナ・ボンダレワ
ーー義勇兵フィリップ役のジュリアン・マッケイと共演します。若いアメリカ人ダンサーで日本のバレエファンからも注目されています。彼の印象を教えてください。
ミハイロフスキーで一緒に踊っています。とてもいいダンサーだと思います。テクニックもありますし、エレガントですし、それにカッコいいですね(笑)。彼はSNSの投稿も活発です。
ーー最後にミハイロフスキー劇場バレエ日本公演に向けての意気込みをお願いします。
『パリの炎』と『眠りの森の美女』にぜひ足をお運びください。私が踊る『パリの炎』のジャンヌ役は若くてエネルギッシュで、武器を手に取って革命家たちの間に入って力と勇気を見せながら戦っていく役柄です。きっとお客様に喜んでいただけるような舞台をお見せいたします。その日は皆様のためだけに踊りますので楽しみにしていてください。
オクサーナ・ボンダレワ
取材・文=高橋森彦 撮影=鈴木久美子
公演情報
公演情報
『眠りの森の美女』
全3幕プロローグ付 作曲:P.チャイコフスキー 振付:N.ドゥアト
予定出演者:
■11/23(土)17:00公演
ソリスト:イリーナ・ペレン、ヴィクトル・レベデフ、ファルフ・ルジマトフ(ゲスト) ほか
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー
ソリスト:アナスタシア・ソボレワ、ヴィクトル・レベデフ、ファルフ・ルジマトフ(ゲスト) ほか
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー
ソリスト:アンジェリーナ・ヴォロンツォーワ、イワン・ザイツェフ、ファルフ・ルジマトフ(ゲスト) ほか
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー