加藤和樹「より進化してパワーアップしたものを」 ミュージカル『フランケンシュタイン』インタビュー

インタビュー
舞台
2019.9.13
加藤和樹

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ゴシック小説からホラー映画となり、世界中の人にその名を知らしめた「フランケンシュタイン」。そこに、複雑な人間ドラマ、メインキャストが一人二役を担うトリッキーな演出、壮大な世界観の楽曲の数々を融合させることによって新たに生まれ変わったのが、韓国発のミュージカル『フランケンシュタイン』だ。2017年の日本初演から丸3年を迎える2020年1月、ファン待望の再演が決定した。

怪物を生み出す天才科学者ビクター・フランケンシュタイン/ジャック役に中川晃教・柿澤勇人(Wキャスト)。戦場でビクターに命を救われ後に親友となるアンリ・デュプレ/怪物役に加藤和樹・小西遼生(Wキャスト)。さらに、ジュリア/カトリーヌ役に音月桂、ルンゲ/イゴール役に鈴木壮麻、ステファン/フェルナンド役に相島一之。そして再演からの新キャストとして、エレン/エヴァ役に露崎春女が加わった。

【あらすじ】
19世紀ヨーロッパ。科学者ビクター・フランケンシュタインが戦場でアンリ・デュプレの命を救ったことで、二人は固い友情で結ばれた。“生命創造”に挑むビクターに感銘を受けたアンリは研究を手伝うが、殺人事件に巻き込まれたビクターを救うため、無実の罪で命を落としてしまう。ビクターはアンリを生き返らせようと、アンリの亡き骸に自らの研究の成果を注ぎ込む。しかし誕生したのは、アンリの記憶を失った“怪物”だった。そして“怪物”は自らのおぞましい姿を恨み、ビクターに復讐を誓うのだった……。


再演を前に、現在ミュージカル『怪人と探偵』の稽古真っ只中の加藤和樹にインタビューを行った。独自の視点で本作の魅力を語る彼の瞳には、自身が演じる役や作品そのものへの愛が滲み出ていた。

加藤和樹

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熱狂に包まれた初演を振り返って

ーー『フランケンシュタイン』日本初演時は、まさに熱狂という空気が客席に溢れていたのを覚えています。当時の盛り上がりは作品を作る側としてどう感じていましたか?

お客様の熱というのは、作品が終わってからお手紙やSNSのコメントを見て感じました。これ程までに「再演してほしい」「もう一度観たい」と言っていただけるとは正直あまり思っていなかったので、びっくりしましたね。

加藤和樹

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ーーフランケンフィーバーの現象の一つとして、劇中で怪物が発する「クマ、オイシイ」というセリフが話題となり、売店でクマカレーまで販売される事態となりましたよね。このセリフは、稽古時点ではここまで盛り上がるようなものではなかったのでしょうか?

稽古場では全然盛り上がっていませんでしたよ(笑)。お客様から「あのシーンの怪物がかわいい」というコメントをいただいて、あれってかわいいんだ……! と驚いたくらい(笑)。「クマ、オイシイ」と話す時点での怪物の知能指数って、非常に低いんですよ。生まれたばかりの子どもが言葉を覚えていくようなシーン。それがあんなにフィーバーするなんて、稽古場では誰一人思っていませんでした(笑)。お客様の反応があってから、僕らの中でも「クマ、オイシイ」が流行りだして。皆でご飯に行ったときに「コレ、オイシイ」(劇中の「クマ、オイシイ」の言い方で)みたいな(笑)。

ーー日本初演からちょうど3年ぶりの再演となるわけですが、メインキャスト4名は同じ顔ぶれが揃いましたね。先日開催されたファン感謝祭イベントの様子からも、本当に皆さん仲が良くていい雰囲気なのだということが伝わってきました。

初演時は、稽古をする中で4人でよく話し合っていたんです。演出の板垣さんが「全く同じ芝居じゃなくていい。それぞれが考えるビクター/ジャック、アンリ/怪物というものを表現してほしい」と言ってくださって。なので、演出的に決めのところは同じだけれども、それ以外の心情や役作りにおいては一人ひとり違った役の捉え方をしていました。そういった役作りの方向性が決まってから、じゃあどうしていこうかという話し合いを結構していましたね。

加藤和樹

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―ー初演に引き続き、加藤さんはダブルキャストの小西さんと共にアンリ/怪物役ですが、小西さんとの役作りの違いは感じましたか?

遼生さんが出演している『フランケンシュタイン』は初日しか観れていないので、彼がどう変化していったのかまではわからないんです。でも、大きく違うのはビクターへの接し方や、怪物としてのあり方という部分かな。実はこの捉え方に関しては、お互いにこうするから、というような話はあまりしていなくて。ビクター/ジャック役の二人(中川・柿澤)には僕は伝えていましたが、遼生さんが実際にどういう役作りをしていたのかというのは、遼生さんにしかわからない。ただ、彼がやっているものを見ることで、そういうやり方もあるんだなと勉強になる部分はありました。

ビクターとアンリの関係性をいかに深められるか

ーー『フランケンシュタイン』という作品は、1幕で描かれるビクターとアンリの男同士の熱い友情が、作品全体をよりドラマチックにするポイントだと思いました。

そこはある意味、第一段階のピークみたいなところですね。二人の友情がより濃密に描けていれば描けている程、2幕が切なくて苦しいものになる。1幕でいかにビクターとアンリの関係性を深められるかというのは、やっぱり自分の中での目標であり、テーマでもありました。

加藤和樹

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ーー二人の友情が生まれる瞬間を描いているのが、1幕でビクターとアンリが歌う「ただ一つの未来」という曲ですよね。二人の心理的距離がグッと近づいていくスピード感が印象的な曲でした。

彼らは生まれ育った環境は全く違うけれど、似たもの同士でもあるんです。ビクターはアンリのことを一から十まで調べ上げ、戦場で彼を見つけて自分の部下になれと言う。アンリからしてみれば「あんた誰?」となるわけですが、そこまで自分に興味を持ってくれて、アンリの生命に対する考え方さえも全て理解した上で求めてくれる人。それがビクター。彼らは生まれて初めて、何でも共有できるパートナーを見つけたんです。お互いに生と死というものや、戦争に対する価値観や捉え方が異なると思っていたのが一致した瞬間、アンリは自分の持っている知識を全てビクターという男に捧げたいと思う。このスピード感が、「ただ一つの未来」という曲の中で表現されているのでしょう。男って、単純なんですよ。喧嘩したらもう仲間みたいなところがあります(笑)。仲間のために自分が何かしたいというアンリの気持ちは、とても理解できますね。

写真提供/東宝演劇部

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ーー加藤さん演じるアンリ/怪物は、他のメインキャストが全く別人の二役を演じる中で、ある意味一貫しているキャラクターでもあると思います。ただ、怪物の中にどれ程アンリの記憶や想いが残っているかということは、ダブルキャストの相手によっても変わってくるのでしょうか。

それはありますね。日によっても違いましたよ。例えば、どこで自分がアンリだったことを思い出すのか、怪物がどれくらいの憎しみや怒りを抱えているのかといったことは、日々変わっていました。僕の個人的解釈としては、アンリは怪物の心の中で生きていると考えています。怪物とアンリの割合の匙加減はなかなか難しいですけれど、そこはこれから再演の中でも探っていきたいです。

加藤和樹

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ーーちなみに、特に好きなシーンや曲というのはありますか?

もう、全部です。僕が出ていないシーンも好き。2幕でビクターの姉・エレンがビクターに向けて歌う「その日に私が」という曲があるんですが、毎回舞台袖で聴いて泣きそうになっていました。子役のリトル・ビクターとリトル・ジュリアたちも、すごく良いですよね。

ーー子役と言えば、2幕後半に夢と現実の狭間のような空間で、怪物と迷子の少年が二人っきりになる幻想的なシーンがありました。

あの場面は、その後に出てくる北極でも何でもない場所という設定で、演出的にもどこなのかということは明かされていないんです。なぜそんなところに子どもが迷い込んできたのかもわからない。非常に抽象的なシーンですね。アンリもしくは怪物の葛藤のシーンとも取れます。すごく考察してくださるお客様もいて、いただいた手紙でそれを読むのが面白かったです。観る人によって、いろんな解釈ができる場面だと思います。

写真提供/東宝演劇部

写真提供/東宝演劇部

壮大な作品に込められたメッセージ

ーーアンリとビクターの悲しい友情を主軸に、登場人物それぞれの愛と憎しみが渦巻く壮大なミュージカルですが、作品にはどんなメッセージが込められていると思いますか?

ビクターによって創造された怪物は、2幕の闘技場のシーンでひどい仕打ちを受けます。けれど、もし彼が闘技場へ行かなければ、そこで出会った少女カトリーヌと共に逃げ出せていれば、そのまま心優しい怪物になっていたんじゃないかなと思うんです。結果としてはどれも叶わず、残忍非道な怪物を生み出してしまうわけですが……。環境というものが人を育てて変える、この作品にはそういうメッセージも含まれていると僕は考えています。

写真提供/東宝演劇部

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ーー本作は元々は韓国で生まれたミュージカルです。今の日本で韓国発の作品を上演するということは、意味があることかもしれませんね。

韓国のミュージカルって、オリジナル作品が多くてすごく進んでいるんです。『フランケンシュタイン』にも言えることですが、韓国ミュージカルの魅力の一つは、わかりやすさと、圧倒的な表現力や歌の説得力だと思います。そのことがあって、より感情に敏感な日本人に強く響くのではないでしょうか。だからこそ『フランケンシュタイン』という作品がここまで日本でヒットしたんだと僕は思っています。今度の再演で、作品を生み出した韓国の人たちとも良い相互作用が生み出せればな、と。

ーー最後に、初演を観て『フランケンシュタイン』ファンになった方、そしてこれから初めて『フランケンシュタイン』を観る方それぞれにメッセージをお願いします。

初演をご覧になった方には、初演を観たからこその楽しみ方というのがもちろんあると思います。そして、今回初めて観るという方も、初演を観ていないから楽しめないなんてことは絶対にないです! 僕らも初演の気持ちでこの再演には臨みたいですし、同じことをなぞるつもりは一切ありません。より進化してパワーアップした『フランケンシュタイン』をお届けできるよう、頑張ります。

加藤和樹

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■ヘアメイク:江夏智也
■スタイリスト:立山功
Iroquois   03-3791-5033
The Viridi-anne  03-5447-2100

取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=鈴木久美子

公演情報

ミュージカル『フランケンシュタイン』
 
■日時・会場:2020年1月8日(水)~30日(木)
■会場:日生劇場
■音楽:イ・ソンジュン
■脚本/歌詞:ワン・ヨンボム
 
■潤色/演出:板垣恭一
■訳詞:森雪之丞
■音楽監督:島健

■出演:
ビクター・フランケンシュタイン/ジャック:中川晃教 柿澤勇人 ※Wキャスト
アンリ・デュプレ/怪物:加藤和樹 小西遼生 ※Wキャスト
 
ジュリア/カトリーヌ:音月 桂
ルンゲ/イゴール:鈴木壮麻
ステファン/フェルナンド:相島一之
エレン/エヴァ:露崎春女
 
朝隈濯朗 新井俊一 岩橋 大 宇部洋之 後藤晋彦
白石拓也 当銀大輔 丸山泰右 安福 毅
江見ひかる 門田奈菜 木村晶子 栗山絵美 水野貴以
宮田佳奈 望月ちほ 山田裕美子 吉井乃歌
 
■公式ホームページ:https://www.tohostage.com/frankenstein/index.html
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