佐藤健、佐々木蔵之介に“全力跳び蹴り”をくらわせていた 白石和彌監督の映画『ひとよ』ジャパンプレミアで撮影秘話を明かす
佐藤健
9月25日(水)、東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズ スクリーン7にて、映画『ひとよ』のジャパンプレミア試写会が行われた。イベントでは、主演の佐藤健ほか、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、佐々木蔵之介、メガホンをとった白石和彌監督が登壇し、舞台挨拶を行った。
『ひとよ』は、『凶悪』『孤狼の血』などで知られる白石和彌監督の最新作。劇作家・桑原裕子氏主宰の劇団KAKUTAによる同名舞台を原作とした作品だ。ある惨劇をきっかけに崩壊した一家・稲村家の母親と三兄妹が、15年後に再会して絆を取り戻そうとする姿を描く。主演としてフリーライターの次男・雄二を演じるのは、佐藤健。電気屋勤務の長男・大樹を鈴木亮平が、妹・園子を松岡茉優が、母・こはるを田中裕子がそれぞれ演じる。
ジャパンプレミアがスタートすると、MCの呼びかけで主演の佐藤、鈴木、松岡、音尾、佐々木、そして白石監督が登場。華やかな衣装に身を包んだキャスト陣の登壇に、会場が割れんばかりの拍手と黄色い歓声に包まれた。
本作のテーマ「家族」について、白石監督は「これまでは『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』など、割と疑似家族を描いていたが、どこかで血のつながった家族の話を描なければ、作家としてステップアップできないと思っていました。そんな時に、制作会社のROBOTの長谷川プロデューサーに声をかけてもらいました。そこで脚本の髙橋泉さんも含め皆で話したら、それぞれ家族に抱えている思いや傷があったので、『ここでしっかり家族を描こう!』という話になりました」と振り返る。
白石和彌監督
次男・雄二、長男・大樹役、長女・園子の三兄妹を演じた佐藤、鈴木、松岡は、MCから「三兄妹の皆さんはどうですか?」と声をかけられると、松岡が「だんご(3兄弟)?」と反応。それに佐藤や鈴木がすかさずツッコミを入れ、会場は大きな笑いに包まれた。三人は白石組に初参加。かねてから白石監督作への出演を熱望していたという佐藤は、「本作のお話が来る前から、もし白石組に参加したらこういう役作りをしていこう、と一人で想像していたくらいです。念願叶いました」と告白。白石監督も佐藤へ熱烈なラブコールを送っていたという。そんな関係の中で、この日は白石監督のベタ褒めに、佐藤が照れる場面も。また、佐藤が「具体な役をイメージしたわけではないが、今より体の線を太くして体内を汚そうと考えていました」と語ると、松岡が「汚いですよ~、今回の佐藤さん(笑)」と会場にアピールし、兄妹の掛け合いで再び会場を沸かせた。
鈴木亮平
吃音でコミュニケーションに苦手意識を持つ長男を演じた鈴木は、「『日本で一番悪い奴ら』や『凶悪』を観たときに、それがずっと残っていて、事務所の方にも『いつか白石組に参加してみたい』伝えていました。普段は活発な役だが、本作の大樹みたいに内向的な役をやらせてみようと思ってくれたのが嬉しいです」と、改めて感謝の気持ち語っていた。すると、松岡がすかさず、「今まで観たことないくらい一番頼りない鈴木亮平です!『西郷どん』はどこいった?(笑)」と乗っかり、観客はまたも爆笑。そんな松岡の役柄について本人から感想を求められると、佐藤は間を置かず「今まで通りの松岡茉優!」と返し、息のあった掛け合いを見せる。しかし、白石監督が「試写で本作を観た方から、『松岡茉優はすさまじい』って言われます」とフォローすると、松岡は照れ笑いを浮かべていた。
続けて、佐藤と鈴木のこれまでの役柄とのギャップについて、松岡が逆質問。白石監督は、「これまでの作品を観ていて、お二人とも素晴らしい役者さんですし、単純に一緒に仕事をしてみたいと思いました」と語ると、松岡は「そんな三兄妹の新しい形を観られるというのも、本作のポイントです」とアピールしていた。
松岡茉優
続いて、話題は三兄妹の母・こはるを演じた田中裕子との共演に。佐藤は「芝居の中で目が合ったときに、理屈じゃなく鳥肌が立ちました。田中さんが皆さんから大女優と言われる理由を、言葉じゃなく体で感じられたのが本当に貴重な経験でした」と述懐。田中と以前から共演したかったという鈴木も「錚々たる先輩方からも、『いつか田中さんとやるといいよ』と言われていました。今回は特殊な親子なので、撮影の合間なども、常に僕らと打ち解けるわけではなく、ちょっとしたぎこちなさを感じられる距離感を保ってくれたのが非常に助かりました。すごい役者さんというのは、自分だけじゃなくて一緒に居る状態から演技をしやすい状態を作ってくれるんだなと思いました」と振り返る。松岡は、15年ぶりに帰ってきたこはると園子が一緒に布団に入るシーンを振り返り、「田中さんがものすごくぎゅっと抱きしめてくださいました。思い切って深呼吸してみたら、私のお母さんとは違うんですが、『お母さんとの匂いだ』となぜかすごく実感しました。それってお芝居じゃない気もして、お芝居とそうじゃない部分の境界線が分からないくらいの気持ちになりました。田中さんとのシーンは、そういう気持ちになることが多かった気がします」と語った。
音尾琢真
また、本作で白石監督作への出演が通算9作目となる音尾は、「9作目ですよ。先ほど改めて言われてよろけましたけども……」と明かす。佐藤が「次1回でも声をかけられなかったら、と怖くならないですか?」と質問すると、音尾は「そう!もうここまでいくと、その時の最新作が次回作オーディションみたいな気持ちになるんですよ。いつかバッサリ僕が切られてしまうんではないか……」と不安を口に。松岡は「旅立ち、ですね。だからそうならないように、毎年お歳暮を贈られているんですか?」と乗っかり、再び会場の笑いを誘っていた。改めて本作の現場の様子について聞かれた音尾は、「変わらない部分もありつつ、今回も進化した演出法をしていると感じました。僕自身の役柄でいうと、たいてい白石監督作だと、殴ったり蹴ったりの役が多かったが、今回はNO暴力でいいやつでした(笑)」と振り返った。
稲丸タクシーの新人ドライバー・堂下役を演じた佐々木は、佐藤らと同じく白石組初参加。自身の役柄について、「50歳の新人タクシードライバーでギャンブル・酒もやらない良い人。もう絶対闇しかないじゃないですか(笑)」と、笑いを交えつつコメントした。また、「衣装合わせのとあるタイミングで、『これこそ白石組だな!』っていうシーンがあった。ネタバレになるので言えないですけど」と意味深な表情で内容をにおわせていた。
佐々木蔵之介
白石監督は、「夢のような時間でした。これからの監督としてのキャリアでも、豊かな時間だったと思います。これだけのキャストにやっていただけたら、ある意味演出する側の監督としてはとても楽ですよね」と、満足げに語っていた。
イベントでは、作品が「一夜」(ひとよ)の事件に翻弄される人々を描くことから、「特別な一夜」を語るコーナーへ。音尾の高校の先輩である白石監督は、「お互い監督と俳優になったある日、どうしても会いたいと連絡が来まして。飲んで語り合った夜は忘れられないですね。ですから、旅立ちとかないですよ、音尾くん!」とコメント。そんな音尾は、撮影時に白石監督と飲みに行った夜を振り返り、「監督は映画好きだから映画の話をすごいするんですが、『今年は富士山に登りたい』と言っていました。僕がスケジュールを空けるしかないと思って、登山靴などを全部準備して、日にちも決めて……でも登る前日に白石監督が風邪を引いて延期になりました(笑)」とエピソードを披露。白石監督とリベンジを誓い合っていた。
佐々木は、「家業を継ぐのを諦めて、この仕事をやると決めた日が特別な一夜です。親が思ったように子供は育たないんだなと、まさにこの映画のことですね」と感慨深げ。
松岡は「佐々木さんは、子役からやってる私には田中さんと同じく神様みたいな存在。劇中で泥酔した園子がタクシーで堂下に送ってもらうシーンがあるんですが、まさか佐々木さんの頭を引っ張ったり叩いたりする日が来るとは……。緊張するやら興奮するやら、忘れられない一夜でした」と明かす。また、鈴木は「佐々木さんと同じく、この俳優の仕事をやろうと決めた夜です。上京して大学で演劇サークルに入って、初舞台初日の本番が終わった時、お客さんの見送りに出たとき、最初に出たお客さんが泣いていて『俺、これを一生やって行こう』と思いました。その時の役は坂本龍馬役でした」と振り返る。すると音尾が「西郷さんに飽き足らず坂本龍馬もですか(笑)」とつっこみ、会場は笑いの渦に包まれていた。
佐藤健
佐藤は、「本作の現場で忘れられない夜がありました。蔵之介さんに全力飛び蹴りをした夜です。台本にもあるシーンですが、あれは忘れられない。佐々木さんに事前に謝って、全力でいかせてもらいました」と告白し、会場からは驚きと本編への期待の声が上がっていた。
白石監督は感謝の言葉を交えつつ、「家族の形って色々あると思いますが、本作を作って、僕自身の家族についても色々考えました。本作を観て、ぜひそれぞれのご家族の方に想いを馳せて頂ければいいなと思います」とコメント。最後に佐藤が「僕も本作の撮影をしていて、『そういえばしばらく家族と連絡とってなかったな』と考えました。家族はそれぞれ皆さんの唯一無二の存在ですので、ぜひご家族に想いを馳せる時間にしてもらえればと思います」と締めくくった。
映画『ひとよ』は11月8日(金)全国公開。