岸田教団&THE明星ロケッツ×SPICE企画 公募レポートの結果を発表 大賞受賞「ゲン」氏によるレポートを掲載!
岸田教団&THE明星ロケッツが、SPICEと連動した「ツアーファイナルレポート企画」。9月28日に開催された川崎CLUB CITTA'で『"MOD"』ツアーファイナル公演に参戦したファンからライブレポートを募集。最優秀作品をエンタメ特化型情報サイト『SPICE』にて記事化するというこの企画だが、遂に最優秀作品が決定した。
大賞を獲得したのはペンネーム「ゲン」氏の記事になるが、SPICE側と岸田教団側で相談した結果、最後まで候補に残った「みさちこ」氏の原稿もSPICE編集チーム特別賞として特別に記事化することにした。一つのライブレポートが2本掲載されるのは前代未聞ではあるが、それもこの企画の熱量の高さを物語るものとなるだろう。
この記事では大賞受賞の「ゲン」氏のレポートをお届けする。同時に「みさちこ」氏の記事も上がっているのでそちらもチェックしてもらいたい。巻末には岸田教団、SPICE総合編集長秤谷のコメントも付属する。
(SPICE編集レギュレーションに乗っ取り、一部編集部の方で構成・編集を行っております。)
岸田教団&THE明星ロケッツの東方アレンジオンリーツアー”MOD”ファイナルが、2019/9/28当時と同じクラブチッタで行われた。1ヶ月4箇所で行われたツアーは12年前、クラブチッタでという始まりの地でファイナルを迎える。
このライブを語るには、東方Projectというゲーム、そして同人サークルというワードを欠かすわけにはいかないだろう。これらのワードについての文脈を持たなければこの日の興奮を1/10も伝えられない。この2つのために文字数を割きすぎる訳にもいかないので、ざっくり説明する。
同人という言葉に関する定義は諸論あるが、いわゆる自主制作の創作活動全般を指す。二次創作コミックが世間一般では大半と認識されているが、その他にもオリジナル・二次創作を問わず漫画・小説・グッズ制作や音楽活動・評論文まで様々である。これは個人的な見解だが、いわゆるインディーズとの違いは「同人活動は“表現すること”が目標」であり、それ以上は付加価値だと割り切られていることだと考える。自力で制作して発表する、というサイクルで完結しているのだ。同人活動をする団体は同人サークルという単位で呼ばれる。
東方Projectとは、そんな同人活動の世界で元タイトー社員の”ZUN”(通称神主)がほぼ1人制作発表している弾幕縦シューティングゲームシリーズであり、また派生したゲーム・書籍作品の総称である。西洋と東洋をごたまぜにした世界観と丁寧に作り込まれたBGMが東方Projectシリーズ最大の特徴。ZUN本人が二次創作に寛容であったことから、同人作品でありながらファンアートとも呼ぶべき同人誌・同人音楽が多数発表され、東方プロジェクトというジャンルだけでビックサイトを埋めるイベントが年2回開催できるほどの規模になっている。
ZUN自身が音楽発表の場としてゲームを選んだこともあり、音楽系の活動が非常に活発なのが東方界隈の特徴である。
岸田教団&THE明星ロケッツは、この東方ProjectシリーズのBGMをアレンジして発表するロックバンドサークルとして、12年前チッタで行われた合同東方アレンジライブイベント『Flowering Night』で誕生した。Flowering Nightはこのとき既にチッタのキャパシティを十分に賄うことができ、数年後には幕張メッセで開催されるまでになったといえば、界隈のボリュームが伝わるだろうか。一切の商業要素なくここまでの規模になったコンテンツは片手で容易に数えられるだろう。
時は流れ、アラサーをネタにしていたメンバーも今ではアラフォーとなり最近は歳の話を減らした(気がする)。あのとき学生だったファンはアラサーになり体力が落ちたか?そんな岸田教団が今では1サークルでクラブチッタを埋める。
幕開けと共に現れたステージに大きく設営された「MOD」の文字を模した目玉付きオブジェ。セットが途轍もない威圧感を見せる中、東方プロジェクトシリーズWindows版の初期作である『東方紅魔郷~ the Embodiment of Scarlet Devil』のタイトルBGM「赤より紅い夢」をバックに入場する演出に観客は大興奮。何を隠そうこれはバンド発祥のイベント『Flowering Night』でも使われていた演出。当時を知るファンの心をこれでもかとくすぐってくる。
前ツアーで開催された東方オンリーライブ『弾幕祭/再起動 ~Re:boot and Carnival Bullet Time.”』と同じく「SPEED GRAPHER」とオーディエンスのクラップで始まった演奏で観客の興奮は加速し、”東方紅魔郷”に登場する時を止める能力者のテーマ曲同名アレンジ「メイドと血の懐中時計」では長年に渡り完璧に訓練された信者たちのブレイクと合わせて止まった時間を演出する。
そのまま紅魔郷ラスボス曲をアレンジした「緋色のダンス」へ繋がり、スモークと赤い照明がライブハウスを原作通りの紅い霧に包んでいく。ゲームの世界観・キャラクター感を存分に演出に取り込んだ内容で飛び跳ねる観客のボルテージは既にレッドゾーン。
オープニングを終え岸田教団独特の雰囲気(湾曲的表現)のMCにより、本番寸前にはやぴーとichigoが喧嘩しつつ岸田にヘイトを集めたエピソードが披露され、空気が派手に緩んでしまうがなんとか締め直し、ライブは続く。名古屋会場であるE.L.L.のインタビューで「どうせ95%くらいの楽曲が速いので深い事は考える必要はありません。」とサークル代表の岸田が答えるほどアッパー曲ばかりの岸田教団は、今日もオーディエンスを試すかの如くテンションをアゲていく。
オープニング後の入りはWindows2作目の東方妖々夢の曲をアレンジした「Ancient Flower」で始まり、原作時系列通りのセットリストかと思わせつつ、直後に比較的最近の作品である東方紺珠伝のラスボスアレンジ曲「ピュアヒューリーズ」を披露し時系列と共に観客を加速させていく。そのままVo.ichigoの別サークル名義曲だった「CROWN PIECE」の岸田教団編曲Ver.でフロアを熱狂地獄に叩き込む。岸田教団初期にはなかったお洒落なサウンドを交えたノリを習得したことは12年間の”変わったこと”だろう。(”変わらなかったこと”の代表はMCだ)
その後は魔法使いタイム。「マスタースパーク」「知ってる?魔導書は鈍器にもなるのよ?」と定番ナンバーとなっている魔女キャラクターのテーマソングが連続して徐々にボルテージを上げていき、オーディエンスは拳を振り上げ、跳び、原作屈指の人気曲の同名アレンジ「U.N.オーエンは彼女なのか?」を迎えフロアの興奮はかつてないレベルに到達する。
その後、興奮しすぎたファンに水をかけるべくこのMODツアーまで久しく披露されてこなかった「芥川龍之介の河童」が始まる。久々の三拍子にも関わらずノリを忘れないオーディエンスに年季を感じつつ、常にキャラクターのイメージカラーを照らし続ける照明が青く碧くフロアを染め上げる。そこから「なかなかライブでやれなかった」と語る「二色蓮花蝶(にいるれんかちょう)」へ繋がっていきファンの感情を照明と音楽で紅白の二色に染めた。
バンドの歴史に感じ入る間もなく、「風になろうぜ!」との呼びかけと共にこのMODツアーがライブ初披露となる「自由への讃歌」でテンションを一瞬で沸騰させる。
仙台会場のアンコールで演奏されたことが耳に入っていたファンもいただろうが、ライブはおろかCDでもマスタリングミスによって一部パートが失われていた”幻の曲”だったこともあり、感極まりそのまま風になって消えてしまいそうなファンも多数見受けられた。
そんな風になってしまったファンを送るべく、赤いライトと共にバラード調の「彼岸帰航」でichigoの静かだが力強いボーカルと激しいドラムがフロアを支配する。普段はひたすらに動き続けるの岸田教団信者もこの曲の前では彼岸花の如く赤く照らされ揺れるのみ。彼岸送りになったファンも、「跳べ!」との命令で始まった「Desire Drive」で生を取り戻し、定番となったタオルを回すパフォーマンスで場内をアップテンポに引き戻される。余談だが、推し曲タオル第1弾の題材として選ばれたこの曲は、キョンシーを操る青い邪仙のステージで流れるかなり黒い背景を持つ曲である。果たしてこの場では誰が邪仙で誰がキョンシーなのか……。
このツアー中、Desire Driveの間奏でichigoが上着を脱ぐ演出をする予定だったが、3会場でことごとく失敗。しかしこのファイナルで無事成功!させたのもつかの間、直後にマイクを反対向きに持つという前代未聞のミスをしてしまう。が、お構いなしに場はヒートアップ。かつて、バンド活動が長くなってきた頃に岸田教団は”懐古厨に花束を”ツアーを行ったが、これまでのセットリストは、原点回帰なだけあってそれ以上の懐古セットリスト。今回のツアーは”同人サークル岸田教団”としての原点を思い出すツアー。どこのMCだったか、「メジャー活動がおまけ」という発言があったが、あくまで同人サークルの立ち位置が岸田教団ということを再確認させられた。
原作メロディーを活かしたアレンジと、照明によるキャラクターカラーの演出であたかもそこにキャラクターや弾幕がいるかのように幻視してしまったファンは私以外にも間違いなく存在したはず。ロックバンドとしてのサウンドで岸田教団の魅力を可能な限り詰め込んだ最高にハイな一夜になることを既に確信しつつ、「平坦に生きよう!」とMCで宣言してしまうあたりで確信が揺らいでしまったのは秘密だ。
ここまで終えたところで、「ここまでは今までの岸田教団」と岸田が宣言。全てを察したオーディエンスは「ここからはMODファイルを適用します」との発言に大興奮。直近の同人作品でもあり、ツアー名でもある”MOD”の曲が始まった。”MOD”の曲はほぼ全てが過去にアレンジした東方原曲を現在の技術と音でリアレンジしたものだ。
MODファイルの適用された岸田教団は「フォールオブフォール」からスタート。滝の爽やかさを感じさせつつ、前アレンジより遥かに速くなりながらも緩急があり、いつものはやぴーサウンドも含め、川を遡る勢いを感じさせた。これもまた東方風神録4面道中を想起させつつ、ライブで激しく動く岸田教団らしさのサウンドだ。
間をおかずにMOD2曲目は同じく東方風神録から「信仰は儚き人間の為に」。MODの曲はLore Friendly(=元のアレンジの曲調の残る)曲はそのマークがついており、これはそのうちの一つ。変化は少ないといいつつ、あくまでMODの他の曲に比してであって完全に別の曲では?と感じるのはご愛嬌。
とにかく速いMODの曲だが、前述したichigoの別サークル名義曲「Gusty Girl」は”お洒落な岸田教団”だ。「CROWN PIECE」と同じく元々アコースティック曲だが、ichigoの誕生ライブである『あんはぴ』でバンドバージョンが披露されMODに収録された。無論速くないと言っても体の動きを止める者はいない。
一瞬の静けさを取り戻したフロアも「妖々跋扈」で再び興奮と狂気の渦に包まれる。歌詞の変わらないLore Friendlyな曲だが、もともとアップテンポだった曲を、さらに激しく速くしたMODバージョンにより観客の体力はより限界に近づくが、止まる者はいない。そのまま続く「ネクロファンタジア」は岸田教団&THE明星ロケッツ名義初のCDとなる『幻想事変』に収録され、MOD前もライブを支え続けた古豪。東方Project原作唯一の隠しステージの隠しステージで出てくるキャラクターのテーマソングで、「妖々跋扈」とも関係の深い曲だ。東方の世界観で最重要となるキャラであることと同じく、岸田教団でも事あるごとに披露され続けてきた曲。MODバージョンでより激しくより鋭くなっており、フロアの動きもかつてないほどに高まるなか、岸田からラストソングのコールがかかる。
現在の全力(意訳)を込めたという「幽雅に咲かせ、墨染の桜」は東方妖々夢のラスボス戦を想起させる桜吹雪色のライトのなかスタートした。序盤のMCで「明日死んでも今日が最高の日になるように」という前振りがあったが、生と死をテーマとした原曲をその言葉に反映させるべく圧倒的な熱量のバンドパフォーマンスにオーディエンスも応え、今日一番の盛り上がりでメンバーが引いていった。
興奮冷めやらぬ中、クラブチッタに響き渡るアンコールの中出てきて始まったのは「SuperSonicSpeedStar」。この曲『幻想事変』から働いている最高クラスのアップテンポ定番曲。終わりに近づくライブを全力で楽しむべくオーディエンスの動きも激しさを増す。そして12年間を岸田が振り返り、最初に出たFlowering Night、そして来年のFlowering Night2020のことを話す。フロアを見渡せば2010年前後のライブTシャツを着たものがチラホラ見られる中、始まりの曲「夢は時空を越えて」をコール。
古参ファンにとっても思い出の曲である。観客が岸田教団のライブでやることはほぼ全てこの曲から変わらず、跳んで・腕を振って・前後に上半身を振る。だけである。そして全員がわかっているラストソングは12年前から演奏し続けた「明星ロケット」、発祥の地で発祥の曲で締めた、Rebootとも言えるラストソング。今日イチ跳ぶオーディエンスもサビのシンガロングも毎回のお約束。それなのに毎年どの場所でも新鮮で特別な1曲になる。残った体力を全て出しつくすために跳び、歌い続けて永遠にも一瞬にも思えたツアーはフィナーレを迎えた。
この日のライブ直前に、岸田教団がTVアニメ『とある科学の超電磁砲T』EDテーマを担当することが発表されたが、東方オンリーツアーの名の通り、岸田教団は東方オンリーであることを崩すことはなかった。MODファイルを適用した岸田教団のさらなる活躍と、15周年・20周年経っても同人サークルとしてやりたいようにやっている岸田教団を期待したい。
文・レポート:ゲン
改めて、多くの方が熱狂する「東方アレンジ」というカルチャーを、一般の方へ少しでも伝えるための一つの手段として、今回の取り組みに参加いただいた皆様、そして前代未聞の形でのライブレポート企画をご快諾いただいた岸田教団の皆さまには感謝します。幻想郷はやっぱりすべてを受け入れてくれるのですかね(笑)。
これからもSPICEはこうした熱い「想い」や、コンテンツ愛を、普通にとらわれずに発信していきたいと改めて感じました。なぜなら歴史ばっかり見ている人間には、運命は変えられないのでしょうから。
SPICE総合編集長 秤谷建一郎
考えてみれば、「ロックフェスがどうだ」「最近話題のバンドはどうだ」っていう世界で、東方アレンジとか言い出したら誰もちゃんと書けないですよね・・・知らなくて当たり前だし。
”東方アレンジ限定ライブのライブレポート”、これを作ろうとした困難たるや凄まじく、一瞬スタッフ全員で大慌てするくらいの大問題でした。結果みんなのおかげで出来上がりました。ありがとうございます。
一通り読んだけどみんな真面目に書いてくれて嬉しいです。なんかあったらまたよろしく。
岸田
東方原作やこれまでのバンドのエピソードと絡めつつ流れるようないいテンポでライブを語ってくれて、フロアの様子もステージの様子もよく伝えてくれたとおもいます。素晴らしいですね。
特別賞のみさちこさんもありがとうございます☻
叙情的で面白く読み物としての完成度が高かった!コラムを読んでいるような気分で嬉しく楽しく読ませていただきました。素敵でしたよ。
本当にどのレポートも情熱的で読むのも選ぶのも大変でした(笑)。 こういう企画でもなければ読むことのできない言葉たちに感謝の気持ちでいっぱいです☻
みなさんが様々な観点でライブを語る中でも、メンバーが本番直前に喧嘩していたこととichigoがマイク逆に持ったエピソードはだいたい盛り込まれてて、まあまあ恥ずかしかったです(ФωФ)!ぷん(ФωФ)!
ichigo
普段我々はライブステージにおいて送る側に立っているわけなんですが、まさか自分たちのライブに関わるものを受け取る側に回るとは思いませんでした、しかもこんなたくさん。
便宜上、賞を選ばせて頂きましたが、正直どの人のレポートにもその場にしかない臨場感、感情がこもっていて優劣のつけられない熱がありました。我々もこの熱量に相応しいものを送り届けられる存在でなければならないな、と思います。本当にありがとう。
hayapi
みっちゃん