RADWIMPS×米津玄師 憧れとリスペクトが実を結んだ『胎盤』初日
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RADWIMPS
『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤』 2015.11.4 Zepp Tokyo
突如アナウンスされ、音楽シーンの大きなトピックスとなった『10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤』。バンドのメジャーデビュー10周年を記念したツアーでありながら、彼らがここまでほとんど行って来なかった対バン形式であり、しかも対バン相手も超豪華。どのようなステージとなるのか全く予想がつかず、ひとつだけ確かなのは「見逃すわけにはいかない」ことだ。そんな未体験のステージに心踊らせながらここ一月ほどを過ごしていたのは、筆者だけではないはず。
そして訪れたツアー初日。会場となったZepp Tokyoは2階席まで埋め尽くされ、言いようのない興奮を帯びた空気が場内を満たしている。
開演時刻を迎え、暗転した場内に両手を挙げて登場したのは、もちろん米津玄師だ。力強く「1、2、3!」と叫んで繰り出した「ゴーゴー幽霊船」から「駄菓子屋商売」と、1stアルバム『diorama』からの楽曲が続く。デビュー作にして多くのリスナーに衝撃を与えたその歪なポップネスは、この日集まったRADWIMPSのタオルをかけTシャツを着たオーディエンスにも一瞬で届き、問答無用で踊らせる。親和性はバッチリだ。
米津玄師
米津玄師がその名を広く知られるようになった、あまりにも美しいバラード「アイネクライネ」は、ドリーミーで幻想的な音色の導入部から奏でられ、<居場所をなくし>を<命を落とし>、<消えてしまいたい>を<死んでしまいたい>と歌詞を変えていた。「命」というシリアスな題材を用いて、同曲の「救い」をドラマティックに歌い上げたのは、この日の共演相手がRADWIMPSだったからだろうか。
ライブ中盤には、ハチ名義でボーカロイド曲として投稿した楽曲、「パンダヒーロー」「ドーナツホール」「マトリョシカ」を続けざまに披露。性急でスリリングな不協和音的音像が、唯一無二の享楽をもって鳴り響き、バンドアレンジされたことで生まれた肉体性は、オーディエンスの体を突き動かす。2階席から見下ろすと人の群れが巨大な生き物のように波打っている。この日に限って言えば、米津が感じていた「ボーカロイドシーンとロックシーンの隔たり」は、もうそこにはなかった。
ラストは最新アルバム『Bremen』からの楽曲、体をくねらせて踊り、曲間でフロアタムを叩くパフォーマンスで魅せた「アンビリーバーズ」と、アコギを奏でながらあたたかく歌い上げた「Blue Jasmine」で締めくくった米津玄師。MCでも「俺の曲を聴いた人はわかると思うけど、RADWIMPSからはすごく影響を受けている / クソみたいな高校生だった頃のヒーロー」と、ちょっとはにかみながら、嬉しさと興奮を抑えきれない様子で語っていた彼は、過去最高といって良いくらいのステージを展開し、舞台裏で見守る憧れの存在にバトンをつないだ。
米津玄師
RADWIMPSの10周年イヤーは、明るい話題だけだったわけではない。9月には、その強固なアンサンブルの要・ドラマーの山口智史が持病による無期限の活動休止を余儀なくされたのだ。楽曲ごとにあらゆるジャンルを横断しつつ、それを見事に4人のバンドサウンドで成立させてきた彼らのライブが、山口不在の状況で再現できるのか。不安を抱いていた人もいただろう。結論からいうと、その懸念に対する彼らの答えは、思いもしない形で、我々の想像をはるかに超える形で提示されることとなった。
デジタルなSEに混じるノイズが「DADA」のイントロへとつながり、大歓声の中照らされたステージに鎮座していたのは2台のドラムセット! 直前のヨーロッパツアーにも帯同していた森瑞希に加え、刄田綴色がサポートとして加わったツインドラムが、このツアー中RADWIMPSのサウンドを支えるのである。驚きながらも初っ端から投下された激しいナンバーに狂喜する場内。野田洋次郎(Vo/G/Piano)はラップとシャウトの合間に「もっと来い!」とばかりに手招きして煽る。曲終わりには「よくできました」の決めゼリフもしっかり聞かせてくれた。歓声はもはや絶叫に変わる。
すでにフルボルテージの場内に向けて「ギミギミック」「DARMA GRAND PRIX」と強力なナンバーを送り込み、彼らのライブの聴きどころの一つ、桑原彰(G)と武田祐介(B)によるソロの応酬も前半から投下するなど、容赦なく畳み掛けるRADWIMPS。そこから一瞬の静寂が訪れたのちに、静かに歌いだされたのは「トレモロ」だ。思わず悲鳴をあげたオーディエンス達がすぐさま大合唱を始め、会場一体となって美しいメロディを紡いでいく。本当に、本当に愛されている名曲である。
中盤戦では「ヒキコモリロリン」や「夢見月に何想ふ」という、『RADWIMPS 2』からの楽曲に喜びの声が上がり、レアな選曲にもかかわらず、ともに歌いコールまでする観客達に向かって、野田が「よく知ってんな!」と笑みをこぼす場面も。懐かしいナンバーを皆で楽しむ――10年間積み上げてきたバンドの歴史と、その期間をRADWIMPSとともに過ごしてきたファン達の存在があってこそ作り出される、感動的な光景だ。しかも10年前と比較して圧倒的にアップデートされたサウンドとなっていた点も特筆しておきたい。
RADWIMPS
反対に普段のライブで定番の盛り上がりを見せる楽曲達もしっかり演奏された。前列の観客と握手をしたり、<こっち来てお座り>のフレーズに合わせて手招きしたりと大いに盛り上げた「アイアンバイブル」や、不穏なノイズとともに、スクリーンに映し出される巨大な目や幾何学模様で視覚からも迫った「実況中継」では、フロアがもはやカオス状態に。続く「おしゃかしゃま」の間奏で行なわれるソロ合戦には、ドラマー2人も参戦。眼前で繰り広げられる大規模なステレオオーディオともいうべき演出と桑原と武田による超絶技巧の対決は、フィジカルな興奮を掻き立て、サビではジャンプするオーディエンスが会場全体を揺るがす。
新曲「‘I’Novel」でゆるやかなミドルテンポと美しいメロディに心地よく体を揺らしてからの、多幸感に満ちた「いいんですか?」、「10年前のデビュー曲を」と披露され、美しさとアレンジに誰もが息を飲んだ「25コ目の染色体」に誰もが酔いしれた後、再度ギアを上げた彼らは、盛大なコール&レスポンスからなだれ込んだ「君と羊と青」を経て、トドメにくらわせた「会心の一撃」でアッパーに本編を締めくくった。
MCで明かされた、シンパシーを感じつつも「人見知り同士だから」実は今日初めての対面だったという米津玄師と野田洋次郎の関係。野田をして「自分よりデカいボーカリストを初めて見た」といわしめた高身長ボーカリストが並び立つ姿は見れるのか。アンコールを送り続ける間、オーディエンスの期待はそこに集まっていたはずだ。はたして「すげぇ勇気をもって”米っち”って呼んでみるわ」と豪語していた野田は、人見知り故に共演を固辞していた米津を説得できるのか。
ステージに戻ってきた野田が「悪い知らせ」として“米っち”とは呼べなかったことを、「良い知らせ」として米津が出てくることを告げると、沸き立つ場内。登場した米津は野田とステージ上でがっちりとハグをした後、この後ともに歌う楽曲の打ち合わせを始める。どうやら本当に急遽出てきたようだ。そうして披露されたのは「有心論」。憧れのRADWIMPSを従えてボーカルを担当する米津は、遠目に見ても緊張していて所在なさげだが、そりゃあそうだろう。それでも嬉しそうに、堂々たる歌いっぷりをみせた米津には大きな拍手と歓声が送られた。
贅の極みといって良い豪華競演の1日目のラストナンバーは「夢番地」。
<僕はきっと今 いつかの夢の上に 立っているんだね / 僕はきっと今 誰かの夢の上に 立っている>
この曲を作った10年前に、新人バンドのRADWIMPSは、彼らに憧れた少年・米津玄師は、10年後の自分に何を思い描いていたのだろう。ちょっと出来過ぎな奇跡のような光景だ。
米津玄師とRADWIMPSの邂逅は、互いをリスペクトし相乗効果をもって両者見事なステージとなった。くわえてRADWIMPSが提示したのは素晴らしい新曲と、ツインドラムというドラスティックな姿。『RADWIMPSの胎盤』が期待以上のツアーになることを、この時点で確信させてくれた初日であった。
撮影=植村一子(RADWIMPS)、中野敬久(米津玄師) 文=風間大洋
RADWIMPS
米津玄師
1. ゴーゴー幽霊船
2. 駄菓子屋商売
3. メランコリーキッチン
4. アイネクライネ
5. WOODEN DOLL
6. パンダヒーロー
7. ドーナツホール
8. マトリョシカ
9. アンビリーバーズ
10. Blue Jasmine
RADWIMPS
1.DADA
2.ギミギミック
3.DARMA GRAND PRIX
4. トレモロ
5.05410-(ん)
6.遠恋
7.ヒキコモリロリン
8.アイアンバイブル
9.ふたりごと
10.夢見月に何想ふ
11.実況中継
12.おしゃかしゃま
13.ます。
14.‘I' Novel
15.いいんですか?
16.25コ目の染色体
17.君と羊と青
18.会心の一撃
[ENCORE]
19.有心論(RADWIMPS×米津玄師)
20.夢番地