圧倒的に異質な作品・岡崎藝術座「イスラ! イスラ! イスラ!」
ペルー生まれで、パラグアイ、アメリカ、日本(川崎)育ち。沖縄、北海道、リマ、ネバダなど、世界のさまざまな場所に親族が暮らし、多文化・多言語に囲まれた環境で生きてきた劇作家・演出家の神里雄大。神里は一貫して日本に暮らす人々の多様な差異や背景と、移民・移動して生きていく人々の姿に焦点をあて、創作を続けている。
今回4都市で上演される『イスラ! イスラ! イスラ!』もその作品の一つで、さまざまな文化や言語や政治などが外部から持ち込まれ、そのなかで衝突、融合、変貌していく架空の島々(Isla。スペイン語)というイメージを核とし、モチーフを集めたもの。なかでも、高知出身の二人――ジョン万次郎(1827-1898)の生涯や、戦後大流行したマンガ「冒険ダン吉」のモデルとも噂された実業家・森小弁(1869-1945)の外への関心を持ち続けた姿勢は、他者への無理解や排他的な雰囲気の強い現代日本にとって重要な意味を持ち、近年神里が考察している「他者との共生」という問題に繋がっています。世界に目を向ければ、街に移民が溢れ、国籍や国境の境界線を越えた共生の可能性が問われている中、「島」というモチーフと共生への追求によって、岡崎藝術座はどんな世界を提示するのだろうか。
ちなみに神里の演出ノートには、次のようなことが記されている。
「新作は、架空の島々が舞台になっていて、そこには、さまざまな野心や思惑を持ってやってくるものたちや、穏やかに生活したいとするひとたちなどがなかば強制的に共生している。
そういうイメージでつくる。
けれどもその主役は人間ではなく、鳥とか動物の鳴き声とか知らないけどワニとか、あるいは島全体が話者になる、というアイデアがあって、それを採用しようと思っている。
人間ではないものを通じて人間社会を考える、というのは、それを表現する俳優はけっこうたいへんだと思うし、台本を作るぼくも苦しそう、というかすでに苦戦しているのだけど、なんでそんなアイデアを採用しようと思ったかというと、昨今の世の中どうにも主義・主張・正義もしくは他者への攻撃があふれすぎているように思えて、そしてどれもこれも誰もかれも正当な言葉のぶんまわしのようにも感じて、もうほとほとぼくは疲れたので、離れ小島の風が織りなすフィクションの中でゆっくりしたい…。
という甘えはまだ言わないようにして、とにかく、正義とか秩序とか声の大きさとかそういうものから遠ざかっても人間社会のやりかたはけっこうあるのではないかしらという見地を、ささやかに表現してみたいと思っています。人間ではない存在が持つ、かもしれないロジックや常識をイメージしながら、他者が混ざり合う社会の可能性を考える。
ところで今作は、前作『+51 アビアシオン,サンボルハ』から継続するところがあって、その作中に登場する北海道在住の実業家・神内良一氏が憧れたという、戦前の流行漫画『冒険ダン吉』や、そのモデルとされることもあった(実際は違うらしい)森小弁という明治の実業家を足跡を追うところから、取材が始まりました。「人々の移動と他者の集まる社会」というテーマで串刺しされる、『+51 アビアシオン,サンボルハ』の兄弟的な作品になると考えています。森小弁やジョン万次郎も立ち寄った小笠原諸島父島にも2週間滞在し、高知ではジョン万次郎の資料館見学や研究家とも懇談し、関係ないですが、いまはグアテマラに短期語学留学中で、よくわからないものがミックスされ混沌とした作品になると思います」(2015 年7 月末 神里雄大)
まずはこの目で観てみないと、と本能が訴える作品かもしれない。
◆熊本公演
2015年12月3日(木)~4日(金) 早川倉庫
◆京都公演
2015年12月17日(木)~20日(日) 京都芸術センターフリースペース
◆東京公演
2016年1月9日(土)~17日(日) 早稲田小劇場どらま館
◆横浜公演
2016年2月3日(水)~8日(月) S T スポット
■作・演出:神里雄大
■出演:稲継美保、嶋崎朋子、武谷公雄、松村翔子、和田華子
■公式サイト:http://okazaki-art-theatre.com/