「眠れないくらい悩んでいるけど(笑)、それが楽しいんです」 ~『KID VICTORY』で3年ぶりに舞台に立つ加藤清史郎にインタビュー!~

インタビュー
舞台
2019.12.23
加藤清史郎

加藤清史郎

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一般的には「こども店長」でも、演劇ファンにとっては『レ・ミゼラブル』の名ガブローシュであり、『エリザベート』の名ルドルフであり、『ラブ・ネバー・ダイ』の名グスタフ。忘れ難い演技を数多く見せてきた加藤清史郎が、12月25日に開幕するオフブロードウェイ・ミュージカル『KID VICTORY』で3年ぶりに舞台に立つ。稽古場に現れた彼は、すっかり精悍な顔つきにはなったが、素直な人柄が滲み出る笑顔と口調はあの頃のまま――。演じることが楽しくて仕方がないという様子で、作品のこと、そして自身のことを語ってくれた。

英国のドラマスクールでの大切な学び

――まずは、舞台に立っていなかった3年間のことをお聞かせください。イギリスで高校生活を送っているそうですが、語学留学ですか?それとも演劇留学?

どっちもあります。きっかけは、小学校6年生の時に『レ・ミゼラブル』でイギリス人スタッフの演出を受けて、通訳さんを通さないで直接キャッチボールができたら、もっと強い球を投げたり深い質問ができたりするんじゃないかなぁ!と思ったこと。それと、18年の芸能活動の中で、僕にとってミュージカルとの出会いというのはすごく大きくて。ミュージカルの本場イギリスで、むこうの役者さんのお芝居を観てみたいっていう興味も、英語力を向上させたいっていう思いと同じくらい強かったです。

――イギリスで歌やダンス、お芝居のレッスンを受けたりは?

しました。歌に関しては、最近まで声変わりが落ち着いていなかったので何回か受けた程度なんですけど、ダンススタジオとドラマスクールには通っていて。特にドラマスクールでの日々は、僕にとってすごく大きな経験です。通い始めたのは、日常会話は問題ないくらいの英語力がついてから。それでもやっぱり即興演劇をするとかってなると、むこうのティーンエイジャーたちのスピードと勢いについていけなくて、最初の日は(うなだれて)こんなんなりながら帰りました(笑)。でもだんだん慣れて、みんなとも仲良くなって、芝居について大切なことを教えてくれる先生にも出会えて。僕はずっと、役を演じるためにはその役のことを考えて、その役になることが大事だと思ってきました。でもそうやって“pretend”、役のフリをするんじゃなくて、ただ加藤清史郎の目に役のフィルターをかけるだけでいいんだ、って先生に言われたんです。それだけで見える世界はその役のものになって、感じたことをそのまま出せば自然な芝居になるんだって。

――見た目だけじゃなく、中身もすっかり大人の俳優さんになられた感じですね!

全然そんな、まだまだただのガキンチョです(笑)。でもそう教わったことで、実際そのあと「♯ハンド全力」(2020年5月公開)っていう主演映画を撮った時にも、今までとは違う感覚で演じることができたんです。本当に大きな経験だったなって思いますね。

――学業優先の高校生活を送ってこられた中で、来年3月の卒業を待たずして、今回『KID VICTORY』への出演を決めた理由を教えてください。

わがままな話なんですけど、長期休暇で日本に帰ってくるタイミングでできるお仕事があればさせてもらいたい、という思いは元々あって。そんな中で今回、『エリザベート』でご一緒してから公私ともにお世話になっている奥山寛さんから、「やってほしい役がある」と言っていただきました。(周りを見渡して)いないから言いますけど(笑)、奥山さんってすごくシャイな方だなと思ってたんですよ。でもお話をする中で、人のことをすごくよく見てる方なんだなって分かるようになって…そんな奥山さんが演出する作品に呼んでもらえたことが光栄で嬉しくて、頑張りたいなって思ったんです。

ルーカスとして作品に“inhabit”したい

――台本を拝読しましたが、確かに清史郎さんにぴったりの役という印象を受けました。

本当ですか? 僕は今、すんごい悩んでます(笑)。僕が演じるルーカスは、1年間行方不明になっていた17歳の高校生。今は家に戻って普通に暮らしながら、いなかった1年に起こったことのフラッシュバックに苦しんでいる役どころです。今の現実と過去のフラッシュバックが舞台上で行ったり来たりするので、最初に台本を読んだ時から、そのバランスが難しそうだなと思っていて。それで考え過ぎてしまったみたいで、現実のシーンでも、常に過去を引きずっているような暗い表現を最初はしていたんです。でもあるとき奥山さんから、「17歳のルークは、もっと感情の幅があっていいし、過去を引きずり過ぎないほうが良いかな。日常生活を取り戻そうとしてる中で、頭に入ってくるフラッシュバックだから」と言われて、なるほどと。それからは切り替えを意識するようになって、自分ではしっくり来た気でいたんですけど…昨日稽古動画を見たら、全然できてなかったんですよ!

――なんと、まさに昨日のお話ですか!

はい、だから昨日は眠れなかったです(笑)。12時くらいにベッドに入ったんですけど、動画を見て「ダメじゃん!」ってなって、今考えてもしょうがないから寝なきゃ寝なきゃって、枕に顔を埋めるんですけどそれでも眠れなくて(笑)、結局寝たのは4時くらい。受験勉強とかがあってその時間まで起きてたことはあっても、寝たいのに眠れないのは初めての経験でした。でも「ダメじゃん!」っていうのは、落ち込んでるっていうより、自分はまだまだできるって楽しんでいる感じ。僕は仕事に限らずなんでも、怖かったり不安だったり辛かったりしても、乗り越えたら楽しいって思うと楽しめちゃう性格なんです。

――『KID VICTORY』という作品自体には今、どんな魅力を感じていますか?

生々しいくらい人間くさいからこそ色んな役に感情移入できる、ものすごくいいお話だなって思います。人はそれぞれに信じるものがあって、それは他人だったり神だったり概念だったり自分自身だったりすると思うんですけど、信じたからって相手の全部が明確に分かるわけじゃない。そんな不明確なものでも信じて、一歩前に進んでみよう、っていうメッセージを感じるんです。でも僕が今、どんな人が観てもきっと誰かしらに共感できるって思えているのは、共演者の皆さんの芝居がすごくて、僕自身が色んな役に感情移入しているからでもあって。むこうのドラマスクールでよく“inhabit”、作品の世界に住みなさいって言われたんですけど、皆さん本当に住んでいるんです。できてないのは僕だけなので(笑)、本番までには僕も、ルーカスに共感してもらえるお芝居ができるようにならないと。

――ジョン・カンダー(『シカゴ』『キャバレー』)の音楽についてはいかがですか?

あっ、音楽の魅力もすごいです! 魅力的な楽曲が多いのはもちろんなんですけど、ルーカスが混乱するシーンでのコーラスが、聴いていると本当に頭が痛くなるような不協和音だったりして、すごく綿密に作られてるなって。ミュージカルなのに、主人公のルーカスが一切歌わないっていうのも、新しくてイイなあって思います。加藤清史郎としては、稽古を見てると歌いたくなっちゃうんですけどね(笑)。

――実際のところ、歌声の仕上がり具合は今、どんな感じなのでしょうか…?

声変わり自体は高校3年生になったくらいの時に落ち着いていて、トレーニングも再開し出してはいるんですけど、まだまだですね。5月の『ニュージーズ』までには、もっと自分の声に慣れて、技術も上げていきたいと思っています。

いつかはマリウス、ルドルフ、ヴォルフガングを!

――今後のご活躍が本当に楽しみな限りですが、ご自身としてはどんな目標を持っていますか?

春からは日本の大学に進学するので、学業優先っていうスタンスは変えずに、でも小っちゃい頃みたいな趣味感覚じゃなく、これからはちゃんと仕事という意識を持って臨んでいきたいと考えています。仕事をセーブしていた3年間に溜まっていたものもあるので(笑)、色んなことに積極的にチャレンジして、楽しんで仕事をしていきたいですね。いいなと思うのは、ジャンルも役も、幅広くできる俳優さん。映像も舞台も、おちゃらけた役も大人しい役も厳しい役も、たまにはちょっとカッコいい役もできるようになりたいです。

――その中でミュージカルも、お話があればどんどんやっていきたいと?

お話があればというか、やりたい役があれば、自分からオーディションも受けていきたいと思っています。ただ僕、オーディションって緊張しちゃうんですよ! 映像だと全然しないんですけど、ナマのものだと、舞台でも始まる前はいつも緊張します。オーディションってなるともうブルブルしちゃって、それでダメだったりもしているので、これからは歌だけじゃなくメンタルのギアも上げていかないとな~って思ってます(笑)。

――ミュージカルファンとしては、ガブローシュをやった方にはぜひ、いつかマリウスになって『レ・ミゼラブル』に帰ってきてほしいという願いもあるのですが…?マリウス、僕もやりたいです! ほかにも『エリザベート』のルドルフとか、『モーツァルト!』のヴォルフガングとか、やってみたい役は色々あります。でも今の僕にはぶっちゃけ、『KID VICTORY』以外のことを考えている余裕はございませんので(笑)、千秋楽の12月29日まではとにかく、楽しみながら葛藤し続けます!

取材・文=町田麻子

公演情報

『KID VICTORY』
 

■作曲・脚本:ジョン・カンダー
■作詞・脚本:グレッグ・ピアース
■演出:奥山寛
■翻訳・訳詞:金子絢子
■出演:
加藤清史郎
森田浩平 尹嬉淑 中山昇 塚本直
舩山智香子 菊地まさはる 井上花菜 坂口湧久

 
■公演日程:2019年12月25日(水)~29日(日)
■公演場所:上野ストアハウス
■公式ウェブサイト:https://www.kid-victory.com/
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