英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマ・シーズン バレエ第1弾はトリプルビル「コンチェルト/エニグマ・ヴァリエーション/ライモンダ 第3幕」
-
ポスト -
シェア - 送る
C)BILL COOPER 2003
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマ・シーズン2019/20のバレエ第1弾は「コンチェルト/エニグマ・ヴァリエーション/ライモンダ 第3幕」のトリプルビルだ。ケネス・マクミラン、フレデリック・アシュトン、ルドルフ・ヌレエフという、英国ロイヤルバレエ団の歴史を語るうえでは欠かすことのできない、3人の振付家による珠玉の作品である。初演から約50年を経てもなお色あせない作品を、英国ロイヤルバレエ団のダンサーたちがきめ細かに、抒情豊かに踊り、演じる。ヤスミン・ナグディや平野亮一、マシュー・ボール、ワディム・ムンタギロフ、ナタリア・オシポワらプリンシパルたちはもちろんのこと、いぶし銀の演技が光るベテランのクリストファー・サウンダース、若手のアクリ瑠嘉、金子扶生、フランチェスカ・ヘイワードなど、英国ロイヤルバレエ団の魅力が存分に楽しめる、見ごたえ満点の上映だ。
(c) Johan Persson ROH 2010
■ナグディ&平野がロマンチックに魅せる『コンチェルト』
マクミラン振付による『コンチェルト』は1966年、ベルリン・ドイツ・オペラで初演され英国ロイヤルバレエ団では翌67年に上演した。バーレッスンの様子を模したというパ・ド・ドゥがショスタコーヴィチ『ピアノ協奏曲2番』にのせて踊られる。どことなく洒脱で、弾けるように軽快な第1楽章を踊るのはアナ=ローズ・オサリヴァン&ジェームズ・ヘイ。2楽章のしっとりとした世界をヤスミン・ナグディ&平野亮一が抒情性豊かに魅せる。第3楽章はオサリヴァン、ヘイ、ナグディ、平野にマラヤ・マグリが加わり、華やかに締める。
なおアナ=ローズ・オサリヴァンは2020年6月に新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』でゲストとして来日予定。気になる方はぜひこの機会にチェックしてみてほしい。
(c) Johan Persson ROH 2010
■英国的演技の力が光る『エニグマ・ヴァリエーション』
『エニグマ・ヴァリエーション』は、英国を代表するエドワード・エルガーを主人公としたドラマだ。当時まだ知名度が低かったエルガーが著名な指揮者からの電報を待つ間、妻や友人たちが彼を元気づけ励ますという素朴ながらも心温まる筋立てとなっている。
実はエルガーの『エニグマ変奏曲』にはそれぞれの楽章にイニシャルが記されている、いわば各楽章がエルガーの友人たちの肖像画(ポートレイト)となっている音楽だ。現在では一部まだ謎(エニグマ)はあるものの、ほとんどの人物が判明しており、アシュトンはその登場人物たちの肖像をバレエで描き出した。
(c) ROH, Bill Cooper, 2011
マシュー・ボールの踊る建築家「トロイト」は、ピアノが一向にうまくならない割には自信満々というキャラクター。ある意味堂々とした個性をダイナミックに表現している。フランチェスカ・ヘイワードは吃音持ちの愛らしい少女ドラベラを好演。1つの曲でシンクレアと彼の飼い犬ダンの双方を踊るアクリ瑠嘉にはぜひ注目していただきたい。
何よりも全編を通してエルガーを踊るクリストファー・サウンダースとその妻ラウラ・モレーラの存在感が実に素晴らしい。サウンダースはこのシネマ・シーズンではしばしば指導者として、あるいはキャピュレット卿(『ロミオとジュリエット』)やハートのキング(『不思議の国のアリス』)など、名脇役として登場するが、こうしたダンサーがいればこそ、あらゆる舞台が重厚なものになるのだと思わせられる。衣裳や背景などの渋い色彩も含め、19世紀の英国上流社会の日常を切り取ったような味わいのある演目だ。
(c) ROH, Bill Cooper, 2011
■ロシア・クラシックバレエの粋『ライモンダ』
『ライモンダ』はロシア古典バレエの粋を集めたような華やかな作品。1961年に当時の「西側」に亡命したヌレエフは、その後英国ロイヤルバレエ団にしばしばゲスト出演し、マーゴ・フォンテインとの「伝説」ともいわれるほどのパートナーシップを築き上げる。
今回上演される『ライモンダ』第3幕はヌレエフ振付によるもので、貴族の姫君ライモンダと十字軍の騎士ジャン・ド・ブリエンヌの壮麗かつ華やかな結婚式が繰り広げられる。主演はナタリア・オシポワとワディム・ムンタギロフ。ロシアバレエの風雅を格調高く踊り上げる。6つのヴァリエーションには金子扶生も登場。豪華絢爛なフィナーレに至るまで、まばゆく華やかな世界に存分に浸っていただきたい。
Photo Tristram Kenton, courtesy ROH
文=西原朋未